花暦〜bouquet to you〜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姜飛葉
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/15〜06/19

●本文

「‥‥というわけで、だ」
 書類の束を、打ち合わせ卓の上に放り投げ、製作部長は単刀直入に切り出した。
「脚本を募集する。ああ、脚本といってもそんながちがちなモンじゃないな。花に対し、どんなドラマを撮るのか‥‥舞台設定や出演人物、簡単なあらすじ程度でいい」
 脚本の2文字に、スタッフたちの間にざわめきが流れ、その反応に製作部長は、困ったような笑みを浮かべた。
 そして、ひらりと手を軽く振り、硬く捉えることは無いんだと笑った。
「応募者の経歴は問わない。本職が書こうと素人が書こうと、ネタが面白ければいいんだからな。集まった物は、スポンサーに提出する。そこでスポンサーの目に留まればドラマ化の流れになるな。まあ多少話がいじられたりもするかもしれんが、そこで腹を立てるようなお偉い奴のホンはいらん。そもそも、俺が見て詰まらんと思えば提出以前になるわけだが」
 よれた煙草をくわえたまま、彼は改めて『花暦』について‥‥そのドラマの成り立ちを話し始めた。
「これは皆承知のことだが、改めて‥‥だな。『花暦』はその名の通り花を題材にしている‥‥‥‥それは、スポンサーが花卉連盟の1つだからだ。題材に使う花の種類は任せるが、なじみのない花は避けた方がいいかもな。入手困難種を扱われてもスポンサーは面白くないだろ?」
 配布用の資料書類は、幾らばらまいても構わないから、しっかり読んでおくようにとスタッフに言い置くと、『禁煙』と書かれた紙が張られたミーティングルームの壁面を恨めしげに見上げるのだった。


【募集内容】
●『花』がモチーフになるのであれば、現代劇でも時代劇でもジャンルは問わない。
●『花』の種類はフリーとするが、可能ならば秋以降に開花時期がくるものが好ましい。

■脚本、物語を募集する。有体にいえばドラマのネタ。
 あらすじ程度、200〜400字内に概略を詰めてくること。媒体は、データ・紙問わず。
■応募者の経歴は問わない。
 応募された時点で、提出された脚本に手が加わる可能性がある事を了承したものとする。
 応募内容は、『花暦番組制作側』にその使用権利が有ることとする。
■なお、応募された脚本が採用されれば、ドラマ化される可能性がある。

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa0201 藤川 静十郎(20歳・♂・一角獣)
 fa0782 橘俊志(24歳・♂・亀)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa2021 巻 長治(30歳・♂・トカゲ)
 fa3196 雪野 孝(48歳・♂・猿)
 fa3366 月 美鈴(28歳・♀・蝙蝠)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●花束を貴方へ
「シナリオは、皆個人での応募。‥‥まあ告知範囲と募集期間の短さを考えればこれだけ集まっただけで御の字か」
 紫煙が満ちた部屋の中、製作部長は部下が持ってきた脚本の束を眺めていた。
 それらは、几帳面な字で原稿用紙に書かれた直筆のものであったり、データ出力されたものであったりと、今でこそ紙の形態をとりつつも、元の媒体は様々だった。
 そしてその脚本群もまた、様々な花々が束ねられたものだった。


●感想
「今回ご応募頂きました皆さんの作品をコピーしましたので、部長が来るまでの間、よろしければ回し読みしてみて参考になさって下さい」
 『花暦』スタッフADの一人なのだろう、青年の一人がクリップ止めされた紙束を幾つか、長テーブルの上に置く。
「もう少しで来ると思いますので、結果までもう少しお待ちください」
 愛想笑いにも似た笑みを浮かべた青年は居並ぶ面々にそう告げると、小さく頭を下げ出て行った。

「あ、あんまりじっくり見ないで下さいーっ」
 写しは人数分には足りず、藤川 静十郎(fa0201)はADの青年の言葉通り半ば回し読みに近い形で脚本を読んでいた手を止めた。
 彼が読んでいたのは、日下部・彩(fa0117)の脚本だった。書き手から思わぬストップが掛かり、静十郎は微苦笑を浮かべる。
「折角ADさんが置いていって下さったものですし。彩さんらしい温かい話だと思うのですが」
「脚本って初めてなんです。悩んでいても仕方がないので、私は私らしいお話をって思ったですけど‥‥本当にそう思います?」
 こうした形で人目に付く事になろうとは思っていなかったのだろう、恥ずかしさなのか照れなのか‥‥彩は両手で赤らむ頬を押さえた。
「脚本としての作りは、人により大分変わりますからね。何が正しくて何が間違っているとは言えませんが‥‥スポンサーの求めに応えていられるのであれば良いのでは?」
 脚本を書く事が生業である巻 長治(fa2021)は、そうアドバイスすると薄く笑って珈琲の入ったカップを傾ける。
 プロの助言を前に『単に名前が面白いから選んでみた』とは言えず、彩は話をそらす話題にと読み始めた脚本の題材に眼を瞠った。
「弥栄様の題材は『すすき』なんですね」
「すすき、と言うと少し花というイメージから離れるかもしれませんが、秋の七草ですし、華道でも使われますからありだと思いますが‥‥」
 凛とした居住まいで座す弥栄三十朗(fa1323)は、羽織袴姿が印象深い。
 彼が題材に選んだすすきは、確かに『花』といわれイメージするには中々難しいかもしれない。
 その迷いを察したのだろう、穏やかな笑みで言葉を付け加える。
「それにすすきの花言葉は『心が通じる』ですからね。物語を代表する花でおかしくはないと思います」
「秋の花にも色々あるのね、面白いわ。中秋の名月の頃‥‥月が鍵なのね」
 紅の重ねた紫紺の小紋の姿の女性――『月』を芸名にもつ月 美鈴(fa3366)も丁度読んでいたところなのだろう。話に頷き笑う。
「そうですね、秋も存外花は多い‥‥」
 本音を言えば、花と言われ三十朗の脳裏に真っ先に浮かんだ花は、すすきとは異なるものだった。
 幾つも話を考え、既存の物語郡と合わせた上で、『すすき』を選んだのだ。
「多くは、プロットに近い形で話に膨らみ‥‥幅が出そうな案をもってきていますが、『紫苑』は、最初から最後まできっちりシナリオが組まれていますね」
 もう一通り脚本に目を通し終えたのだろう‥‥長治は伊達眼鏡のブリッジの位置を直すと、その作者である静十郎を見る。
 彼が題材に選んだ『紫苑』は、華やかな花ではないものの、人の心に響く逸話に事欠かない花だった。
 花言葉は「君を忘れない」。今昔物語にも登場する歴史の古い花‥‥その紫苑に切なくも穏やかな物語を‥‥と考えた静十郎。
「物語が決まっていても、演じ手によって印象や作りは大きく変わるものですから」
「‥‥なるほど。歌舞伎役者らしい答えですね」
 遥か昔、古い時代からそれこそ数えられぬほど様々な役者により演じ伝えられてきた歌舞伎芸は、同じ物語といえども役者や演出によって異なる。
 話の幅は演じ手次第‥‥ドラマの俳優と舞台役者に求められるものは異なるゆえに、どこまで原案たる静十郎の意図を汲めるかは難しいところかもしれない。
 それが舞台演出も手がける三十朗に気になった点だったが、それこそドラマにおいてはプロデューサーや演出効果の腕のふるいどころかと考えを改める。
「いやーー、なかなか難しいもんやなぁ。花もほんま色々あるしな‥‥正直、僕は採用、不採用よりも、他の人の話もどんなんか、楽しみで総評に来たんやけど‥‥パトリシアさんは、まだ若いのに渋い内容できましたね」
「竜胆の花言葉と花の名前の由来から良薬口に苦しというのをイメージしてみました」
 雪野 孝(fa3196)の感嘆の声に、パトリシア(fa3800)は、はにかんだ笑みを見せる。
 今回の脚本の応募者の中では最年少。そんな彼女が選んだ題材は『竜胆』
 その名の由来が根を噛むと苦く、まるで竜の胆のようだというのでこの名がついたといわれ、その根は漢方薬として使われてる。
 花言葉の1つ「あなたの悲しみに寄り添う」とその名を訓戒とする話は、確かに渋いと評されるものかもしれない。

 『花』を題材にせよ

 テーマは一つ。選ぶべきものは多々。
 その中で集まった脚本。
 己の仕上げた作品に自信が無いわけではなかったが‥‥思い入れや選び方で、大きく変わるシナリオ向きが面白いと長治は思う。
 あるいは、ここに上がった花々を自分が脚本に選んだのならばどうなったのか。
 ここでの立場は寸評をする側ではない。長治は、ややもすれば毒舌ともいわれる言葉を胸内に留め置いた。


●総評
「ほいほい、おまっとさん。お、なんだ‥‥皆余裕そうだな。和気藹々談笑中とは」
 ノックも無く、唐突に扉が開かれた。掛けられた声に驚き口を閉ざす幾人か。
 火の着いていない煙草をくわえたままの部長の手には、彼が提出した原稿用紙の原紙や、他の者が提出したFDやCD等の紙以外の媒体もあった。
「結果だけさくっと言った方がいいのかもしれんが、まあ一応顔が揃っているところで、総評といこうか」
 7人の視線が集中する中、特に気にする様子もなく無造作にパイプ椅子に座ると、製作部長はそう切り出した。
 『結果』という言葉に、誰かの喉がなる音がやけに大きく響く。
「今回の応募脚本数は全部で7本。花が絡む時点で仕方ないのかもしれんが、内容的には恋愛モノが多かったな。恋愛というジャンルを外してるのは、『百日紅』と『金木犀』を題材とした2本だが、金木犀の話はこのままではちょっと脚本に使うには難しいかもしれん。まあ、他のものも含めて個別の評価は後でにしよう」
 部長の言葉に、彩と美鈴がそれぞれ苦笑を浮かべた。
「現時点の状態で、直ぐにでも撮影にとりかかれそうなドラマにし易い脚本は、『紫苑』と『山茶花』の2本だろう」
 花の名と共に、部長は執筆者である二人を見遣る。
 さらりと告げられた結果に、静十郎が静かに目礼し、孝が頭を下げた。
「セットや道具類の用意が大変そうだが、そこをクリアできれば‥‥まあスポンサーの出資同意が得られればだが、『百日紅』も面白そうだな。以上の3本をスポンサーに提出する。番組として制作されるかどうかは、スポンサー次第になるがな」
 続けられた言葉に驚き、拍手を送ろうとした彩は瞳をしばたかせた。
「おめでとう、彩さん。良かったわね」
 同じドラマで共演した縁ある美鈴が驚きにきょとんとしたその肩を叩き、祝いの言葉を贈ると、室内に控えめながら拍手が起こる。
 上がる総評に長治はいつもの毒舌はあえて挟まず拍手にあわせ手を叩いた。
 己の作品の名が挙がらずとも、互いに労をねぎらい、称えあえるものが集まった事こそ重畳なのかもしれない。
 けれど、そこで終わらぬ部長の言葉に、扇で拍手に応じていた三十朗の眉があがる。
「でだ。脚本案を提出してもらうにあたって、条件として『提出された脚本に手が加わる可能性がある事を了承したものとする』としていたが、残りの5本に関しても単発ドラマ向きの構成に若干手直してスポンサーに提出する事にした。応募者の名は『原案』という形になるな」
 折角の話を、埋もれさすのは勿体無いからというのが理由らしい。
 最もだと思う。部長の評価とて1個人の言。奇しくも静十郎が言ったように演出次第で如何様にもなる花を蕾のまま散らすこともあるまいと、三十朗は頷いた。
「美鈴様のもですよ! おめでとうございます。折角のたくさんのお話、勿体無いですよね!!」
「ありがとう。‥‥話が続いてくれればいいわね、本当に」
 心から祝う彩の顔を見て、美鈴は小さく笑った。
 そして、笑みを浮かべる応募者らがいる一方‥‥結果を受けて小さく息をついたパトリシアに、部長が眉尻をあげる。
「不満か? 最年少」
 乱暴な言葉にパトリシアは幾分困った笑みを浮かべた。
「‥‥拙い部分もありましたし、仕方ないでしょうか」
「数字をとって食っていかにゃならん立場の人間としては、大目にはみられんがな」
 脚本を渡した際の挨拶を覚えていたのだろう――そう返されてしまって、なるほどと納得し、今度こそ苦笑を浮かべた。
 まだ14歳という事を考えれば彼女の可能性はこれからだろう。
「今回は、ありがとうございました」
 そんな風に考えながらパトリシアと話していた部長に謝辞を述べたのは孝である。
「50目前のオッチャンが花言葉調べたり‥‥でも、凄く楽しかったです」
「年の話は俺もキツイなぁ‥‥まあ、いい経験は何よりだろ。花に詳しいともてるぜ? あんたは無くてももてそうだけどな」
 結果を事務所に報告するのだと、退室の挨拶と共に丁寧に頭を下げる彼に対し、部長は軽く握った拳でその肩を叩いた。
「ま、どんなに早くても花の季節まではお預けだがな。ただ、『山茶花』のドラマ化が決まったとしても、おたくのトコの連中を使うかはまた別の話だからな。仕事の話は別途で頼むぜ?」
 新人でも力量のある奴や、驕らず役に徹することが出来る役者ならいつでも歓迎するんだがな、と贅沢な事を孝に吹っかけつつ、部長は笑うのだった。


●花暦製作部長による各脚本案の評価
『紫苑』 藤川 静十郎
 物語の王道というか、基本の話作り。
 でかい勝負にはならんが、大きくはずれる事もない‥‥昨今のブームを考えれば、主婦層に受けそうな話。がっちり筋書きが組まれてい分、話の自由度は低いが、ドラマとして放送時間が限られていることを考えられたよくできたホン。

『山茶花』 雪野 孝
 良い香りをもつ花をタイトルに持ってきている部分も話とリンクしていて良い。
 物語のキーである香水をさざんかの香りにひっかけても良いかもしれないが、山茶花の香りってなメジャーじゃないから、単に香水にしたのか。
 定番の話かもしれないが、時間構成に無理がなく、調整無しですすめそうな点を評価。

『百日紅』 日下部・彩
 面白い。今の契約の放送時間帯からすると、数字を得るのは難しいかもしれないが着想は良いと思われる。今までの花暦に無い形という点も発展性が見込め、新しい放送枠の開拓が得られるかもしれない。花言葉の類を用いず、まったくその木の特性から話を膨らませた着眼点と、対象とする話のつくりを評価。

『すすき』 橘俊志
 面白い題材を扱った作品。
 花束等にはならないが、現代状況の影響もあって街路で入手し難くくなったものの、季節や催し、日本人のイメージに重要な草花のため需要もある。
「例えるなら、十五夜だのなんだのってのは、実際用意するかはともかく、すすきに団子ってのが割りと定番だろ? おかしかないよな」が部長談。
 時間枠に収めるのが難しい点がマイナスとなったが、筋書きとしては面白く有用なシナリオ。

『彼岸花』 巻 長治
「悲しい思い出」「情熱」「独立」「再会」「あきらめ」
 これでもかという程、花言葉の要素が詰め込んである点が、面白くスポンサー的にプラスであるシナリオ。
 主人公が男女どちらでも可能、話に幅のある、でも筋が通ったホンなのはいい。
 時代設定も、多少のアレンジで、如何様にもで出来そうだ。時間構成を考え再構成を検討。

『金木犀』 月 美鈴
 この概要1本では救いが無い部分で終わるため、扱いが難しいシナリオに仕上がっている点が難点。
 金木犀のイメージが悪いままという点も気になる。
 この後どうするか‥‥話の導入部分に用いるのであれば、可能性や話が広がる見込みがある。

『竜胆』 パトリシア
 現代劇じゃなくとも話の基本がシンプルだけに、どうとでも幅をもたせられそうな内容が面白い。
 シンプルだけに、このままだと平凡でいささか数字が取れるものかは微妙。
 提出が概略のみのため仕方ないが、彼女の心の流れ向き次第で、話が大分変わりそうなところが難しいかもしれないところ。
「つーか、個人的にはこんだけ問題ありな男に、女が思う理由がわからん。そのへんの掘り下げ具合によるな」と女心が理解出来ないからだめなのか?と部長首を傾げる。


 以上7本が、今回提出されたシナリオに用いられた草花とその評価となる。
 前出3本は、ドラマ化を検討。
 残る4本は、再構成の後、スポンサーの方で同様に検討を図る予定。