夏休みの宿題アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
まれのぞみ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/07〜08/11
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●本文
「美術館を作ってみない?」
ぼくは、その人がなにを言っているのか、わからなかった。
もう一度、その女性は言う。
「美術館を作ってみないかしらと言っているのよ」
「美術館を?」
「ええ――」
微笑みながら、ぼくたちの担任のその人は、ぼくたちに夏休みの宿題について語り始めるのだった。
以上、OPコンテの監督の覚書より。
以下、企画書より抜粋。
■発見! ぼくの町、わたしの町
■対象視聴者
小学生低学年〜中学年
■目的
ドラマ風のクイズバラエティーを通して、街や町、あるいは村にある、さまざまな施設や(動物園や美術館などといった)場所を紹介する教育番組。
今回の形式としては主人公たちが夏休みの宿題として美術館を作っていると、その裏で怪盗がなにか悪巧みをしていることがわかり、その陰謀を阻止する、あるいは怪盗の妨害を乗り越えて美術館を作り上げるという流れとなっている。
■舞台
今回の舞台は「美術館」とする。
設定としては夏休みの宿題(いわゆる自由課題、あるいは自由研究である)として美術館を作るようにとの宿題をもらった生徒達の奮闘振りをメインに描く。もっとも、その裏には、あの怪盗の暗躍があるようなのだが――
■登場人物
・生徒たち。
学園の生徒。ならびに教師。
探偵倶楽部、あるいは自由課題を与えられたチーム(小学生〜大学院生までの中からくじ引きで決められた)となり課題に挑戦する。教師役として指導を行ってもかまわない。
・怪盗
ネームレス。あるいは名もなき愚者と呼ばれる。
変装の名人であり赤ちゃんから老人、老女にまで化けることができるとさえいわれている。年齢、性別、国籍不明の怪盗で毎回クイズめいた予告状をだして生徒たちに挑戦をする。部下もいるがかれらも素顔は知らない。正体も行動方針も不明。愉快犯‥‥ではないようだ。なお、怪盗は変装の名人なので、回によっては生徒の誰かに怪盗が化けていたということも可能となる。
今回の目的は生徒達が集めた美術品の中にあるようだが‥‥?
●リプレイ本文
とんかんとんかん。
いまどきめずらしいトンカチの音がリズムよく叩かれ、手馴れたようすで今日のセットが組まれていく。いつも番組で使っている教室を使用することが決まっているので、スタッフたちも慣れたものだ。
出演者達も準備をしていた。
「自分たちで作る美術館が題材なんだから、飾るものも自分たちで作ろうな!」
髭面をした監督の提案である。
ルージュ・シャトン(fa3605)が色紙を折っている。
「赤、青、黄色ニャ〜♪」
ニャ〜ニャ〜歌いながら、細い指先が鶴を花を作り上げている。できぬ者にとっては、まるで魔法のようなものだ。ほら、太い指をした監督がすこし興味をもってやったのに、ぜんぜん形にならず、思わず、切れ掛かっている。
が、ふと真顔になって、スタジオの隅にゆく。
「おや、どうしたんだい?」
「えッ?」
今回の怪盗を演じる夢想十六夜(fa2124)であった。
「なにか心配事がありますよって、顔に書いてあるからね。心配にもなるだろ?」
「顔‥‥そうだな。顔のことがちょっと‥‥」
「凛々しくきれいな顔立ちの女性が、どんな不安を? そんなことを思われたら、ぼくなんて、どうなることやら?」
そういって、メガネをかけたおたく顔の監督は笑った。
「僕、男顔だから女に見られない‥‥かも‥‥」
「そんなことか!」
おたく顔が破顔一笑となった。
夢想は、何回か前にネームレスを演じた女性のこと意識しているらしい。
「ぼくも、ほらこのざまでね」
といって、紙くずとなった折り紙を見せる。これがなにかという顔をした夢想に監督は言った。
「でも、ぼくはこれを芸術品であるかのように撮ってみせる自信がある。プロだからね。だから、君は君の演技をすればいい。そういうネームレスなのだという――そもそも変装の天才であり、素顔すら忘れてしまうようなキャラだ。前回とちがったって気にすることはないさ!」
そう声をかけると、表情をあらためてスタッフたちに命じた。
「は〜い、リハーサルいくよ! カメラいいね?」
※
「こんにちは!」
両手一杯に花束をかかえ、その女の子のようなかわいらしい顔すら隠れてしまっている七瀬七海(fa3599)が教室に入ってくるところから、今回の話がはじまった。
「はい、これ!」
「どうしたんだい?」
花束を受け取りながら――押し付けられてという表現の方がぴったりくるのだが――教師役の月鎮 律人(fa0254)がいぶかしがるような表情をつくる。
「買い物をしたらおまけでもらったんですよ」
「おまけ? なんのですか?」
「この街でこんなものを見つけたんだ。素敵でしょ?」
デコールで作った箱入りのヒマワリの花が出てきた。
「いいですね。どこかに飾っておきましょう。あ、そうだ。そこの離れた場所に4枚だけある折り紙の隣がいいかな?」
「おかしいニャ?」
このシーンだけなぜかネコミミをしたルージュが頭をひねる。むかしのマンガにあったコマをイメージした演出らしい。
「どうしたんだい? 君の折り紙じゃなかったのかい?」
「ちがうニャ?」
そして、いつもの耳のないルージュに戻っている。その横では、あずさ&お兄さん(fa2132)も不思議がっていた。
美術館に収めるものとして「夏の風物詩」をモチーフにした絵と折り紙。例えば、すでに飾られている、金魚鉢の絵に貼られた金魚の折り紙や、花火っぽいイメージで折った折り紙の祭りの絵などを提案し、また飾ったのも彼女である。
その彼女が、その折り紙は記憶にはないと言う。
「えッ!?」
月鎮は生徒たちを呼び寄せ、人数を確認する。
「ひい、ふう、みい‥‥――。あれ‥‥一人多い‥‥? ‥‥はっ!みんな!一人増えてるってことは、この中の誰かが‥‥」
ごくりと息を飲み
「幽霊さんだよ!」
と真顔で言った。
「そうか、幽霊か!」
「幽霊じゃしかたないね。それぞれの持ち場に戻ろうな!」
その一言に生徒達は納得。
三々五々と散って、それぞれの持ち場に戻ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って!
凛々しい顔をした女生徒が、あわてて異を唱える。
夢想が演じるところのネームレスである。ここで全員が持ち場などに戻られては、残ってしまった自分の正体がバレてしまう危険性がある。その策には載るまいとしてわざと声をあげたという設定である。
「そうか、この中にネームレスがいるかもしれないんだ! あいつは本当に意味不明なものを、意味不明な理由で持って行こうとするから、注意するんだ!」
七海が仲間達に注意を促した。そして件の四枚の折り紙を開くと、つぎのようなクイズが書かれていた。
「夏に見える星座を三つ答えよ」
「夏野菜を三つ答えよ」
「七夕の日にしか会えない人は誰?」
「夏の昆虫を三つ答えよ」
※
ここでシーンが切られた。
台本を再確認をする――
「そういえば、クイズについては後日で連絡がくるっていってなかったかしら?」
「監督、クイズの答えは?」
「君達に考えてもらうよ」
カメラマンと照明を呼び、次のシーンについて打ち合わせをしていた監督が振り向きながら、あっけからんとした調子で応えた。
「ボク達に?」
「そうさ。適当な時間になったら答えを教えてもいいけれど、本当に悩んでいる方が臨場感のあるシーンになるとは思わないかい?」
※
「バカバカしいわね」
髪をかきあげながら、十六夜 勇加理(fa3426)が演じるところのユカが否定的な物言
いをすると、冷ややかな瞳で仲間たちを見つめるシーンから、その場面は再開された。
「しかし、ネームレスがなにか狙っているんだぜ!」
「そうそう、あの物好きな盗人なのよ。無視したら、なにをしでかすかわからないじゃない!」
「勝手にしなさい!」
ふんとユカが顔をそむけた。
彼女自身は、将来の夢が持てないゆえに仲間に苛立ちをぶつける少女という希望をだしていのだが、どこでどう捻じ曲がったのかツンデレキャラぽい演出になっている。
「いいよ! いいよ! ぼくを踏んで〜」
もっとも、そんな演出を決めた監督が十六夜の演技を見ながら歓喜をあげ、スタッフたちの生暖かい視線を受けていてたのは内緒の話である。
そこへ相麻 了(fa0352)が演じるリョウが戻ってきた。
町の人たちの笑顔写真展をやろうとしている少年で、大漁に喜ぶ烏賊釣り漁船の船長さんや、孫の我侭に苦労しながらも喜びを隠せない好々爺など町の人たちの『笑顔』の写真を撮って帰ってきたというシーンでもある。
説明を受けると、開口一番。
「もしかしてクイズに正解したら鰻重食えるの?」
これまた天然なボケである。
なんにしろ怪盗の挑戦を受けるのが(番組的には)筋というものだ。
「まず、一つ目ね‥‥夏に見える星座を三つ答えよ」
ネームレスが化けた生徒が春の星座図をとりだす。
すかさず、あずさが、
「獅子座!」
と叫んだ。
「私のお姉ちゃん、獅子座生まれでこの前誕生日だったもん」
と自信満々である。
ブッブ〜と、どこからか間違いだよという音がする。
展示品のひとつがCG処理で消える。
「つまり、まちがえるごとに展示品も消えていくのね」
ネームレス演じる生徒が、いかにもな態度で解説してみせる。
それはヘタなことを言えない。う〜んという空気が、その場を支配しかけたところで、にゃあにゃあという声がした。
「これは、星座が大好きなるーじゅですニャ☆ 簡単ですニャよ〜☆ こと座、わし座、はくちょう座、サソリ座、射手座、ヘラクレス座‥‥」
どこからかピンポ〜ンという音がした。
「よし、正解! さてとつぎは、夏野菜を三つ答えようか‥‥」
リョウがつづいて問題を読み上げた。
「夏野菜って何ですニャか?」
「これが、そうかな?」
準備よくネームレスが野菜の折り紙を取り出す。
一見、キノコのように見える。
「夏の野菜にはさすがに見えないな‥‥」
「スイカ!」
「トマト!」
という声も上がったが、それは間違い。そうそうと言って、月鎮がこんなことを教えてくれた。
「例外はあるかもしれないけれど、基本的に、木になるものが果物、草になるものが野菜なんだよ。だから、スイカやトマトも野菜扱いなんだね」
まあ、そんな解説がなされながらも正解がでそろい、歓声があがる。
「貴方たち、こんなくだらない事で喜ぶのね」
ユカが釘をさすようなことを言う。そこでユカがいい演技をした。強がりながらも、どこかその様子をうらやむような色を、その双眸に浮かべたのである。
その演技を監督とカメラは見逃していなかった。
「七夕の日にしか会えない人は誰?」
クイズはつづいている。
「天の川を渡って会いに行くんだっけ?」
「川というと弁慶と義経?」
怪盗が不正解を言ってみせる。
ぶぶ〜。
また展示品がひとつ消える。
「じゃあ、信玄と謙信かな?」
またまた警告音ととも物が消えた。
「それは、川中島でしょ?」
ユカのあきれたような冷たい声が飛ぶ。
そこで、再び星に詳しいルージュに期待がかかる。
「織り姫と彦星ですニャ〜☆ こと座のベガとわし座のアルタイルですニャね☆」
ぴんぽ〜ん。
そして、いよいよ四問目となった。
「夏の昆虫を三つ答えよ」
「やっぱり夏といったらこれかな?」
と、再び折り紙がだされる。
「ええっと‥‥これは‥‥きりぎりすみたいだけれど、それは秋の虫だしな」
「でも、田舎の方じゃあ、お盆にでもなったら夕方過ぎには鳴き声が聞こえるよ」
「お盆過ぎたら立秋すぎの秋だ!」
と田舎育ちの監督が小言をつぶやく。が、撮影を中止するほどの台詞でもない。カメラは廻り続ける。
「じゃあ、蚊なんてどう? 夏に出てくるよ」
と怪盗が再びミスリードを誘う。
そして、それが効いたのかどうかは微妙なところだが、あずさがこんな答えを言う。
「う〜ん、夏だったら、フナムシ!」
警告音が鳴って、展示品がまたひとつ消えた。
「フナムシってなんだよ?」
「夏によく見るじゃない。この前も海に行ったときに見たもん!」
「ただ単に海に行く機会が増えたからじゃないですか‥‥」
まあ、そんなぐだぐだもあったがついに答えがでそろった。それを待っていたかのように、月鎮が彼女に声をかけた。
「それにしても、君はよくよくまちがえるね!」
まるで問い詰めるような声。その瞬間、ネームレスの周囲から白い煙があがり、生徒の姿が、いつもの黒衣装の姿へと変わった。
「よく見破った探偵諸君。私こそが怪盗ネームレスだ。この最後のクイズに答えられなければ、諸君の大切な思い出を頂いていく!」
「夏で一番賑やかで輪になって踊ったりする行事は?」
「それは、簡単だ!」
七海が手を叩いた。
「みんなでネームレスを囲んでタコ殴り!」
そのとたん、怪人の笑い声とともに半分以上の展示物が消えてしまった。
残りの展示物は一枚の写真だけ。
「ちょ、ちょっとまて!」
「そういうことだよ。さて、どうするんだい?」
そういうわけで生徒たちは円陣を組んで作戦会議。
そして、息をあわせ、声をあわせて、
「盆踊り!」
と言った。
ぴんぽ〜ん。ぴんぽ〜ん。
そのとたん、いままで消えていた展示品も戻ってきた。
「くっ‥‥僕とした事がこんな探偵達に負けてしまうとは‥‥! 次会う時は必ず僕が勝つからね‥‥!?」
捨て台詞を吐いてマントを翻し怪盗は、その姿を消すのであった。
※
「何かこれ‥‥世間のおば様向けにならなきゃいいけど、怪盗‥‥」
出番を終えた夢想がつぶやくと、小さなため息がそれに応えた。
「いや、たぶん監督が監督だから世間ではオのつく人々向けになると思うよ‥‥」
それはスタッフの某氏による深いため息であった。
※
「おっ! いろいろな写真があるな。おや、これは?」
「それは‥‥」
あわてて相麻が、その写真を胸元に隠そうとした。
それは、さきほどの場面で最後まで残っていた写真である。
「甘い!」
監督は、その鈍重そうな体型からは想像もできないようなすばやさで、その写真を奪い取る。こういうことには手が早いようである。
「おや、これは‥‥?」
ニヤニヤと笑いながら、中年の男はナンパ好きの若者の顔を見、首を腕でだきよせると、相麻の耳元にこんな演出を提案した。
※
エンディングである。
町の人たちの笑顔の写真がならぶシーンにメローなエンディングの音楽が重なる。ポップスな曲調に過ぎ去ってゆく夏の日を切なげに歌う歌詞が重なる。男の声なのに、なんとも甘く切ない声なのだろうか。
モノトーン調の画面には、美術館を作る為に悪戦苦闘しながらも笑顔を絶やさない生徒たちの顔が――ユカをのぞいて――つぎつぎに写しだされていった。最後に画面がカラーに戻ったかと思うと、銀色の髪をした少女の笑顔の写真が大写しになった。
エンディングの曲は、ここで終わった。
その写真の前に立ちリョウがさびしそうに微笑んでいた。そんな少年に、仲間たちが、声をかけてくる。そして、なにか言い合い、笑い声があがった。
そこへ、すこし戸惑いながらも声をかけてくる者がいた。
「ねえ、みんな――」
ユカである。
皆が、なんだという顔となり、一瞬の間。やがて、なにかふっきれたようなユカの素直な笑顔がラストシーンとなった。
「実はね、わたし――」