竹取物語アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
まれのぞみ
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/08〜03/12
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●本文
「ええっと、こんどからの新番組のことなんですぅけどぉ」
アニメのキャラクターヴォイスを思い出させる、舌足らずな声が聞こえてきた。
「日本や中国、あるいは西洋の古典を司会の解説の合間にドラマ風のコントをからめながら放映することになりました。題名はこてんコテン古典となっています」
肩でそろえた髪が、一言ごとに左右に揺れ、その表情には、すこし緊張した面持ちながらも、情熱を秘めた瞳が、大きな丸いメガネの下できらきらとかがやいている。
「放映時間は夜十時くらいで、対象とするのは社会人。中学や高校の頃に国語の時間で習ったけれど、それっきりという人たちに見てもらいたいと考えています。実際に社会に出てみると、かつて読んだ、あるいは読んだ気になっていた古典の意義や意味も変わってくると思いますし――」
まるで学生が教授にレポートを説明しているかのようでもある。それというのも、プロデューサーというには、多分に幼ささせ感じさせる女の容貌のせいだろう。
「ふづきちゃん、高校生とか受験生向?」
「だから受験生には、そういう人向けの番組がありますぅ。できれば、そういう人たちには見てもらわなくてもいい、そんな番組にしたいですぅ」
むぎゅっとこぶしをにぎり、プロデューサーは熱弁をふるった。
「それで、初回はなにをやるんですかな?」
「初回ですし、日本人ならばなじみのある作品にしようかと思っていますぅ」
「なんですか?」
「古事記‥‥と言いたいところですが、まあ、上司からにらまれそうなので、竹取物語なんてどうでしょうか?」
「まあ、さしさわりのない選択だな」
「ところで、竹取物語のどこをクローズアップしたいんだい?」
「五人の求婚者と帝、翁。それと姫の関係という部分に視点をあてたいと思います。竹取物語を恋愛物として読み直す‥‥という趣旨ですぅ」
「求婚者達と帝はわかるが、翁?」
「親子といっても、血は繋がっていませんわ」
「つまり、恋愛物をやってみたいと?」
「私案ですぅ。会議で、よりおもしろい企画内容があったら、それにしたがいますぅ」
●リプレイ本文
「竹。パンダ生まれる。当然」
三条院真尋(fa1081)の真摯なナレーションが、その画面に重なった。
その瞬間、新番組をつけていた人たちは、目をぱちくりさせ、あぜんとしたうえで、バカらしいと思ったか、それとも笑ったかで、それからの評価は変わったであろう。
それは新番組「こてんコテン古典」のOPでのできごとであった。
光る竹を見つけた、桐尾 人志(fa2341)の演じるところの翁がかぐや姫を見つけたシーンだ。
「おー! 金色の竹の中にー! 金色に光るッ‥‥パンダぁ?」
翁は大げさに驚いてみせて、右向け右。
逃げるな! と画面を見ながら、突っ込んだ視聴者も多いだろう。
「チョット! ココハ大切ニ連レ帰ル所デショ?」
おもわずパンダが翁の背中に声をかける。
「だってパン‥‥否! 確かに愛らしい!」
振り返ると、パンダのぬいぐるみを抱きかかえ、翁はにやりと笑った。モノローグが、その画面に重なる。
(「これだけ可愛らしけりゃあ、お偉いさんに嫁がせて大出世、金子も貢がせて大金持ち‥‥ケーケッケッケ。よっしゃア! 姫さんはババーに預けて政界進出や――!?」)
「そう。かぐや姫との邂逅は夫の野望を存分に擽ってしまったのでございます」
その頃、家のリングではマイクを片手に嫗役である桐尾の相方、河田 柾也(fa2340)
がナレーションをやっていた。そこへ、翁がパンダ‥‥もとい姫を連れてくる。
「お帰りなさい、あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し? ‥‥って、なによ、その娘は! 私というものがありながら、どこのパンダと浮気をしてきたというのよ!」
翁をリングへ引きずり上げ、ジャイアントスイング。そして、マットに翁が倒れたところへ、フライングボディアタックをかませた。翁はダウン! まあ、そんなこんなで夫婦間の(全身を使った)会話は終了。
「そう、そんなことがあったの。じゃあ、この娘は『なよ竹のかぐや姫』ね」
※
ふだんはミュージシャンをやっている司会の女性があいさつをする。その横では、解説の老教授の目が笑っている。
「‥‥それにしても、野心家の翁ですね」
「もちろん原作では、こんな人物ではありませんがね。それに、かぐや姫という名前も嫗ではなく三室戸齋部秋田という人物を呼んでつけさしているんですね」
「そうなんですか? そういえば、この後、成長したかぐや姫は、たしか結婚を申し込んだ男たちに無理難題を言うんでしたね」
「ええ。それでは、見ていきましょう」
※
「はや!」
嫗がうなると、その場面では、すでに成長したパンダが笹を食べていた。もとい、大人になったかぐや姫が食事をしていた。
そんなところへ翁がぞろぞろと人を連れてやってくる。
「さぁ、来よった。来よったぞ、わしの金づ‥‥」
嫗のハリセンが一閃、翁の頭を叩いた。
「さあて、いらっしゃったのは、お前さんの婚約者だよ」
なにか言いたげなかぐや姫の口をふさぎ、夫婦が勝手に司会をはじめた。
「一目あった、その日から!」
「恋の花咲くときもある!」
ちなみに配役は
石作皇子‥‥瀬名 優月(fa2820)
右大臣阿倍御主人‥‥咲夜(fa2997)
大伴御行の大納言‥‥結(fa2724)
中納言石上麻呂‥‥リーベ(fa2554)
帝‥‥‥‥‥‥‥‥高邑静流(fa0051)
となっている。
「さて、私だね」
手鏡をとりだし、髪の形を確認。ちょっと気になるという調子で化粧をしなおして、石作皇子が登場。
ふりふりをつけ、どこかかわいさを強調した直衣姿である。
そうでなくとも、男装の麗人の姿は美しいのに、なにか幼さと妙齢のアンマッチが奇妙なまでの色香を匂わせている。鏡を見る目も、また愛しいものを見る目となっている。
この人物は、かぐや姫に、仏の御石の鉢を探すようにといわれている。
探しにゆかせた部下が戻ってきた。
手には鉢がある。
「おおぅ、なんて美しいものなのだ! まるで私のように――」
感極まったといった調子で叫び、石作皇子は鉢を手にしながらうっとりしている間に、場面は転換、かぐや姫にもとについた。
鉢をさしだされ、かぐや姫は、おかしなものを見るような目つきで鉢を眺める。
やがて、鉢の中をのぞきこみ、ぽつり。
「‥‥なぜ、外国のものに日本語が書かれているのでしょうか?」
「どういうことですかな?」
「日本製と書いてありますよ?」
「それが、どうしました? これが仏の御石である真実の前では、そんな事実は意味はありませんよ! 私が美しいという真実と同じように、この鉢は仏の御石である。それで、いいじゃないですか!」
「いや、その理論はおかしい」
そう言って、姫は貴族に退場を願った。
「姫には、これのよさを見る目がなかったのだな」
そういい残して、麗人は画面から去っていくのであった。
つづいて、麗人というよりも美しい顔立ちの男装の少女があらわれた。
(「お堅い題材のわりには萌えキャラで来ますね」)
たぶん、その画面を見たとき、チャット状態となっていたインターネット上の掲示板で、そう書き込んだ者も多かっただろう。
小柄な背丈に貴族風の着物を身にまとい、まるで――本人曰く――七五三のような姿だ。右大臣阿倍御主人である。
こんどの難題は、火鼠の裘を見つけてこいというものである。
「さて、どこにあるものかな?」
どうしたものかと迷っていると、黒子が手紙をもってきた。
一読、
「そうか、唐土にあるのか!」
甲高い少女の声が、男の台詞を語る。
というわけで部下を呼び出し、とって来いと命ずる。
部下が画面の端に行き、黒子からなにやら受け取ると戻ってきた。
「はや、数年、戻ってきたか!」
能の舞台がそうであるように、安部御主人がその言葉を口にすると、場面は転換したこととなる。
さて、部下が唐土の地で火鼠の裘を買ってきたと聞き、物を見、大喜び。どう見ても年頃の少女が喜んでいる姿に見えて微笑ましい。
そのままの姿で姫のもとへ行く。
「もってきました!」
あいかわず竹を食べていたパンダが、めんどくさそうに箱のように大きな作り物のライターで、それに火をつけた。火鼠の裘というのは不燃性の布でできているというのである。そして、それは当然、めらめらと燃え‥‥たように見えたのは、背後で夫婦の扮した黒子が赤い布をゆらしたからである。
「残念でした、またどうぞ〜!」
夫婦の声が、むなしくひびく。
残念無念。
「Curse you!」
甲高い、そのくせ甘い声で叫び、他の貴族を呪うと、安部は退場となった。
さて、ついで出てくる男装の麗人は、豊満な肢体に直衣を身に着けている。大伴御行の大納言である。
(「おいおい、彼女ってもっと胸があったろ?」)
(「さらしをしているに決まっているだろ。さっきの娘もそうだけれど、その胸をむりやり押さえているに決まっているさ。ハァハァ」)
(「つまり、苦しさですこし顔を赤らめてだな‥‥ハァハァ」)
なにか、ネットからヘンな空気を感じるが、気のせいだろう。
この者は、竜の首の珠をとりにいくことになる。
「さあ、行くぞ!」
その声もいさましく、船が漕ぎ出した。
そして、画面は一転。
頭から作り物の昆布をかぶり、お腹をつめものでふくらませ、顔には痛々しいくまが描かれている。
(あぁ、せっかくの美人がおいたわしや‥‥)
(いやいや、美人の痴態というのもまた格別の味がある!)
「財産をみんな使って家来にとってこいと言ったのに、誰もとってこないんだもんなぁ。自分で行ってみれば、この結果だ。殺されるかと思ったよ、海は荒れるし、雷は落ちるし‥‥本当、死ぬかと思った。ああぁ! こんな思いをするのならば、結婚しなくていいや!」
と言って、画面から去っていった。
最後に姿をあらわしたのは青い目の貴人であった。中納言石上麻呂である。彼は子安貝を探してくるように言われている。
部下がやってきて、中納言の耳元に、一言、二言。しだいしだいに石上麻呂の表情が変わっていく。部下の入れ知恵に思い当たるふしがあったのであろう。あまりのうれしさに、着ていた着物をくれてやり、褒美とした。
そして、別の部下に籠を用意させ、載り、ライトもまぶしいスタジオの天井へと上っていく。これまた紙でできたツバメの巣を発見、そっと手をのばし、なにかを触り、わっと! と叫んだとたん、彼はそのまま落ちてしまい‥‥ひらり。
(「見かけによらず、運動神経がいい娘だな!」)
失敗したといった具合に、思わず舌が出てしまった。歳相応の少女がやりそうな、やばっという表情である。あわてて猫娘は転がり、痛がるふりをしながら、退場となった。
すると、いつの間にか脇にあった御簾があがり、帝が登場となった。
※
(「萌え、萌え、萌え〜♪)
もはやネット上はプチ祭り状態となっていた。
美女や美少女の男装姿がつづき、男も女も老いはなくとも、若い者たちの中には、
(「もう、萌え氏んでもいい」)
と書き込む者までいる始末である。
すでに番組は、もともとの狙いとはちがった方向で評価されているようであった。
番組では教授の解説がはじまっている。
「なかなか、おもしろいコントでしたね。実際のところ、原作もまたコントとは違った意味で貴族たちにはそれぞれの人間味を感じます。このコントでは出てこなかった車持皇子――偽造品を作らせた人物ですが――は、それが偽物であることがバレると、そのまま行方知らずになりますし、自分でとりに行き、結局は結婚をやめたと言っていた大伴御行の大納言は、実際のところ妻とも別れ、かぐや姫の為に屋敷まで建てていますが、自分が行く勇気がなかったせいもあるようですが、竜の珠を手に入れることができんかった部下たちを逆に褒めていたりします。
「汝等よくもて來ずなりぬ。龍は鳴神の類にてこそありけれ。それが玉をとらんとて、そこらの人々の害せられなんとしけり。まして龍を捕へたらましかば、またこともなく我は害せられなまし。よく捕へずなりにけり。かぐや姫てふ大盜人のやつが、人を殺さんとするなりけり。家のあたりだに今は通らじ。男どもゝなありきそ」
という強がりぶりには個人的に――男としてなのですが――微苦笑したくなります。いつの時代になっても男は男。賢明なる子女にありましては、どうぞ、この愚かなる者どもを、お笑い、そしてお許しくださいませ」
※
月がでた。
パンダの目に、再びもとい、かぐや姫の目に涙が浮かぶ。
さきほど、帝にもふもふとセクハラを働かれたから‥‥ではなく、彼女を向かえに月から使者がくるというのだ。
いったいいかなる罪によるものか、姫は月を追放されたのだという。
「そのわりには、金にはこまらないような、いいご身分で‥‥」
嫗のハリセンが再び炸裂した。
なんにしろ、姫を月に帰すわけにはいかないというわけで帝みずからが手配して兵たちがかぐや姫を囲む。
ライトが落ち、神秘的なミュージックがかかったかと思うと、
(「お、おぅ!」)
さきほどまで男装の麗人を演じた女性陣が、こんどは凛々しくも、美しい女官姿で顔をだす。
素肌も見えそうな白い衣をまとい、中国の古典的な舞踏で登場しそうな羽衣を羽織り、目許には黒、口元は朱の化粧をして、先ほどとは反対にそれぞれの女性としての美しさをきわだせ、映えさせている。
(「しかし、これだけ美姫をそろえてしまうと、かぐや姫の美しさをどうやって表現して、めだたせる気なんだ?」)
(「いや、パンダという時点でめだっていると思うが?」)
(「パンダが、羽衣を着るわけか?」)
さて、そんな外野の声など無視して、リーベ演じる天女が赤い服をとりだす。
(「チャイナ服?」)
そして、かぐや姫に着せようと悪戦苦闘がありはしたものの、チャイナ服を着せられた途端、姫の姿がパンダから人の姿となった。
(「おいおい、こんな番組でCGを使いますか?)」
違います。
チャイナ服を身に着けた中性的な美貌の姫は、丸いメガネをかけると、冷たい一瞥を育ての親に向けた。
(「ツンデレだよ、ツンデレ!」)
そして、チャイナ服のすそから、その白い素足がのぞかせ、ハイヒールをひるがえし、育ての親のもとから去っていった。
(「ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほし悲しと思しつる事も失せぬ。この衣着つる人は物思もなくなりにければ、車に乘りて百人許天人具して昇りぬ」)
かぐや姫のナレーションによって、原作の一文が読まれ、天女たちは穢土を去っていく。
その後を翁が追う。
「わしの金づるがぁぁぁっぁ!?」
そんな翁を嫗の巨大ハリセンがはたいて終演となった。
※
「‥‥そういえば、今回の劇の設定は、壬申の乱の後という設定でしたが?」
「実際、どうなんでしょうね? 皇子たちの名前が壬申の乱時の功臣からつけられた。つまり、竹取物語には政治的な意図があったのではないか? という学説があるのは確かですが、真実は、はてさて?」
ちゃめっけたっぷりな教授の苦笑に司会の女性が歌うエンディングの音楽が重なり、スポットライトが落ちた。番組の最後にこんな声が入ってくる。
「原作では、かぐや姫が帝に送った贈り物の薬を焼いた煙がいつまでもたなびいていたって言うから、この物語が作られた頃、富士山は噴煙をあげるほどの活火山だったことが伺える。古の物語ってこういうところがおもしろいよね。あれ、なに、このマイク? えッ、音が入っている? 番組で使うって、ちょっとまってくださよ!」
※
「こてんコテン古典」では、皆様のリクエストをお待ちしています。