さばいばるアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
まれのぞみ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
15人
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サポート |
0人
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期間 |
11/06〜11/12
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●本文
「生き残れ!」
女が叫んだ。
「なんですか?」
きょうもきょうとて企画会議という名前の監禁生活での一コマである。
「うん? 言ってみたかっただけ!」
「そのわりには、なにかと準備がいいようで? なんですか、その島の地図は?」
机の上には一枚の地図。
南に砂浜が広がり、あとは絶壁。そして、砂浜以外は雑木林だというのが、その地図からは読み取れる。
「瀬戸内海にある無人島の地図よ!」
「それは、きな臭い伝説がありそうな場所ですね」
「棒読みで言わない!」
「最近、横溝小説ばかりを読んでいるからドラマの企画でもやるかと思ったら、そういうことだったんですね‥‥それで、誰がころ――」
スパコーン!
「誰が、横溝ドラマをやらせてもらえるっていったのよ! 無人島での生き残りゲームを考えているよ」
「血も涙もない」
「食事もないわよ」
「なんですか‥‥って、ああ、こんな時間か!」
時計で時間を確認して、カップ麺を手にする。
「用意がいいわね」
「食事の時間を忘れるほど仕事に没頭はしていませんから」
「それで、わたしの分は?」
「はたらか‥‥」
ゴツン!
「ありがとう!」
「いててて、ひどいですね」
「なんにしろ、どうやって参加者が生き残るのかが見ものよ」
「参加者がどんな顔ぶれになるのかはわからないからなんとも言えませんが、自然が相手ならば知恵ある者が生き残るんでしょうね」
と、どこからか菓子パンをとりだしてみせる。
「ちょっと、あんた、それをどこに隠していたのよ!」
「寒い時代ですね。生き残るには知恵が必要なんですよ」
「他人の話を聞きなさい! 誰が自然だけが相手だって言ったのよ! こういう番組はいかにおいしく脱落するかがポイントじゃない! 本気でやってもしかたないし。それに、この番組には巨大蟹の恐怖って副題がつくのよ!」
「えッ?」
「NWがいるかもしれない島なのよね。瀬戸内海、平家物語の舞台か――」
●リプレイ本文
「無人島でサバイバル‥‥こういう事は、武術を修める際そういう事も経験しましたが‥‥さて、どこまで通用しますでしょうか」
ディンゴ・ドラッヘン(fa1886) が小船を降りると、靴底に砂のきゅきゅと鳴る音がした。足元を小さな蟹が横向きで駆けていく。
秋の空は高く、青く、そして、風は冷たい。
スタッフや出演者たちも上陸を始めている。
「日本に無人島ってあったんですねぇ、しかもこんなに沢山♪」
紗原 馨(fa3652) がスタッフたちと楽しそうにおしゃべりをしていた。スタッフが、楽しそうにあの島も、この島も無人島だよと指差しながら教えている。まるで、合コンのノリだ。
それで、いいのだ。
そこまで気張る必要もないバラエティ番組の収録である。
瀬戸内海の無人島を舞台とした生き残りゲームを主題とした番組の撮影がいまから始まろうとしている。バラエティ番組なので、ナイフ等、スタッフの独断で許可された道具の持ち込みは許可されている。
こうなると、白海龍(fa4120) のように、
「キャンプデス♪ サバイバルグッズ? 持って行きマセン! 己の身一つで生き抜イテいく事こそサバイバルジャロガーイ! 着の身着のママ! ソレガ‥‥格好いいジャないか‥‥」
と言い出す者まで出てくるのが、おもしろいところだ。
「さて、行くとするか」
手元のナイフを確認して、醍醐・千太郎(fa2748) は雑木林の中へと向かっていった。本人は、修行の一環のつもりでいるらしい。
三々五々で散っていく。
そんななかで、目をひいたのがひとり。
「山田、がんばります!」
山田夏侯惇(fa1780) がびしっと片手をあげたかと思うと、突撃!
そして、なにを勘違いしたのかスタッフ達が用意した食事に突っ込む。そして、半獣化すると、耳をぴんとたて、文字どうり尻尾をふりふりしながら、十歳の少女がカメラに向かって、物憂げな上目づかいをしながらバナナを食べる様子は、なんというか、一部方面ではまちがいなく「受ける」絵にはちがいなかった。
「これ‥‥使っていいのかな?」
半獣化した姿をカメラに収めながら、いろいろな意味で考え込むスタッフ達であった。余談ではあるが、このときの未編集映像が広大なネットに流れ、一部嗜好者には伝説的な映像となったとか、ならなかったとか――
さて、
「まずは少し歩き回って、拠点を決めよう。基本、食べ物は木の実かな? 魚もいい、この時期はそういったものが豊富だろう。なにより、ちょうど冬眠前の掻き込み時だ。ちなみにあまりない事だろうが、それしか無いが危ないかな? というものは私が毒味。食べてみてやばい! と思ったら、半獣化して薬物抵抗で対処しよう。‥‥カメラには写せないところだな‥‥水は最悪、樹皮を削って確保する。ただ、水を売り物に物々交換するという者も出てくるようなので、そちらと交渉できれば使わせてもらおう。持ちつ持たれつ、というやつだな」
シヴェル・マクスウェル(fa0898)が相棒のイルゼ・クヴァンツ(fa2910)にこれからの計画を語って聞かせた。うなづきながら、イルゼは事前の打ち合わせの時にスタッフから受けた注意のことを考えていた。
「サバイバル企画のついでにNW退治なのか、NW退治のついでにサバイバル企画なのか‥‥いずれにしても獣人の天敵を相手取るのに『ついで』がつくと考えると不謹慎ですが。‥‥にしても、どうやって無人島にNWが居ついたのだか‥‥」
「と‥‥夜はそろそろ冷え込むかな? ‥‥寒いのは苦手なんだが」
そういって、シヴェルは暖を求めるようにイルゼの肩を抱いた。
「い‥‥っ――」
「そういうのは、なしよ」
シヴェルの手の甲を指でつまんでイルゼがにっこり。
手の甲をふうふうしながら、シヴェルが苦笑した。
秋の夕暮れは早い。
すでにあたりは薄暗い帳のなかにある。ふと、上を向けば、まだ実のなった柿の木があって、それを烏が突っついていた。空には一番星が見える。
神楽(fa4956) が懐中電灯を分解し、電極を巧く利用して砕いた枯葉に火をつけると、それはやがて炎となった。炎は焚き火となって歌いだす。周囲は闇に消え、弾ける火の粉と波の音が、子守唄となって神楽を眠りへと誘うのであった。
※
数日がたった――
人が集まり、生活を営んでいけば、やがて原始的ながらも社会ができてくるものである。たとえば、ほら、日当たりのいい木のもとでは、きょうもきょうとて、アンリ・ユヴァ(fa4892) が水屋を開いている。
「食料は数週間なくても死にませんが、水がないと3日で死にます」
と収録前のインタビューで応じていたアンリは、水の確保に情熱を注いだ。
たとえば、ビニールシートに朝露を溜める。海水を沸かして蒸留する。雨水を溜めて煮沸する。ビニール袋に草木を入れて密閉する。穴を掘りビニールシートをかぶせ蒸発した水滴を集める。それらをまとめてスタッフが、番組中に、ひとつのコーナーを作ってしまったほどの充実ぶりであった。
そんな水欲しさに採取した果物をもってやってくる者もいる。
自然と市場が形成されていく。
あるいは訓練をする者もいる。
こんな荒行すらも、修行の一環ととらえる武道派も少なからずいるのだ。
また、相棒を残しながらも紗原のように早々とリタイアして、あとは他の出演者を応援する者もいる。もっとも、山田といっしょになって、お菓子をほおばりながら応援している姿に――
(「それは、なんのいじめですか?」)
という表情をして通り過ぎていく参加者がいるのがスタッフの笑いを誘う。
実際、食料の確保で問題が起きているのだ。
果物などは確保できているが、予想外に魚が取れないのだ。
こんなエピソードがある。
鬼頭虎次郎(fa1180) が魚を捕まえるために銛を使ったのはもちろん、罠を仕掛けたり、追い込み漁をやったりしてもまるで釣果はなし。あまりにも不漁がつづき、思わずなかば自棄ぎみに、佐渡川ススム(fa3134) が叫んだ。
「ふははは‥‥! この『魚群襲来』さえあれば無人島生活なぞ‥‥え、使っちゃダメ?」
もちろん、ふだんであったらのならば自分の冗談に冷や汗を流した佐渡川の反応が正しかったであろうが、今回ばかりは、使え! 使えとスタッフたちがせかした。
魚をつかまえる絵がないのは番組としておいしくないし、食糧がやや不足ぎみなのは事実なのだ。医者はもしもの可能性を考えて連れてきていない以上――なんとも、皮肉な話だ――最悪の場合、体調が悪そうな参加者は無理矢理にでも競技中止にさせようとスタッフたちが話し合ったほどである。
そんなスタッフたちの祈るような気持ちを逆なでするように、魚群襲来を使ってさえも、釣果ゼロ。佐渡川と魚と果物を物々交換するつもりでいた沢渡霧江(fa4354) はあきれたようになぎ状態の海面を見つめた。
「魚がいないのか?」
沢渡のメガネが秋の残光にきらりと輝いた。
と――
「あら?」
背後をふりかえると、白い煙があがっているのが沢渡の目に入った。食料を探しにいったK・ケイ(fa4786)のものにちがいない。
ならば――
その意味を理解するのに時間はかからなかった。
全員の表情がこわばり、近くにいた白海龍が変身するやいなや空に舞い上がった。周囲に警告の声を発する。
それに気がついた面々は、スタッフを含めて戦闘要員は走り出した。
作戦がはじまる――
※
「対NWについてだけれど――」
収録前のミーティングのことである。
砂に枝で地図を描きながら、紗原が出演者やスタッフたちと、もしもの時について打ち合わせをしていた。
NWが出現したときどうするか?
作戦は、このように決まった。
三方を山に囲まれた場所――ちょうど、そういう場所が島にはある――に敵を追い込み、四方を囲んで叩く!
※
「こっちだよ! こっち!」
白煙を片手にかかげ、ときには短剣のようにして相手を威嚇しながら、それを、そこまでおびき寄せる。
ひとりで戦うにしては、でかい相手だ。
ケイは相手との距離、頭に叩き込んだ、その地点までの距離を計りながら、そいつを罠に誘い込んでいた。
(「ここを曲がれば――」)
仲間達が見えた。
「ほぅ‥‥蟹か‥‥」
姿を現したNWは巨大な化蟹であった。
そして印象的であったのは、人の顔にも見えるその甲羅であった。かつてこの海で戦い、滅んでいった平家の怨念のこもった姿――平家蟹である。
「こいつが、俺達の食事を‥‥」
魚がとれなかった理由が、なんとなくわかった。
食事に飢えた獣たちがうめく。
「メシだ! メシを返せ!」
ひと、それを逆恨みという。
「お相手願いましょうか。‥‥ディンゴ・ドラッヘン、参る」
半獣化してホットアドレナリンを飲み干す。
「6分で、決着をつけましょう」
ディンゴは、一気に懐に飛び込み左の拳打を見舞い――いや、その一撃は、その巨大な盾――甲羅が防いだ。
「やる!」
蟹は胸元のコアを隠すように腹を地面につける。
そして、両手のはさみをふりあげたかと思うと、化け蟹はすかさずはさみをふるった。あまりのすさまじさに、烈風すら襲ってきた。そして、風の通り過ぎた後には、地面につきささったはさみがあった。
さすがに人間の体であったらのならば、まちがいなく串刺しになっていたであろうスピードであったろう。しかし、変身している獣人たちにとっては対応できるレベルだ。
だから、こんなことを言い出すヤツまで出てくる。
「食べ応えがありそうだな」
沢蟹を食べるつもりでいたタケシ本郷(fa1790)は目の前の蟹に舌なめずりをした。
蟹に憑いたNWだ。この手の敵はけっして強くはない(弱いわけではない)のが相場となっている。それに、がまんはできてもお腹がすいている事実に変わりはない。
そう、目の前にいるのは敵ではない。獲物だ!
かくして、つぎつぎと襲いかかる獣たちは、あたかも巨大な象に襲い掛かる野獣の群れだ。飛ばされても、飛ばされても他の誰かが襲い掛かってくる。さらにたちの悪いことに空から襲い掛かってくる者までいる。
さすがの巨体も数の暴力に屈した。よろよろとなったかと思うと、ひとりに向かって蟹が腹を見せた、そのまま覆いかぶさってきた。それを受けとめ、にやりと笑う。
身をかがめて顔を腕を覆っている。大抵の攻撃はカバーできる醍醐の得意技だ。そして、それをいま応用する。
覆いかぶさった蟹を押し返す!
筋肉のもりあがり、静脈の浮かんだ腕が全身をばねとして持ち上げる。
「うぉー!?」
その巨体が持ち上がったかと思うと、一気に転がった。
「チャンス!」
獣の姿をした狩人たちがNWの生命のもとを見つけ出し、佐渡川の爪がコアを抉り出した。
「‥‥ふん!」
その瞬間、NWは大きく体をゆらしながら倒れていった。
山田がぱちぱちと手をたたく。
「いっちばん!」
しかし、その拍手を聞いていたい者がどれほどいたろうか。舌なめずりした獣の群れは、巨大な蟹をらんらんとしたまなざしで見つめている。
そして、食べかかろうとした瞬間――
「なによ、これ!」
神楽が悲鳴をあげた。まわりでは三倍醤油とお箸を手にしたタケシをはじめ、食欠児童たちの群れが真っ白になって、茫然としたまま立ち尽くしている。
粉砕された外骨格から覗く肉塊――もはやそれがかつて蟹であったとは信じがたい、腐臭を放つ白くぶよぶよとした物体。その、あまりの姿に獣たちの本能は理性に駆逐された。
木枯らしが吹き、どこからか琵琶の音がした。
祗園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理を顕す 奢れる者も久しからず 只 春の夜の夢の如し 猛き人も遂には滅び 偏に風の前の塵のごとし
ち〜ん。