秋のドッペルゲンガーアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
葵くるみ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
09/07〜09/11
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●本文
『あなたと瓜二つな人物があなたのすぐそばに突然現れたら。あなたはどうします?』
ゆうべ放送していたテレビ番組。家族全員が食い入るようにしてみていたっけ。
‥‥夕子はそんなことをぼんやり思いながら、隣で読書をしている双子の姉・朝子をみやる。
双子なのにどうもあんまり似ていなくて、夕子は父親似で朝子は母親似。
クラスでも成績優秀、和風美人と名高い朝子に比べて、栗色のくせっ毛とそばかすの夕子は成績もさほどいいわけじゃない。
「ねえおねえちゃん?」
夕子はそおっと話しかける。朝子はほんから視線をはずさぬまま、
「なに?」
と問い返してきた。
「ゆうべの話さ、おもしろかったよね。でも双子とかの場合、あんまり関係ないよねぇ」
茶化すように言ってみせる夕子。朝子もくすっと笑って、
「そうね。双子とかじゃあ、ありがたみも薄いし。‥‥でも、昔の人はそっくりな人のことをドッペルゲンガーといって恐れたのよ? 見たら、数日後に命を落とすだとかで」
どうせそういったくだりはあまり真剣に見ていなかったんでしょ、と朝子はくすくす笑う。夕子は頬を真っ赤に膨らませた。
「どうせ、あたしはおねえちゃんみたいに頭良くないし?」
そう言って、二人で顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。
こういうところはやっぱり双子なのだろう。
「それよりも、今日は祝日だからいいけれど、宿題たまっているんじゃないの? やらないとまずいんじゃない?」
「いっけない。あたし、すっかり忘れてた」
夕子はそう言うと、机に向かってカリカリとペンを動かし始めた。
翌日学校に行くと、教室は大騒ぎだった。
「何でも転校生が来るんだって、しかも双子!」
クラスメイトたちはこぞって裕子と朝子に話しかけてくる。
「ね、ね、どんな子達かな?」
そんな感じでざわついている教室に、教師が入ってきた。朝のホームルームだ。
「えー、みんなも聞いていると思うけれど、クラスメイトが増えることになりました。‥‥ふたりとも、入ってきて」
そうやって入ってきたのは、ふたりの少女。
制服は間に合わなかったのだろう、セーラーではなくブレザータイプを身につけている。
そしてその顔は‥‥
「‥‥嘘」
クラスの皆が、息を呑む。
一人は朝子に、もう一人は夕子に、瓜二つだったから。
●ファンタジーアニメ「秋のドッペルゲンガー」では声の出演とスタッフを募集します。
朝子‥‥中学生女子。優等生タイプで和風美人の双子の姉。
夕子‥‥中学生女子。ムードメーカーでくせっ毛とそばかすがチャーミングな双子の妹。
転校生1(便宜上)‥‥朝子によく似た風貌と雰囲気の転入生。双子の妹らしい。
転校生2(便宜上)‥‥夕子によく似た風貌と雰囲気の転入生。双子の姉らしい。
上記4人は必須といたします。なお、朝子・夕子姉妹の苗字、転入生の氏名は適宜決めてください。
基本的に時期は学校行事の狭間、特に何もない時期だと思ってください。出来るだけ学校行事などにからめず、数日で物語が終わるようなアウトラインが存在しています。
後は皆さんのお力で、素敵な物語を生み出してください。
よろしくお願いします。
●リプレイ本文
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クラスメイトたちは呆然と教壇に立つ二人の少女を見つめている。そして、朝子(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))と夕子(朱里 臣(fa5307))をちらちらと見やりながら、担任である鈴野木香(桜 美琴(fa3369))の発言を待っていた。
「転校生が双子なんて珍しいわねー。しかもうちのクラスに二組目! 双子づいているのかしらね」
朗らかな鈴野木教諭――愛称は「スズセン」だ――の言葉に、つい笑いをこぼすクラスメイトたち。
「はい、それじゃあ、自己紹介してもらおうかしら?」
そういわれて、夕子に似た少女が自分の名前を黒板に書いた。けっこうなくせ字だが、本人はいっこう気にしていない。そして、自分の名前を書くと元気よく振り返った。
「源杏奈(各務聖(fa4614))でーす。みんなよろしくお願いしますっ。ちなみに、あたしのほうが妹でーす!」
見た目同様とでもいうか、夕子に雰囲気が似ている。もういっぽうはかっちりとした文字を黒板に記したのち、ぺこりと礼をして挨拶をした。
「源明菜(雅楽川 陽向(fa4371))です。ちょっとまだ緊張しています‥‥よろしくお願いします」
おとなしそうな、でもしっかりしたかんじの口調だ。そんなところもどことなく朝子を髣髴とさせる。
「それじゃあ、席はあそこね。クラス委員は篠宮ちゃ‥‥ああ、このクラスには篠宮さんって双子がいるんだけど、そのお姉さんのほうがクラス委員なの。もしよかったら、双子同士仲良くしてね」
スズセンの声はあくまでも明るい。朝子も促されるままに軽く手をあげ、自分の存在を示す。双子の転入生は、そそっと朝子のそばに準備された空いた机について、にっこりと微笑んだ。
「それじゃあ、ここからはいつもと同じホームルームに入るからねー。今日は‥‥」
●
その日の休み時間。
「それにしても‥‥よく似てるねー」
クラスメイトで朝子と夕子の共通の友人たちが、新たな双子の周りを取り囲む。
ちなみに双子がそっくりだと言っているわけではない。明菜と朝子、杏奈と夕子がよく似ていると言っているのだ。
「こうやって見ると、昔読んだ小説を思い出しますね。ドッペルゲンガーって言って‥‥主人公に瓜二つの人物が出てくる話なんですけど」
そう言うのは、おとなしい文学少女としてクラスで通っている坂城綾(桐沢カナ(fa1077))だ。
「そうだねー。ほんと。でもなんだか仲良くなれそう!」
けらけらと夕子が笑う。朝子に比べると成績は今ひとつだが、その代わり運動神経は抜群で、朝子とは別の意味でクラスのリーダー格の夕子。彼女は今、自身によく似た転入生の杏奈と言葉を交わしている。どうやら明菜と杏奈のふたりも、内面は朝子・夕子姉妹と似たり寄ったりらしい。
つまり、おとなしくて生真面目な姉の明菜と、ムードメーカーな妹の杏奈。
その特徴は朝子と夕子、二人と共通するものがあった。それもあってか、双子同士が打ち解けるのにそれほど時間はかからなかった。
‥‥というか、学校の案内などを朝子たちが引き受けたので、会話も自然に弾み、そして打ち解けた、ということになったのだ。
「でも、本当に下手な双子以上に似てるよね、夕子と杏奈ちゃん」
「あ、それを言ったら朝子と明菜ちゃんだってそうだよー」
クラスメイトたちはきゃいきゃいと騒ぐ。
「実は生き別れの姉妹だったり? マンガみたいな話だけどねー」
そんな声まで上がるほどだ。
「まっさかぁ。でも、なんだか不思議な感じ」
夕子が笑いながら鏡を見つめるような顔で杏奈を見つめる。わずかにそばかすの浮いた顔、ちょっぴり癖のある髪‥‥ガラス張りの向こうとこちらで同じポーズをとっていたら、鏡と見間違える人もいるのではないだろうか。もちろん、実の双子の姉である朝子にだって似ている。けれど、朝子以上に杏奈は似ている、いや、似すぎているのだ。
いっぽうの朝子も明菜を目の前にして面食らっているらしく、戸惑いを隠せない表情を浮かべつつ転入生と言葉を交わしている。
それを見て、いたずら心を起こしたくなる気持ちもわかるだろう。
夕子は何か思いついたらしく、ふふっと笑った。
●
「えっ、入れ替え‥‥?」
「そう! 一日だけ‥‥。ね! そのほうが学校にもなじみやすいって!」
夕子の突然の発言に面食らったのは朝子だ。授業終了後の学校案内のさなか、人気のない場所で四人だけになったところを見計らって話を切り出したのだ。しかし、転入生の妹――杏奈はぱちんと手を叩いて賛成した。
「それ、面白そう! やろうよやろうよ、ね、お姉ちゃん!」
明菜は明菜で目を丸くしていたが、妹思いなのだろう、やがてくすりと笑った。
「まったく杏奈は仕方ないわねぇ。私はどちらでもいいから、好きなように決めてみたらいいわよ」
「やったぁ! あたし、夕子ちゃんみたいな妹、欲しかったんだ!」
思わず声をあげてしまい、慌てて口をふさぐようなそぶりをする杏奈。そんなしぐさの一つ一つもどことなく夕子に似ているな、と朝子は思うと、思わず苦笑してしまった。
「ん? お姉ちゃん?」
「んー、なんでもないわ」
夕子の不思議そうな顔に、くすくす笑う朝子。それじゃあ善は急げといわんばかりに、四人は校章といっしょについている名札のバッヂを取り替えた。
篠宮朝子を源杏奈に、源杏奈を篠宮朝子に。それで簡単なキャラクターチェンジは完了だ。
「じゃあ、今から二十四時間。杏奈ちゃんのこと、お姉ちゃん、って呼ぶからね」
夕子はすでに嬉しそう。子どもめいたいたずらが好きなのだ。
「うんっ。じゃあお姉ちゃん、朝子さんとよろしくね」
こちらは朝子になりすました杏奈の言葉。四人はくすくす笑いあうと、それぞれの家路についた。
●
家ではぼろが出ないように、と、四人はなるべくそれぞれの親に鉢合わせしないようにと動いていた。夕飯もそこそこに済ませ、双子に与えられた一室(それぞれの個室は両家ともに与えられていなかったのはラッキーともいえるだろう)で、のんびりと本を読んだりなどして満喫している。
特に性格や趣味の近い二人がいっしょになっているということもあって、源家でも篠宮家でも、ファッションや好きな本などについてきゃいのきゃいのと盛り上がった。
そんななか、篠宮家にいる夕子は杏奈にポツリと胸中を漏らした。
「あたしねー。ずーっと、お姉ちゃんのこと、コンプレックスに思ってたんだ。あたしよりも何でもできるような、そんな感じがして。あたしもそうだけど、みんな最後に頼るのって、お姉ちゃんのほうだしね。杏奈ちゃんは?」
杏奈はぺろりと舌を出す。
「‥‥あたしも、かなぁ」
そっかあ、仲間だねえとふたりは笑いあう。
いっぽうの源家でも似たような状態だった。
「確かに話もあうし、落ち着くけど‥‥私、夕子のあのどたばたっぷりに慣れすぎてるのかしら? なんだかやっぱり違和感があるような気がする」
朝子がそんなことをぽつんと零すと、明菜も小さく頷いた。
翌日の学校でも、こっそりと入れ替わっていることに気がつくものはいなかった。
ただ、坂城に
「あ、あの‥‥今日はちょっと雰囲気が違う気が‥‥」
と言われた程度。自分たちの存在感ってそんなものなのかとちょっとがっくりしつつ、しかし作戦の成功を思わずにもいられず、くすくすと笑いあうだけにしておいた。秘密はヒミツであるからこそ、甘美なのだから。
●
その日の放課後。人影少ない校舎の一角で、四人は語り合った。
「んー‥‥やっぱり、あたしにはお姉ちゃんがいないとだめみたいなんだ」
そう夕子がこぼすと、朝子もくすくす笑いながら、でもやはり頷いた。
「私も。なんだかんだいって、後押ししてくれる夕子がいないと、ね」
ふたりがそう言うと、もう一組の双子はにこっと笑った。
「そっか。ならやっぱりいつもの方がいいんだね。よかった」
杏奈がそう言って笑う。明菜も微笑んで、小さく頷いた。
「それじゃあ、また明日ね」
学校帰り、篠宮姉妹はそう言って手を振る。源姉妹も手を振った。
――翌日。
「あれ?」
違和感を覚えたのは朝子。源姉妹の机が、ない。
「この間の転入生の机、どうしたの? ほら、源さんたちの」
近くにいた坂城にそう尋ねると、
「転入生‥‥? 篠宮さん、夢でも見たんですか? 転入生だなんて」
え――?
スズセンもクラスメイトも、誰も覚えていない。覚えているのは、朝子と夕子だけ。
「ただ‥‥」
坂城は言葉を続ける。
「‥‥自分と同じ顔、もう一人の自分だなんて‥‥会ってみたいですね。自分の知らない、気付いていない一面が見えるかもしれないから‥‥」
ドッペルゲンガー。
そんな言葉がある。
もしかしたら、彼女たちは、朝子と夕子に何かを伝えにきた、そんな存在だったのかもしれない――。