決戦はクリスマス!?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 まれのぞみ
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/23〜12/27

●本文

「あら、お仕事?」
 いつものこととて、すでに山手線の始発が動き出す時間になっている。
 ようやくクリスマスの生放送番組用の資料がまとまった。ひと眠りをしよう。その後で、スタッフを集めて、この資料の再検討をして‥‥
 ぼーとした頭で本日の予定を考えているところで、入り口のドアがばんと開き、同僚の女が戻ってきたのだ。
 朝帰りなのか出勤なのか微妙なころあいだが、その格好を見て理解できた。
「はいはい、しがないわたくしめは昨晩からお仕事のつづきでございましたよ。それで、昨晩は、どこでお過ごしで?」
 あくびをしながら朝帰りの女の相手をする。
「たしか、めずらしくスタッフの男連中と忘年会に行くと叫んでいたのは覚えていますが?」
「ふふふふ‥‥男なんて汚らわしい生き物なんてどうでもいいのよ! 女の子たちを呼び寄せるエサにしかすぎないのだから! それにしてもあの娘ったら‥‥夜の小悪魔が朝には、あんなかわいい子猫ちゃんになるなんて思わなかったわ‥‥」
 頬を赤く染め、うっとりと表情で女は語る。
 そんなことは、誰も聞いていない。
「はいはい、ご自慢はあとで聞いてあげますよ、ぼくはクリスマス企画の最終打ち合わせが9時からあるんですから、いいかげん仮眠をとらせてください」
 こちらも、そんな話は聞いていなし、そもそも聞こえてもいないようだ。
「そうよ、クリスマス! クリスマス! クリスマス! きぃー! 絶対に許せない。昨晩もそうだったけれど、もうあの娘も、この娘もクリスマスは男とつきあうって言っていたわ! きぃー! かわいい女の子たちが男どもといちゃつくつなんて許せない! 襲撃させたいわ!」
 ハンカチをかみながら、地団駄踏む。
 とたん、表情が変わる。
「‥‥って企画を考えているんだけど、どうかしら?」
「そんなことをやったら、完全に犯罪じゃないですか! 警察に捕まりますよ!?」
「まあ、そこはそれ。テレビ用の企画として場所と参加者を募集するわよ」
 口ぶりのわりに、そのまなざしは本気のものだ。
「武器の持込は禁止ですからね」
「あら、残念!」
 その言葉は絶対にウソ。
「それで、どんな風に撮りたいんですか?」
「そうね。ラブラブなカップルの風景をいくつも――参加者の数によるわよ――写して、そこへアンチ・クリスマスの連中が襲来。かくして戦いははじまった――という流れがいいかしら? そして、恋人をかばいながら戦うカップルたち。やがて、ひとりひとり倒れてゆき、最後に残ったひとりは‥‥て、これで恋愛ものが好きな女性層、バトルものが好きな男性層を確保! 完璧な企画じゃない!?」
「本気で言っています?」
「もちろん! C級映画は史上最高の映画作品群であるって断言するくらい本気で言っているわよ!」
「はぁ‥‥」
 すでに相手をする気にもなれない。
「いいわいいわよ! 男どもは戦いあって、たがいに滅びればいいのよ!」
 ほほほほほとハイテンションな高笑いをする。
「いつも思うんですけれど先輩って実はダークサ‥‥」
 ドカァ!
「さあ、今回もいってみようか!」
 元気一杯、三十路すぎの女は年甲斐もなくはしゃぐのであった。

●今回の参加者

 fa0484 林檎(18歳・♀・鴉)
 fa0748 ビスタ・メーベルナッハ(15歳・♀・狐)
 fa0862 虎真(20歳・♂・猫)
 fa1242 小野田有馬(37歳・♂・猫)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3652 紗原 馨(17歳・♀・狐)
 fa4905 森里碧(16歳・♀・一角獣)
 fa5019 大河内・魁(23歳・♂・蝙蝠)
 fa5242 水葉・勇実(23歳・♂・アライグマ)
 fa5258 壱嶋 響時(18歳・♂・兎)

●リプレイ本文

 時報が鳴り、性なる‥‥もとい、聖なる夜の番組が開始される。
 スポットライトの下、椅子に腰掛け、長い足を組んだ佐渡川ススム(fa3134) の語りから番組ははじまった。
「こんばんは。佐渡川です。俺なんか先日『むぅでぃー』な夜を過ごそうとしたら、ボコボコにされて木に吊されましたよ? なのに巷ではクリスマス一色に浮かれおってー!! 嫉妬と羨望と悪ノリの名の元に、世のカップルを根絶やしにしてくれる! いくぞ虎真(fa0862) やん! まずはあのカップルからだっ!!」
 しゃんしゃんしゃんと鈴が鳴り響き、夜の繁華街が映し出される。
 いつものように東京の夜はにぎやかだが、今日の空気はどこかいつもとちがう。木々はイルミネーションに飾られ、赤いサンタ姿も散見される。それになにより、普段よりも行きかう恋人たちの姿が多い。
 そう、きょうはクリスマス。
 キリスト教徒にとっては教祖の誕生日を祝い、家族たちが集い愛を育む日なのだが、ここ日本では恋人たちが愛を育む日となっている。
「皆で遊べてよかったよね」
 そんな声がしたかと思うと、笑い声をあげながら四人組が近づいてきた。
 壱嶋 響時(fa5258) と紗原 馨(fa3652)と森里碧(fa4905) が楽しくおしゃべりをしていて、その後ろ、一歩さがった場所をビスタ・メーベルナッハ(fa0748) が微笑みながらついてくる。
 人ごみにまぎれ、ばらばらになってしまいそうなハプニングもあったりしたが、恋人たちには、そんなこともデートというイベントにとってはよいスパイスだったようだ。もちろんいいスパイスがあれば、悪いスパイスもあるわけで、ウィンドショッピングをしたりしているうちに、誰かのおなかがぐー。クリスマスとはいってもお腹はすく。ちょうどそこへ、街角の店から香ばしいスパイスの薫りがしてきた。
「インドカレーの店か‥‥」
 クリスマスらしくない夕食の選択だが、同時にだからこそ店の中はすいているようであった。
「四人座れるかな?」
「座れるみたいだね。この店でいいかな? 初めての店だし、味はどうだろう?」
 グループ行動では重要な点である。
「あら、この前のパーティーの夜によった店だよね。ビスタさん? スパイスがきいたおいしいカレーだったよね」
 メガネをした年下の女性が首を縦にふっただけで応え、響時が首をひねって言葉を口にした。
「パーティーって?」
「ほら、学祭の時、響時さんとのデートをすっぽかしてビスタさんとデートを‥‥」
 言いかけて、馨の表情も変わった。
「その日って、確か家の用事があるとか言って‥‥ウソをいったの!?」
「ビスタさん‥‥」
「えッ?」
「それに、ビスタさん、あなただって、ぼくとつき合いながら‥‥!」
 響時の目には、憎しみの色があった。
「なんのことかしら?」
 髪をもてあそびながらビスタはあらぬかたに目をやった。
「目を見て語ってください!」
 響時は叫ぶ。
 まるで小動物が精一杯の虚勢をはって天敵に立ち向かっているかのようである。しかし、その様子に年下のはずの少女はくすりと笑って、瞳に嗜虐的な色を浮かべた。
「いいじゃない、だって馨さんってばこんなに可愛いんだもの♪」
 ぎゅっと背後から馨に抱きつくと、ビスタは、挑発するように目を細める。
 やがて、その手はゆっくり、ゆっくりと馨の胸元を厭らしく撫で回し、あたかも白い蛇が少女の体をまさぐるように、しだいに下へと向かっていく。
 馨の頬が染まり、唇を硬く閉じたにもかかわらず、その声が、甘く、切なげ――
 突然、画面が暗転。
 そして、小鳥がさえずり、小川の流れる映像となった。
 画面のスーパーには、こんなことが書かれている――公衆良俗に反する表現があったことをおわびいたします。
 さて、CMが途中に入って再開。
 なにがあったのかはよくわからないが、ビスタがこんどは、響時にもたれかかってみせていた。そして、片手では、その細い指先が、まるでネコをあやすように馨の首から唇にかけてをもてあそんでいる。
 とりあえずは、年下の少年、少女をたぶらかす魔女の姿がそこにはあったのは確かである。そして、魔女のそばには聖女がいた。
「そ、そんな‥‥」
 碧の瞳に涙がたまって、うるうるとなる。
「お二人は純愛なのですよね?」
 ぽつりと、小さな唇から、質問という形をした追求の言葉がもれる。
「秘めた淡い恋だったのですよね?
 やばいという表情が、まわりの三人に浮かんだ。
「聖なる夜に清らかな愛を誓おうとしてましたよね?」
 碧の背後にどすぐろい炎が燃え上がる。
「私達はいつまでも仲良しですよね?」
 と、そこへ爆音を鳴り響かせ、ギターをかきなら――口パクだが――演歌のごとき音程でロックを歌う連中があらわれた。
「メリークリスマスだ‥‥この野郎!」
 いきなりパイのプレゼント。
 残念ながらはずれ。
 つづけざまに水鉄砲だ!
「貴方達は誰ですか?」
 その攻撃に響時が問いかけで応じるが、その声は小さく、無視されてしまう。そもそも、それどころではないらしい。
「ああ、それは見ちゃダメだからね‥‥」
 虎真が水鉄砲を撃つのをやめて、バイクの背後で悪夢のつまった袋に興味を持った通りすがりの子供をさとしていた。
「よーよーお二人さん、こんな寒いのにあったかそうじゃねぇか?」
 相棒は置いて、模擬刀を手にした佐渡川がどすをきかせてみる。
「大事なところなんだよ、邪魔をしないで!」
 馨が食って掛かると、佐渡川から刀をぶんどった。
「皆、落ち着いて!」
 響時が声をかけるが、当然、誰の耳にもとどかず、貧弱なので吹っ飛ばされてしまった。
「あら、あなた強いのね‥‥逞しい男って好きよ♪」
 頭から水に濡れ、すっかりいやらしい目つきになった魔女の手がのびると、佐渡川と虎真のふとももに手を近づけ――画面にはでかでかと丸禁の文字が大写しになった。
 なにがあったのかはわからないが、つぎのシーンにはもはやサンタの服を半分ぬがされ、顔を真っ赤にした二人組みは、胸元もあらわな姿になっていた。
 そんなふたりの耳元に、ぬれた唇が淫靡な言葉をつむぐ。
「愛は誰にでも分け隔てなく平等にあるべきモノ‥‥そうでしょ? 勿論、あなたにも‥‥ねぇ‥‥今から一緒に、皆でイ・イ・コ・ト・しましょ‥‥♪」
 どんな魔術か、魔女の手にかかるとサンタたちの服ははがされ、気がつけば、佐渡川は褌一丁になってしまう。女狐は獲物たちを前に舌なめずりをする。
「待ってください!」
 ひとりを忘れていた。
 碧が、ブラックサンタたちを、きっと睨んだ。
「な、なんだ‥‥よ」
 その眼光のあまりのすさまじさに、サンタたちも言葉をにごしてしまった。
「貴方は護る物の為、清さの敵と闘うのですね?」
「はい?」
「純愛、家族愛、無私の愛、聖夜に相応しい愛の為ですね?」
 ぎろりと愛憎のもつれる三人をこんどはにらむ。
 聖なる夜に裁きをもたらすため地上に舞い降りた天使が宣告した。
「ヨゴレならば討ちます‥‥完膚なきまでに! ヨゴレが伝染って倒れぬうちに」
 スカートがめくりあがり、少女の手には巨大なハンマーが収まっていた。そして、それが振り上げられ――
「邪まなヨゴレなど‥‥滅びればいい!」

 ※

 一転、静かな公園になった。
 しかし、その風景には十字のマークが重なっている。それは大河内・魁(fa5019) の
のぞきこむスコープ越しの景色であったのだ。
「ちっ‥‥」
 と舌打ちがもれる。
 スコープ越しには、ベンチに腰掛け愛を語り合うカップル、照明の下で抱き合うカップル、あるいは木々の影で、その愛情を確かめ合う者たちさえいる。
 指を突き動かしたい衝動にかられながらも待つこと数分、この場面の主人公たちが歩いてきた。
 水葉・勇実(fa5242)と林檎(fa0484)である。
 まるで初々しいふたり。あたかも友達以上恋人未満の男女が、そこにはいる。その演技は、あまりにも自然で、どこまで演技なのか地なのか傍目にはわからない。
 あるいは本人たちにも――
「急に呼び出したり悪かったね? ちゃんと来てくれて嬉しいよ」
「勇実に呼ばれたからではなくて、丁度予定が開いていたから、ご一緒するだけです‥‥」
 水葉が、そんな風にからかい林檎が口をとがらせる。
 そして、なんだかんだで歩き出すと、しだいに無口になっていく。
 しばらく何も言わずに歩くと、水葉が手を差し出した。その手を見て、ちょっと、とまどったような表情をした林檎は水葉の顔を見返す。水葉は微笑んで返し、林檎は、意を決したようにその手を握った。ただ、その指先はかすかに震え、躊躇するように一瞬だけ動きを止めたりした演技はみごとなものだ。
 そして、にぎりあった互いの指の冷たさに。ふたりは顔を見合わせ、なんとはなしに苦笑し、笑い、やがて晴れやかな表情となった。すこし、いたずらっぽく笑うと林檎は水葉の腕に腕をからませた。今度は水葉がすこし戸惑う番だ。
 このふたりには、ブラックサンタたちも目をつけたのだが、あまりにも初々しい姿――演技だけだと思えないほどだ――に虎真が持ち前の小心ぶりを発揮して、このふたりを襲撃するのはやめたという裏話がある。もっとも、そのおかげでの先ほどの喜劇なのではあるが‥‥
「ちょっと、あなた!」
 突然、ふたりに声をかけてきた者がいた。
 街灯のもとに姿を現したのは、夜だというのにサングラスをしている女だ。水商売系のような雰囲気でロングコートを身にまとっている。
「だれです?」
「だれよ、その女!」
 小野田有馬(fa1242) が叫んだ。
 きーとうなり声をあげて、一方的に因縁をつける。
「あたしとは遊びだったのね!」
 背後から発泡でできたモーニングスターを取り出すと、小野田が攻撃を仕掛けてきた。林檎をかばいながら水葉が刀を抜いた。
 ちゃんちゃんばらばら。
 カメラワークの巧みさもあるのだろう。あるいは、時代劇の殺陣を呼んできたおかげか、その戦いぶりは手に汗を握るみごとなものだ。
 水葉の後ろでは拳銃を握った林檎が撃つタイミングを見計らっている。
 まだ、異種格闘めいたちゃんばらはつづく。
 いつしか、あたりには雪が舞い散り始めていた。
 と、水葉が足をすべらせた。
 その頭にモーニングスター(発泡スチロール)が襲い掛かる。
 水葉が目を閉じた。
 永遠にも思える時間が流れ――水葉は目を開けた。
「えッ?」
 見知らぬ女は倒れていた。
 背後では、目を見開き、拳銃を持った両手をわななかせる林檎の姿があった。銃口のさきから白い煙が昇っている。
「林檎さん‥‥」
 感極まった、そんな表情をして水葉は林檎をその腕に抱こうとした。
「‥‥え‥‥――!?」
 その瞬間、林檎の胸に銃弾(の形をしたコルク)が命中した。
 一瞬、頭の中が空白となり――おいしい演出をするようにと直感と体が告げている――そのまま倒れこんだ。
 ビルの上では仕事を終えた魁が十字を切り、その場を後にする。
 その画面には音はない。ただ、モノクロな画像が去っていく男を映している。
 本当であるのならば、スポンジを使った銃弾が使われる予定であったのだが、遠距離を飛ぶようにとの美術スタッフのアイデアからコルクの銃弾が与えられたの。
 血の代わりにケチャップを胸につけ、あたりにはトマトジュースを撒き散らした状態にしてエンディングを開始。
「林檎さん!」
 哀しげな音楽が流れる中に水葉の叫びが重なる。
「勇実‥‥」
 うっすらと目を開け林檎が弱々しく、その名前をつぶやくと、片手が力なく空をさまよい、愛しい人を求めた。
「林檎さん!?」
 水葉は林檎の手をとり、涙を流す。
 雪が散り始めていた。
「勇実の手‥‥暖かい――」
 林檎のまぶたが閉じ、メガネの上に雪が積もっていく。
「林檎‥‥――!?」
 この絶叫で終われば最高のエンディングであったかもしれない。
 しかし、これはバラエティー番組。
 そんな場所へハンマーに追われたサンタたちが乱入してきた。
 ふんどし一丁になった佐渡川と、それをおとりにして逃げるはずだったが、なぜかその後で再会してしまったというシチュエーションの虎真が金色に塗られたハンマーをぶんまわす天使に追われている。
 あたりを逃げ回り、すべてをぶち壊し、雰囲気さえも粉砕してしまった。BGMもコントによくあるような気分を高揚させるようなテンポの音楽になっている。
「あのねぇ!?」
 思わず林檎が生き返って、エンディング。

 ※

「‥‥だれよ、こんなくさいシナリオを書いたのは! しかも、こんなエンディングを私が許すと思っているの! 撮りなおしよ! 撮りなおし!」
 できあがった映像を見たプロデューサーの怒声が試写室に響き渡ったのは後日のことである。もっとも、女史の知人と目される人物――本人は強く否定――はつぎのように証言している。
「まあ、かわいい女の子を番組でゲットできなかったらしいから、それで荒れていただけなんですけどね」