八月の雪アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葵くるみ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/01〜08/05

●本文

 暑い日ざしが、世界を覆う季節、夏。
 日本の八月ともなれば、それは眩しいほどの日差しと真っ青な空、真っ白い入道雲。
 それが当たり前の光景であったのに。

 白樺町(しらかばまち)は、白い世界に覆われていた。

 白樺町は中部地方にある、ごく普通‥‥よりは少し寂れた町である。おもな産業は農業だが、少し離れた工業都市のベッドタウンとしても機能している。
 夏祭りの支度を始めていた白樺町の面々は、顔を曇らせていた。
 何で、こんなおかしな状況に?

 実は白樺町にはひとつの伝説があった。
 夏に現れる、雪女の伝説が。
 その伝説ではこのようにうたわれている。
  『町の若い男に恋をした雪女が、夏の暑い盛りに町に訪れた。
   妻になりたいと伝えてみたけれど、雪女だと知ると男は怯えて逃げ出した。
   悲しんだ雪女は夏に吹雪を巻き起こし、恋焦がれた相手を凍え死にさせてしまった』
 かいつまんでいうとこのような話だが、考えてみるとけっこう恐ろしい。

「雪女、ねえ‥‥」
 町立中学の新聞部長、時任旭はそういった昔話の類を基本的に信じないタイプである。しかし、今直面している現実には逆らえない。学校で町の伝説などを何度も読みふけってはこの奇妙な現象について調べている。幸か不幸か今は夏休み真っ盛り、授業はないので資料あさりにはもってこいだ。
「そういえば‥‥一年生に転入生がいたんだっけ?」
 同じく新聞部員で旭の後輩にあたる斉藤ひかるに問いかける。今まともに機能している部活動は恐らく新聞部だけだろう。運動部はもちろんだが、文化部も異常気象のあおりを食らってまともに動けないのだ。新聞部は人数こそ多くないがいわゆる野次馬根性の持ち主の集まり、ひと癖もふた癖もある面々が揃っている。こんな異常事態には当然のごとくくらいつくというわけだ。
「ああ、そうですね。確か隣のクラスに女の子が。期末テスト直前の中途半端な時期だったから、よく覚えていますよ」
 名前を聞くとみゆきと言うらしい。‥‥これは偶然の一致だろうか。
「調べてみる価値はあるみたいだね」
 旭は眼鏡の奥の瞳を光らせて、不敵に呟いた。

●アニメ「八月の雪」ではキャストを募集しています。
 時任旭(必須・女)
 町立中学新聞部部長。中三。男勝り。ネタ探しが好き。今回の事態の謎解きをしたいと考えている。
 斉藤ひかる(必須・女)
 町立中学一年。新聞部員。旭とは幼なじみでいつも巻き込まれる。
 みゆき(必須・女)
 苗字は適宜。町立中学に7月初旬に転校してきた少女。中一。
 他、必要と思われる役はどんどん出してかまいません。

 また、基本情報はプロローグ本文参照。
 学校を飛び出しての探検も大歓迎です。

 皆さんの参加、まっています。

●今回の参加者

 fa0921 笹木 詠子(29歳・♀・パンダ)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa5239 岩倉実佳(10歳・♀・猫)
 fa5488 大曽根千種(17歳・♀・一角獣)
 fa5770 バッファロー舞華(14歳・♀・牛)

●リプレイ本文


「‥‥今ってさ、八月なんだよね?」
 寒さに歯を打ち鳴らしながら、斉藤ひかる(バッファロー舞華(fa5770))が横に立つ少女――時任旭(笹木 詠子(fa0921))に尋ねる。
「そうよ。‥‥寒いからって現実逃避はよくない」
 旭はこくりとうなずいた。高校受験を控えた中学生活最後の夏、文字通り降ってきた異常現象に彼女は心を躍らせているのだ。じっさい、旭はこの次の校内新聞を完成させたら引退ということになっている。本来はもっと早く引退してもよかったのだが、後輩育成の建前と野次馬根性の本音のために引退の時期を少しずらしていた。
 そんな折の非常識な事件に、喜ばないはずがない。
「部長、そういえばどうする? ほら、季節外れの転校生」
 『自称良識人』の氷女晴佳(ウィン・フレシェット(fa2029))――れっきとした男子である――が、声をかける。
「スクープの臭いがぷんぷんするし、ぼくは取材に賛成だな」
 ‥‥良識人のセリフにしてはややあれだが。
「当然。もし伝説が嘘っぱちでも雪は現実だし、ただの女の子でも転校生の紹介記事はネタでしょ?」
 旭は笑う。新聞部の作業をしているときが楽しくて仕方ないのだ。
「でも、あんまり変に首突っ込みすぎないでね? 後始末なんかいやだから」
 ひかるが言った。腐れ縁の旭にいつもリードされてばかりの少女は、それでも彼女を見放すことはない。
「じゃあ、とりあえず調べるところからはじめようか。転校生ちゃんと同じクラスの子とか、担任とかなら話を知ってるかも」


 それはある雪の日。
 おさない少女は一人、ぼんやりと雪の中に立っていた。
『何してるの?』
 同い年くらいの男の子が、声をかけてくる。少女は少し困った顔で言った。
『‥‥道が、わからなくて』
 あまり他人と話したことのない少女には、その少年が輝いて見えて――

「‥‥ひどいことになってるな」
 青年(藤井 和泉(fa3786))が一人、町を一望できる位置から眺めていた。眼下に広がる雪景色は、この季節にありえない。
「やはり制御できてないか。被害者がでる前に何とかしないと‥‥」
 白いロングコートを、青年は翻した。

「転校生?」
 学校に来ていた教師、如月のぞみ(大曽根千種(fa5488))は怪訝な顔をした。関西出身の如月は、いまだに独特のイントネーションが抜けきらない。
「はい。如月先生のクラス、一学期の終わりに転校生がきましたよね?」
 旭はじいっと如月を見つめる。
「ああ、白雲みゆき(角倉・雨神名(fa2640))か。あの時は男子どもがやたらさわいどったなあ。次の学校新聞の話題にでもするん?」
「はい、先生」
 担任でもある如月の言葉に、ひかるが答える。いくつかの情報を聞き出したのち、旭がさらりと問いかけた。
「‥‥そういえば如月先生は、この町の雪女伝説についてどう思ってます?」
「えらい非科学的な話題やねー。ま、この目で見てしまうとそう言いきれへんけど」
 担当教科が理科と言うこともあって、あまり非現実な話題を認めたくないのだろう。
「斉藤も時任も、あんまりこんなことにばっかりうつつ抜いたらあかんで?」
 二人の少女は曖昧な笑顔でそれをごまかした。

「やっぱり如月先生はあてにならないかぁ」
「案外きっちりしてるもんねー」
 職員室を出たところで、少女二人はため息をついた。晴佳は頭脳労働専門といって部室に残っている。と、昇降口に少女(岩倉実佳(fa5239))が立っていた。小柄な少女はひかるを見るとぱっと顔を輝かせる。
「あれ、かのちゃん。部活とかは休みでしょ?」
 同じクラスのひかるに問われ、かのちゃん――春日井庚はにっと笑う。
「あはは、今日は図書室に用があるんだ〜」
「図書室?」
「うん〜、なんか本が読みたくなっちゃって。でも図書館も遠いからね〜」
 この寒い中でも、学校の図書室は機能しているのだ。聞くと、借りたいのは小泉八雲の『怪談』だという。雪女の話が収録されている本だ。
「みゆきちゃんが最初きたときは、肌も白くてそれこそ雪女みたいだなーって思ったんだ」
 少女の意見は確かに一理ある。誰もがそう思うくらいの美少女だったから。
 庚はじゃあね、と手を振ると図書室へ消えた。残された少女二人は考え込む。
「‥‥やっぱり本人にあたってみる?」
 旭の独り言は、有無を言わせぬものだった。


 そういえば、と旭はひかるに問いかける。
「白雲さんって、クラスではどんな子なの?」
「ごくおとなしい子だよ。あ、でも‥‥」
 ひかるは少し考えたのち、言った。
「白羽翔(タブラ・ラサ(fa3802))くんのことが気になるみたいだった」
「白羽翔くん?」
 旭はおうむ返しに聞く。
「うん。転校してすぐに校内を案内してあげたんだけどね、『翔くんってどんな子?』『彼女とかいるのかなあ』とか‥‥」
「聞いてたの?」
 旭は恐る恐る聞く。
「うん。‥‥どうしたの、そんなに怖い顔して」
 ひかるが不思議そうな顔で問いかける。
「馬鹿ね。‥‥もしも伝説が本当で、白雲さんが本物の雪女だったら。どういうことかわかるでしょ?」
「まさか‥‥」
 旭はこくりとうなずいた。
「とりあえず、白羽くんの家に行ってみよう」

「‥‥で、先輩と斉藤さんはうちに来たわけだ」
 やや呆れた顔で、白羽翔は二人の顔を交互に見つめる。
「でも、もしそうだとしたら、白羽くんの命が危ないんだよ? 何でそんなに平気な顔してるの?」
 ここは翔の家の玄関先である。
「べつに。そういう風に言われても、‥‥迷惑なだけだし」
 平静な顔で、少年はそういう。少女二人は信じられない、という顔を見せた。
「‥‥わかった。じゃあ質問を変えるね。――白雲さんに以前、会ったことは?」
 旭がそう問うと、ぴくりと翔の眉が動いた。
「い、いや。会ったことなんか、ない」
 わずかに震える声でそう言った。と、冷たい風がふっと身体を撫でる。
「‥‥!」
 はっと振り返ると、そこにいたのは真っ白い肌と黒いロングヘア、そしてこの寒い中にありながら夏のセーラー服の少女――みゆきだった。


「‥‥どうして」
 みゆきは震える声でそう問いかける。髪が風になびいて、その美少女ぶりは幻想的だ。
「前、会ったことあるよね‥‥学校でも、ここでも、どうしてそんな嘘を言うの‥‥?」
 風が、雪が、いっそう強くなる。
「どうして‥‥?」
 みゆきがぽろぽろと涙を零す。その涙はたちまち凍り付いて、ころころと落ちていった。
 口に出さずとも、彼女の正体がわかった。
「私、翔くんに会ってからずっとずっとまた会いたくて、だからこの町に来たのに!」
 また風が強くなった。みゆきの感情が昂ぶれば昂ぶるほど、風や雪が強くなっていく。
「みゆきちゃん落ち着いて! 私だよ、ひかるだよ!」
 ひかるが近づいて説得しようと試みるが、あまりの風と雪に目を開けることすらままならない。
「翔くん‥‥好きです! だから、お嫁さんにしてください!」
 絶叫にも近い、みゆきの告白。翔は唖然としたままみゆきを見つめている。
「け、ケッコンとか、まだそんな年齢じゃないだろ、ぼくたち!」
 翔の発言にだめだと思った次の瞬間、そこにもう一人の人物がやってきた。静かな、まるで降り始めの雪のように。
「みゆき‥‥! くそ、やはりこういうことになっていたか。おまえらは早く逃げろ」
 白いロングコートを着たその青年は、無理やりみゆきに近づき、ぶんぶんと肩を揺らす。しかしみゆきの暴走は止まらない。風を起こし、雪が舞い、周囲をどんどんと白の世界に染め上げていく。
「あなたは‥‥?」
 おそるおそる、旭が青年に尋ねる。
「俺はみゆきの兄で雪哉という。こいつを迎えにきたんだ」
「みゆきさんは、」
 旭の言葉を制するようにして、雪哉がいう。
「‥‥おまえたちの想像は間違ってない。雪女というのは女系で、男にはせいぜい寒さに強いことくらいしかその兆しが見えない」
 そう言うと、青年はみゆきの頬を軽くぱちんと叩いた。
「おまえがそんなんじゃ、いつまでたっても迎え入れてくれるやつはいないぞ、みゆき」
 その言葉に、少女ははっとしたようだ。風がふっとなくなり、雪も静かに降るだけになる。と、そこに凛とした声が響いた。
「そんなことはないよ、‥‥白雲さん」
 声の主は翔だった。顔を真っ赤にして、そして言う。
「ぼくだって‥‥白雲さんのことは、好きだから」
 はにかんだような笑顔。はじめて見る、翔の照れ笑い。
「翔くん‥‥!」
 みゆきは涙を流す。今度は嬉し涙だった。そして――気がつくと、雪はすっかりやんでいた。


「すっかり雲もなくなって。お日様も見るの久し振りだなぁ」
 その日の夕方。旭たちはみゆきと雪哉を町から見送るために駅へとやってきていた。少しずつ夏の暑さも取り戻し、旭たちも夏の装いに変わっている。
「‥‥まだ結婚とかそういう話は早いんじゃないかと思うんだけどな」
 ぶつぶつ呟いているのは雪哉だ。丸く収まったのだから、あまり大声では言えないが。
「手紙も電話もする。遊びにも行くから」
「うん」
 完全に二人の世界に入っているカップルを横目に、雪哉は言う。
「妹は能力が不安定なんだ‥‥すまなかった。あと、もう一つ‥‥このことは秘密にしておいてくれないか」
「うん。そのほうがいいよね。またね、白雲さん」
 少女たちは口々に言う。
「いつか絶対、お嫁さんになるからね」
 みゆきは微笑んだ。

 暑い夏が、また始まる。

●ピンナップ


角倉・雨神名(fa2640
PCツインピンナップ
緋烏