語れ! 旅の思い出をアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 まれのぞみ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/08〜09/12

●本文

 9月は旅行会社にとって稼ぎ時だ!

 もし、誰かがそんなことを言い出したとしたら、あなたはどう思うだろうか?
 そんなはずはない? 夏休み終わった? いやいや、夏休みは別にお盆だけの話ではない。お盆に休みをとらなかった、あるいはとれなかた人たちが9月になってから休みをとったり、大学生たちがまだ残った休みを満喫しているのだ。
 そんなわけで、そんな人々を対象とした旅行番組というネタが持ち上がった。

 持ち上がったのだが――

 ※

「なんで、俺の番組で?」
 局内の食堂での企画会議――経費削減にご協力ください――でのことである。
「おまえの番組だから!」
 大槻昭次は、プロデューサーからの提案に絶句をした。
「ラジオ番組で旅行番組って何を考えているんだ?」
「もちろん、何も考えていないから、そんな企画がうちに持ち込まれるんだよ」
 自動販売機で買ったコーヒーを飲み干しながら、プロデューサーの顔も苦々しい。なんにしろ、上司の思いつきに下があたふたするのはどの業界でも同じこと。しかもこの業界の性質が悪いのは、自営業者であるはずの大槻まで巻き込まれるところである。
 文句をたらたらとふたりで言い合ったところで話を再開。
 愚痴をいったところで状況は好転しないが、ぼやけばぼやいただけ気分はましになる。それにそれがブレインストーミングぽいものになることもある。
「そもそも大学生が金がないっていつの時代の話なんだ? この時期に旅行に行こうとするヤツなんて夏休みのあいだはバイトで稼いだ小金持ちだぞ。もっとも、それを貯金せずに旅行に使うんだから、あぶく銭はいらないっていう江戸っ子みたいなものかもしれないけれどな」
「そうだよな。それにいまの時期に旅行にいくのが社会人ならばそれなりに金はあるし‥‥企画の前提に問題があるな」
 皮肉めいた苦笑が漏れる。
「そうすると‥‥」
 大槻は腕を組むと、まぶたを閉じて熟考――
 数分もの間、反応がない。
「寝るな!」
「あ‥‥すまん、すまん」
「いいよ、慣れているから‥‥にしても、特技だな。座って眠るなんて、よくできるものだよ」
「歩きながら眠る事だってできるぞ。それに、いまは怖くてできないけれど昔は眠りながらバイクを運転できたものだぞ」
「よく事故をしなかったな‥‥」
「しなかったから言えるんだよ。もともと褒められたことじゃないし、若気の至りってやつだけどな。ちょうどその頃、俺は日本一周していたんだ」
「また奇特なことをしたものだな。どんな思い出があるんだ?」
「そりゃあ、もちろん。聞くも涙、話も涙。なさけは他人の為ならずとはよく言ったもので‥‥」
 大槻が昔語りはじめようとして、あわてて、ストップをかける。いったい何時間、思い出話をされるかわかったものではない。
 それに――
「貧乏旅行の思い出か‥‥」
 プロデューサーが、なにか思いついたようだ。
「すまんが、お前はいま思いついたネタは、いかにも俺の番組らしい話題だなとか思わなかったか? どうせ、俺は売れない貧乏芸人だよ!」

●今回の参加者

 fa0348 アレイ(19歳・♂・猫)
 fa1660 ヒカル・マーブル(20歳・♀・牛)
 fa3516 春雨サラダ(19歳・♀・兎)
 fa3547 蕪木メル(27歳・♂・ハムスター)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa4301 樫尾聖子(26歳・♀・鴉)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4553 進藤恵夢(22歳・♀・豹)

●リプレイ本文

「篠原麗華の‥‥!」
「ちょっと、待て! 待て! 待て! なんでそうなる!」
「芸能界は焼肉定食!」
「焼肉定食?」
「ヤー。篠原麗華のビーストナイト・ニッポン」
 いかにも、どんな理由でそんなことを言ったのか説明します――そんなタイミングでのタイトルコールである。番組冒頭の漫才は、これで3勝7敗。大槻昭次の苦難はつづくということであろう。よく質問のはがきがくるのだが、ふたりの会話に台本があるというわけではない。正確には、この二人が組むと大抵は――大槻に責任と篠原に原因があるのだが――台本を無視した大暴走となるのだ。最近では構成作家もわかっていて台本の大半は空白である。さて、そんな台本も今日のお題が旅行であることはきっちりと書かれている。
 しかし、
「おおぅ‥‥」
 最初のゲストが入ってきたときのふたりの驚嘆は台本にはない。最初のゲストはヒカル・マーブル(fa1660)。打ち合わせの時の私服とは打って変わって――こちらは仕事着ということなのだろうか――
「メイド服っすか‥‥」
「しかも、メガネ娘ですね‥‥」
「ええ」
 ほんわかとした笑顔でヒカルは微笑む。
「旅の思い出ですか〜。そうですね〜この夏に行った所と言えば、やはり今日本で一番活気のある街の一つでもある名古屋に行って参りました」
 やがて、話は名古屋の暑さが話題となった。
「名古屋から東京へ引っ越した知人いわく、名古屋の夏はくそ暑いんだったな」
 そんなさしさわりのない相槌を大槻が打つ。
 このあたりまでは、平常の放送であったといえよう。
 ここまでは――
「その後は、熱田神宮にお参りに行きました。木々の中を抜けると立派な建物が‥‥巫女さんもかわいかったです☆」
 メイドは巫女さんがかわいいとカミングアウトした。
「なにか淫靡な‥‥」
 はぁはぁはぁといった声こそないが、そんな調子の大槻の声だ。気に障ったリスナーもいただろう。その時、一撃、すさまじい音がラジオから響き渡り、番組はコマーシャルに入った。
「さて、なにかヘンな音がしたという苦情の電話がきていたようだけど、なにもなかったわよね? そうでしょ!」
 番組は再開。
「ソウデス、ワタシハナニモサレテイマセン」
 ちょっと待て、お前は何をされた? と突っ込んだリスナーも多いことだろう。番組の方では、すでにつぎのゲストがしゃべっている。
 初めてラジオで仕事をする春雨サラダ(fa3516)だ。
「旅かぁ。旅って言うほどでは無いけど、踊りの修行に路上パフォーマンスをしようと、町を転転とした事があるよ! 今日はあの駅前、昨日は別の駅前、明日はどこに行こうかなみたいな。気楽にふらふらと駅前のスペースを確保して躍ってたんだ。あんまりお金も無かったし、遠いところまでは行けなかったけど、色んな人に踊りを見てもらえて楽しかったよ! もう一度、やってみたいなぁ、とか、思ったり、ね。ううん、いつか、もっと遠くで踊りの目的のためだけに旅行して、がっつり踊りたいかな〜」
「ああ、いいとろがあるよ」
 大槻に、いつもの調子に戻ってきた。
「どこです?」
「徳島とか青森とか‥‥」
 リスナーは、再び、あの轟音を聞くことになるのであった。

 ※

「いたたたた‥‥」
 頭を抑えながら、大槻がトイレへやっていくる。
「あんにゃろ、本気で殴りやがって‥‥」
 鏡を見れば、みごとに額が割れ、血が流れている。もっとも見た目ほどひどくないのが頭のキズというものだ――という主張をして、やさしい言葉のひとつもかけてくれないスタッフ連中ではあるが‥‥
「大丈夫ですか?」
 お手洗いから出てくると、大槻を呼び止める声がした。
 さて、ふたたびスタジオに戻る。
「飛行機に乗って旭川空港へ‥‥まずは旭山動物園へ‥‥ペンギンやシロクマが生き生きとしていてかわいかったですね〜☆ 次の日、朝早くからしばらく電車に乗り継いで着いた場所は‥‥一面のラベンダー畑でした。一番花が綺麗なこの時期に北海道のへそと言われる富良野に行ってきました」
 進藤恵夢(fa4553)が北海道旅行についてしゃべっていた。
「ただいま」
「どちらさまですか?」
 戻ってきた大槻に篠原が冷たい一言を投げかける。
「ひどいいいようだな。新しいゲストを連れてきたぞ」
 もちろん、こんなことは台本には書かれていない。
「あ、そう。そこの狸の言いは狸の置物がしゃべっているものと思って、無視していいですから」
「あのな‥‥」
「だまらっしゃい! さあ、北海道旅行のつづきをどうぞ」
「いいんですか?」
 さすがに、すこし困ったような声だ。
「ええ、もちろん! きょうの放送は、あたしの番組なんですから!」
「それじゃあ‥‥」
 と言って進藤が話をつづける。
「その後は再び電車に乗り継ぎ、北の大都市、札幌へ‥‥。夜のススキノは、少々怖い所もありましたが、美味しい北の物を食べれて大満足でした。時計台も見に行きましたが‥‥まぁあ、あんなもんなんでしょうね」
「そんなもんなんだろうな。それまでテレビでしかお目にかかれなかったような人と実際に会ったりすると、こんなに小さな人だったのか‥‥って思うこともあるしな。それで、普段は見ているだけのスタジオでしゃべるのはどうだい?」
 廊下で大槻に声をかけてきたのは樫尾聖子(fa4301)だという。
「すみませ〜ん、芸能人やのーて現場のモンなんですけど‥‥ハイ。ちょっとだけ話させて下さいね」
「どうぞ」
「学生の頃、商店街のポイント溜めて箱根のほう旅行に行かせてもろたんですよ。温泉です。やっぱり旅行ゆーたら温泉やと思うんですよね。そこで朝散歩しとったら、地元のゴミ捨て場荒らしとるカラスの集団がおって‥‥冗談でコラッて注意したら妙に食いついてきましてね、いやカラスが」
「ほお‥‥」
「そのままマジゲンカですわ、カラスと‥‥延々。せめてもっと綺麗に開けて食えやの、食べるトコの残っとるモンをほるんが悪いやの‥‥」
「おおい、誰だよお客様に酒を呑ましたのは?」
「そうそう、さっきから飲んでいるジュースにアルコールが入っているんじゃない? ははん、かわいい娘だし、狙っているスタッフがいるな!」
 大槻の言葉に篠原もめずらしく同意する。内容が獣人にからみそうなのだ。
「ふと気ぃ付いたら、近所の人がゴミ袋手ぇに下げたまま、近寄りがたそ〜〜に私のこと遠巻きにしてましてね。何人も。‥‥さりげな〜く鼻歌歌いながら逃げました。
まさに旅は恥の掻き捨て、若気の至りや思いません? ねえ。 せやけど旅先で人の迷惑になる事はやっぱあきませんわ! 警察呼ばれますからね、うん」
「まったくだ! 医‥‥」
 急にジングルが入った。

 ※

 八十年代の音楽がかかった。
 青年がバイクを盗み、それに乗って駆けていくという歌詞だ。
「この曲もな‥‥いい歌なんだけれど、正直、バイクに乗りにとっては許しがたい歌詞なんだよな」
「なんでです?」
「バイクを盗まれたらって、考えてみろ!」
「新しいのが買える!」
「あのな‥‥――!?」
 大槻の声が、思わず怒声となる。
「すみません、自分のリクエストのせいで――」
 と、これは録音した声である。
 実はつぎのゲストである百鬼 レイ(fa4361)が未成年である為に深夜の生放送には出演させることができないのだ。
 そこで、少々、構成作家が細工をした。
 録音した声と生放送でのやりとりをつぎはぎにしながら、さも百鬼がいるようなシーンにしようとするのだ。
「あれは十五歳の夏休みのことでした‥‥秩父の親戚の家に遊びに行った時に、山なのでとりあえずサイクリングでも行こうかとふと思い‥‥」
「そうそう、道があるから走りたくなる」
 オートバイのりがうんうんと勝手に同意する。
「自転車を借りて、山道をぐるりと回って山を満喫していたのですが、予想以上に道が長く険しく、戻る予定の時間を大幅にオーバーしてしまい あせって坂道でペダルを高速でこぎまくってました。それがいけなかったようで、周りの暗さも手伝って、カーブを曲がりきれず そのままチャリごと道の外にダイブ‥‥
 一瞬の無重力感の後、一気に自由落下。木々に当たりながら転がり落ちていくので、まるでピンボールの玉のような気分でした‥‥
 しかしこの時ばかりは神様も味方してくれたのか、奇跡的にスリ、キリ傷等の軽傷ですみ、また転がり落ちた先が、少ないながらもなんとか車の往来があるところだったので、偶然きた車に乗せてもらいなんとか親戚の家に戻ることができました」
「運がいいな。車が通りかからなかったら、大騒ぎだな。まあ、そんな状況じゃあ、家に帰っても大騒ぎだろうけど」
 大槻が、すこし台詞をとちった。
「当然その後、壊した自転車などの件でこっぴどく叱られましたが。今となってはいい思い出‥‥な訳ないか‥‥」
 前後の文脈が、微妙にかみあっていないのだ。このあたりの修正は篠原がうまい。
「ご愁傷さま」
「正直それ以来サイクリングには行ってませんね。皆さん、紅葉の季節にサイクリングもいいですが、安全運転を心がけましょうね★」
「そうそう、安全運転ついでに命にかかわらない怪我をしてあたしに番組を譲ってくださいね。大槻さん!」
 だから、前後の文脈が――生放送でなぜ噛み合わないんだ?

 ※

 さて、十六歳の少年が去った――ということになったわけだが――
「ええっと、お嬢さんは何歳なのかな?」
 ラジオなのでリスナーには見ることができないが、スタジオにまず入ってきたのは、見た目、十四歳のきわどい格好の少女、Tyrantess(fa3596)。本人はエロカッコイイを目指しているのだが、肌もあらわなその格好は、幼い容姿のせいで、はっきりいって犯罪である。つづいて金髪の娘――蕪木メル(fa3547)が入ってきた。
「あー、これは全国放送?」
 ヘッドホンをかぶりながら、Tyrantessが聞いてきた。
「もちろん! それで、どんな旅行の話だい? やっぱりで外国での旅話?」
「それがちがうんだな――」
 まずTyrantessが語り始めた。
「俺はアメリカ育ちなんだが、だいたい車と飛行機で、電車ってあんまり使わねえんだよな。でも、日本ってやたらめったら電車が走ってるだろ。それこそド田舎とかでも。日本に来た当初はそれが珍しくてな。鈍行列車に一日乗り放題の切符あるだろ? あれを買って、ちょっと電車旅行でもしてみるか、って気になったんだよ。で、行き先に選んだのが‥‥ま、具体名は伏せるが、港町だな。そういうところに行くと、うまい魚とかが地元価格で食えるっていうだろ? どうせなら、それくらいの目標はねえとな、って思ってよ」
「お、いいね。でも、そんな町だと‥‥」
「で。実際出かけてみると、田舎エリアはマジでなんにもねえのな。駅があるんだから、駅前くらいは多少賑わってるだろうと思ってたんだが、本当に田舎になってくると、それすらない。いや、駅の周りが他よりマシなのは事実なんだけど、その基準がおかしいっつーか。どうせ途中下車自由だからと思って降りてみたら、本気で何もないどころか、駅員すらいなかったりするし。すぐ飽きてホームに戻ったら次の電車が来るまで1時間以上待たされたりよ。で、まあ何とか目的地には着いて、うまい格安料理も食えたんだけどさ。時間の計算ミスって、帰りに途中の駅で電車がなくなっちまってよ。都会ならカラオケとかいろいろ時間潰せるところもあるんだろうけど、そんなのもなくてな。結局、始発まで駅のホームでぼーっとしてた。本当に、さんざんな旅行だったぜ」
「あるある!」
 と日本育ちのふたりが盛り上がって、会話がはずむ。
 すでに番組の終了時間まで、あとわずかとなった。
 本日、最後のゲストである蕪木がしゃべりはじめた。
 今度は大槻の希望どうりに異国での旅行記だ。
「俺がアメリカに住んでた頃‥‥と言っても今も一応あっちに家はありますが、高校生の時‥‥かな? 貧乏旅行をしましたね。夏休みです。移動は鉄道とヒッチハイクです。普通にあるんですよ、ヒッチハイク。いい人ばかり巡り合えて俺は幸運でしたね。旅先の牧場で羊をモフモフしてたら農場主さんが泊めてくれたり‥‥もちろんお仕事の手伝いもしました。教会も優しく受け入れてくれます。夏休み中、目的もなく、ただ知らない土地に行って、知らない風景を見て、知らない空気を吸って、知らない人と語って‥‥遊ぶようなお金はない旅行でしたが、それがとても幸せでした」
 蕪木は目を細め、遠く美しい過去を見つめる。
「アメリカは‥‥危険も多いですけど、やった事にはやっただけ見返りのあるお国柄だと思いますね。やりたい事はやれる、誰もとめない、でもその代わり責任も全て自分に‥‥っていう。いい所でもあり悪い所でもあると思います。日本から旅行に行く場合、よっぽど余裕があるのでなければ、きちんと予定を経てたほうがいいです。アメリカは大陸だし大きいので、無計画だと本当に移動だけで終わっちゃいます。もちろん、そういう移動の道中こそ旅だ、っていうのもありますけどね。俺もまたしたいです‥‥」
 番組も最後となった。
 さわがしいパーソナリティもいまは静かだ。
 そして、蕪木のこんな言葉が番組の最後を飾った。
「皆さんも良い旅を!」