夢先案内人絵夢 決着アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葵くるみ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/06〜10/09

●本文


「ここのところ、多いですねえ‥‥昏睡事件」
 『ドリームリサーチ』の腕ききの助手、末永はテレビや週刊誌を見てため息をつく。
 ここ一ヶ月の間に昏睡騒動はすでに10回を越えている。サイコダイバーにして悪夢を追い払う能力を持つ末永の上司・絵夢はそのたびに出向くのだが、毎回のダメージは少なからず累積しているようだ。
 末永はミルクティを淹れながら、ぼんやりと絵夢を見る。絵夢自身もどこかぼんやりとして、頼りなげだ。
 ――先日ダイブした少年の夢の中に現れた、死神を名乗る少女。
 彼女は絵夢の宿敵である合歓に力を貸しているようだった。死神と夢魔、という組み合わせは非常に厄介だ。
 夢魔が悪夢で精神を弱体化させ、同時に弱っていく魂を死神が奪っていく。
 せめて何か手があれば。
 末永の淹れたミルクティをすすりながら、そんなことを考えていた。

 ――その翌日である。
 『ドリームリサーチ』の二人は、とある私立中学に呼び出された。
「先週から、うちの生徒が三人ほど来ないんです。どこの家に尋ねても『娘は眠ったままだ』と‥‥お二方のことは耳の早い女子生徒の中では都市伝説のように語られていたので、実在するとは驚きましたが」
 学年主任の男性教師が、額をぬぐう。
「どの子も特に変な噂のない少女たちです。もしよろしければ、調査をお願いしたく」
 男性教師の声は切実で。たとえそれが保身による声だったとしても、かなりいい状況とは言えない。
「わかりました。お引き受けいたします」
 絵夢がきっぱりと声をあげると、教師はありがたいとばかりに深々と礼をした。

 調査を開始すると、接点の薄そうに見えた三人の少女が次第に浮き彫りになっていく。
 一年生の大原里美。
 二年生の小菅はるか。
 三年生の山口ナオ。
「‥‥コックリさん?」
 絵夢が慎重に尋ねると、少女たちは頷く。
「最近はやってたの。あの三人は部活が同じなんだけど、そのときに死神さんを呼んじゃったらしくて‥‥話を聞くだけでも怖かった」
 死神――あの、澪という少女だろうか。もし、そうだとしたら。
「合歓‥‥今度こそ封じなくちゃ」
 絵夢は低い声で呟いた。


 アニメ「夢先案内人絵夢 決着」ではキャストを募集しています。
・絵夢‥‥『ドリームリサーチ』という事務所を構えるサイコダイバー。夢の中に入り、羽ペンを使って夢魔を攻撃する。
・末永‥‥絵夢と何らかの契約を交わした幻獣「貘」。夢の世界への干渉能力は絵夢をも上回る。普段は人のよさそうな青年のすがたをしている。
・合歓‥‥絵夢の宿敵である愉快犯の夢魔。何度か絵夢と対決する機会があったが、いつもすんでのところで逃げている。今回は最終戦になります。
・澪‥‥死神。合歓と何らかの取引をしているらしく、疲弊した魂をいただいている。ぱっと見はゴスロリの少女。甘ったるい口調が特徴。
・大原里美/小菅はるか/山口ナオ‥‥それぞれ今回の犠牲者。校内で『コックリさん』を行っているときに誤って死神を呼んでしまったといううわさがある。
 以上7人は必須です。ほかに必要と思われる役はどんどん入れてください。
 今回は合歓との対決に決着をつけるという趣旨ですので、その点お忘れなきよう。
 では、皆様の参加お待ちしています。

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2712 茜屋朱鷺人(29歳・♂・小鳥)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa5870 Judas(25歳・♂・狼)
 fa6032 ホワイト家族(20歳・♂・鴉)
 fa6056 八雲 藍(24歳・♀・狐)

●リプレイ本文


「コックリさんで死神‥‥厄介なものを呼び出したみたいですね」
 末永(Judas(fa5870))が軽くため息をつくと、そうかしら? と不敵にに絵夢(あずさ&お兄さん(fa2132))は口元を吊り上げる。
「死神なんてやばいものとつるんでいる夢魔なんてそうそういない。‥‥女の子の純情を弄んで。合歓‥‥今度こそ、逃がさない」
 気合を入れるように呟くと、美術室のドアをノックした。
「はい」
 中からドアを開けてくれたのは優しそうな雰囲気の、めがねをかけた男子生徒(Rickey(fa3846))だった。やや頼りなげではあるが、惹かれるものがある青年である。
「杉本晃さんですね? 私の名前は絵夢。『ドリームリサーチ』の者です」
 そう絵夢が挨拶をする。と、杉本と呼ばれた青年は絵夢の顔をまじまじと見つめた。
「え‥‥ドリームリサーチ‥‥もしかして、山口さんたちのことで?」
「はい。私は助手の末永と申します。少しお話を伺いたく」
 人のよさそうな笑みを浮かべ、末永は微笑んだ。

「俺はこの美術部の部長をしています。三人とも部活に熱心な子で、週に二回の活動日にはきちんと来ていました。それが一週間くらい前からぱったり来なくなって‥‥三人とも同じ状態だと聞いて」
 声を出す杉本の声はわずかに震えている。末永は大丈夫ですよ、と肩をたたいた。
「ただ、うわさでコックリさんとか聞いていて‥‥まさか、都市伝説の本人がくるとは思ってもいませんでしたけど」
 杉本は小さく笑った。少し緊張がほぐれてきたのだろう。
「俺も、みんなも、心配しているって伝えてください。そして、必ず帰ってくるようにって。お願いします」
 真摯な瞳で、青年は頭を下げた。


 暗い暗い、ここはどこ?
 少女は一人、彷徨う。
 ぽつんと遠くに見える明かり。けれどそれは近づかない。

「なによここはっ! 真っ暗で、何にもわかんないし‥‥どうなってるのよっ!」
 怒気を声にはらむ少女。
 遠くに見える明かりには、まだ近づけない。

「お父さん? お母さん? 杉本くん‥‥」
 思わず声に出して呼びかける少女。
 けれど出口も、返ってくる声も、未だない。


「とりあえず、どうしようもないわね‥‥行ってみないとわからない、か」
 絵夢はそうつぶやくと、少女の一人、山口ナオ(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))が入院している病院へと赴いた。ドリームリサーチのことを告げると不審な顔をされたが、背に腹は代えられぬ状況らしく、とりあえず病室を案内される。そこに少女は静かに眠っていた。――もう目が覚めないかと思われるほどに、深く静かに。
「行くわ。末永、フォローはよろしくね」
 そういうと、絵夢はそっと少女の額に手を当て、そしてふっと崩れ落ちた。サイコダイブをはじめたのだ。末永はいつものとおりに椅子をあてがうと、
「私もやるべきことはしなくてはいけませんね」
 そう言って、三人の少女とコックリさんにまつわる情報を調査し始めた。

「広い‥‥これ、本当に一人の夢?」
 絵夢は絶句していた。真っ暗な空間が無限に広がっているように感じる。羽ペンに白い光を灯しても、一寸先は闇。
「‥‥昏睡は三人同時だっけ。もしかして‥‥繋がってるのかしら。そうだとすると」
 相手はかなりの力を持っている。それこそ、死神のような。かなり厄介だと、ため息をつく。とん、とジャンプをしても着地点がわからない。平衡感覚がおかしくなりそうだ。
「っとと。とりあえず、末永に何かヒントをもらわないと‥‥」
 そして、三人の少女を見つけ出さなければ。

 そのころ、末永は被害者のクラスメイトたちから情報を聞きまわっていた。そこでわかったことは、
「‥‥ふむ。三人ともあの部長さんに片思いですか」
 その弱みを死神に握られた、そう考えていいだろう。コックリさんは占い遊び、戯れに好きな人を聞きだしたなどもありえる。
「しかし、三人が三人とも囚われてしまうのは‥‥先ほどの絵夢からの念波も考慮すると、何か媒介のようなものがあってもおかしくない。少女たちの身がもたなくなる前に、何とかしないと」


  い、の、ち、と、ひ、き、か、え、に
  あ、な、た、の、の、ぞ、み、を、か、な、え、ま、し、ょ、う
 震える指が、その言葉を示したとき、冷たい風が吹いていた。

「だぁれ?」
 大原里美(姫乃 舞(fa0634))が、弱った声でたずねる。心を蝕まれ、記憶や意識があいまいになっているのだ。山口ナオは、
「里美ちゃん、大丈夫? もっと甘えていいのよ、ほら‥‥どうしちゃったの」
 そういうが、彼女の声も里美には届いていないようだ。
「それにしても、ここは‥‥」
 ナオが呟くと、
「ここはあなたたちの夢の中。悪夢を見せられているのよ」
 静かな声で近づいてきたのは、絵夢だった。いつもよりもわずかに顔色が白いだろうか。その闖入者の姿を見て、少女二人は呆然とする。
「もう一人、小菅はるか(姫乃 唯(fa1463))さんも多分この夢の中にいる。助けるのが私の仕事」
 絵夢がそう言うと、
「そううまくいきますか、絵夢?」
 嫌味っぽい声で、夢魔――合歓(茜屋朱鷺人(fa2712))が現れた。
「今日こそ、逃がさない」
 決意のこもった声で、絵夢も羽ペンを構える。


「コックリさんの、紙?」
 杉本は不思議そうな顔で、末永に尋ねる。
「ええ。何か残っていませんか」
「そういえば‥‥」
 杉本は美術室の奥から藁半紙を取り出した。そこにはコックリさんにお約束の五十音表などが記されている。そしてそれと同時に、怪しげな文様も。
「これは‥‥」
「そのときに使われたかはわかりません。けれど数日前に美術室に落ちていて。‥‥何かあるんですか」
 末永は静かにその謎の文様を指差す。
「これは死神の刻印。‥‥悪い予感が的中したようです。もしよければ、あなたにも手伝ってほしいのですが」
 そういいながら、末永は藁半紙にふっと息を吹きかける。するとめらめらと燃え上がり、紙は見事に焼失した。
「彼女たちを救う手助けをしてほしいんです」


 きいん!
 白い羽ペンの光と、闇色の残像が交差する。闇とはいえ、そのくらいの区別はつく。
(「また邪魔をするのね、絵夢」)
 合歓の後ろに薄くダブるように見えるのは、ゴスロリ衣装に身を包んだ死神、澪(各務聖(fa4614))。
(「やっぱり、いつもよりも強い‥‥!」)
 絵夢はぎりりと歯噛みする。このところの事件頻発でもともと疲労していたところにこんな強敵では仕方ないだろう。どうしても後手後手に回ってしまうのだ。

 その時。
 闇に包まれた夢空間が赤く彩られた。炎の赤だ。
 それはまさしく藁半紙の焼失と同じ瞬間で。

「絵夢!」
 末永が念波を送ってきている。まだその声は遠く聞き取りづらいが、雑音が少しずつ消えていくかのように、炎の赤が増すとともに夢の世界が鮮明になっていく。
「澪の能力――三人への干渉を封じました。これで合歓は弱体化したはずです!」
「オッケーよ、末永!」
 夢の世界もじわじわと小さくなる。まだ見つかっていなかった小菅はるかも無事発見され、ナオ・里美と合流していた。
「ドリームリサーチの絵夢なんて、都市伝説だと思ってた‥‥絵夢、やっつけちゃって!」
 はるかの強い声援が、三人の少女の強い願望が、絵夢に力を与える。
「あと‥‥これはヴィジョンとして転送します」
 と、空間にふっと杉本晃の姿が映った。
「杉本くん!」
「先輩!」
 少女たちが口々に叫ぶ。
「帰ってきてくれ。君たちに、また早く会いたいから!」
 杉本がそう言うと、三人の心の力がいっそう強くなったのだろう。澪が苦々しげな顔をして浮かんでいた。
「絵夢‥‥この借りは必ず返すわ」
 そういって身を翻すと、死神はその空間から消えた。恐らくはまたどこかに転移したのだろう。追いかけたいところだが、今はそう言ってもいられない。
「あとはあなただけよ、合歓」
 絵夢はそういうと、合歓をきっと見据えた。
「ふ。しかし死神の手助けなしでも十分に強いのは絵夢も知っているはず」
「それはどうかしら? 人の心が強くなればなるほど、夢の中の私の力も増すのよ」
 絵夢は不敵な笑みを浮かべて、合歓の挑発的なセリフを受け流す。
 そして、ふわふわと漂う合歓に向けて――絵夢は自分の足元に矢印を記し、飛び上がった!
 ぐん、と近づく絵夢の姿に、さすがに合歓もたじろぐ。
「これで、終わりよっ!」
 合歓の身体に、大きくバツ印を刻む。それは絵夢が行う封印の方法。
「こんな‥‥こんなところで終わって‥‥た‥‥ま‥‥る‥‥」
 そんな言葉をこぼしつつ――合歓は消滅した。
 この長い悪夢から、開放されたのだ。
「絵夢さん!」
「――とりあえず話は後! あなたたちは早く目覚めなさい!」
 絵夢に近づこうとする少女たちにきっぱりとそう言うと、絵夢自身もふっと消えた。


 騒動の翌々日。三人の少女はまたいつもの日常に戻っていた。学校側も今回の件は不問にするそうだ。そして部活では――相変わらずこっそりと恋のライバルを続けている。
 けれどもうコックリさんは行わない。心の弱みに付け込まれるから。
「絵夢さんかっこよかったよねぇ」
 はるかは絵夢を気に入ったらしい。結局礼は言えずじまいだが。


 ――貴方の側で、夢に苦しんでいる人はいませんか?
 そんな人はぜひ、『ドリームリサーチ』にご連絡を。
 きっと、救ってくれるから。