夢先案内人絵夢アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葵くるみ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 08/16〜08/20

●本文

『おいで』
 そんな声が聞こえた気がした。
 おかしいな、この部屋には私以外誰もいないのに。
『おいで』
 ほら、また。
 私は起きたまま夢を見ているの?
『おいで、おいで、おいで』
 ‥‥わからない。
 私は横になって、目を閉じる。ひどく眠くて、すぐに――

「娘がもう、一週間眠り続けたままなんです」
 『ドリームリサーチ』社に今日やってきた四十がらみの女は、そう言って額の汗をぬぐった。
「何かきっかけがあったんですか?」
 『ドリームリサーチ』の調査員にして最高責任者・絵夢(えむ)は、注意深く女性の言葉を待つ。
「そうですね‥‥起きなくなった前日、どうやら何か学校であったらしくて。夕飯のときもひどくふさいでいました」
 学校での出来事に何か原因があるのではないか、と母親は推測しているらしい。
「はじめはふつうのお医者様に行きました。でも、原因はまったくわからなくて‥‥途方にくれていたとき、こちらを知ったんです」
 母親のすがるような瞳。
「絵夢さん。あなたは他人の夢に介入する力があるとうかがっています。もし、あの子がなにがしかの夢を見ていて、それが原因なのなら‥‥娘を、救ってください」
 母親の目には涙が浮かんでいた。


 アニメーション「夢先案内人絵夢」では、キャストを募集しています。
 絵夢(えむ)(女性・苗字などは適宜)
 まだ幼さを残した女性(子どもでもかまいません)。他人の夢に介入する『サイコダイブ』の能力を持っており、それを使って『ドリームリサーチ』という事務所を開業している。
 少女(名前などは適宜)
 何らかの理由で一週間眠り続けている少女。中学生。
 (ただし、夢の中での彼女の姿は中学生とは限らないです)
 夢魔(性別・名前などは適宜)
 夢に介入して、美しい夢を食べてしまうという架空の存在。その姿などは全て闇に包まれている。
 他、必要と思われるキャストはどんどん増やしてかまいません。
 どうか、少女を夢から目を覚ましてあげてください。
 皆さんのご応募、お待ちしています。

●今回の参加者

 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa2712 茜屋朱鷺人(29歳・♂・小鳥)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa3341 マリエッテ・ジーノ(13歳・♀・小鳥)
 fa4591 楼瀬真緒(29歳・♀・猫)
 fa5575 丙 菜憑(22歳・♀・猫)

●リプレイ本文


 通されたマンションの一室に、まだ幼さを残した少女(緑川メグミ(fa1718))が静かに、ベッドに横たわっていた。伏せたまつげが長い、可愛い顔立ちだ。一週間以上眠り続けているのに、妙に顔色が良い。‥‥夢に捕らわれた者が陥る外観特徴をしっかりと備えていた。
「夢華さんですね」
 絵夢(あずさ&お兄さん(fa2132))が確認する。こちらも『サイコダイブ』という能力を使った事務所を切り盛りしているが、まだ少女だ。理知的な印象ではあるが、中学生位に見える。
「絵夢、大丈夫ですか」
 横に控えていた助手の末永(明石 丹(fa2837))が、心配そうに問いかけた。
(「よどみ具合はなかなかひどいですね」)
 末永は思う。絵夢にもわかりづらい外界からの夢空間に対する感想は、彼が霊獣『貘』だからこそのものだ。貘は人間の悪夢を食らうという伝承があるが、末永は絵夢と意気投合し彼女の助手におさまっている変わり者の貘だった。
 そんな末永の心中を知ってか、絵夢は笑顔を向けた。
「大丈夫よ。それよりも、彼女がこういう状況に陥る前の話を調べてきて」
 夢に介入する能力を持つ貘にだからこそ頼める相談だ。事前に細かく調査することももちろん可能なのだが、今回の場合は時間があまり許してくれない。絵夢も末永も、経験上わかっていた。
 夢と言うのは宇宙のようにいくつも存在している。その夢に、それも一箇所に自我を保ったままでずっとい続けることが出来るのは一週間がせいぜい。そこからは心身の衰弱が始まり――やがて、死に至る。
「ここからは、私の仕事だわ。‥‥じゃあ末永、フォロー頼むわよ」
「了解です。絵夢も気をつけて。夢の中は何が起こるかわかりませんので」
 末永にそう頼むと、絵夢は微笑む。
「では、行きます。‥‥夢華さんは、必ず助けますから」
 絵夢は少女の額に手をそっと当てる。と、たちまち――絵夢の身体から力が抜け落ちた。
 サイコダイブによる少女との同調のために、意識を肉体から解放したのだ。
「絵夢、気をつけてくださいね。‥‥もしよろしければ、彼女のための簡単な寝床と、あと‥‥」
 末永は自分のすべきこと、すなわち絵夢の身体の管理と夢華の友人たちについての情報整理を始めた。


「‥‥何、ここ」
 絵夢は無事に夢華の夢の中に侵入することに成功した。が、
「夢がいくつも混在してる‥‥まともな人間じゃ、とてもじゃないけど」
 こんなところで一週間も留まり続けるなんて不可能だ。
「夢魔のせいかしら。それにしても」
 異常と言わざるをえない。それでも絵夢は自分に喝を入れると夢空間を進みだした。夢の中というのは基本的に夢を見ている人間に都合よく出来るもので、「進む」と言っても堅い地面をてくてくと歩くわけではない。夢華の夢空間では、軽くジャンプするように足元をけると、そのままふわふわと無重力状態のように進むことが可能だった。
「とりあえず、夢華さんを探すべきね。‥‥どんな姿になっていることやら」
 絵夢はそう呟くと、ふわふわと漂いだした。

 さて一方。
「こちらが夢華さんの学校ですか」
 末永は中学校の前に立っていた。ごく普通の中学校だ。ごく普通の子どもたちが、ごく普通に勉学にいそしんでいるのだろう。ちょうど授業終了時刻ともあって、制服姿の少年少女たちが下校していく。
「ええと‥‥夢華さんのお友達は、と」
 手にしているクリアファイルには、写真が何枚か入っている。その中の一人がちょうど校門を出ようとしていたので、末永はするりと近づいた。優しそうな笑顔を浮かべ、呼び止める。
「日暮センカさん、ですね?」
 呼び止められた少女(マリエッテ・ジーノ(fa3341))は、小さく頷く。内気そうな少女だ。
「はい、‥‥私に、何か用事ですか」
「申し遅れました。私は夢華さんの母親から依頼を受けた『ドリームリサーチ』の末永と申します」
 末永の自己紹介に、少女は表情を崩す。
「もしかして、夢華を助けに来てくれたの? ほんとうに?」
「ええ。今、うちの専属ダイバーがすでに彼女の夢に介入しているところです」
 にっこりと笑う末永。センカはそれを聞いて安堵したのだろうか、大粒の涙を零し始めた。
「お願いです! 夢華は私の大事な友達なんです! どうか」
「ええ。そのために、少しお話を伺いたく」
 末永は、三度笑った。



  『あんなふうにすること、ないじゃない‥‥あいつなんか、あいつなんか』
   少女が一人、部屋の隅で泣いている。
  『ふぅん? で、君は嫌気がさしたのか、現実に』
   唐突に声がした。くぐもっていて、よく聞き取れない。
  『そうよ。もうずっと眠っていたい』
   少女の言葉に、周りの空気が変わった。

 絵夢は相変わらず夢の中をさまよっている。と、上から声がした。上と言っても、平衡感覚すら怪しいこの世界では意味がないかもしれないが。
「珍しいですね〜、『外』からの訪問者なんて〜」
 はっとして声のほうを向くと、黒い和風ゴスロリに身を包んだ少女(丙 菜憑(fa5575))が、くすくすと笑っている。絵夢は慎重に問いかける。
「‥‥あなた、夢魔ね。この子の夢に居座っているのは、あなた?」
「リコはたしかに夢魔ですけど〜、こんな悪い夢は苦手です〜。ここにはもう一人、夢魔がいるんです〜。合歓(茜屋朱鷺人(fa2712))って言う‥‥」
「合歓、ですって?」
 その言葉を聞いたとたん、絵夢は眉をひそめる。合歓は以前、絵夢と対決したこともある夢魔だ。そのときは取り逃したけれど、こんなところにいるなんて。
「詳しいこと、教えてくれない?」
 絵夢はリコに近づこうとした。そのとき。
「あら? ‥‥サイコダイバーね。はじめましてと言えばいいのかしら?」
 背後からふわふわのドレスに煌びやかな装飾品、そしてそれにそぐわない日本刀と言う格好をした少女が音もなく姿を現した。
「夢華さんね? 私は絵夢、あなたを助けに――、っ!」
 顔立ちはまぎれもなく眠り続けている少女のもの。しかしその顔は妙に自信に満ち溢れている。絵夢の言葉はそんな彼女の左手から放たれた空気の塊によって遮られた。
「あなた、危険でいやな匂いがするの。無理やり私を引っ張り出して、あのいやな現実世界に戻そうって、そんな匂いが‥‥今のは当然わざと逸らせたわ。次は‥‥どうなるか、わからないけど」
 夢華は妖艶な笑みを浮かべている。現実の彼女とは比べ物にならないくらいの笑みだった。
「‥‥なるほどね。合歓のやつ、こんな風に‥‥だから夢が」
 普段の彼女はおとなしい文学少女だったと聞いている。心の奥の何かが一気に噴出したのだろう、その笑みには恐怖を覚えた。
「邪魔をするなんて無粋なこと、しないでくれるかしら?」
 どんどんどん、と気弾を放つ夢華。絵夢も上手くよけていたが、やがて頬を気弾がすっと掠めた。血が流れる。それは現実世界でもダメージとして頬に現れているはずだ。
「この‥‥っ」
 絵夢は羽ペンを取り出す。それは彼女の武器であり防具だ。夢では思いが強ければどんな形状をしていても構わない。彼女の羽ペンは一見なんでもなく見えるが、今まで数多くの夢魔を封じてきた代物だった。
「リコはこういうの、嫌いです〜!」
 夢魔のリコにも夢華の能力、そして合歓の夢空間はお気に召さなかったのだろう。手にしていた傘でシールドしている。
「私の話も聞いて! このままでいいの?」
 絵夢は器用に羽ペンを回して盾を作り、攻撃を受け流しながら少しずつ夢華との距離を詰めていく。そしてそっと手をつかもうとした。と、少女は一瞬にして姿を変えた。
「ジャマ、シナイデ‥‥!」
 それは夢に蝕まれすぎたものが陥る状態だった。


『絵夢』
 と、末永の声がした。貘である彼は、夢に入らずとも介入が可能なのである。
『絵夢、話を聞いてきました。‥‥ということだそうです』
 彼の声は契約している絵夢にしか聞こえない。そしてその内容は‥‥。絵夢は不敵に笑うと、夢華に伝えた。
「‥‥好きな人、いるんでしょ」
 夢華は答えない。
「あなたに伝言。樹くんから」
 と、夢に焦点のぼやけたテレビのごとく、一人の少年(楼瀬真緒(fa4591))の姿が映し出された。
『お前にいつも意地悪ばっかりしてごめん。お前のことが好きなのに‥‥頼む、戻ってきてくれ』
「だそうよ。どうする? まだここにいたい?」
 末永の力によって夢の中に一瞬姿を見せた少年は、また姿を消す。夢華は震えだした。
「ソンナコト‥‥ソンナ」
 明らかに動揺している。さらに畳み掛けるように、絵夢は言った。
「みんな心配してる。あなたは戻るべきなのよ」
 そう言うと、羽ペンで大きな×印を書いた。これが絵夢流の封印。
「‥‥ワタシ、モウスコシ‥‥」
 夢が少しずつ崩れていく。
「さあ帰るわよ。現実に」
 絵夢が小さく呟いた。


 夢華はぱちりと目を開けた。側にはセンカと、見慣れた少年――樹が座っている。
「夢華! 起きたのね、良かった!」
 センカは涙目だ。一方の樹は照れくさそうに微笑んでいる。それだけで、今の夢華には十分だった。

「アフターケアはいいんですか?」
 末永の問いに、絵夢は笑う。
「大丈夫よ、あの樹くんが側にいてくれるみたいだし」
 それよりも、今回は元凶である合歓を取り逃がしてしまった。そちらの方が問題である。
「また厄介なことにならなきゃいいけど」
 絵夢はそう呟くと、雑踏の中に消えていった。