花暦 〜百日紅に挑戦〜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 姜飛葉
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/14〜08/18

●本文

 ある日の夕方、子供たち楽しくボール遊びをしていました。
 ところが、ボール遊びに夢中になる余り、ついつい力が入りすぎてしまい‥‥
「ああっ! ボールがっっ!!」
 空に吸い込まれるように大きく飛び上がったボールは、木の枝に引っかかってしまい、子供たちの下へ戻ってきません。
 ボールが引っかかってしまったのは、『百日紅の木』です。
 登って取りたいと思っても、伊達に『サルスベリ』と呼ばれている訳じゃなくて、流石に登るのは難しそう。
 でも、そのボールは、誕生日にお父さんに買って貰った大事な大事なボールだったのです。
 諦めることなんてできません。


「そこを通りかかった大人達が、子供らのために、あの手この手でサルスベリ登りに挑戦するんだが、なかなかボールまで辿りつけない‥‥それを、どうにか協力し合ってボールを取り戻す――過程を描くドラマになる」
 禁煙に挫折したらしい花暦製作部長は、くたびれた煙草をくわえながら、脚本をスタッフへ差し出した。
 今回のドラマの内容――元々は、花暦の脚本を公募した際に、選ばれたシナリオの一つである。
 登場人物は『遊んでいた子供達』『通り掛ったサラリーマンの熊』や、『近所のおじさんの虎』や『八百屋のおばさんの兎』等々、立ち位置は何でも構わず、動物の種類も問わない。
 そこは、役者の個性に合わせて、ある程度自由に変えても良いという。
「サルスベリのセットは用意する。ただな‥‥」
 CG技術の目覚しい躍進に、本物同然の作られたキャラクターが活躍する現在において、高額を投じて着ぐるみを用意する事にスポンサー側が難色を示したらしい。
 着ぐるみ劇ではなく、ターゲット年齢をこれまでよりも下げ、親子で観られるドラマに仕立てて欲しいというのがスポンサーの要望。
「まあなんだ‥‥自前でなんとかしてくれや。とはいっても、一般的な動物からかけ離れてると、妙なファンタジーまじりの話になりそうだから、匙加減はまかせた」
 安価で用意してくれる専門家がいれば別だけれども、お前ら伊達に‥‥じゃないだろう?
 そう笑う製作部長は、ひらりと手を振ってみせ、無責任にも聞こえる内容を皆に告げたのだった。


●スポンサーの意向
 基本コンセプト:百日紅をメインに据え、話を展開・決着させること。
 時間が限られているため、簡潔に1話で終えられる構成とすること。
 出来れば、子役3人以上の構成が望ましい。

■物語
 今回の題材は『百日紅』
 その名の由来といわれる『木登り上手な猿ですら、滑って登れぬ木』を巡り、繰り広げられるほのぼのファミリーコメディ。

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa2605 結城丈治(36歳・♂・蛇)
 fa2791 サクラ・ヤヴァ(12歳・♀・リス)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)
 fa3599 七瀬七海(11歳・♂・猫)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa3928 大空 小次郎(18歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●CAST
 神森流乃助:七瀬七海(fa3599)
 白河礼司:タブラ・ラサ(fa3802)

 柊 香織:月 李花(fa1105)
 サクラ:サクラ・ヤヴァ(fa2791)

 鈴木 茜:日下部・彩(fa0117)

 ヤマモト:結城丈治(fa2605)
 勅使河原 麗華:大豪院 さらら(fa3020)
 若い警官:大空 小次郎(fa3928)


●ボールは高く、吸い込まれ
 とても良いお天気の日。
 子供達は公園でボール遊びをしていました。
 男の子にも負けないくらい元気、ちょっぴりお転婆な猫の女の子は、香織ちゃん。
 好奇心旺盛で、何でも聞きたがりなりすの女の子は、サクラちゃん。
 物知りで皆の中で1番大人びている眼鏡をかけた狐の男の子は、礼司くん。
 ちょっぴり内気でおっとりした猫の男の子は、流乃助‥‥彼は、お祖母ちゃんからもらったボールをとっても大事にしていました。
 流乃助は今日、その大切なボールでお友達と遊んでいたのです。
 楽しく過ごすボール遊びの時間。皆の手の上を、ボールは軽やかに飛んでいました。
 けれど‥‥香織ちゃんの呆れたような声が公園に響きました。
「下手くそ〜何処に向かって投げているの? あ〜あ、あんな所に引っ掛かっているよ? どうしよう〜」
 ふわり皆の上を飛んでいたボールは、がさがさがさっという木の葉が乱れる音を響かせたきり、落ちてきません。
 香織ちゃんの言うように、木の枝のたかーいところに引っかかってしまったようです。
 4人揃って木を見上げていましたが、真っ先にボールが引っかかってしまった木に手をかけたのはサクラちゃんでした。
「取ってこなくちゃだめでしょ」
 そう言って木の幹に足を掛け、手を伸ばそうとしましたが、足を掛けようとしてもつるつる滑って上手く登れません。
 自分も挑戦すると香織ちゃんが言い出しました。
 サクラちゃんは動きやすいキュロットパンツでしたが、香織ちゃんはスカートです。礼司くんが慌ててとめるのも聞かずに、香織ちゃんも木に手を伸ばしました。けれど、やっぱり上手く登れません。
「あ〜ん、だめだ。登れないー」
「どうしよう〜‥‥」
 女の子二人ががっかりした声をあげるのを聞いて、流乃助はどうしたものか途方にくれました。
 おばあちゃんから貰ったボールに代わりはないからです。
 そこへ礼司くんの追い討ちのような言葉に、流乃助は悲しくなってしまいました。
 礼司くんが言うには、ボールが引っかかってしまった木は登れない木だというのです。
「これはサルスベリだから登るのは難しそう」
「「サルスベリ?」」
 物知りな礼司くんが教えてくれた聞きなれない言葉に、皆は首を傾げました。
 礼司くんは「仕方ないなぁ」と言いながらも教えてくれました。サルスベリがどんな木なのかを。
 流乃助は黙って静かに礼司くんの話に耳を傾けました。香織ちゃんもサクラちゃんも一緒にです。
 皆が熱心に聞いてくれている事で、ちょっぴり得意そうに話す礼司くんが教えてくれた事、それは――木登りが得意なお猿さんでも、すべってしまって登れないつるつるした木だから「サルスベリ」という名前だということ。
 確かにその木の幹はスベスベで、登りにくそうです。
 ピンク色の花が綺麗に咲いているその隣、高いたかーい木の枝に、流乃助の大事なボールは引っかかっています。
 流乃助の手が届くところではありません。
 お猿さんが登れない木を登るなんて出来ないかなぁ‥‥と、しゅんと項垂れた流乃助。耳と尻尾までぺたりと垂れてしまいました。
「でも、流乃助君の大事なボール‥‥このままにできないよ」
 ふわり柔らかなリス尻尾を揺らし、サクラちゃんが立ち上がりました。そのままサルスベリのすべすべした幹に手をかけます。
「お猿さんが登れないから絶対だめってことは無いよね」
 と、香織ちゃんも再挑戦!
 ‥‥だけど、やっぱり登れません。
 4人で力を合わせて木を揺すってみても、落ちてくるのは緑色の葉っぱと、ピンク色の花びらだけ。
 ゆらりゆらり揺れる木の枝にあわせ、ボールも小さく揺れるだけで落ちてきません。
 今度は枝か何かでつつこうとしてみましたが、やっぱり長さも高さもたりません。
 石を投げてボールを落とそうとしましたが、早々ボールには当たらず、礫は投げた子供たちのところへ落ちてくるだけ。
 4人で思いつく限りの事を試したものの、ボールは木の枝に引っかかったまま。
「これは取れそうにないかな」
 とうとう礼司くんが、降参するように大きくため息をついてしまいました。
 女の子たちも何も言えず、だんまりです。
 流乃助は、もしかしたらボールは自分の手に帰ってくることは無いのかもしれない‥‥と思い始めてしまいました。
 諦めと悲しさと寂しさに、目がじんわり熱くなります。
 涙を堪えようと見上げた空は、夏の青空。
 目に入ってきたのは、日差しの下で、緑に守られるように在るボールの姿でした。


●子供たちよりちょっぴり大人の知恵
「どうかしたのかな?」
 困って弱ってどうしようかとうんうん悩む4人に掛けられた声は、狐の茜お姉さんのものでした。
 流乃助達は、サルスベリの木を指差し、事情を一生懸命説明しました。
 茜お姉さんは、4人がかわるがわる言葉を補って語る話に熱心に聞いてくれました。
 木の枝に引っかかってしまったボールを見上げ、困ったねと言う茜お姉さんは、それでも1つずつ試してみようとボールを取る手伝いを流乃助達と約束してくれたのです。
 茜お姉さんも、まずはまず木に登れるかを試してみました。
 やっぱりつるつるすべる木は、足場を上手く見つけることが出来ず、難しいようです。
 代わりになるような塀や台も勿論ありません。
「やっぱりお姉さんでも無理なのかな?」
 サクラちゃんのはっきりした言葉に、茜お姉さんも困り顔。
 流乃助は慌ててサクラちゃんを止めます。茜お姉さんも頑張ってくれているのです。
「他に何かないの?」
 と礼司くんに訊ねられ、茜お姉さんは持っていた鞄から、毛糸を取り出しました。
 近くに何か重たい‥‥石か何かは無いかと聞くお姉さんに、香織ちゃんが近く似合った香織ちゃんが持つにはちょっと大きな石を見つけ、礼司くんと一緒に抱えてくると、茜お姉さんは、毛糸を石にしっかりと結びつけました。
 どうするんだろうと見守る流乃助達の前で、茜お姉さんは「こういう時こそ知恵を使うのです」と、釣り糸を投げる要領で、ボールを狙って錘代わりの石が結わえられた毛糸を放りました。
 茜お姉さんは、石をボールにぶつけて落とそうと試してみるようです。

――ひゅるるるるるぅぅぅぅ、ぼて。
「おおっ!」

――ひゅるるるるるぅぅぅぅ、がつん。
「もう少し高くっ!」

――ぽおぉぉぉん、ごしゃ。
「惜しいっ!」

――ふゅるるるる〜〜〜〜、ごすっ。
「そっちじゃないよ〜〜〜」

 流乃助達の一喜一憂する声を聞きながら、茜お姉さんは何度もチャレンジするものの、中々狙ったように上手く飛びません。
 茜お姉さんは、何度かチャレンジしてみた後‥‥大きくため息をつきました。
「これは困りましたね」と思案顔。
 流乃助の困った仲間に、もう一人仲間が増えたのでした。


●おまわりさん
 そこへ、おまわりさんがやってきました。
 町の皆に危険が無いか見回り中なのでしょう。
 蛇のおじさんのおまわりさんと、若い犬のおまわりさんさん。
 そして、とってもきれいなライオンのお姉さんおまわりさん(と、流乃助が言うと、礼司くんが「婦警さん」ていうんだよと教えてくれました)の3人です。
「どうかしたのかしら? こんなところに皆で集まって」
 婦警の麗華お姉さんが流乃助達の様子に小さく首を傾げました。
 実は‥‥と、説明する流乃助達の話を聞いて、茜お姉さんがしたようにおまわりさん達もサルスベリを見上げました。
「あのボールを取りたくて頑張っていたんですね」
 頷きながらどうしたものかと麗華お姉さんは小さく息をつきました。
 子供たちが困っているのなら、力を貸してあげるのもおまわりさんの仕事の1つです。
 でも、大きなサルスベリの木は、とっても背の高い若いおまわりさんや、もっと高いヤマモトおじさんでも届かない場所です。
 唐突に若いおまわりさんがヤマモトおじさんに尋ねました。
「う、撃っていいですか?」
「あ、いいんじゃないの適当にやっといて」
 ちゃき。
「「ええっ?!」」
 構えられた拳銃が狙っているのは‥‥ボールが引っかかっている木の枝なのか、はたまたボールそのものなのかわかりません。
 子供達は慌てました。誤ってボールに当たらないとも限りません。
 というか、こんなところで拳銃撃っちゃっていいものなのでしょうか?
「巡査長、何適当に頷いているんですか?! だめにきまってるでしょう」
 ‥‥だめだったみたいです。
 大人たちの奮闘を皆と一緒に見守っている礼司くんがやれやれとばかりに肩をすくめてため息をついても仕方ないですね。


●幸せの形は、まんまるい
 流乃助は一生懸命手を伸ばしました。
 もう少し、あと少し。
 見守るサクラちゃんや香織ちゃんの「頑張って!」という応援に励まされるように、一生懸命に指を伸ばした先に‥‥‥‥ようやく触れられたボールの感触。
 道具を使って試してみたけれどだめだったボール取り。
 でも、これだけの人がサルスベリの木の下にいるのだから‥‥1人2人では届かないかもしれないけれど、皆で力を合わせれば届くかも‥‥そう茜お姉さんが提案してくれた通り、お巡りさんが肩車をしてくれて、婦警さんも支えてくれて、茜お姉さんやサクラちゃんと協力し合って。香織ちゃんや礼司くんの声に励まされて、ボールは流乃助のところへ帰ってきたのです。
 ダメかもしれないと諦め掛けたおばあちゃんのボール。
 それが今、流乃助の手の中にあります。
 頑張って、協力して、ようやく手に戻った大切なボール。
 茜お姉さんは思わず、嬉しくて万歳をしました。お姉さんにつられるように、サクラちゃんも香織ちゃんも‥‥控えめながらも、礼司くんも一緒になって喜んでいます。
「良くやった」と、お巡りさん達に頭をぐりぐりと撫でられながら流乃助は思いました。
 お猿さんでも登れないすべすべしたサルスベリの木。
 けれど、皆で力を合わせて工夫をすれば、何とかなるのだと。
 ボールへの騒ぎを通じて、神森少年は皆で団結することの大事さを知るのでした。