陽の巻〜霞む月の如くアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
姜飛葉
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
09/20〜09/24
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●本文
「‥‥夏も往く、か」
蜩の声にぽつりと香月は呟いた。
その手には、冷酒で満たされた杯が握られていた。
様々な赤の表情を浮かべ、西の空を染めていた太陽は、地上から去り往こうとしていた。
吹く風は、どこか冷たさも含む秋を感じさせるもの。
沈みゆく日を肴に、香月はただただ杯を重ねていた。
●追憶
金回りの良い貴族からの依頼を無事に終え、懐も幾分あたたかかった香月らは、昼も未だ高いうちから宿を決め込み落ち着いていた。
桃などは、仕事が無い事が逆に気が抜けぬのか、外へ出たきり未だ帰ってこない。
そのため、広くは無い部屋の中に居るのは、鋼牙と香月の2人だけだった。
仕事も金も縁もめぐりあわせ。
繋がる時に繋がるもの‥‥という香月は、珍しく鋼牙と共に早々と酒を飲んでいたのだ。
元々香月も酒が嫌いなわけではなく、弱いわけでもない。
鋼牙が余りにも過ぎるために目立たぬだけで。
互いに干渉することもなく、杯が空けば手酌で飲んでいた彼ら。
気がつけば酒はどれも空いていて。不機嫌な顔をした鋼牙が寝転がっている。
雑女を呼びつけ頼むのも億劫なのか、未練たらしく酒瓶をひっくり返す鋼牙の様子に笑いが零れた。
それが聞こえたのだろう、鋼牙にじろりと睨まれ香月の笑みが苦笑にかわる。
幾日時間を重ねようと、そういうところはまるで変わらぬ鋼牙に、新たな酒を頼みながらの香月の脳裏には出会った時のことが浮かんだ。
おそらく訊ねれば鋼牙は「覚えていない」とそっぽを向くことだろう。
本当に忘れるわけはないのだろうが。口にしないだけで。
荒々しくそっけない口調と態度。
それがそのままの通りの人間ではないことを知っている。
そうでなければ、こうも思いがけず長い時間を共に過ごす事はなかっただろう。
この時がいつまで続くかは分らない。
不変のものなど無いのだから。
そう、変わらないものなど無い――よく、しっている、事。
日暮れと共に泣き始めた秋を告げる虫達のさざめきに、香月は瞳を伏せ。
虫の羽音に誘われるようにほんの僅か過去へ想いを馳せた。
■今回のドラマの主軸構成
陽の巻の要たる人物、『野武士の鋼牙』『符術士の香月』にスポットを当て、彼らが今共にいる機点ともなるべき出会いの回想話を綴る回とする。
募集配役にある2人が『なぜ妖怪を狩るという危険な生業を選ぶ事となったのか』『そしてどのような出会いを果たしたか』を描く事が今回の話の目的となる。現状に通じる流れは限られた放送時間のため無くても良い。
放映時間内に纏まるよう構成し、シナリオを組みドラマを作り上げる事を最優先とし、物語の人物達の伝えたい、表現したい場面や思いを絞る事。視聴者に、なぜ彼らが危険をおかして妖怪と戦うのかを伝える事。
それらに関しては、既存に出ている設定から逸脱しない範囲で、金・思い・立場・信念等は役者らの役作りに一任するものとする。
彼らにとって、妖怪という存在がどのようなものであるかも語ること。
■募集配役
・鋼牙:野武士。長大な野太刀を扱う。
・香月:術士。符を用い戦う事を得手とする。
補足:今回は過去の出会いの場面においては出演はないが、必要に応じて求める役
・桃:術士の弟子。年端のいかぬ子供ながら、見鬼の力を生まれながらにしてもつ。
※その他の役は、シナリオに応じて求めるものとする。
●リプレイ本文
●CAST
鋼牙:桐生董也(fa2764)
香月:風祭 美城夜(fa3567)
木蘭:鷹野 瞳(fa2151)
椿・桃(2役):美森翡翠(fa1521)
暮鬼・暮の方(2役):フェリシア・蕗紗(fa0413)
玉葉:姫月乃・瑞羽(fa3691)
宵:日下部・彩(fa0117)
‥‥
‥‥
美笑
‥‥
‥‥
巴:白蓮(fa2672)
●過去―壱
「御方様のご依頼、お受け下さってありがとうございます」
側付きの女房なのだろう。玉葉と言う名の女が依頼主の言葉を仲立つ。
高貴な身分の女性というものは直接姿を見せる事もなければ、声を掛ける事とて稀である。
御簾越しの対面の依頼となったその場、鋼牙は己以外にも依頼を受ける事となる存在を目にし、あからさまに眉を顰めた。
「依頼は分ったが‥‥どういう事だ?」
「それは‥‥」
「良いのですよ、宵。貴方様のお言葉も最もです。けれど、妖しの力は強いと‥‥」
玉葉の言葉を遮り。鋼牙の友好的ではない物言いに口を開きかけた傍らにいる妹をとどめ、依頼人たる暮の方が口を開いた。
楚々とした物静かな口調ながら、艶やかな声の主である。
その声を耳にした途端、鋼牙の表情が不快げなものから怪訝そうなものへと変わる。
思わず零れた小さな呟き。けれど、鋼牙が何と言ったか聞き取れず、暮の方が僅かに首を傾げれば、さらりと髪が衣の上をすべり静やかな音が零れた。
「御方さまの懸念はしかり。2人居れば討ちもらす事もありますまい」
開け放たれた格子戸から舞い込んだのか。それにしては季節を忘れた蝶が舞う様を瞳を細めみつめていた香月が、然りと頷いてみせた。
暮の方からの依頼は、妹である宵の君から屋敷の近隣であやかしが出るという話を聞いて、それを見つけ退治して欲しいというありきたりなもの。
可能なら余り関わるべきでは無いと判断した、もう1人の請け主・香月は方便に身につけた笑みを浮かべ事も無げに請け負った。
依頼に見合う報酬が得られるのであれば良いのだ。
夫の通いが無く憂う夫人とはいえ、資産家であれば問題は無い。
香月にとっては、例え依頼主が、どのような存在であろうと関係はないのだ。
むしろ、即興的に組む事になりそうな男の方が彼にとっては、問題だったかもしれない。
(「『姉‥‥か。図体ばかりでかい役立たずか‥‥外したな』」)
先程の呟きは、香月の耳に届いていたのだ。肉親離れのできぬ力が頼みの男であれば、足手纏いにならぬ事だけを祈るのみ。
「武士殿、早々に依頼を果たすべく動くべきでは?」
香月の含む言葉に僅かに眉尻をあげるも、術士など皆こんなものかと割り切った鋼牙は、暮の方の前を辞すのだった。
「暮鬼様‥‥よろしいのですか?」
請け負った鋼牙と香月が屋敷を辞した後、主人を仰ぎ御簾の高座を見上げ玉葉は訊ねた。
傍らに座す宵の君には表情らしきものが見受けられない。
そんな宵の君を瞳を細め見遣りながら、先程鋼牙達に見せた声音とは全く異なる冷ややかな声で玉葉に鷹揚に暮の方は頷いた。
「力量が確かならもうけもの‥‥あの邪魔な木蘭を早く倒して欲しいものよの」
声音に相応しい――歪んだ笑みを浮かべうっとりと囁くのだった。
●過去―弐
「春を売る‥‥にしては、形が妙だな」
緑深き樹森近く。大樹の傍らに市女笠を被った女が立っていた。
傍らに緋袴姿の女童を伴ったその女は、噂通りに其処に居た。
女が小さく首を傾げ笠を脱げば、果たして其処にいたのは新緑色の唐風の衣を纏った妖艶な美女だった。
長い黒髪も麗しい美女は、夜色の瞳を眇め、ゆっくりと赤い唇を開いた。
「誰ぞに聞いて来たのかは知らぬが、女を前にそのように剣呑な顔をするは‥‥」
含むように笑みを浮かべ、艶っぽい視線を香月に向って投げかける。
鋼牙を値踏みするかのように厳しく見据えるのは女童。
「人間? 貴方を操るのは御姉様? 鬼女殿?」
「‥‥何の事だかわからんが、辺りで評判の妖怪ならば‥‥討たせてもらおうか」
表情の読み難い白粉顔の下、問う言葉に構わずに鋼牙は野太刀を抜き放った。
白刃を目の前に突きつけられてなお、美女の顔から笑みは消えない。高らかな笑い声が森に響いた。
「人なぞ我らが餌。戯れに玩ばれる存在で、よくもそのような口が叩けるものよ」
繊手を手招くように揺らめかせれば、美女の背後に広がる森のざわめきが一層高く深く‥‥鋼牙と香月を誘うように広がり始めた。
「邪魔な男。御姉様の邪魔はさせないわ」
ついと椿が鋼牙を指差せば、紅い花弁交じりの鋭い風が嵐のようにまきながら生まれる。
鋼牙の宣言に始まった妖との戦い。あっさりと人ならざる事を明かした彼女らは、鋼牙らを逃すつもりも負ける気もないのだろう――容赦の無い攻手が注がれる。
椿の妖術が、刃で防ぐには向かぬ物と知り、軽く舌打を零した鋼牙はちらと香月を横目に捕らえれば、彼は美女の手の内へと誘われ‥‥捕らわれているように見えた。
その手に符が握られ、魅惑の術にも堕ちず在る事を、鋼牙は見誤らなかった。
美女が囁く甘い睦言へ香月が答えたのは――連れない返答。
「お前に分けてやるもの等ないよ」
香月の言葉を問い返す間もなく、木蘭が彼らの意図に気付いた時には遅かった。
身を焼く炎の熱さに悲鳴が響く。悲鳴は二つ。木蘭と、彼女の元へ誘われた椿のもの。
「口惜しや、謀りおったな!」
「御姉様っ」
鋼牙は椿を木蘭の側へと誘うため、追い詰められる振りをしていたのだ。
それに気付かず誘われるまま後を追った椿は、姉とも慕う木蘭共々香月の放った符が生み出した炎に包まれた。
鋼牙達には知る由もない彼女らの由縁を見抜いてのことか‥‥香月の放った炎は、いっそ小気味の良いほどに妖らを飲み込み離さず焼き燃え続ける。
「武士にしてはせこい真似を」
追い詰められる振りを指しての事だろう、常の炎と異なる術炎が妖達を飲み込む様を見つめながら香月が呟いた。
木蘭らを焼くために、2人を逃さず捕らえる符陣にも目敏く気づいていたに違いない鋼牙への嫌味ではない労いにも似たからかい交じりのそれ。
鋼牙は香月が何か狙っているように見えたからとは答えずに、刀を一振りし妖の流した血を払い、鞘に納めた。燃え逝く木蘭らを見遣る。
「お前達の事情は知らぬ。曰く、妖かしを憎むな哀れむなってな」
鋼牙の言葉が聞こえたのかはわからない。けれど、消え逝くばかりであった女が呪詛にはならぬ最後の言葉を告げる。
「‥‥ほほほっ、鬼女に良い様に使われているとも知らず、哀れな男だこと」
塵と消える間際、木蘭が声高に告げたのは、せめての一矢か。屈する事も諂う事もないどこか誇り高さを伺える女妖・木蘭の遺した言葉に鋼牙は怪訝そうに眉を顰めた。出会い頭から女童が言っていた言葉も気になる。
「‥‥まさか‥‥」
依頼人である暮の方の声が浮かぶ。女房達は何と言っていただろう。
元より鋼牙は莫迦ではない。点が線へと繋がれば‥‥
――また同じなのか?
去来する想いに眉間に刻まれる皺が深まる。
『お願い、殺して‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥櫻丸‥‥!』
懐かしく慕わしい声が、鋼牙の脳裏に甦る。
その様を、香月はただ静かに‥‥浄化の炎を通し、見つめていた。
●過去―参
「妖しを無事退治なさったと‥‥ありがとうございます」
鋼牙らの参上と報告に、暮の方は嬉しそうに礼を述べる。家人や近隣の町人からも討伐話を聞いていたのだという。
玉葉が報酬を乗せた高坏を掲げ持ち、鋼牙と香月の前へと額付く。けれど、2人はそれに手を伸ばす事無く、暮の方へ問い返した。重く漸うと言った様子で口を開いたのは鋼牙だった。
「流れ者とはいえ、失敗話は広がるのが早い。それ相応に備えるために足場固めをするのは俺にとっては当たり前の事だ」
鋼牙の言葉の意味を図りかねているのか、暮の方からの返事は無い。
けれど、鋼牙の言葉は少しずつ彼女を追い詰めていた。
周辺で集めた情報、噂話、犠牲者達の傾向‥‥それらは1種の妖怪ではなく、複数の存在を示していた。
そして、討伐した妖怪・木蘭らの示す言葉。彼女らの言葉は惑わすもの。鵜呑みにする事は出来ないけれど、それだけではないものが揃いすぎていた。
「依頼はこの周辺を騒がせる妖しを退治すること‥‥だったな。こんなところにもいるなんてな」
すらりと抜かれた刀は、御簾へ――御簾内に座す暮に向けられていた。
訥々と理論立て反論を挟む隙無く追い詰められた暮の方は、あっさりと鋼牙の言葉を肯定する。
まるで幼子が難学を見事解いた事を誉めるかのように。
「‥‥だって、あの人が帰ってこないの、だから――そういう訳で私はこいつの身体の中に入って、協力してるのさ。こいつに」
おっとりした雰囲気とは真逆の声音に変わる。その変化と共に、儚げに微笑みを浮かべていた顔には、鬼としかいいようのない表情へと変わっていたのだった。
「夫が帰ってくるなら周りの人間を鬼に贄で差出すのも平気らしい。女とは弱く愚かな生き物よの」
その人の愚かさが面白くて堪らないというように笑い、筋張った手から伸びる凶悪なまでの鋭い爪を閃かす暮鬼を押し返すように刀を合わせる。
鍔競り合うように間近に迫れば、爛々と輝いていた瞳が伏せられ、再び薄く開かれる。
「‥‥お願い、殺して‥‥」
櫻丸、と幼い頃親しんだ名前を呼ばれた気がした。
木蘭を相手にしていた時とは明らかに異なる剣の動き。鈍る切っ先は苦戦を促す。
暮鬼の爪が、鋼牙の胸を浅く切り裂く。更に追い詰めるように振り上げられた爪は‥‥。
「乳飲み子が母を追う様に、何時までも未練がましく姉の影を追うでないよ」
香月の手から放たれた符により、動きを封じられ下ろされることは無かった。
香月の足元には、玉葉がその衣を緋色に染め倒れ伏している。
異を唱える間もなく香月の言葉がすっと染みた。
そう、慕った姉が自らの手で滅した。ここにいるのは、ただの倒すべき鬼。
「振り切ったと思っていたのにな‥‥すまぬ」
独り言のように呟かれた言葉は、だが香月に向けられたものだったのだろう。
迷いを払った剣は、冴え。そこへ香月が手繰る符が、暮鬼を暮の方から引き離す。
「師にこの名を貰った時より、俺は妖かしを退治を生業とする者でありそれが『鋼牙』だ。他の何者でもない」
悔しげに呻く霞む鬼へと振り下ろされた刀は――鬼だけを切り裂いた。
妹である宵が白刃の下へ姉を庇うようにその身を晒したからである。
妹として宵が姉を守ろうとしたのか、妖しに操られ盾として利用されたかはわからない。意図が違っても行動として変わりは無いのだから。
殺して欲しいという願いは叶えられなくとも、依頼は果たされたのだから――生きた人自身がどうするかは結論を出すだろう。
ふわり指先へと舞い降りた1匹の蝶を見つめ、香月は小さく笑み零す。
暮鬼が討たれた事でいつのまにか女房の玉葉の姿も消えていた。
1人では逃れようもない傷のはずであったから何かの手引きで逃れたのかもしれないが、依頼は遂げたのだから構うまいと思う。
数日後。
ばったり出くわした酒家にて、しらりと笑み流し酒を干す香月の姿と、苦虫を噛み潰した鋼牙の姿が見られたのは別の話である。
●続く道、止まらぬ刻
虫の音と、剣を振るう音だけが響く初秋の庭。
晩夏かもしれない刻なれど、流れいく間に夏も往こう。
宿を営む一室の裏手の庭に在る気配は1つ。
そこへ報せを持って帰ってきたのは桃だった。
剣を振るい、術を鍛えていたのは鋼牙。なれば、師も近くにいるのであろうとそっと庭へ踏み入れれば、果たして師は其処に居た。
鍛錬を積む相棒の邪魔にならぬよう、ただただ静かに其処に在ったのだ。
桃の労苦を労い小さく手招く。その瞳が、つと細められた。何かを思い出すように。
「花は優雅で可憐だ。名は体を表すとは桃の様だが、時折外れる者もいる」
師の下に歩み寄った桃は、言葉の意味を図りかね小さく首を傾げた。
笑みを含んだ香月の声を聞きつけたか、型を倣っていた鋼牙は刀を構えるのを止め、無言で香月を睨みつけている。
視線で人を殺せるものなら殺しかねない剣呑な気を纏う鋼牙の様子を気にした風も無く、香月は小さく笑い。
ますます眉間の皺が深くなる鋼牙に、桃の疑問は深まるばかり。
「それで、どうだったね?」
「そうです。新しい依頼が来ましたよ」
香月に問われ、思い返したように懐を探る桃の様子を眺めていた鋼牙は、香月が円座の脇に抱えていた物に気付いた。
「それは酒か?」
「‥‥目敏いな、相変わらず」
寄越せといわんばかりに、刀を鞘に納め縁石に腰掛けた鋼牙に、躊躇う様子もなく酒瓶を放った。
ゆるりと弧を描き飛んだ瓶の中で、ちゃぷりと酒が声を上げる。
中空でしっかりと掴み取った瓶の栓をそのまま歯で引き抜き、鋼牙は喉を鳴らし酒を嚥下する。
酒と共にあった包みを、桃に手渡しながら誰とも無く香月は呟いた。
「俺の血肉は、妖の乳より作られている。その俺が妖退治とは笑止な話‥‥なれどそれは俺の選んだ事。故に後悔なぞ、ありはせぬよ」
包みの中は、素朴な甘味‥‥爽やかな香気を伴う饅頭。
小さな呟きは誰へ向けられたものではなかったが、風の音に似た女の笑い声が答えるように聞こえた気がした。
――せいぜい長生きして楽しませよ、死した後にはその魂喰らろうてやろうて
脳裏に響く言葉は、感傷か気の迷いか、それとも。
饅頭を桃へと差し出した香月が見上げた空は、秋告げる澄んだ薄青に染まっていた。