花粉症に効くものは?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 まれのぞみ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/12〜04/16

●本文

 大きなくしゃみがして、彼は目を覚ました。
(「いまは、いつだっけかな?」)
 まだ半睡の頭をゆらし、呑み掛けのコーヒーを口にする。
(「すっかり冷たくなっているな‥‥」)
 はたして、それが何時間、あるいは何十時間前に煎れたものであったかなどは考えないことにする。すでに昼夜逆転どころか一日が何十時間だったかさえ怪しい日々をおくり、眠る時間すらもままならぬまま企画を書いて、会議をやって、スタッフ、芸能人とのあいだをとりもって番組を撮って、最初に戻る。
 一日とか一週間とか一ヶ月、あるいは一年などとはちがった単位で生きる生活となってしまっている。
 ただ、気持ちはそうであっても体は正直だ。
 目の前では、同じような生活パターンをしている女がくしゃみを連発していた。
 男から見ても、こんなときの彼女には色気のいの字もない。
 そして、彼女にとっては世界中のどんな男も、そこらへんの木石も同じなのである。だから、そんな無防備な姿を見せることができる。
「今年は花粉がすくないっていったのは、どこのどいつよ〜」
 鼻をティッシュでかみながら、鼻声で女は文句をたれた。
「国民病ですからね。年中行事だと思ってあきらめるしかないでしょ?」
 ポットのコーヒーを煎れなおす。
「花粉症じゃないヤツは、いつも、そういう奇麗事を言う!」
「奇麗事って‥‥」
「そんな風なやさしげなことをいうから、男なんてキライだ!」
「前後の文脈が繋がっていませんから‥‥」
「と、まあ、冗談はともかく、おはよう。いまが何時かは知らないけれどね。それで、なにか夢の世界でいいネタをさがしてこれたかしら?」
「ぜんぜん‥‥」
 肩をすくめて、こんどは暖かなコーヒーを飲む。
「それにしても花粉症じゃない人がうらやましいわよ」
「こんな生活をしているんですから、なるのも時間の問題ですよ。それでも、歌手で花粉症で歌えないって人もあまり聞きませんね」
「そりゃあ、薬なんかでどうにかするでしょ?」
「本当に?」
「本当って‥‥なにを言いたいの?」
「いや、さすがプロたちだなと思ったんですよ。そういう方々だから、薬だけじゃなくて、いろいろな療法を試しているのかな? とね。個人的には、どういう方法で対応しているか聞いてみたいものです」
「プロのね‥‥」
 鼻水をすすりながら、そうつぶやき、ふいに彼女の顔がかがやいた。
「そうね、話を聞いてみるのもいいかもしれないわね」
 そういって、彼女は企画書を書き始めるのだった。
『プロの教える花粉対処法』
 と――

●今回の参加者

 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa1681 木野菜種(23歳・♀・亀)
 fa2172 駒沢ロビン(23歳・♂・小鳥)
 fa2177 縞八重子(27歳・♀・アライグマ)
 fa2396 海風 礼二郎(13歳・♂・蝙蝠)
 fa2615 有木 孝仁(23歳・♂・竜)
 fa2968 吉田 美弥(12歳・♀・猫)
 fa3393 堀川陽菜(16歳・♀・狐)

●リプレイ本文

 残業続きの毎日。
 おかげでテレビ番組を見るなどとはご無沙汰になってしまった。
 きょうもきょうとて、深夜に帰宅して、リモコンでチャンネルを合わせると、ちょうどなにかの番組がはじまったところであった。
 どこかで聞いたことがあるアニメ番組の音楽――わざわざ番組用に作るよりも、既存の音楽を使った方が安いのだ――にのってOP。
「花粉症‥‥それは特定の花粉によって起きるアレルギー疾患の一つ。
 IgE抗体と肥満細胞が結合すると出るヒスタミンが、涙や鼻水を脳に出すよう働きかけ、花粉を追い出そうとする。ロイコトリエンは鼻の中の血管を膨らませて、炎症を起こし鼻づまりを起こす。
 主にスギ、ヒノキなどの花粉症が多いが、最近ではブタクサ、ヨモギ、稲などの花粉でも起きることがある‥‥今の時期以外でくしゃみ・鼻水が頻繁に出るようだと要注意!
 現在、日本人の15%、都市部は20%の人が花粉症で、現時さらに増加中‥‥」
 ナース姿の見覚えのない女性――あとで知ったが堀川陽菜(fa3393)という女優だという――がレポートを報告している。見ため淑やかな容姿のメガネっ娘であるので、白い清楚なイメージをかもしだしたいのかもしれないが、それにしては妙にスカートの丈は短く、かつカメラアングルが低いのはなんの意図があるのだろうか?
(「白い衣装がいいって言ったら、こんなのがきました。しくしく」)
 どうやら、疲れているらしく幻聴まで聞こえてきた。
「とまあ、これがあたしが調べた花粉症の簡単な調査です。今現在の対処法としては‥‥マスクやゴーグルをして花粉の侵入を防ぐ、抗ヒスタミン薬やステロイドによる抑制、鼻の奥を薬で焼く、花粉を注入して慣れさせる――等ですが、他にも、甜茶、シソ、ヨーグルト、青汁、落花生の皮(渋皮)、豆乳、タマネギ、キンカン(のどにいいらしい)、酢、ノニ、ローズヒップ、ダイコン、バナナ3本‥‥最後のバナナ3本というのは何なんでしょうかね?」
 ナースがくすりと笑った。狙った演技とは思えない、かわいらしい微笑だ。
「他にもまだまだあるようですが、民間療法の場合、即効性のあるのは少ないようですね。」
「はい、よくできました」
 と、縞八重子(fa2177)が拍手をした。
 医務室をイメージしたらしいスタジオのセットで、メガネをかけた知的な顔立ちの縞が白い衣装をまとった姿はたしかに女医に見える。メガネを中指でなおし、にっこりと笑うと、どこか媚びたような笑みには見えるのは、あきらかにカメラワークと演出の効果だろう。黒のスカートから伸びた細い足を組むと、スカートの中がのぞけそなきわどいカットまである。
 それにしても、二人とも、よく似合う‥‥というか、二人の衣装はどこから借りてきたんだ?
 深夜ということで、どうやら、そちらの需要を狙ったとしか思えないカメラワークがつづく。ある意味で、引きとしては完璧であったかもしれない。
「今年は花粉の量が少なかったからあまり影響なかったのよね〜
 まぁ、去年は酷かったんで、その時の対処法を言いますか‥‥
 去年は‥‥本当に酷かったわね〜。一度マスクを持って行くのを忘れてとあるアミューズメントパークに取材に出かけたら、そこに大量の花粉をつけている杉林が‥‥一日酷い目にあったわよ!
 だから、対処法としては、マスクにゴーグル‥‥あとは花粉が付きにくい服装に帽子。家には空気清浄機と花粉除去できるスプレーかしら?
 根本的な解決法は‥‥スギの木を全て伐採‥‥は無理だから、花粉の飛散する量そのものを減らすって言う実験もはじめてるらしいわね。
 もっとも、杉を減らしたところで、あたしは関係ないんだけど‥‥だって、あたしはヒノキの花粉症の方が酷いから‥‥みんなもアレルゲン検査をした方がいいわよ〜」
 忠告なのか、告白なのか、そんなことを女医が語ると、看護士の格好をした有木 孝仁(fa2615)が病院を模した部屋へと入ってきた。助手的な立場で、さまざまな患者から花粉症のことを聞いてくるというという役どころらしい‥‥
「こんな患者さんがきました」
 といって、駒沢ロビン(fa2172)を部屋に招きいれた。
 女医と相対するような格好で駒沢は丸椅子に座る。
「こんにちは。あんまり花粉症の症状がきつくない俺の話で役に立つかは解りませんが‥‥花粉症は、歌えなくなるのが辛いです。予防の基本はやっぱり、空気や衣服、目などの洗浄だと思います。空気については我侭言えませんけど、それ以外についてはなるべく花粉を持ち込まない、触れたらすぐに洗い流せるように目薬やウェットティッシュを常備して‥‥食生活を整えたり、お茶も効くんですよ!ハーブティーがお薦めです」
「正論ね」
 ぼそりと女医が応えた。
「‥‥え、あ、面白いほうがいいんですか? え、えーと、それじゃ以上の行動を、は、裸で!」
 思わず服を脱ぎかけた駒沢の頭をバッチン!
 有木のハリセンが飛んだ。
 そして、そのままCMに突入。
「‥‥まず免疫から、なんて‥‥いえ、なんでもないです‥‥」
 CMがあけると、作り物のたんこぶを頭につけ、女医の冷たい視線におびえるようにロビンが話をつづける。
「あ、そうそう! 双子の友人は片方が凄い花粉症なんですけど、仕事に差し支えるくらいひどい時は、花粉症じゃないほうの子が代理で出るそうですよ。凄いですよね〜‥‥」
「何の解決にもなってないじゃない?」
「‥‥でもバストのサイズが凄く違うからすぐバレるんですよ!」
(「さてと落ちもついたし、シャワーでもあびに行くか」)
 で、戻ってくると、こんどはちょうど恋人ぽい配役の男女が部屋に入ってきたところだった。ベクサー・マカンダル(fa0824)と海風 礼二郎(fa2396)のコンビだ。男女のコンビという特性を生かして、シチュエーションとしては花粉症の合方を気にして、恋人が医者のところに連れてきたといったところらしい。
 とりあえず、食事の支度をしながら画面を見る。
「花粉症って辛いよね。いや、私は花粉症じゃないんだけどね。相方がね、若い身空でね、カワイソーに花粉症なのよ」
「あら、そうなの? それで、対象方法は考えているのかしら?」
 じゃあ〜ん!
「鼻水クシャミにお困りの方にはね、このね、私が故郷の南米から持ってきた秘薬、花粉ゲキメツ緑メケメケ的ゲルドラッグがお勧めよん」
 そういって少女はカラシの詰まったビンを袋から取り出し、海風の目の周りに塗りつける。
「イタイイタイ」
 と呻きながら転がる相方に、
「まだ目、かゆい?」
 と聞く。
(「おいおい‥‥」)
 ベクサーの瞳に宿る、なんともサディスティックな色に戸惑い、しかし、どこかでぞっとするほどの色気を覚える。
 少年をいたぶるようにして少女が、こんど取り出したのは練りワサビのチューブ。
 さすがにやばいと思ったのか、それを見て逃げ出そうとする海風を、後ろからアメフトばりのタックルで押し倒し、イヤがる少年の鼻にチューブをつっこんでグリグリ入れる。しばらくバタバタと激しくブレイクダンスのように暴れていた海風だが、そのうち動かなくなる。
 ばたん。
 それを見下ろして、
「ホントに花粉症って大変ですね」
 とベクサーはカメラ目線で微笑んだ。
 凶悪なまでにかわいらしい微笑みであり、それはまちがいなく堕天使の寵愛の育んだ笑みに違いなかった。
 つづいて入ってきた患者は――誰の趣味であるのはか不明だが――赤い着物をきたギター女侍、木野菜種(fa1681)であった。
「あ、花粉の対処法よね? 花粉に限らず、アレルギーに悩まされていた人は昔から居たみたいで‥‥さて、時は元禄15年」
 ぼろん――とギターの弦をつま弾く。
「赤穂浪士たちが江戸市中に潜んでいた頃、さる浪士はくしゃみに悩まされていたとかいないとか」
 ぼろん♪
「いざ討ち入りの時にくしゃみが出てはかなわないと原因を調べましたる所、何といつも通る道すがらに咲き誇る花たちがどうやらそうではないかと判明いたしまして!」
 じゃん♪ と弦が鳴る。
「そこで通る道を変えて近寄らぬようにしてみるとあら不思議。みるみるうちにくしゃみがおさまってきたではないかと(ぼろん♪)
「おかげで支障きたすこともなく、無事に討ち入りを果たせたのでございます。以上、赤穂浪士の討ち入り異聞の段でございました」
 じゃじゃん♪
「‥‥え、結論? だからね、原因に近付かないことよ。この時期、あたし自宅で作詞作曲に集中して、あんまり出歩かないようにしてるから。おかげで生まれてこの方、花粉症とは無縁よ」
 そういって木野はその場を去ろうとして、ふとふりかえり、
「そうそう、知ってる? 講談師、見てきたような嘘を吐きってね」
 そういって着物の女性の口元に、くすりといたずらっぽい笑み浮かべていた。
「先生、どうなんでしょうかね?」
 有木が女医に尋ねる。
「どうって?」
「江戸時代の人も花粉症には苦労したんでしょうかね? 伝統的な花粉症対策とかあるんでしょうかね?」
「残念ながら、江戸時代には花粉症はなかったのよね」
「なかった?」
「正確には記録が残っていないのよね」
「そうなんですか?」
 ナースが首をかしげる。
「だから、逆説的に花粉症を現代病であると考えることが可能なのよ」
 時計を見ると、そろそろ終わりの時間である。さてと、食事にするか‥‥って、呑み掛けの発泡酒を、吹いた。
 最後に出てて来たのは、エプロンに尻尾のついた黒いドレス。しかもご丁寧にもネコ耳とカチューシャまでつけたメイドさんであったのだ。
 どこをどう見てもコミケ会場か、メイド喫茶かといういでたちである。
(「こんな格好をよくも事務所が許したな?」)
 それはすべて事務所の計算づくでのキャラづくりであるらしい。ミヤーこと吉田 美弥(fa2968)である。
 ミャーはにゃんにゃんといいながら三人に語る。
「花粉症対策を教えてほしいとニャ? アイドルはイメージダウンに繋がる行動は禁じられているニャ。だからアイドルはトイレに行かないし、花粉症だってかからないニャ」
 ‥‥‥‥。
 場の空気が確かに凍てついた。
「これじゃあ納得できないかニャ? じゃあ、語尾に「ニャ」をつけて話すといいニャ。その時に鼻をピクッと動かす様に意識するのが重要なポイントニャ。 こんな風に鼻に刺激を与える事で、アレルギー特有の、異物に対して過敏に反応する働きを抑える事が可能になるニャ。一回やってみるニャ。せーの――」
 と、他の参加者にも一緒にと促す。
「ニャ!」
 恥ずかしそうにやると、口をとがらせる。
「違うニャ。もう一回やるニャ!」
 みんなで顔を見合わせ、それでも芸人は芸人らしく、
「はい、せーの‥‥」
 にゃん?
 女性陣の自信満々だったり、ノリノリだったり、恥ずかしそうなにゃんにゃんシーンがラストカットとなった。

 ※

「それで、こんだけ女性をクローズアップして、どこが花粉症の番組だったんですか?」 翌日、男は企画だけ書いて、あとは縞に丸投げした同僚を見やった。
「もちろん、私の趣味に決まっているじゃない!」
 といって、企画書をあげた女は高笑いするのであった。