バケメールアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
葵くるみ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/25〜09/29
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●本文
ぴるるるる。
メール着信音がしたので、男はケータイを何気なくみる。
「‥‥なんだ、こりゃ?」
メールの差出人は文字化けしている。タイトルは「元気?」のひとこと。
知り合いからか、はたまたいたずら、迷惑メールの類か。
わからないので、男はとりあえず見ぬまま放置することに決めた。
ぴるるるる。
また着信音。
確認するが、やはり文字化けした差出人、そして「元気?」というタイトル。
「‥‥ふざけてるんじゃねえよ」
男はそう言い捨てて、ケータイを放り投げる。
「ったく、わけわからねえものを出すなよな」
そう呟く。と、背後に人の気配を感じた。ここは自分の部屋で、ほかに誰もいないはずなのに。
「ふざけてなんかいないわ‥‥ねえ」
女の声。聞き覚えがあるかはわからない。しかし、ぞっとするほどに冷たい声。
女の声はやがて近づき、そして――
「お兄ちゃん?」
翌日兄を起こしにきた妹は、放心状態の兄を見て絶句した。一夜にして老いさらばえた兄の姿に――
「と、こういう話を小耳に挟んだわけ」
何か得意そうな表情で、朝比奈陽子が言う。
ここは東京近郊の私立高校にある文芸部の部室だ。文芸部といっても、普段は幽霊部員の多い、ごくごく小規模な活動しかしていないのだが。
しかしもうすぐ文化祭。年に数回の不定期刊の会誌を発表する時期でもあった。
そこで集められた部員たちが悩むことになるのは、会誌のネタである。昨年度まではけっこう純文学志向の先輩がいて助かっていたのだが、今年はその先輩もおらず、自分たちで企画しなければいけない。そんな中、朝比奈が出した企画が――ホラーの座談会と、ショートショートの作成、であった。彼女はホラー映画などが好きで、映画研究会にも所属している。そこで、今回の企画を持ち上げたのだ。彼女自身はその噂をどこで聞いたのかは教えてくれなかったが、恐らくは映研からの情報だろう。
「まあ、そうだねー。それしか企画がないなら」
部長の榊原は日和見だ。他の部員もネタがないらしい。
「でも、そんなケータイの噂、どうするの? あくまで噂でしょ?」
一年生部員の志賀が、めがねをくいっとあげる。あんまり乗り気ではないらしい。
「大丈夫! 実はこの話には続きがあってね‥‥」
そう言うと、朝比奈は声を落としてそっと言った。
メールの次の犠牲者は、もうわかってるの。
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ドラマ「バケメール」では、出演者およびスタッフを募集します。
・朝比奈陽子‥‥映研との掛け持ち文芸部員。ホラー好きで、今回の噂を聞きつけた張本人。明るく能天気なタイプ。
・榊原‥‥名前は適宜。文芸部の部長。男性。やや日和見主義。得意なジャンルはライトノベル系ファンタジー。
・志賀‥‥名前は適宜。一年生の文芸部員。女性。神経質なところがある。得意なジャンルは純文学。
・???‥‥名前等は適宜。謎のメールの次の犠牲者候補。男性。いわゆるイケメンだが性格はあまりよくない。
・メールの少女‥‥名前は特になくてもよし。謎のメールの差出人らしき存在。犠牲者を狂気に陥れる。
以上5人は必須。ほか、必要と思われる役は追加してください。
では、皆様の参加をお待ちしています。
●リプレイ本文
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「漫画みたいな話ですね」
二年生の花井(花田 有紗(fa3584))が、くすっと笑う。
文字化けを起こして送られてくる、呪いのメール。本当に漫画みたいな話だが、
「でも、事件はじっさいに起きてるの! 映研のあたりだと、この話題で持ちきりなんだから」
朝比奈陽子(燐 ブラックフェンリル(fa1163))は、『真実であること』を強調して、皆の興味を促そうとする。
「でも、」
慎重に挙手したのは志賀葵(黒野月(fa6015))だ。
「さっき、次の犠牲者がわかってるって、先輩は言いましたよね。どういうことなんですか」
まだ一年生ながら、はきはきずばずばとした物言いで少女は尋ねる。
「もしわかっているならそれを阻止するべきじゃないんですか?」
志賀の意見はもっともだ。しかし、
「これは‥‥私は仕方ないと思うんだ。恨まれるだけのこと、したんだし」
「‥‥?」
部員たちは首をかしげる。まだ陽子が話していない部分に謎が多く残されているようだ。
と、
「こらこらー。もうすぐ文化祭の会誌を作らないと間に合わないよー?」
文芸部の顧問である棗ゆきえ(新井久万莉(fa4768))が部室を覗きにやってきた。おおらかな性格の教師とは言え、あまり血なまぐさい話題は持ち出したくない。
「あ、はいっ」
部員たちは口をそろえる。棗はうんうんと頷くと別の教室――恐らく担任をしているクラスだろう――に向かっていった。ため息をつくのは部長の榊原恵(羽生丹(fa5196))だ。
「変な話題出して止められてもいやだけど、背に腹は変えられない、か」
その一言でぱっと陽子は瞳を輝かせた。
「話のわかる部長で助かるー。それじゃ、作戦会議といきますか」
「作戦会議?」
志賀が尋ねる。
「今回の企画、映画研究会との共同みたいな形なんだ。‥‥映研の子のお兄さんだったんだよね、実は第一の被害者って」
全員が、その一言に思わず息を呑んだ。
これは単なる噂話じゃない。本当の出来事だ――そんな緊張感が走った。
●
所変わって音楽室。『軽音楽部使用中』と書かれた紙がぺたりと張られている。
そこに突撃したものだから、軽音部の面々はさぞ迷惑だろう。しかも、『あなたたちの中に、殺されるかもしれない人がいる』だなんていわれたら。
映研部員のカメラマン・園田南(各務聖(fa4614))がビデオカメラ片手にそっと音楽室内部を撮影しようと扉に手をかけた。と、出てこようとするいかにもバンドマンな青年(ナバル(fa4333))と鉢合わせした。肩からギグバッグをぶら下げ、だるそうな目つきをしたその青年は、
「なんだよ。文化祭本番までは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
そう言って口にガムを放り込んだ。そしてそのまますたすたとその場をあとにする。ルックスはたしかにいいが、その態度は最悪と言ってもいい。彼が、『殺されるかもしれない』三年の南原だった。
いわゆる甘いマスクと外面のせいか、学校の内外にファンが多いらしい。高校生インディーズバンドとしても活動しているということで、そういうことになっているらしいのだ。もちろんそれは本人も自覚しているので、どうしてもナルシストのようにうつる。
「なによ、あれ。見た目はよくても性根は腐ってるわね」
陽子は頬を膨らませた。第一印象、最悪。
ここにいるのは陽子と南の二人だ。他の文芸部員は「学校の七不思議・都市伝説」をテーマに小説を書くことになったし、映画研究会もメインの企画はまた別にある。突撃ルポは二人でやってくれということになってしまっていたのだった。
「で、でも‥‥南原さん、あのことは知ってるんですよね?」
「わからない。まあ、しばらく様子見って所ね」
少女二人はじっと音楽室の扉を見つめていた。
●
ナンデ?
ナンデソンナコトスルノ?
ワタシ――タダ、好キダッタダケナノニィィィィ‥‥ッ!
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ひと月ほど前、校内で生徒が飛び降り自殺をした。
それは小さなニュースとして新聞の社会欄に掲載されたが、遺書も何も残っておらず、いまだに本当の原因はつかめていない。
「‥‥時司シオ(マリエッテ・ジーノ(fa3341))。考えてみればひどい話だよねー、もう忘れられかけてるなんて」
「仕方ないよ‥‥みんな刺激に飢えてるんだもん」
当時の記事を引っ張り出して、少女二人は頭を抱える。
「正直な話、南原さんが犠牲者候補って言うのは‥‥」
「私の勘もある。でも、一人目と仲がよかったって聞いてるから。あと、‥‥これ」
それは半年ほど前の校内新聞だった。ぱらりとページをめくると、南原たちのインディーズバンドが取り上げられている。その写真のすみのほうで、通りすがりのようにして、しかしじっと見つめている少女は、‥‥時司シオ。校内名簿と照らし合わせたから、遠目ではあるがまず間違いない。
「このころから何がしかのつながりがあってもおかしくない」
「まったく‥‥新聞部に入ればスターだったんじゃないの?」
陽子の洞察力に、南は苦笑した。
●
「南原さん、文化祭では頑張ってくださいね!」
「応援してます!」
そんな嬌声が聞こえる、放課後の音楽室前。そこに混じって南原を待つようになって早三日。
「最近オタクな子にも追いかけられててさぁ、参っちゃうよねー」
けらけらと笑う南原の目には、陽子と南に対する嘲りの色がみえる。
「どうするの? このままにしちゃうの?」
「葵が動いてくれないからねー」
志賀は後輩だが、扱いにくいのだろう。陽子は苦笑を浮かべた。
「まあ、本番は今晩。今朝、あいつの靴箱に手紙を放り込んだから」
場所は屋上。陽子はにやりと笑った。
そんな古典的な方法で来るかと思われていた南原だが、しっかりやってきた。
「ったく、オタクな人に呼び出されても興味ないんですけどー?」
その言葉には苛立ちが混じっている。陽子は息を大きく吸うと、思いっきり大声で叫んだ。
「時司シオ! あんたはこいつに恨みがあるんじゃないの?」
すると――学校の片隅に白いもやが出現した。それはだんだんと人の形を――時司シオの形をとっていく。ひっ、と声をあげたのは南原だ。逆に女子二人は肝が据わっている。南などは一生懸命にカメラを回しているのだから。
「南原クン‥‥ナンデアンナコトシタノ?」
低い冷たい声で、少女の幽霊は問いかける。少女が手にとっているものはリモコン‥‥いや、携帯電話だ。少女はその画面をすうっと南と陽子に向ける。そこには、
『うざい。邪魔』
『なんでメールしてくんの?』
『何様のつもり?』
罵詈雑言があふれ出していた。彼女の遺品であるはずの携帯電話はまだ見つかっていないとそういえばうわさで聞いていたっけ。
「こんな悪口‥‥好きな人からもらったら、誰だって泣くよ。死にたくなる」
南がぼそりと呟く。
「南原クンモ、コッチニキテ‥‥」
亡霊はささやく。けれど――それを制したのは陽子だった。
「気持ちすっごくわかる。復讐に協力したっていい。でも、あんたのひとりよがりじゃない?」
「‥‥エ?」
陽子は亡霊をにらみつける。
「人生は自分で決めるんだってば! 死者なんかには口出しできないってこと!」
そう言うと、陽子は自分の携帯を取り出し、自分のアドレスをそっと見せた。
「相談する相手がいればよかったんだよ。だから、教えたげる」
そういう問題か、とあっけにとられつつも、陽子は幽霊の携帯に自分のメールアドレスを登録させた。
「‥‥アリガトウ‥‥」
少女の霊はそう言うと、すうっと消えていった。
「――さて」
そう言うと、陽子は携帯をポケットにしまう。そして腰を抜かしている南原にゆっくりと近づいた。
「あんたのせいで死んだ子がいるってこと、ちゃんと覚えておきなさい」
そう言って、南原の顔を掠めるように一発どんっと足を叩きつける。南原は首をこくこくと人形のようにふるばかり。
「まあ、今日はこれでおしまい、かな」
少女たちはそう言うと、今日は解散ということになった。南原は一人取り残されて呟いた。
「怖ぇ‥‥」
●
翌日。
「南原くん、警察に出頭だって」
「なにかあったの?」
「わかんないけど‥‥」
生徒たちが小声で噂をしあう。けれど、これもきっとすぐに風化していくのだろう。何しろ、もうすぐ文化祭なのだから!
「‥‥でね、昨日確かに撮影したのに、ぜんぜん映ってないの! やっぱり幽霊だよねー。怖いなぁ」
文芸部にやってきて興奮した口調で口を動かすのは南だ。でもその声音には恐ろしさがまるで見えない。陽子もごく普通に、けれど冷や汗を書きながらパソコンに向かっている。結局自分の取材したネタが会誌向きでないとわかったので、急いで会誌用の原稿を仕上げなければならないのだ。
「んー、会誌の方は順調に進んでるー?」
顧問の棗がまた今日も見回りにやってくる。あんまり無茶したら駄目よ、というお決まりのセリフをつけて。
また、いつもと同じ日常が戻ってきたのだ。
‥‥でも、もしかしたら。
そのメールは、次はあなたのところに届くかもしれない。
屋上の少女は囁く。口を歪めて笑いながら。
「マダ、終ワッテナイヨ?」
ヴーン。
ヴーン。
『元気?』