太平洋探検隊ロケハン編南北アメリカ

種類 ショート
担当 まれのぞみ
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/09〜05/13

●本文

「こんどの仕事だが‥‥」
 そういって撮影隊の責任者がミーティングルームの君達の顔を見た。そして、全員の顔を確認すると手元の書類に目をやる。仕事に不向きな者がいれば、その場から即座に退出するように宣言することをためらわない男である。すくなくとも、今回のミッション‥‥もとい撮影には能力的に不可はないと判断したのだろう。
「太平洋氏の【太平洋探検隊・第一回ロケ・水晶どくろの謎を追え!】という番組だ。 うん? ――当然のことながらこの企画は本人の許諾はとっていないので、あしからず。って、なんだ、この注意書きは?」
 そういって男はあきれたような表情をしたがすぐに、顔をあらためた。
「なんにしろ太平洋氏をはじめとした、他のスタッフがくるまでに撮影ポイントのロケハンをすることが我々の目的だ」
 そういって男は南アメリカの地図をとりだし、目的地を指差した。
「こんなところに遺跡がありましたっけ?」
 バイトの青年が手をあげた。
「最近、見つかったばかりの遺跡だそうだ。詳細はそれこそ現地に飛んでからでないとわからないそうだから、本当に謎の遺跡だな」
 そういって男が苦笑すると、静寂がスタッフルームをつつんだ。
「詳細って、どれくらいまでの詳細なんです?」
「太平氏をはじめとする出演者および他のスタッフたちの撮影がこまらない程度の詳細さに決まっているだろ!」
 そう言って、かすれたコピーがスタッフにはまわされた。
 現地の言葉で書かれた書類らしくなにが書いてあるのかはわからない。さらに一枚、こんどは手書きの訳が渡された。要約すると、
「遺跡は地下に広がっており、内部には侵入者を拒むような、様々なギミックが施されている。丸太が転がってきたり、飛び石の上を渡らなきゃいけなかったり、切り立った壁をロッククライミングの要領で這い上がる必要がある」等とのことである。
 男は最後に、こう言った。
「まあ、たいがいはなんとかなると信じているがな。なお、もしもの時には、敵ならびに障害は、これを全力をもって排除し、ロケハンを敢行せよ!」

●今回の参加者

 fa0107 桐谷たつ(18歳・♀・猫)
 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0402 横田新子(26歳・♀・狸)
 fa0696 ボルティオ・コブラ(28歳・♂・蛇)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2748 醍醐・千太郎(30歳・♂・熊)
 fa3464 金田まゆら(24歳・♀・兎)

●リプレイ本文

 遺跡から数時間ほど離れた場所のことである。
 子供たちがわいわい言いながら集まってきている。その中心には大きな白い塊‥‥ではなく、白ウサギのきぐるみがいた。
 看板を手に持ち、周囲に愛嬌をふりまき、ふりまき場所を探している。
 やがて、ここがいいかな‥‥
 といった動作をして、子供達を喜ばせ、看板を地面に突き刺す。
 その看板には、日本語で、こう書かれていた。
『遺跡迄徒歩三時間』
 そして、作業を終えると、うさぎは子供達にバイバイと手をふる。
「kigurumi! kigurumi!」
 あたりでは子供たちの褐色の肌が揺れ、楽しそうに声をはずませて、その別れを惜しんでいた。

 ※

(「これでも子供の頃は冒険家に憧れていてね。よく探検ごっこを悪ガキ仲間とやったものさ。まさか大人になって、夢が叶うとはな」)
 醍醐・千太郎(fa2748)は、ふと心の中で、そうつぶやくと、ひとり苦笑した。
 普段はプロレスラーとしてリングの上をビジネスの場とする醍醐が、その日、仕事として選んだのは、けして日の光があたらぬロケハンという仕事であった。
 ロケハンの舞台となるのは南米の遺跡。
 しかも、まだそのすべてを調べつくしてはいないという代物であった。
 その場に足を踏み入れると、醍醐の心の中の高揚はリングの上のものとは微妙にちがってはいても、確かにハートのビートを刻んでいた。
 これこそ子供の日に夢見た風景!
「遺跡いっちばん乗りー♪ ぴゃー、ドキドキだねぇ?」
 背後から、ベス(fa0877)の歓声があがっている。
 すでに背中から照りつけるまぶしい太陽の日差しが長い影となって遺跡の中にのびる。 ひんやりとした遺跡に入ると、暗い石造りの周囲をミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)や桐谷たつ(fa0107)のヘッドランプのライトが照らす。
 ここが、明日からのリングだ。
 そう、明日からの――
「遺跡内での寝泊りは基本的に反対デス。ダンジョンは行って帰って深めていくのが常道デスわ」
 そんなミカエラの意見が通り、一通りの確認が終わると皆で遺跡の外に出ることとなっているのだ。実際問題として、ロケハンとしては無理をする必要はない。あとから来る撮影隊の為に下準備をする。村人たちと交渉をしたり――これはプロデューサーの方でやってくれていた――遺跡の地図を書いたり、撮影箇所のチェックをしたり、明日からは大変な日々だ。
 最後に遺跡を出ようとしたボルティオ・コブラ(fa0696)の足が止まった。
「どうした?」
 醍醐が振り返る。
(「いや、なにか気配を‥‥まあ、いい」)
 母国語で、そうつぶやくとコブラは醍醐に、なんでもないと日本語で応えていた。そして、ふたりが出て行くと、遺跡にはかさかさという微かな音だけが残っているのであった。

 ※

 翌朝となる――
 その朝、ロケハンの面々は、日本人ならば誰もが――とりわけ小学校の夏休みに――聞いたことのある音楽に、たたき起こされることとなった。
 いや、その音楽にあわせてついつい体が動いてしまったといった方が正しいかもしれない。横田新子(fa0402)が日本から持ってきたラジオ体操のCDをフルボリュームでかけていたのだ。
 南米に鳴り響くラジオ体操の音楽と体操。しかも、その後で出された食事は横田がわざわざ日本から運んできたお米と味噌汁なのだ。それに、漬物と納豆。まさに、ここだけはニホンの香りがする。昨晩、最後の見張りとなっていた角倉・雨神名(fa2640)の青い目も、その時ばかりは赤い色が浮かんでいた。見張りのついでにと横田に誘われて朝食作りまでやらされたのだ。ところで食事の味はどうであったろうか?
 角倉の表情が、すこし心配げだ。
 朝食をとりながらのミーティングとなる。
「遺跡内部でなら獣化は可能だろう。できる状況なら完全獣化で行こう」
 コブラの覆面をした男が仲間達に、そう言った。
 幸い、彼の言葉によって案内人は、すでに帰っている。
 それというのも、南米の生まれであり、ルチャドールの彼がいたことで、現地の人間たちいともは簡単にかれらを信じてくれたのだ。村人たちの中には、彼を崇拝の目で見るものすらいたほどである。いかにも南米らしい逸話であろう。
 食事を終え、全員で遺跡に入っていく。
 すでにかれらの姿は人のそれではなく獣人のそれとなっている。
 ただ、桐谷ら完全獣人がいるなかにも、半獣になったり、きぐるみであったり‥‥えっ?
 半日ほど、遺跡を巡る。
 やがて、あたりの空気が変わってきた。
 廊下の途中にロープが張られていた。
『これより先に進むものは希望を捨てよ――』
 なにかのゲームからの引用らしい言葉が――もちろん現地の言語で――紙に殴り書きされて、ロープにぶらさがっていた。
 ここで休憩することになる。
「疲れた時には甘いものだよね♪」
 トロピカルジュースを水筒にいれてきたベスが仲間に、ジュースを配った。
 やれやれ――
 と、皆が体を伸ばしていると、ウサギ姿の金田まゆら(fa3464)の耳がぴーんとなった。
「なにか音がする!」
「なんの?」
「さわさわという音がする!」
「な、何かいるのかな‥‥? 正体確かめなきゃ‥‥でも、ぐす、怖いよっ‥‥――」
 角倉が言葉をなくした。本当であるのならば、この後、気の利いた怪談ネタでも披露するつもりであったが、それどころではないようだ。
「休息は後回しノよネ!」
 ミカエラの黒い羽がばさりと広がり、好きではないけれどというつぶやきとともに、その姿は完全な獣のものへと変わる。
 角倉と金田を守るような円陣が組まれた。
「来るぞ!」
 コブラが叫んだ。
 それは‥‥それらが来た。
「きゃあ!」
 悲鳴があがった。
 ベスと横田と角倉と金田‥‥と、まあ、主に女性陣からだ。
 わさわさと地上をうめつくし、まるで砂が襲ってくるかのように、それらは近づいてきた。太古から地上に生きつづける由緒ある生物であり、人類が滅んでさえもその生存が予言される生物。
「ゴ、ゴキブリ!!!!!!!!!!!!!!」
 遺跡中に悲鳴が響き渡った。
 なにが悲しくて、地球の裏側の謎の遺跡にきてまで日本でも戦える――しかも、自宅でさえも可能な――敵と戦わねばならないのだろうか・
「0レベルの敵か!」
 醍醐は苦笑した。
 獣化してまで戦う相手ではない。
 踏めばつぶせる相手なのだ。
 なのだが――
「ああ〜ん、まだまだくるよ!」
(女性にとっては)阿鼻叫喚の地獄絵図である。
 足元から迫り、あるいは飛び交い、黒くかがやく虫たちがロケハンの面々を襲う。対抗する方は、半分やけっぱち、もう涙目である。こんな敵と戦うはずではなかったのだ。
 なんにしろ肉体的よりもはるかに精神的にきつい戦いとなってしまった。
 別にゴキブリだからとは気にしないコブラと醍醐にとってはたんなる害虫退治でしかないが、それが天敵の者たちにとって、それはどんな敵によりも嫌な存在であったろう。
 そう、つづいてかれらの前にあらわれた敵よりも――
「ほぉ――」
 仲間たちの様子にあきれていた醍醐は、視線を背後に向けた。
 遺跡の角から、ぬっと、それが姿をあらわす。巨大な昆虫である。もとは甲虫かなにかであろうか。その額には不気味なかがやきがある。
「なるほどな」
 コブラは、その青白いかがやきをにらんだ。
(「エサだ! エサだ! エサだ!」)
 とばかりに、そいつがきぃきぃというかなぎり声をあげると、わらわらと遺跡の奥から黒い群れがあふれてきた。こいつがゴキブリたちを呼び出したのだ。
 女たちの背後に蜃気楼の業火が燃え、目をぎらりと光らせると、彼女たちはその虫をにらんだ。
 もし、それに知能というものがあったのならば、あるいはその知能が本能レベルでもあったのならば、その後の悲劇は起こらなかったかもしれない。
 だが、いくらNWになろうが、虫は虫である。
 抹殺! 撲殺! 滅殺!
 文字どうりの意味の戦いが繰りひろげられることとなった。しかし、それがはたしてそれは戦闘と呼ぶにふさわしいものであったかどうかはわからない。
 殴る、蹴る、ぶったたく!
 相手に反撃をする隙さえ見せない。
 まさに血が頭に昇った獣たちによる、それはまさに虐殺であった。
 そして、戦いという名前の破壊衝動が収まると、あたりにはゴキブリの姿が消えていた。へたへたと座り込んでしまう。
「疲れた‥‥」
 なんともいえない疲労感がロケハンを襲った。
「地図はどこまでできている?」
 なかば投げやりな調子で桐谷が聞いた。
「途中まで――」
「まあ、いいか‥‥」
 ということで、とぼとぼと遺跡の外へと向かう。
 この段階でもはや変身を解くのも億劫となっていた。それに、案内人は村に帰って誰もいないという安心感もあった。
 そして、それが落とし穴であった。
「しまっ――た!」
 遺跡の外へ一歩出ると、場の空気が凍てついた。
 そこには案内人と数人の村人たちがいたのである。獣化した姿をふつうの人間に見られてしまった。
 しばらくの静寂――
 ここで疑問が起こる。
 なぜ村へ帰ったはずの案内人が戻ってきて、しかも連れがいるのかということである。実は、コブラの説得で村へ戻ったあと――かれら獣人であることなど知るはずもない――案内人に対して、村人たちのあいだで、かれらの英雄であるルチャドールを置いてきぼりにしたことが大問題となったのである。そこで、あわてて有志の村人たちが彼の世話をするべくやってきたのである。
 緊張の瞬間がつづく。
 と、うさぎが動いた。
 そして、きぐるみの大きな頭をとった。
 実は、この娘、きぐるみの中で獣化していたのだ。
 中からは、変身を解いた、かわいらしい顔の東洋の少女が顔をだす。
「ふぅ‥‥」
 額の汗を手でぬぐうと、金田の長い髪が揺れ、きらきらとかがやく汗が飛び散った。それは、昨日のうさぎのきぐるみ師であった。
 現地の男たちは大笑いして、ロケハンの面々の肩を叩いた。
「Oh! kigurumi! kigurumi!」

 ※

 後日談。

「あ、おはようございます」
 横田が、その番組のプロデューサーと再会したのは日本に帰ってからのことであった。局内の喫茶店に入り、コーヒーを飲みながら、しばらく、遺跡でのできごとに花が咲く。「そういえば――」
 と、横田の声が自然と小さくなる。
「報告書は読んでいただきました? あの遺跡にはNWがいたんですよね。あのあと、どうしたものかと思ったのですが?」
「あれ、こっちには、そんな話はこなかったけどさぁ?」
「えッ?」
 横田は固まった。
 どうやらスタッフの誰かのところで報告書――とりわけNWの件などの重要な部分だけがすっぽりと抜けて報告がいっていなかったのである。
 そして、その結果が――
 なんにしろ、最後までさすが太平洋氏の番組らしいエピソードでありエピローグであったといえよう。