レムール人に捧ぐ中東・アフリカ

種類 ショート
担当 久条巧
芸能 フリー
獣人 4Lv以上
難度 難しい
報酬 21.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/15〜03/19

●本文

──タッタッタッタッ
 深夜の市街地。
 一人の女性が闇を駆け抜ける。
「ふぅ‥‥失敗だ‥‥」
 口惜しそうにそう吐き捨てると、女性は手にした書物を静かに開く。
「1度WEAに報告を入れて、増援を頼むしかないか‥‥」
 そう告げると、女性は近くの支局に向かって走りだした。

──ここまでの経緯
 マダガスカル共和国首都アンタナナリボ。
 この都市で、今とある事件が発生している。
 始まりは二枚の石碑。
 そこに記されている『幻の大陸レムリア』への道標が、WEA考古学チームによって解析が開始された。
 残念な事にその石碑の一枚が奪われ、それを奪ったとある組織がこの地にやってきているという情報が、これまたとある情報屋からもたらされたのである。
 その存在を知られることなく、伝承にのみ存在する幻の大陸『レムリア』。
 それらを明かすであろうオーパーツ『ムーセリオンの古代地図』を求めて、調査チームが編成され、この地にやってきたのであるが‥‥。


●失態のち最悪
──WEA支局
「完全に失態ですね‥‥プロフェッサー・マグナス」
 調査チーム責任者であるマグナス教授が、WEAから派遣されたコマンダーにそう告げられていた。
「はい。敵が何者かもいまだ不明、加えて『レムリア・ベル』も奪われ‥‥調査員達の殆どが負傷、最早返す言葉もありません」
「まあいいでしょう。起きてしまったものは仕方がありません。それよりもこれからどうするかですが、こちらにはこれ以上の人数を裂くことは出来ません。エジプトでウェンリー教授の『リバーススフィア』発掘作業がそろそろ大詰めになるのです」
 冷たいようにそう告げると、真紅の髪をした責任者『マチュア・ロイシィ』が窓の外を見る。
「では、こちらには増援は?」
 マグナスがマチュア女史にそう問い掛ける。
「芸能エリアで活動している獣人達に要請するしかありませんね‥‥まあ、ウェンリー教授の所もそのようですし、こっちも独自に人を集めてみましょう‥‥」
「判りました。レムリア・ベルが無ければ、『ムーセリオンの古代地図』にたどり着けないのです。私も作戦に参加します」
 かくして、小さな都市での『レムリア・ベル奪回作戦』が始まるのであった‥‥。

●今回の参加者

 fa0167 ベアトリーチェ(26歳・♀・獅子)
 fa0258 夜凪・空音(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0356 越野高志(35歳・♂・蛇)
 fa0677 高邑雅嵩(22歳・♂・一角獣)
 fa0683 美川キリコ(22歳・♀・狼)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1460 飛鳥 信(23歳・♂・狼)
 fa2555 レーヴェ(20歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

●まずは状況確認
──マダガスカル首都・WEA支局
「石版か。とりあえず盗まれた方の石版はコレと対を成しているという事ですよね?」
 ベアトリーチェ(fa0167)が責任者であるマグナス教授にそう問い掛けていた。
「ええ。文字の判別が難しいのですが、これと対を成しています。二つの石碑はここの部分から一つに繋がるのですが、発見されたときは既に割れていました。その発掘現場の近くで、『レムリア・ベル』も発見されたのです」
 そう告げると、教授はじっと石版を見る。
「幾つか確認させて欲しい」
 と、手を上げて問い掛けたのは越野高志(fa0356)。
「ええ、どうぞ」
「2枚の石碑のうち、『失われた石碑』が『ムーセリオンの古代地図』と呼ばれている。ということでよいのか?」
「いえいえ。石碑は二つ合わさって始めて一つになりますが、それが『ムーセイオンの古代地図』なのではありません。石碑に記されているのが『ムーセイオンの古代地図』を納めている場所なのです」
「そのムーセイオンってなんだ?」
 飛鳥 信(fa1460)が腕を組んだままそう問い掛けた。
「ムーセイオンというのは、古代にあったと伝えられている『学術機関』です。伝承では古代エジプト、プトレマイオス朝の首都アレクサンドリアにあったと伝えられており、そこには50万を越える書物や様々な学芸員達が日夜研究を行なっていたと伝えられています」
 そのマグナスの言葉に、レーヴェ(fa2555)がさらに一言。
「そのムーセイオンが実在したという根拠は?」
「一つは今回の石碑。そしてもう一つは、オーパーツに詳しい方なら聞いた事があるでしょう、『ピリ・レイス1513年地図』。あの地図はこの『ムーセイオン』に納められていた20枚の古代地図の移しであると伝えられています」
 そう告げると、マグナスは越野の方を向く。
「ああ、話を続けましよう」
「では次に。レムリア・ベルとは、どのようなものなのですか」
「大きさは高さ10cm程の水晶のベルです。形は一般的なベルですね。石碑の近くに近付くと共鳴を始め、石碑から30cm以内に納められると共鳴が止まります。石碑とベル、二つはなんらかの関係にあるようですが、まだその部分までの解析は行われていません」
「それで見つける鍵か‥‥」
 その言葉にコクリと肯くマグナス。
 と、銃の手入れをしていた夜凪・空音(fa0258)がふと何かを思い出したかのようにマチュアに問い掛けた。
「マチュアさん。敵の構成はどうでしたか?」
 突然話を振られて、マチュアはしばし思考。
「敵の名前は『アスカロン・フォース』。その母体となる組織名は不明。但し、この南アフリカエリアでは『アスカロン・フォース』の名前は時折耳にしていたわ。ルール無用のオーパーツ回収部隊、殺戮の翼を持つ者たちってね」
 そう告げると、美川キリコ(fa0683)がマチュアに問い掛けた。
「翼って、獣人、鳥類系なのか?」
「ええ。全員という訳ではないけれど、半数以上が飛行人ね。その中のさらに半分が蝙蝠なのよ」
──ゴキッ
 その言葉に、キリコは拳を鳴らす。
「立体的な戦法ねぇ‥‥このまえ『クサナギ・フォース』に叩き込まれたから、それなりに自信はあるな」
「ああ、そうだな。少なくとも今の俺達は、以前までの俺たちとは違うからな‥‥」
 敷島オルトロス(fa0780)もまた、自分の手のひらをじっと眺めつつ、そう呟いた。


●オペレーション開始
──翌日・マダガスカルWEA支局
 一晩の休みで疲れを癒した一行は、再びWEA支局を訪れていた。
 外見上は只の放送局である支局の地下で、一行は再びマチュア女史とマグナス教授と合流した。
──ギィィィィィッ
 厳重なロッカールームの中に有る巨大な保管庫。
 その中からマグナス教授は一枚の石碑を取り出した。
「これが原版です。こっちが写し。レムリア関係の調査はここが本拠地となりますが、必要ならば原版を持ち出す事も可能です」
 そう告げたマグナスに対して、高邑雅嵩(fa0677)が静かに呟く。
「偽物を作るのは可能か?」
「ええ。ここの技術員でしたら、これの写しを使って粘土板で偽物を作り出す事ぐらい造作もありませんよ」
「でしたら頼みます。ちょっと試したい事がありまして‥‥」
 ベアトリーチェの言葉に、マグナスは静かに肯くと、いそぎ技術員を呼び出した。

──1時間後
 事務室では、今回の作戦の為にベアトリーチェの提案で呼び出して貰った情報屋が待っていた。
 作戦は一つ、囮を使って敵をおびき出し、石碑の確認の為に持ってくるであろうベルを奪回する。
 その為には情報屋にエセ情報を流し、それが敵の耳に届く事が不可欠なのである。
「今回は良い情報をありがとうございます。大変助かりました‥‥」
 そう告げると、ベアトリーチェが事務員より預かった報酬を情報屋に手渡した。
 彼の目の前には分厚い封筒。
 少なくとも、このマダガスカルでは3ヶ月は遊んで暮らせる金額であろう。
「それでは確かに‥‥」
 そう告げると、男は静かに立上がる。
「さて、今後の事だが。石碑奪還は諦めて、WEAの回収部隊が到着する18日迄、残りの石碑と教授を保護するという事でOKかな?」
 静かに越野が皆に聞こえるように小声でそう告げる。
──ピクッ
 入り口で扉を開いていた情報屋の動きが一瞬止まる。
「ああ。ここから安全な場所‥‥確かスラムの隠れ家に今は安置してあるんだったな。明日の正午に現地向かい、そこで18日に回収部隊が来るまでガードと。俺たちの仕事はそこまでだったな」
 オルトロスがそう呟く。
「まあ、どんな輩が来ようと、この俺が着いている限り安全じゃん!!」
 飛鳥がドン、と旨を叩きつつそう呟く。
──ギィィィィィッ‥‥バタッ
 静かに扉が閉まる。
 そして全員がアイコンタクト。
 作戦はここから始まった。


●翌日、午前10時
──WEA支局
 移送部隊は偽石版を用意すると、それをジープに積み込んで隠れ家に移動。
 のち、一行はここを出発する準備を開始。
 すでに離れた場所ではキリコと夜凪の二人がバイクで移送部隊を追いかけていた。
(周囲の気配‥‥こっちには気付いていないみたいだな‥‥)
 ゴーグルの向うから、キリコは周囲を確認する。
(‥‥ジープを追っている人はいないね。よしよし)
 夜凪も周囲を確認すると、そのまま隠れ家に移動。
 二人は隠れ家近くの廃墟に隠れると、そのまま周囲の警戒を続けた。

──正午
 無事に他のメンバーも到着。
 そのまま周囲の確認を続けつつも、敵がこの隠れ家に乗り込んでくる事をじっと待っていた。
 ちなみに本部にはマチュア女史とコマンダー達が待機し、オリジナルの護衛を続けている。
「さて、いつでもきやがれってんだっ!!」
「‥‥あまり気負うと、疲れるだけだ」
 気合十分でそう叫ぶ飛鳥に対して、レーヴェがボソリと一言。
 そして一行は、いつ来るか判らない敵との持久戦に入った。


●運命の日、隠れ家で2日後
──隠れ家・深夜
 それは突然やってきた。
──ガシャァァァァァッ
 鎧戸を何かが破壊し、室内に丸い物体が転がった。
──ブシューーーーーーーーーーーーッ
 それは催涙ガスを発生させると、室内をガスで充満させる。
「しまった!! ガスかっ!!」
「こんなタイミングで来るなんてッ!!」
 高邑が叫びつつ、ガスマスクを装着しつつ静かに床に横たわる。
 そしてベアトリーチェも倒れるように床に崩れると、顏を下に向けてガスマスクを装着。
 他のメンバーは急いでそこから飛び出し、廊下で待機した。
──カツカツカツカツ
 静かに建物に何かが近寄っていく。
(ターゲットは6名。かなりの重装備をしている足音か‥‥)
 聴覚を限界まで高めたキリコがそれを確認。
(‥‥微かに聞こえるベルの音‥‥敵はレムリア・ベルをもっている模様です‥‥)
 借りた通信機で内部に連絡をいれる夜凪。
「了解‥‥こっちは既に動いている」
 越野がそう告げると、そのまま回線をONにしたまま静かに身構える。
 正面の扉が突然破壊され、武装したソルジャーが室内に飛込んでくる。
「先手必勝!!」
 正面から走ってくるアスカロン・フォースのソルジャーに対して、飛鳥がいきなり飛び膝蹴りを叩き込む!!
──ガシィィィィッ
 その攻撃を 両腕で受止めると、ソルジャーはそのままナイフを構えて飛鳥に斬りかかった!!
──ザシュッ
 躱わしたつもりが皮膚が裂け、飛鳥の胸板に血が滲みあがる。
「ナイフ使いか。面白い」
──シャキッ
 オルトロスがそう告げつつ、爪を引出す。
──シュタタタタッ
 オルトロスに向かってナイフを構えたソルジャーが突き込んでくるが、オルトロスはそれを半身で躱わすと、そのまま顔面に向かって拳を叩き込む!!
──ドクジャッ
 勢いあまって後方に飛ぶソルジャー。
 だが、巧く受け身を取って体勢を整えなおす‥‥が。
──スパァァァァァァン
 その頭に向かって、レーヴェの強烈な回し蹴りが炸裂。
 そのまま横ッ飛びに崩れていくソルジャーの懐にさらにオルトロスが飛込む。
──ドゴッ
 そして腹部に一撃。
「ナイフ使いとの戦い方は、アンタ達の別部隊が丁寧に教えてくれたぜ‥‥チェックメイトだ」
 その言葉は男の耳には届いていない。
 そのまま意識を失い、ソルジャーは其の場に崩れ落ちた。
 その間にも、廊下の奥では激しい銃撃戦が始まった。
 扉に隠れつつ越野が必死に銃を撃つ。
 が、その弾道を見切ってかソルジャー達は間合を詰めてきて、越野に向かってナイフを突き刺す‥‥が。
──シュゥッ
 するりとそれを躱わし、間合いを取る越野。
「クサナギ・フォースの教えはまんざらでもないか‥‥」
 そのままトントンとフットワークを使いつつ、間合を取る越野。
──シャゥッ!!
 そこに爪を延ばしたベアトリーチェが突入、敵ソルジャーと2対1での戦いになった。

──一方、石版の部屋では
 一人残って倒れている高邑。
──リーーーーーーン‥‥リーーーーーン
 と、静かにベルの音が近づいてくる。
「石版を確認。これより照合を開始する」
 足音が二つ。
 どうやらこの部屋には二人が入り込んでいたらしい。
(まだだ‥‥もう少し‥‥)
 タイミングをじっと待つ高邑。
「‥‥こ、これは‥‥偽物だ!!」
 その叫びと同時に、高邑は懐に忍ばせていた銃を引き抜くと、一気にトリガーを絞る。
──ズキューーーーーン
 偶然か奇蹟か、その弾丸はベルを手にしていたらしいソルジャーの額を打ち抜いた。
「各員に連絡。ここは囮だ!! WEAの罠だ!! 全員撤退っ!!」
 そう叫びつつ、床に落ちていくベルトをタイミング良く受止めると、ソルジャーは窓の外に飛び出した!!
「逃がすかよッ!!」
 そう叫びつつ高邑が窓の外に向かって銃を構える。
 だが、そこにいる二人の影に、銃を納めて室内に戻っていった。

──窓の外
 飛び出した窓の先には、夜凪が待機していた。
「さてー。ここはスラム。多少の銃撃音は日常茶飯事。そして撮影許可証も持っている以上は、敵に対して遠慮はいらないよっ」
──ガチャッ
 腰溜めに構えた重機関銃のトリガーを目前に向かって来るソルジャーに併せる。
「毎分1200発。50キャリバーの威力とくと思い知れ っ!!」
──Broooooooooooooooooooom
 側面に飛び出す薬莢の大和、後方に吹き飛んでいく夜凪。
 さすがに一人では反動を押さえられない。
 が、これもまた囮。
──バッ!!
 一気に翼を広げて、夜凪の頭上を越えていくソルジャー。
 そしてその目の前の路上に着地した刹那。
──カッ!!
 キリコの乗っていたバイクのヘッドライトがソルジャーを照らす。
「マチュア女史から貴方たちの兵装は教えてもらっていた。まだ実践配備されて間もない『ランドウォリーアシステム』。何処の軍属かしらないけれど、これ以上は進ませないわよ」
 バイクから降りるキリコ。
 そのままソルジャーはナイフを引抜き、キリコに向かって走りこむ。
──シュッ!!
 素早く切りかかると同時に翼を広げて上空に飛び上がるソルジャーだが。
「ここで頭上から‥‥」
──ガキィィィィィン
 空中から襲いかかってきたソルジャーのナイフを、自らの爪で受け流すキリコ。
「レクチャー通りか。まるで対アスカロン・フォースの講習をしていたみたいだな‥‥」
 そして素早く相手の腕を絡み上げると、そのまま大地に向かって叩きつける。
──ドガッ!!
 そこでソルジャーは動かなくなったが。
「キリコ離れてっ!!」
 夜凪の叫びと同時に、キリコが其の場を後に走り出す。
──ドッゴォォォォォォォォォォォン
 爆音と同時に、ソルジャーが『自爆』した。
 それも一つではない。
 隠れ家からも二つ。爆音が響く。
「‥‥ふう。もう少しだったんだが」
 あちこちの皮膚を傷つけられた飛鳥が外にいるキリコ達に合流。
 そして他の仲間たちも合流すると、そのまま周囲を確認し、一旦WEA支局へと戻っていった。


●そして照合
──リーン‥‥リーン‥‥リー‥‥リ‥‥
 翌日。
 地下の保管庫にて敵から回収したレムリア・ベルが本物であるかどうか確認する。
「綺麗な音色‥‥」
 うっとりとした表情でそれを聞いている夜凪。
 そして石版の近くに置かれたベルは音を出すのを止めて静かに輝き始めた。
「ふう。どうやら本物ですね。助かりました‥‥」
 マグナスがゆっくりと頭を下げる。
「ですが、もう一枚の石版を回収していません」
 そう告げるベアトリーチェに、マグナスが静かに肯く。
「まだ敵の戦力は温存されています。ここからが正念場です‥‥」
 こうして今回の一見は、限りなく痛み分けに近い勝利で幕を閉じた。

──Fin