学校の八不思議?!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
葵くるみ
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
やや易
|
報酬 |
0.9万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
07/19〜07/23
|
●本文
――某県立中央高校。成績は中の上、どこにでもあるごく普通の高校だ。
「おはよう」
「おっはよー!」
もうすぐ夏休みも近い、朝の2年5組に軽やかな朝の挨拶が響き渡る。期末テストも終了し、あとは終業式を待つばかりだ。しぜん、心も軽やかになる。
が、その一方で、
「‥‥ねえねえ、またでたんだって?」
「やだ。今年に入ってから何人目?」
「うちの先輩も見たって言ってた」
「うそ! なんか、こわいなぁ」
教室の片隅から聞こえるそんなひそひそ声が、クラスメイトたちの耳をくすぐっていた。
「おはよーって、ん?‥‥ねえ、あそこのみんな、何の話をしてるの?」
予鈴ぎりぎりで学校に到着した相良美緒は、きょとんとした顔で隣の席の川上あずさに問いかける。
「ああ、おはよう。何でもね、隣のクラスの子が、帰りに忘れ物をして夜に取りに行ったらしいんだけど」
あずさはそこでもっともらしく言葉を切り、そしておもむろに声を落として言った。
「見たんだって。ほら、『八不思議』の‥‥」
『八不思議』。
中央高校には七不思議ならぬ八不思議が存在した。踊る人体模型や目が光るベートーヴェン、トイレの花子さんなどの世間的にポピュラーなものもあったが、(通称)『七番目の不思議』と『八番目の不思議』については、目撃証言も出現場所も多岐にわたるため、ひとつに絞れていない。本当にその数でいいのかすらもわかっていないくらいだ。
そのためだろう。何年も前の卒業生が校内新聞で使ったというのが『八不思議』の語源らしい。確かに言い得て妙なネーミングなのだが、今はそんなことはどうでもいい。
今回重要なのは、その怪現象が発生した、ということなのである。
実は今年度に限って、怪現象の目撃譚があとを絶たない。特に6月辺りから『八番目の不思議』に関すると思われる目撃証言が一気に増えているのだ。教師は気にするなと言っても、気にせずにいられないのが好奇心旺盛で健康的な高校生というものである。
そして、幸か不幸か。美緒はその好奇心が人一倍多いタイプなのだった。
あずさの話を大体理解した美緒はにぃっといたずらっぽく笑い、そして言った。
「そうね。じゃあ、今夜にでも実行するかな」
「は? なにか、するつもり?」
あずさはわけがわからない、という顔をしている。美緒はかすかに呆れた顔を浮かべたのち、うれしそうな声で言った。
「だから、八不思議探検よ! きっと何か今年はあるんだわ! も・ち・ろ・ん、手伝ってくれるよね?」
美緒が口早に強い口調でまくし立てると、あずさは反射的にうなずいて、そして戸惑いの表情を浮かべた。
きーんこーんかーんこーん‥‥
夏休み間近の、長い一日の始まりだった。
●夏の納涼ドラマのキャストおよびスタッフを募集します。
テーマは学校の怪談。ちょっぴり怖い、青春(ラブ)コメです。
相良美緒(主人公/必須)‥‥好奇心旺盛な女子高校生。17歳。自発的な行動をするタイプの少女です。ただ、色恋沙汰には鈍感です。
川上あずさ(必須)‥‥美緒のクラスメイトで幼なじみ。おとなしい口調の男子高校生。美緒の言動には逆らえない、損なタイプ。美緒にほのかな恋心を抱いています。
『八不思議』‥‥正確には『八番目の不思議』。ときに人であり、ときに現象である存在。内容を考慮して、登場『人物』とするか否かを決めてください。
また、その存在・現象の正体も考えてみてあげてください。
他に必要だと思われるキャスティングの追加は自由です。
●リプレイ本文
●キャスト・スタッフ
相良美緒:姫川ミュウ(fa5412)
川上あずさ:羽生丹(fa5196)
立花言葉(ことのは):咲夜(fa2997)
夕日新(あらた):雨宮慶(fa3658)
ダン:アルヴァ・エコーズ(fa5874)
トイレの花子さん:魔導院 冥(fa4581)
少女(八番目の不思議):渡会 飛鳥(fa3411)
音響:Celestia(fa5851)
●不思議探検隊、結成
昼休み。
「本気?」
「あたしはいつでも本気」
美緒は胸を張って答えた。問いかけたあずさは、泣き出しそうな顔をしている。美緒が引き起こすトラブルに巻き込まれて損をするのはいつもあずさなのだ。と、
「んー、なに? 何か面白そうな話?」
近くの席の少女――言葉が、つんとあずさの背筋に触れて好奇心を見せた。言葉も美緒と似たり寄ったりのタイプだ。下手に知られたらまずい――あずさはすぐに口をつぐむが、
「言葉! 実はあずさと八不思議探検しないかって言ってるんだけど」
美緒の言葉に、言葉は目をきらきらと輝かせた。
「そう言えば最近また噂聞くもんね。もしかして、夜の学校に忍び込むの?」
「当然」
「いいなぁ、あたしもいい?」
元気娘二人の勢いはとどまることを知らない。結局、あずさが折れることになった。
「わかったよ‥‥ぼくもついていくけど、でも、本当はぼくたちコウコウセーだし、深夜に出歩くのは‥‥」
あずさの言葉は、二人ににらまれて少しずつトーンが落ちていく。
「馬鹿、あずさは一応ボディーガード。‥‥じゃあ、早速決行は今夜。夜九時、校門で」
じゃあたしは用があるから、と美緒は教室を飛び出した。それを見てあずさはため息をつく。どうやっても美緒に勝てないからだ。
「‥‥大変だね、君も。いろんな意味で」
少女は小さく呟いたが、それは誰にも聞こえない。
放課後。
美緒とあずさは帰ろうとしていた。部活動は休みで、家が近所で帰宅部のあずさを美緒が誘ったという形だ。美緒がこの幼なじみをどう思っているかはわからないが、あずさの方は幼い頃から美緒に憧れを抱いていた。淡い恋心という奴だ。ただし美緒は致命的な鈍感であるため、それに気付いてはいないようだが。
「あ、相良さん、川上くん!」
階段で、二人は呼び止められた。見ると小柄な女子生徒が手を振って駆け寄ってくる。近づいてきた少女は、息を切らしながら挨拶をした。
「私、新聞部なんだけど」
そう言って手渡されたのは手作りの名刺には『夕日新』と可愛い文字で書かれている。タイは二年生のそれだが、小学生に間違えそうな雰囲気だ。
「八不思議探検をするって聞いてね。よければ私も仲間に加えてくれない? 校内新聞のネタにしたくて」
二人は顔を見合わせる。確かに三人でもまだ心もとない気持ちがなかったわけではない。美緒は笑うと、
「大歓迎。じゃあ、集合時間は今夜九時、校門前。せっかくだし、スクープとろうねっ」
無邪気に右手を差し出して握手をした。やや呆れ顔になっているのはあずさだ。こんな無茶苦茶なメンバーで、本当に八不思議なんて見つけられるんだろうか‥‥
あずさの苦悩をよそに、少女たちは笑いあっていた。
●夜の侵入者
‥‥静かな学校に、りん、と鈴の転がるような音。
『‥‥誰か、くる』
少女の声がりんと響く。静かな校内に、声だけが響く。
「さてと」
午後九時。校門前に集まった仲間――あずさ、言葉、新の三人を見て、探検隊長こと言いだしっぺの美緒はにやっと笑う。新の手にはかなり立派な一眼レフがあった。
「全員集合ね。それじゃ、入ろうか」
「‥‥やっぱりするの?」
声をあげたのはあずさだ。
「ほら、右も左もなんともない。探検隊解散でいいじゃ――」
「よくないわよ!」
少女三人の強い否定の言葉に、あずさは思わず気圧される。
「ネタは必要!」
「謎解きはロマン!」
「何より楽しいじゃない!」
完全に女子のペースだ。やむを得ない。一行は教職員通用口を使って学校へと侵入することに決めたのだった。
「さて、鬼がでるか蛇が出るか‥‥」
言葉は不吉なことを言いつつ、みんなの先導をしていく。
ひたひた、と沈むような足音。いちおう宿直に見つからないように心がけている、が。八不思議のひとつ、ベートーヴェンの肖像画を調べようと音楽室に入ったところで、おどろしい声が背後から聞こえた。四人は慌てて振り返る。
そこにいたのはイギリス人の英語講師、ダンだった。宿直なのだろう。
やばい。その言葉がよぎっていた――のだが、ダンは新の手にある一眼レフを見つけると急に興奮した口調に変わった。
「もしかして、学校のミステリー調査かね?」
流暢な英語交じりで尋ねられる。美緒は金縛りが解けたように口を動かした。
「はい。もしかして先生も?」
「うむ、日本の学校のミステリーは興味深いからね。驚かせて悪かった」
ダンは嬉しそうだ。
「本来なら、学校から追い出されてもおかしくないが――君たちと先生の利害は一致している。それなら一人でも多いほうがいいんじゃないかね?」
ダンは手にしているものを見せる。それは特別教室などの鍵束だった。
「いいんですか?」
「先生に二言はない。というか、そのほうが面白いだろう、OK?」
ダンはにやりと笑った。
●ノックは三回
古めかしい制服を着た少女は、そっと手を動かす。と、鏡の中から何かがすっと飛び出していった。
鈴のような音を立てながら。
さて。一行は二階女子トイレの前に立っていた。
「ここは花子さんね。ダン先生とあずさは待ってて」
さすがに男性は入れたくない。女子生徒三人は、トイレのドアの一つを三回ノックした。
「はーなこさん、遊びましょ」
と、ゆっくり扉が開く。色々な驚きがない交ぜになった表情で、三人は扉の向こうを見つめた。
そこには、セーラー服の少女が一人、アコースティックギターを抱えていた。
「ほんとにいた!」
美緒と言葉はかなり興奮している。新はというと、一眼レフを構えて何度かシャッターを切っていた。
『怖くないの?』
花子さんが不思議そうに見つめる。少女たちは首を振った。花子さんは嬉しそうに笑う。
『じゃあ親愛の印に、一曲』
そう言って歌ったのは、ひどく陰鬱な気分にさせる曲だったが、それは関係ない。少女たちとの邂逅に、花子さんの心も躍っていた。歌い終わると、
『もしかして『まほろ』を探しているのか?』
そう尋ねた。
「まほろ?」
『八番目の不思議、と呼ばれているあの子に会う気か?』
少女たちは顔を見合わせる。そしてうなずいた。
『じゃあ‥‥一緒に。私も会いたい』
予想外の花子さんの発言に、三人は声をあげて喜んだ。
●八番目
「怖くない怖くない、世界はカガクで証明される‥‥」
あずさは花子さんが合流してからずっとこの調子だ。ダンはといえば
「ジャパニーズモンスター! ビューティフル!」
そんなことを言いながら歩いている。よほど気に入ったのだろう。
「ところで、どこが八番目なの? 花子さん、知らない?」
『私も知らない。あれは特別』
花子さんの言葉に、少女たちは首をかしげる。と、目の前を何かが通り過ぎた。それは白っぽい何か。
美緒は駆け出し、それを捕まえようと慌てて追いかける。それをさらに追いかけるようにあずさや新も続いた。が、突然美緒の足首が何かに掴まれた。そのままぐるりと向きを変えさせられると、あずさにのしかかるように倒れこむ。あずさが顔を赤く染める。やがて、美緒は小さく悲鳴を上げて飛び起きた。そして、
「何するの馬鹿!」
とあずさを追い回しだした。他の面々は何が起きたのかわからず、
「何……?」
「ポルターガイスト?」
口々に言う。花子さんは静かに言った。
『多分‥‥あの子』
美緒とあずさを除く三人は顔を見合わせる。もしここが階段だったら‥‥冷や汗ものだ。
と、鈴の音とともに、古めかしい制服姿の少女がふっと現れた。彼女が、もしや――?
「‥‥どうして?」
新の問いに、少女は微笑を浮かべる。
『こうすれば、あの子は思いを伝えられる』
無邪気な笑顔。しかし、
『あたしはみんなのことを考えてる。鏡に思い出を映して。でもみんな怖がって死んじゃう。‥‥変でしょ、悪いことしてないのに』
その発想はひどく歪んでいる。と、花子さんが前へずいと出て、歌いだした。
『それは間違いだ。まほろ、キミのしたことは死を呼ぶばかりだ』
先程よりも優しい音色と声遣いで。
『違うもん!』
怒りに震えて叫ぶまほろの周囲にずい、と無数の手が出現する。新はカメラを慌てて向けた。
「でも怖がってる人は多いの。もう現れないほうがいいよ。‥‥みんなのためにも」
言葉はまほろを説得する。すると少女は泣き出した。
『そんな‥‥そんなこと言う人、いなかったのに‥‥』
そして――消えた。そこにいた者たちを残して。
ふと顔を上げると、そこには一期生の卒業記念品の鏡があった。が、ひびが入ってしまっている。これが彼女の正体だったのだ。
「あとは‥‥あの二人、か」
三人は苦笑して未だあずさを追い回している美緒を見る。
「喧嘩するほどとは言うけどね」
あずさの負けはまた確定だろう。そんな光景を微笑ましく見つめていた。
『私も帰る。‥‥楽しかった』
ふいに花子さんの声がした。はっとそちらを向くが、誰もいなかった。
「あたし達も。ありがとう」
皆が思い思いに手を振る。
夏の忘れられない記憶になるだろう。そう思いながら。