陰陽―要崩れ、鬼女笑うアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姜飛葉
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/01〜06/05

●本文

 千年の栄華を誇った平安の都。
 その長き世を支えたのは、都そのもの。
 永遠を見据え、人の手により作り上げられた磐石の都は、けれど、長く都をささえた護りの要たる『門』が綻び始めたことにより都は乱れ。
 都の外と変わらぬほどの‥‥終焉すら見えそうな末世が広がり始めていた。


●予兆
 どの世にも、始まりがあるように終わりはあった。
 だが、その世で生きる人々の目には、はっきりとした終焉など見えることもなく。
 天秤の傾きが、栄華に向うか、破滅に向うか‥‥大多数の者にとっては、どうでも良い事なのかもしれない。
 何より大切なのは、日々を生き抜くことなのだから。


●事の発露
 都の外では大飢饉が起こっていた。
 気付けば、そこここに腐臭が漂い。
 またその腐臭の元は、獣や家畜のみならず‥‥人の死体である事も珍しくなかった。
 天の乱れは、今上の徳の無さからくるものか。
 御世を憎み呪う民の声は尽きる事無く。
 またそれ以上に、嘆きの声が周囲に満ち満ちているのだった。

 やせ衰えた体を引きずるように、男はただただ歩いていた。
 家族はいない。男の年老いた両親は、とうの昔に死んでいた。
 流行り病か飢餓でかは覚えていない。
 男自身も、今となっては飢え渇き、黄泉路を辿るは時間の問題のように思えた。
 それでもなお、男が歩くのは、何か理由がってのことではなく。
 早く終わりがみたいのか、それとも未だ生を諦めきれていないのか‥‥男自身もわからなかった。

 やがて男がたどり着いたのは、朽ち掛けた門だった。
 かつて鮮やかな朱を誇っていたであろうそれは、今では見る影もなく。
 それが何の門であるかなど、男は知らなかったしどうでも良かった。

 ここで死ぬのだろうか

 男が門を背に、ずるずると座り込んだ時のことだった。
 男の鼻腔を煮炊きする食べ物の匂いがくすぐる。
 力の入らぬ身を叱咤し、男が匂いの元へと辿り進めば‥‥そこは、門の内上。
 門は、櫓の役目も果たしていたのだろうか?

 そこには、老女が一人座っていた。
 老女の前には、赤い炎があり。炎の上に、煮え立った黒く光る鍋があった。
 匂いの元はその鍋だったのだ。
 食べ物を目にする事など、幾日ぶりか。
 立ち尽くす男の視線に気付いたのか、老婆がゆっくり顔を上げた。
 白髪の奥から覗く瞳がやけに印象深い。
 幾日もろくな物を食べていない。
 美味そうな食べ物の匂いが、胃の腑を刺激する。
 ごくり‥‥。唾を嚥下する音が、やけに大きく辺りに響いた。
「‥‥ほ、ほ、ほ。この婆に遠慮せず、食えばよかろ?」
 その様子に、老婆は手にあった椀に鍋の中身をとると、男へと惜しむ様子も無く差し出す。
 男は、老婆に差し出された椀を素直に受け取った。
 椀を口元へそろそろと運んだ男は、それでも最後の理性でか、老婆に問うた。
 『この中身は何なのだ?』と。
 辺りにの木の根は掘りつくされ、草もなければ、獣もいない。
 田畑などありえぬこの場所で。
 あるのは‥‥そう思い巡らせた男の視線の先で、老婆が笑っていた。


●開始
「どこもかしこも死体の山だな」
 そこここで昇る細い煙を見遣り、男は鼻を鳴らした。
「だからこそ、我等のようなはぐれ者も生きていける‥‥」
 ころころと手の中で、丸い石のような物を幾つも玩びながら長大な野太刀を軽々と背負う男へ言葉を返したのは、線の細い男だった。
「師匠ー! 師匠ー!! 金持ちの貴族からの仕事もらえましたよー!!」
「おい‥‥いつまで、あの馬鹿連れ歩くんだ?」
 にこやかに手を振り、かけてくる少年の姿に、野武士はあからさまに顔をしかめた。
 金銭に関わる仕事の有無を、誰が聞きつけてもおかしくない往来で、こうも大声で触れ回るなど正気の沙汰ではないといいたげに。
 痩身の男はその問いには答えず、走り寄った少年を労いその手にあった書簡を開いた。
 一通り流し見、僅かに眉根を寄せる。
「鬼退治‥‥か」
「文字通り、鬼婆が相手なんざあんまり面白くも無い洒落だな」
 横合いから覗き込んでいた野武士が舌打を零すが、愚痴はさらりと聞き流し書簡を懐へとしまい込む。
「飯の種だ、そういうな。‥‥行こうか」
「はいっ!」「へいへい‥‥」
 3人3様の足取りで、彼らは門へ向い歩み出したのだった。


●募集配役
・野武士
・術師
・術師の弟子

・老女

※その他の役は、シナリオに応じて求めるものとする。

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa0959 シルクリア(20歳・♀・猫)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa2764 桐生董也(35歳・♂・蛇)
 fa3179 和泉 姫那(23歳・♀・猫)
 fa3567 風祭 美城夜(27歳・♂・蝙蝠)
 fa3691 姫月乃・瑞羽(16歳・♀・リス)

●リプレイ本文

●CAST
 鋼牙:桐生董也(fa2764)
 香月:風祭 美城夜(fa3567)

 桃:美森翡翠(fa1521)

 菫姫:姫月乃・瑞羽(fa3691)
 誠:玖條 響(fa1276)
 彩:日下部・彩(fa0117)

 綾乃:和泉 姫那(fa3179)

 鬼女:シルクリア(fa0959)


●集面
 末世に魔を封印する四方の門ありき。
 だがその封印は破られつつあった。
 凶猛たる鬼妖しが潜むことを知らず跋扈し始め、力なき民達の生活をも脅かし始めていた。


「この辺り一帯、思っていたより酷い‥‥」
「確かに腐臭が凄いが」
 前祝に景気良く。依頼は成功して当たり前の態度で、安くは無い品を――酒を頼まなかったのはせめてもの自身の中でのけじめなのだろうか、無造作に頼む鋼牙に「そうではない」と香月は微苦笑を浮かべた。
 だが、彼らの卓へ歩み寄る少年の姿を目端に捉え、香月は口を閉ざした。
 人を探す様子もなく真っ直ぐに自分達の方へ来る少年に、鋼牙は香月と桃を庇うように身をずらし、睨む様に見据える。
 少年の口から放たれたのはぞんざいな言葉だった。
「あんた達が主の依頼を受けたって人? なんか頼りないねぇ‥‥本当に大丈夫なのかい?」
 不躾な言葉を放つ少年・誠の姿に、鋼牙が不機嫌そうに眉を顰めた。
 彼の心中は聞かずとも、全身で放つ雰囲気が雄弁に語っていた――一体こいつはなんなんだ? と。
「依頼主の貴族のお屋敷で見かけた方ですね。何かありましたか?」
 依頼を請負ってきた桃が無言の問いに答え、そして誠へと視線を移し小さく首を傾げた。
「いや、主の命に変わりはない‥‥情報の追加だ。ここ最近異常が起きてると『噂』の依頼場所だ。帰ってきたヤツはいないから信憑性はないけどな」
「‥‥意味ねぇじゃねーか」
 しれっと付け加えられた言葉に、鋼牙が眉尻を上げる。無駄に高い薄様の紙に記された地図を桃が受け取った。
「あら、合っているわよ。そこにいるのは恐ろしい鬼婆ね」
 唐突に割り込まれた声に今度こそ驚いた桃の手の中で、薄様の紙が悲鳴を上げた。
 悲鳴の結果に泣きそうになっている桃の頭を軽く撫でやる香月は、けれど。
「覗き見とは趣味の悪い‥‥飯屋の女将にしては詳しいのだね」
 最も、悪意や殺気の類があれば、これほどの接近を無造作に許す鋼牙と香月ではないのだが。
 言外に立場に不似合いな知識を指摘された飯屋の女は、悪びれた様子も無く「ごめんなさいね」と謝り、綾乃と名乗った。
「人ではない存在が徘徊してるの、異常なくらいにね。空気自体がおかしいわ。私も術師のはしくれだから何とかしようと試みたのだけれど‥‥歯が立たなかった」
「何でそれが飯屋で働いてんだよ」
「生活のために決まってるでしょ?」
 誰が運んでこようと飯は飯。手を伸ばす鋼牙のツッコミをさらりとかわし、にっこりと綾乃は微笑んだ。
「一つ分かった事は、その門がこの辺りの魔を封印していたらしいんだけど封印が解けようとしてるみたいね」
「貴重な情報を同業者にあっさりと話すのだな」
「貴方達、腕利きなんでしょ? 情報料代わりに同行させて頂戴」
 勉強中なのよと付け加え、さらりと望みを口にし笑みを向ける綾乃に、鋼牙と桃がお互い珍妙な表情で顔を見合わせるのだった。


●機先
「「姫様! 大丈夫ですか!!」」
 双子の目付け役達に左右から叫ばれ、姫と呼ばれた菫は思わず仰け反った。
 香月らの依頼人の妹姫たる菫は、桃と兄の話を御簾内より(こっそり)聞き、件の門がみてみたい‥‥と屋敷をこっそり出てきていたのだが‥‥所詮は、貴族の姫の行い。日頃影に日向に付き従う幼馴染の従者達の目をごまかすことは出来なかったのだ。
 件の門を前にした香月らに出会えた事こそが、菫の豪運だったのかもしれない。
 鋼牙になぜ都がこうも乱れているのか訊ねたものの、答えを聞く前に誠と彩に阻まれた菫は、市女笠の薄布越しにも分るほどふくれていた。
 目付けの二人‥‥少年が先日の情報屋と同一とみてとるや、「姫」が誰を指すのか納得したらしい香月は、口を挟まず門を見上げている。
 鋼牙の方はといえば、元よりどうでもよさそうだった。
 助け手が入らない菫に追い討ち‥‥もとい、お説教の追従(※余り変わらない)を掛けたのは誠だった。
「なんでこう毎回(略)毎回世話をかけさせるのですか」
「姫は昔からやんちゃばかりでしたが、やんちゃすぎるにも程がありますっ!」
 更に彩が重ねるように言うもののその時には菫は既に桃の方へと向き直っている。
「私の名前? 神代に鬼を祓った植物の名だそうです。師匠が付けてくれたんです」
「それはすばらしい。そなたの師とやらは良い趣味をしているのですね」
 にこやかに談笑し始めていた菫の両脇を双子はあわててかっさらい、再度忠告を促すものの、菫はそっぽむいてしまう。
「このような面白い事を私に黙っているなんて、お兄様も人が悪いのです。自らの目で確かめなければ気がすみませんっ」
「いいえ、ここは危険です。帰りますよ」
「‥‥あら、もう遅いみたい」
 さらりと綾乃が符で示す先には、腐臭纏わせた死人や醜い小鬼達が門を囲むように群れなしていた。
「これはこれは‥‥随分客が多いようだね」
 白い老婆は、門の前に居並ぶ面々を前に笑った。
 これほど壮健な人が幾人も並ぶ様を見るのは久しぶりだと更に笑う。
 桃と綾乃‥‥そして香月の姿に目を留めると、笑いを収め色あせた門を振り仰いだ。鬼達などまるで目に入らぬように。
「ようこそ、ようこそ‥‥ここは奈落‥‥落ちては帰れぬ底の果て。妖しの世へと続く扉‥‥くぐるかぇ?」
 手招くように老婆が手を動かせば、いつしか骨の如きその手は、鋭く尖った異形のそれとなる。
 小鬼や餓鬼が耳障りな笑い声を上げ、菫は思わず耳を塞いだ。
 だが、菫が顔を背けたその隣で、鋼牙が不敵に笑い、野太刀を鞘より抜き放つ。
「折角のお招きだ、行こうか」
 相棒の相変わらずの様子に、香月も小さく笑い向き直る。
「桃は依頼人の妹御に害無きよう‥‥」
「はいっ」
 語る間に待ちきれず飛び掛るように跳ねて来た小鬼を難なく指先一つで退ける頼もしい師匠の言葉。それに桃は大きく頷くと用意していた符を構える。
 そんな人間達を愉快げに、老婆であった鬼女は見据えていた。


●鬼戦
「こ、これが本物の鬼なのですか? こ‥‥怖い‥‥きゃぁぁっ!?」
 異様な程膨らんだ腹を抱えながらも、思いがけない俊敏さでやせ衰え筋張った手を伸ばす餓鬼の姿は、深窓の姫君には衝撃すぎるものだったろう。
 菫の高い悲鳴に、餓鬼との間に割って入った誠が刀を振るう。
「ちっ、こんなに餓鬼が跋扈しているなんて‥‥取り合えず、ここはお守り申し上げます。小言は邸に戻ってから言わせていただきますので。彩、姫は頼んだ」
 舌打ちを零しつつも刀を振るう誠がなぜ鬼やその他そんなに知ってるのが疑問だったが、ツッコミは心中に留め頷いた彩も短刀を鞘より引き抜き菫を背に庇う。
 裕福な貴族に仕える誠が持つ刀が鈍ということは無いだろう。
 だが、人世の向こう側にいる相手にその切っ先は通じぬのか、薙いでも払っても餓鬼達は、二度三度と起き上がっては誠に追いすがる。
 数の多さに舌打ちを重ねた誠の隣りに、符を手繰り追いすがった桃の姿があった。

 ――パァン!

 餓鬼の呻き声が響き渡る空間に、乾いた高い音が響く。
 桃の打ち手が高らかに鳴り、首に掛かる勾玉を下げ持つと誠の刀へと触れた。
「この声は我が声にあらず。この声は神の声‥‥」
 詠唱を結ぶ隣で、新たに手を伸ばす餓鬼を綾乃の炎が焼き、香月の術が阻む。
「この息は神の御息」
 鋼牙が、しゃれこうべを面とし鋭いその爪手を振りかざす鬼婆をはじき返す間に、ふっと桃がその息を刀に吹けば。
「邪を祓う助力とならん!」
 宣言と共に誠の刀を燐光が包むのだった。
 綾乃が符を吹雪かせる様子を横目で捉え、香月は小さく笑った。この分ならば、餓鬼の相手は十分だろう。
 誠といい綾乃といい、香月にとって嬉しい誤算だった。
 この場において信を置くには十分だろう二人をみて、香月は鬼女を討つべく身を翻すと朗々とした声で高らかに文言を唱え印を結ぶ。
 鋼牙も同じ事を思ったのだろう‥‥桃の術により、一時的にとはいえ退魔の刀を手にした誠は――主に菫に降りかかる小鬼達ではあったが、確実にそれらを捉え、斬り伏せていく。今度こそ、鬼は甦る事無く白刃の元に散り往く。
「護衛を名乗るだけの事はある‥‥鬼婆相手に集中できそう、だっ!」
 桃を狙う餓鬼目掛け、鋼牙は刺し貫いた小鬼の身体を投げつけた。
 野太刀で断ち割り、薙ぎ払う剛の鋼牙に対し、香月は唇に笑みを浮かべつつ鮮やかに術を繰り出す対比を見せる。
 そこに絶妙な助け手を伸ばす桃の姿は流石の一言だった。
 鬼婆の恐ろしげな声音の元、餓鬼に囲まれた菫は、屋敷の奥で暮らしていたこれまでの人生で見たことのない光景。
 幼い頃より共に育った幼馴染の誠がこんなに強い事もしらなかった。けれど、何より信頼する彩の背が、温かく心強かった。
 袖を握る手に気付くと、彩は微笑を浮かべた。
 誠もいて、若の認めた術士がいて、何を恐れることがあろうか。
 菫姫は必ず守ると刀を振るう誠の先で戦う鋼牙と香月の姿に、綾乃は自身の眼力の正しさを知る。
「鋼牙‥‥!」
「おう!」
 香月がその名を呼ぶやいなや、力の増した長大な野太刀をその重量を苦にする様子も無く、鋼牙は振り下ろした。
 核と思しき塊が、断ち切られるように割かれると、辺りを眩い光と幾重にも絡みつく呻き声が彼らを通り過ぎる。
 不意に彼らを襲った真昼の太陽を思わせる輝きに、咄嗟に菫を彩が庇った。
 彩により視界が塞がれる直前、菫の瞳に映ったのは、病み疲れた老女でもなければ、怨み辛みに陰鬱な輝きを放つ鬼女でもない‥‥艶やかな黒髪も美しい儚げな女の微笑みだった。


●還天
 鬼女が倒れると同時に、餓鬼達の姿は崩れ落ちた。
 そして門を包み込んでいた陰鬱な空気も消え去り‥‥周辺は、静寂に包まれていた。
「もう大丈夫ですよ、菫」
 彩は、安心させるように菫を抱きしめ背を撫でてやった。
 その隣りでは、誠が刃を確かめ鞘にしまう。
 先ほどまでの鬼に満たされた光景が嘘のような情景に菫はぽつりと呟いた。
「‥‥笑っていました。あの女性が、あのような‥‥鬼になったのですか?」
「おそらく、最後に見えた女性の姿が、本来の姿‥‥彼らのおかげで鬼としての業から解放されたのでしょう。誰でも鬼になりえるのですよ」
 生きていくのが大変なこの世は、菫が知らぬ労苦はそれこそ限りない。
 どんな怨み辛みが折り重なり合って『彼女』が、鬼になったかは誠には知りえないことだった。
「誠が、なんでそんな色々知っているのかはおいておきますが‥‥」
 ずびす、と短刀の鞘で片割れを小突きつつ。
 彩達は鋼牙達に一礼し、菫と共に門前から辞した。
 その背を見送りながら、ぽつりと桃は師に訊ねた。
「都は魔を封じる構造になってると教わりましたが、何故このように鬼が跳梁跋扈しているのでしょうか?」
「‥‥都は病んでいる。人々の負の想念が澱の様に重なり、それが故、要であろう筈の門すら、その存在が危うくなっているのだよ。そう、今は、ほんの‥‥予兆さ」
 餓鬼や死体を焼き清める炎の上がる様を見つめながら、その問いに答えた香月の横顔からは何を思っているのか窺えなかった。
「そうね、まだこれは序の口に過ぎないわ。人の残酷さがこのような鬼婆を生み出したのよ‥‥これから更にこの世は乱れるでしょう」
 それに頷く綾乃の表情は固い。
「ったく、とりあえず依頼は片付いたんだ。雁首並べて依頼がしくじったみたいなシケた面してんじゃねぇよ。飲むぞっ! 戦う覚悟は結構だが、飯屋はやってもらわなきゃ困んだよ」
 野太刀を肩に担ぎ、空いた手で労うように桃の頭を撫でやる。けれど、師のそれよりは乱暴な扱いに、桃が小さく抗議の声をあげ、乱れた髪を直すさまに、香月は小さく笑うのだった。