春の修学旅行ドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
姜飛葉
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
1万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
05/18〜05/22
|
●本文
等しく訪れる時の流れの中で、どのような時間を過ごしてきたのか‥‥それは、その人それぞれのもの。
けれど、誰しも通る時間‥‥青春時代。
どこにでもいる普通の高校生3人組。
彼らが過ごした一生に1度きりの高校生活の思い出――修学旅行。
●勝也の場合
「勝也もいい加減、素直になればいいのになぁ」
「そうやって祥司がからかうからだろう。そっとしておいてやればいいのに」
窘める真吾の言葉を聞いているのかいないのか。
祥司は自分の正当性を主張すべく、煽り立てた。
「だって、修学旅行っつったら、一大イベントだぜ? 勿体無い。冴子ちゃん、人気あるのよ? 後悔は後から悔いるから後悔っていうんだよ」
「‥‥祥司にしては、まともな言葉の引用だな。上手くいけばいいけど、そうでなければ気まずくなる。勝也の気持ちの方が俺にはわかるよ」
眼鏡のレンズを、シャツの袖で拭いながら、真吾が苦笑する。
眼鏡を掛け直した真吾は、窓の外に目を向ける。
穏やかな真吾の視線の先に、サッカーボールを一心に追う勝也の姿があった。
●祥司の場合
「そういえば、真吾くんこそ想い人はいないわけ? 全く耳にしないんだけども」
「‥‥俺にはそんな余裕は無いよ。来年には受験だしね」
さらりと返され、祥司は肩をすくめた。
その気配を察してか、真吾が本を読む手を止め顔をあげる。
「その間が気になるところだけども、まあ今日のところはこれ以上聞かないでおくさ」
「‥‥祥司こそ、もう少し落ち着いたらいいのに」
真吾の言葉に薮蛇とばかりに、祥司は顔をしかめた。
好きだといわれれば嬉しいし、付き合ってくれといわれれば、出来る事で返したいと思う。
それぞれに自分なりに真面目に付き合ったつもりだったのに、いつの間にか女の子は離れていく。
まあ、そのうち合う子も見つかるくらいに思っていた。
「今のフリーな身を楽しんで、修学旅行で楽しいことがあればいいねぇ」
祥司はのんびりのほほんと一人ごち、教室を後にするのだった。
●真吾の場合
祥司に問われたからか、ふと思い浮かんだ顔があった。
幼い頃、よく遊んだ女の子。女の子は、小学校の半ばに関西へ引っ越してしまった。
多分、好きなのだったと思う。一緒に過ごした時間は穏やかで心地よいものだった。
最も、随分昔の思い出だから、良いところだけ記憶に残っているだけなのかもしれないが。
「‥‥確か、京都の親戚の所に行ったんだったっけか」
高校の修学旅行先は、奈良京都方面。
一言で京都といっても広い。偶然再会などと、ドラマのような事もないだろう。
どこかで元気にしてるといいな‥‥。
過去を振り返るのはそこまでに、真吾は再び本をめくり始めた。
●
『同級生への想い』『転校した幼馴染との再会』『年上の女性への淡い恋心』
この3本が今回のドラマのテーマ。
各エピソードは、想いを伝える告白シーンと、彼ら3人の心の掘り下げ方が見せ所になるため、演技力に秀でた若手役者を求む。
●募集配役
勝也‥‥真っ直ぐな性質でサッカー部所属の運動熱心な少年。好きな同級生に素直になれない。
冴子‥‥サッカー部のマネージャー。サッカーが好きな面倒見の良い闊達な少女。
祥司‥‥惚れっぽい性格で、3人の中では1番世渡り上手。女の子との会話も上手い。
バスガイド‥‥修学旅行で勝也達のクラスのバスのガイドを担当。年若くまだガイドに慣れないていない様子。
真吾‥‥真面目で運動よりも学業寄り。穏やかで3人の纏め役。
舞妓‥‥真吾の幼馴染で、小学校の頃転校してしまった少女。
※その他の役は、シナリオに応じて求めるものとする。
●リプレイ本文
●CAST
勝也:日下部・彩(fa0117)
冴子:望逢(fa3565)
祥司:フェリシア・蕗紗(fa0413)
バスガイド:鶴舞千早(fa3158)
真吾:和山 繁人(fa2215)
舞妓:敷島ポーレット(fa3611)
担任・秋竹 忍:旭壮 梓伸(fa1284)
養護教諭(ナレーション):キャロル・栗栖(fa2468)
●Soccer boy
――触れられぬ想い、触れたい想い、隠しておきたい恋心‥‥けれど伝えたい恋心
――甘く切ない誰しも覚えのある感情、それゆえの葛藤。彼らはいかにして超えるのでございましょうか‥‥
勝也は一世一代の勝負に挑もうとしていた。
サッカーに情熱を傾ける高校生活の中で、あえて想いを打ち明ける‥‥告白をしようと思ったのは、悪友達から「いい機会だから告白しちまえ」と言われたからで。
付き合うとかではなく、勝つことを目指して日々練習を重ねるサッカー漬けの毎日が辛いだけでないのは、マネージャーとして一緒にサッカー漬けの日々を過ごしてくれる冴子がいてこそで‥‥日頃の感謝なんかも伝えられればとも思うのだが。
「冴子は好きだけど、女に告白なんて、どうすりゃいいのか判らねぇ! 面と向かったら何を言っていいか判らねぇし‥‥」
唐突に頭を抱え、身悶え始めた勝也に驚く周囲の人々。さり気無く、通行人は彼を避けて歩いていたりもする。
何のかんのと己の心に言い訳しつつも、結局のところ、旅行前の祥司のハッパが効いているのかもしれない。
どうしたものやら、未だにうじうじ考えながらの京都散策は、果たして本当に周囲を見ているのかいないのか。
(「頼むぜ神様。俺に祥司の10分の1でもいいから、あの口車の才を授けてくれ‥‥」)
「勝也、そんなに真剣に何の願掛けしてるんだ?」
余りに真剣な表情で仏像に向かっている勝也に、サッカー部の仲間が首を傾げていた。
そんな勝也の願いが通じたのかもしれない。
「勝也君?」
聞き慣れた声に勝也が振り向けば、そこにいたのは件の冴子だった。
絶景というべき京でも名高い清水の舞台で逢瀬が叶ったのだ。
「勝也君も清水に来てたんだね」
舞台から飛び降りる‥‥という例え話に用いられる清水の舞台で、何か思い悩んでいるような見慣れた背中に、つい自然と声をかけてしまった冴子の心中をしるよしもなく。
「ここは重要文化財が多いんだな」
「‥‥そうね、京都だものね」
偶然にも二人で会話をする形になったものの、話の脈絡はあるようなないような‥‥。
上手く会話の切り替えしができない勝也に、冴子は微苦笑を浮かべ助け舟を出してやるように話題作っては投げかける。
そう言えば、こうしてまともに会話をするということ自体、初めてかもしれないと思いながら。
最初は固い様子で会話に応じていたものの、話題がサッカーの事に及ぶと勝也の様子は途端に変わった。
けれど、将来の夢を聞かれ『プロになる事』と答えてるうちに、冴子の相手に対する心遣いのような物を勝也は感じた。
練習中も試合中も感じる気持ち。
「俺は冴子のさり気無い気遣いや優しい所が好きになったんだ」
「そう、勝也君は‥‥えっ?」
他愛も無い会話の中で、さらりと零された言葉。
勝也の言葉はあまりにも突然すぎて、冴子は会話の中でその意味を聞き逃してしまうところだった。
冴子は勝也のプレースタイルが好きだった。だから一部員としては尊敬の対象にあったけれど‥‥個人としての感情はなかったはず。
勝也が自分を想ってくれていたという事を初めて知って、冴子の頬が赤く染まる。
サッカーの話題となってから、途切れることなく続いていた会話がふっつりと切れる。
そこでようやく勝也は、ついするりと口から零れた言葉に気付く。
清水の舞台から飛び降りた人の気持ちが判ったとばかりに、答え恥ずかしいやら何やらで無言でパニック状態になる勝也を見て、冴子は慌てて首を横に振った。
「あのっ、違うの。決して嫌な訳ではなくて‥‥あの、嬉しいんだけど」
冴子の一言一句に面白いくらい勝也の表情が変化する。
フィールド上との余りの違いに思わずくすりと笑みが浮かぶ。
「好きと言う想いは、正直まだよく解らないけど‥‥前向きに受け入れたい‥‥」
「ほんとに!?」
冴子の答えを理解できず、ほんの一瞬の間があいた後‥‥試合でゴールを決めた時と同じガッツポーズが、自然に出た。
近付きたいけど恥ずかしくて手も握れない位に照れていた勝也。
お互いに夕陽をそのまま移したかのような真っ赤な顔をしていたのは、顔を合わせられなかった知られぬ事だったけれど。
そっぽを向きながらも、冴子の小さな手を包むようにそっと結ばれた手が、二人のこれからを物語るようだった。
●Recollections gentle
――故郷は遠くにありて思うもの‥‥手の届かぬ遠い場所に、手の届かぬ遠い過去に
――そして心の奥底に仕舞い込まれた想いは、届かぬゆえに鮮やかさを増すのでございましょうか‥‥
冴子に想いを告げると言っていた勝也が、真吾には眩しく見えた。
自分には無い情熱を持ちえる勝也。
他人を羨んでも仕方ないのだと割り切るしかないのだけれど。
清水の近く、地主神社付近を散策するように歩いていた真吾は、京の風物詩の一つでもある舞妓姿の少女を見かけた。日本文化は素直に綺麗だと思う。
真吾の視線に気付いたのか、舞妓の少女が顔を上げた。絡む視線‥‥少女の瞳が大きく見開かれる。
「‥‥‥‥真吾、くん?」
告げられた名は確かに自分のもの。
けれど目の前のドラマのような展開に、真吾は言葉が出なかった。
無いだろうと思っていた状況。つい先日思い返したばかりの存在‥‥有り得ぬ偶然に驚きを禁じえなかったが、それ以上に純粋にこの再開が、真吾は嬉しかった。
突然の再会に、幾分ぎこちなく始められた二人の会話。
舞妓修行を重ねている彼女が案内してくれたのは、京の名所や隠れ名所のような場所だった。
説明の上手な彼女の話に聞き入り、幾箇所か巡ればあっという間に時間は過ぎて。
気がつけば、自由行動時間も終わり間近になっていた。
「ごめん、そろそろ時間だ。会えて嬉しかった、散策に付き合ってくれてありがとう」
「気にせんといて。うち‥‥私も会えて嬉しかった」
ほろりと零れた関西なまりに、彼女は慌てて笑って言い直す。
「言い直す必要はないよ。そうだよね、君はもうこちらでの暮らしの方が長いんだから‥‥ありがとう。昔を懐かしいと思う君の気遣いだったのかな」
気にしないといってくれた真吾の言葉が嬉しくて、彼女は微笑んだ。
その微笑に、真吾の口から自然と出た言葉。
「まだ近くに住んでた頃、君のことが好きだった」
真吾の告白に、彼女は瞳を瞬かせた。
「昔の、子どもの思い出だ。良かったことだけ都合よく覚えてるのかもしれない。でも君は今も変わってない。俺が好きだった君のままだ。出来たら、このまま君を好きでいさせてくれないか」
訥々と真吾がつむぐ言葉を遮ることなく、彼女は静かに聞いていた。
昔と変わらない、真摯に耳を傾けてくれる彼女の姿勢。
そして、彼女はいつも自分の意見をもっていて。真っ直ぐな言葉に対しては、真っ直ぐなものを返してくれていた。
今の彼女はどうだろう‥‥真吾は、返事を待とうと口を閉ざした。
ややあって、彼女から真吾に返された言葉。それは‥‥
「実はね、‥‥偶然じゃないの」
彼女の告白に、今度は真吾は驚く番だった。
「昔の友達に聞いとったんよ、せやから、うちは真吾がこちらに修学旅行に来る事を知ってたの」
悪戯を告白するように、彼女はぺろりと舌を出し笑った。
その表情に、幼い頃の笑顔が重なる。
「うちも小さい頃から、真吾が好きやった。せやから、ほんまに嬉しい」
笑みを浮かべ、彼女が小首を傾ければ、撫子の花簪が、しゃらりと音を立てた。
「こちらの修学旅行は、真吾と逆なの。近いうちに、今度はうちがそっちに行くわ」
約束‥‥と差し出された小指が、懐かしくて真吾は瞳を細めた。
針千本‥‥本当に飲まなければいけないのかと、泣きべそをかいていたのは誰だったろう。
絡められた小指が、決まり通りの口上の後で解かれる――はずだった。
緩まぬ力に、彼女が小首を傾げる。
「俺からもまた必ず会いに来る。出来るだけ近いうちに」
そう息が触れるほど、顔を寄せ告げられた言葉に、舞妓化粧の白粉の下で彼女の顔が真っ赤に染まっているのが見えるようだった。
●Buffoonery
――袖擦り合うも他生の縁とは申しますが、実際に袖が触れ合うのは今生でございます
――触れ合った今生の縁は何処へと向かうのか、貴方はご存知でありましょうか‥‥
祥司達のクラスを受け持ったバスガイドは、鶴舞 千早と挨拶した若い女性だった。
「右手をご覧ください‥‥それが右手でございま〜す」
明るい笑顔で、お約束のギャグ。
が、お笑いブームの昨今、高校生達の反応は手厳しかった。
遠慮ないブーイングの嵐を断ち切るように、涼やかな少年の声が車内に通る。
「はいはい、担当のガイドさんが若くて美人さんで嬉しいからって、調子に乗って困らせなーい」
クラスの明るいムードメーカーで人気者である祥司のフォローに、車内の雰囲気は和やかなものとなる。
塗り替えられた雰囲気に、ほっとしたように千早が息を吐くと祥司が笑顔で手を振っていた。
その側で、ぽかんと小気味の良い音が響く。
「で、ガイドさんを助けたところは認めるが、むやみやたらとナンパはするなよ」
担任である秋竹のツッコミでおちが綺麗につき、千早は笑顔でガイドを再開することができたのだった。
夜の自由時間、勝也達とは離れ、特に何か目当ても無く一人で街を歩いていると祥司はトラブルに巻き込まれている女性を見つけた。
夜の歓楽街近く‥‥少々羽目をはずし過ぎた奴らが何をしてるんだか‥‥と、冷めた目で見たその先に囲まれていたのは、昼間の観光で担当になったバスガイドの千早だった。
迷ったのは一瞬だった。間に割って入ると、彼女をさらうように手を引き、追いかけてくる男たちを振り切るように、二人で逃げだしたのだった。
「門限過ぎちまったな、まあ‥‥真吾がうまくやっといてくれるか」
祥司の呟きに、改めて時計を確認した千早が小さく声をあげる。
柄の悪い男達をまくため走り回るうちに、どうやら揃って時間を逃してしまったらしい。
顔を見合わせ笑う。結局宿に戻れなかった二人は、近くの公園のベンチに並び座った。
「そういえばこれも『袖擦り合うも他生の縁』って奴だよね、千早ちゃん‥‥」
「そう言うのは服務規程に引っかかりますので」
年上をちゃん付けしないの、と窘め、千早はその先に続くであろう祥司の言葉をぴしゃりと封じる。
「今、仕事中じゃないでしょ?」
けれど、さらりと返され、千早は今度こそ言葉に詰まった。昼からの助け舟といい話が上手い。
線が細い印象を受けるが、決してなよなよしているわけではない。
不思議な魅力をもつ祥司の会話運びに惹きこまれ交わされるお互いのとり止めの無い話に、いつしか時間を忘れていたのだろう。
いつの間にか辺りは夜明けを迎えていた。
朝日を見上げ「お別れね」と笑う千早に、祥司は「‥‥いつか」と答えた。
今はまだ、真剣に夢と向き合い生きている千早を追う資格を持ち得ない自分を理解していた。
「いつか」としか言えない自分が、少し、切ない。
「‥‥さあ、今日で修学旅行も終わる日でしょ。しっかり楽しまなきゃ」
先ほどの笑顔が幾分寂しげに見えたのは、そうであって欲しいという自分の願望だったのだろうか。
祥司が立ち上がったところを、千早は埃を払うために軽く叩いてやった。
さらりとした別れが惜しいのは、自分がまだ子供だからだろうか。
もう大丈夫だから‥‥と、半ば見送られるように、祥司は千早とわかれた。
歩み進めるうち、無造作に上着のポケットに手を入れた祥司の指先に触れたものがあった。
確かめるように引き抜けば、それは1枚の紙片。
それがいつ託されたのか思い当たった祥司の顔に笑みが浮かぶ。
それは、千早の性格をそのまま表したような、伸びやかな字で綴られたメッセージカードだった。
彼女からのメッセージを受け取り、小さく笑った。
「いつか‥‥を、いつかのままにさせないようにしないとな」
昇る朝日は、そのまま彼の先行きを照らす光になるかのように、温かく祥司の身を包んでいた。
今日もよく‥‥晴れそうだ。
「秋竹先生‥‥何か思い入れでも?」
昔を懐かしむような、優しい目で生徒達を見つめる秋竹の眼差しに、栗栖は小さく訊ねた。
「どの生徒を受け持っている時でも思うんですが、こいつらが同じ時間を共有するのは長い人生の中でほんのちょっとなんですよ。いつか別れそれぞれの道を歩き出す。栗栖先生も覚えがあるでしょう?」
「そうですね、今しかない時間を、彼らには大切に送って欲しいと思います」
温かな眼差しに見守られ、学生という青春時代を彼らは彼らなりに送る。
これを機に広がる事もあるだろう‥‥少年たちの青春に幸多かれ、と。