【遺跡調査】湖底の兆しアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 13.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 09/22〜09/28

●本文

 約半月前のことだ。
 中国、驪山の麓にある有名な温泉地の水が突然涸れた。
 底に穴があいて、始皇帝にも愛された華清池は無惨な湖底を曝している。

 事件は全世界にビックニュースとして報じられた。
 湖が涸れた原因は、水脈の変化だとか地震の影響とか温泉地の拡張工事中のミスだとか旧日本軍の秘密兵器のせいだとか様々な噂が囁かれた。聞いた所では、WEAが真相を誤魔化す為に流した誤報もあるらしい。

 割れた湖底には地下に続く入口が発見されており、WEAは、この場所をギリシャに続く第二の謎の遺跡として重要視している。
 すぐにでも遺跡調査が開始されると思われたが、WEAは暫く沈黙することを選んだ。
 ビックニュースとして報じられた事で華清池は一般人の注目を集めている。その状況で遺跡調査を行い、なにか事件が起これば、WEAが最も望まない結果を引き起こしかねない。

「‥‥時期が悪かったね。WEAはギリシャに注目していて、始皇帝陵はいわばおまけだったんだ」
 まさかあんな事件になるとはな、とWEAに協力する某大学教授が自嘲気味に呟く。
「それじゃあ、調査は出来ないんですか?」
「‥‥大丈夫だろう。今すぐには無理だが、WEAは中国政府とは良好な関係と聞いている。何とかする筈だよ」
 WEAは大国の政府すら動かすのかと、質問した青年はうすら寒い気分を味わったが、教授はそんな単純な話じゃないと苦笑した。
「世界は色んなところで繋がっているんだよ。一方的なものじゃない」
 中国政府とWEAの利害がどこかで一致しているのだ。
「と言いますと?」
「そう、例えばね‥‥」

 遺跡の影響からか西安近郊でNWの仕業と思われる怪事件が起きている。
 市民に被害が出ている上、現地には華清池の異変を調べに来たジャーナリストもいるので事件の悪化が懸念されている。
 WEAから、速やかに西安近郊のNWを排除するよう依頼が来た。当然ながら、ジャーナリスト達に飯のタネを与えないように注意しなければならない。

 場所:西安近郊、驪山付近
 被害者:10名以上、詳細不明
 NWの数:不明
 注意事項:付近には異変を調べに来た各国のジャーナリストが居る。

●今回の参加者

 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa4040 蕪木薫(29歳・♀・熊)
 fa4060 猫宮・牡丹(15歳・♂・猫)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)
 fa4319 キバ(12歳・♂・犬)

●リプレイ本文

「始皇帝の焚書は、ナイトウォーカーに対抗する為だったと言ったら、信じるかね?」
「‥‥は?」
 教授の言葉に、男は意表を突かれた。
「当時の人々が情報生命体の事を解明していたとはとても疑わしいがね、WEAの中には、そうした見方で彼に注目していた者もいるという事だよ」


「秘密を守るためにか、話が大きいよね。アヤ達だけでやれるのかな?」
 プロレスラーの泉 彩佳(fa1890)が言った。売り出し中の女子高生レスラー。リングの外では大人しめな彼女だが、正体はベテランのNWハンターだ。
「持ちつ持たれつなら、協力を要請できると思うけど大丈夫かなぁ」
「そのために今、蕪木さん達が西安の観光局に向っている訳ですから。私達はそれまで準備ですよ」
 撮影機材を運びながら、唄歌いのパトリシア(fa3800)が言う。アヤより更に一つ、二つ若いこの少女も実戦を経験していると誰が思うか。
「私の仕事はNW退治だけですから‥‥ぇーっと、華清池の秘密保持の方はどうしようも無いです」
 マルチタレントの因幡 眠兎(fa4300)は微笑し、童顔で小柄な少女には似合わぬ無骨な鋼の得物を長持から取り出した。パティもコクリと頷く。
「はい。私達は、囮ですから」
 それは誇張でなく比喩でなく、自己犠牲でもなく、いわば宿命として彼女達が持つものだ。
 供物の獣であると同時に狩人。

 彼女達は遺跡の入口発見後、西安に出没するようになったナイトウォーカーを始末する為にWEAが派遣した獣人である。10人の予定だったが1人ドタキャンして9人。良くあることだ。
 表向きは驪山で西遊記のロケという事にした。
 撮影許可と協力要請のために、タレントの蕪木薫(fa4040)と路上格闘家の森里時雨(fa2002)の二人は西安観光局を訪れた。
「良く来てくれた。事情はご存知と思うが―」
「概略は。まず、我々が自由に動けるように肩書きを用意して頂きたい」
 男物スーツで正装した蕪木は事務的に用件を切り出した。今回の面子では最年長(三十路)。長身の押し出しの強さから交渉役を頼まれたのか。
「身分証も用意して貰えると助かりますが」
「待ちたまえ。勿論、可能な限りの便宜は図るが、大事になるのは避けて貰いたいのだ」
 中国側の役人は蕪木の案に難色を示した。
「駄目ですか?」
「華清池が注目されているこの時期に、日本のタレントが観光局とWEAの合同企画を宣伝するのは、如何にも芝居がかっている」
 別の効果が期待できなくも無いが、波風は立てたくない。
「‥‥実は中国人ですやん」
「嘘は止めたまえ」
 親密な関係というが現場レベルではこんなものか。いや、いきなり乗り込んだ事を考えるとこれでも破格の扱いと言えるのだろう。
「そちらの事情は分かります。観光ドラマのロケは許可してくれるのでしょう?」
 森里の問いに役人は少し間をおいて頷いた。
「しかし、大丈夫かね? 驪山でロケなどして、NWを刺激する危険は無いのか」
 危険はある。確実とも言い難いが、森里達は驪山と遺跡を封鎖する事を優先した。最初の目論見からはトーンダウンしたが、撮影許可と観光局公認の御墨付きは取り付ける。
「‥‥」
 帰り道、森里のスプリングトレノGTAを運転する蕪木は、観光局を出てから無言で助手席を温めている青年の顔を盗み見た。
(「こんな時やなかったらどっかに連れ込むのになあ‥‥」)
 脳内で苦笑する蕪木。視線に気付いた森里は蕪木に質問した。
「残してきたキバの事が気になりますか」
「危なく無いと言えば嘘になるけど、範囲が広いから‥‥仕方ないでしょう?」
 二人は格闘家見習いのキバ(fa4319)は西安の町に残してきた。キバは芸能人としてまだ無名である事を利用して地元の子供を装い、撹乱情報を流していた。
「心配事が多すぎるわな」
 蕪木が呟くと、森里も無言で頷いた。あんたの事やとツッコミが喉まででかかった。

 驪山で仲間と合流すると、すぐに西安に戻らなくてはならない蕪木は関係者に事情を説明しに行き、残された森里は撮影の裏方としてロケの準備に取り掛かった。
「森里、少し話があるのじゃが」
 DarkUnicorn(fa3622)が声をかける。NWハンターを生業とする白髪赤眼の少女は、実は年下である青年を見上げた。男の顔をじっと見つめて、溜息をつく。
「まだ気に病んでおるのか」
 森里とDarkUnicorn(ヒノト)の二人の報告より、およそ一月前にこの地の調査が行われた。
「あれはお主のせいでは無いぞ」
「‥‥」
 森里は無言で顔を逸らす。
「わしでも同じ結果になっておったじゃろう。偶々なったというだけで何でもかんでも、いっちょまえに独りで背負いこもうとするな‥じゃ。水臭いのじゃ。何の為にわしらが一緒に来て居ると思っているんじゃ」
 逸らした方に回りこんで、ヒノトはでこぴんを食らわせた。
「俺はっ‥‥!」
 あれは俺の不始末だと、その言葉を森里は飲み込んだ。今の彼は懺悔や弁解に意味を見出せない。森里の背後に、ゆらりと影が忍び寄る。
「猿丸流葬兵術奥義、【悶絶・虎馬抉衝】!」
 アマチュア芸人の佐渡川ススム(fa3134)は、森里の尻に必殺の一撃を叩き込んだ。
「☆#?※!!」
 完全なタイミングの不意打ち。森里は一瞬、星になる。
「はっはっはー。少年にそんな顔は似合わないぞー?」
 軽薄な笑いを浮かべる佐渡川。今回の面子では、蕪木に次ぐ年長者である。間違った意味での大人を体現したような青年だ。
「さすがは佐渡川‥‥じゃの」
 ヒノトは感心半分、呆れ半分で呟く。
 しかし、森里の表情は変わらなかった。誰が信じるだろう。NWを倒す為に放った時雨の一撃が湖底崩壊を招き、巨大な地下の入口を顕したのだと。
「‥‥あれま、こりゃ重傷だぞ」
 てっきり追いかけてくるかと逃げる準備をしていた佐渡川は頭をかいた。
「んーまぁ。硬いのはあそこだけで十分だってのに。俺のばーさまもよく言ってたよ、大事なのは硬さじゃないって」
「まったくよの」
 いつも小言を言うヒノトに肯定されて佐渡川は目を丸くした。
「これが‥‥愛?」
「戯言を言うておる場合か。森里のようなヘタレの蹴りが、華清池の数千年を破壊できるものか。あれは崩れる定めだったのじゃ」
 それを言っても、今の森里には気休めにもなるまいが。

「撮影中ですから、質問は少なめにお願いします」
 曲芸師のイルゼ・クヴァンツ(fa2910)は半獣化したままで記者達の前に姿を現した。西遊記のロケ、妖怪変化の扮装だから狼の耳や尻尾も違和感は少ない。
「地震で華清池が涸れたり、そのあと猛獣が出没しているという噂ですが、この時期に撮影なんて危険ではありませんか?」
「話題作りになりそうですね。‥‥不謹慎ですか?」
「不謹慎というか‥‥勇気がありますね。殺されるとか、恐くは無いんですか」
 イルゼは両手で握る2mの赤い長槍を見て答えた。
「もし襲われたら、この火尖鎗で焼き殺そうかと思うのですが」
 記者達から笑いが漏れた。まさか本物の宝貝とは思わないから、呆れている。勿論イルゼは本気だし、既に記者にNWが憑かれている可能性も考えた上で、この行動は豪胆を通り越す。
 この場でNWが実体化したら、証拠隠滅は不可能に近い。
 結果から述べれば、西安に来ていた記者の一人はこの時既に感染していたのだが、ある種の必然によってこの場の悲劇は回避された。
 NWは驪山よりも、より近い場所で獲物を発見していた。

 孤立は避け、仲間との連絡を密にする気でいた。
 ただ現実問題として、地元の子供に化けて記者達に情報を流すには、どうしても単独行動になる。
「キバっていいます。初のNW戦、気合入れて頑張りますっ!!」
 人懐こい笑顔で、そう自己紹介した少年は――西安の路地裏でひとり、必死に逃げていた。

「‥はっ! は、はぁはぁ‥‥っ!」

 通りに現れた記者に、それまでと同じように少年は最近の事件は猛獣がやったんだと話しかけた。
 半獣化を隠せるように帽子を目深にかぶり、長袖の服を着用して。
 だが、その変装に何ほどの意味があろうか。獣化により発散される餌の匂いが、殊更に天敵を引き寄せたようにすら思える。
 いきなり少年と喋っていた記者の口が鰐のように広がった。初撃を避けられたのは僥倖。懐のメリケンサックで反撃しようとせず、一目散に逃げたのは賢明だった。
 しかし、半獣化していても子供の足だ。爬虫類と人間の合いの子のような姿に変身した元記者にあっという間に距離を詰められ、キバは旧い城壁の前に追いつめられた。
「!!」
 少年は高い壁を背にして、悲鳴を押し殺した。
 この依頼は秘密保持が最優先。たとえ殺されようとも、叫び声をあげるなど許されない。少年は強い漢になりたかった。己の死を無様なものには出来ない。
「アホやね、けどガッツはあるなぁ」
 前方から声が聞こえた。子犬を追いつめていたNWが振り返る。反対側から疾風の如き影が近づいた。
「探したぞ!」
 俊敏脚足で脚力を強化した時雨がNWに飛び蹴りを喰らわす。先に姿を現した蕪木に意識を奪われていたNWはモロに攻撃を受けて吹っ飛んだ。
「貴様は俺自身の罪だ。‥‥滅べ」
 時雨は完全獣化し、人狼に変じていた。携帯で当局に連絡した蕪木がキバに駆け寄る。
「私と森里君でアレは押さえる。キバ君はこの辺りに人を入れないようにして」
「分かりましたっ。任せて下さい!」
 一緒に戦いたい気持ちを抑えてキバは頷き、駆け出した。蕪木も人熊に変身する。

「襲われた!?」
 当局から驪山のロケ地にも、西安でキバ達がNWに襲われた事が伝わった。
 カモフラージュの撮影中の事で、竜族の姫様の格好をしたアヤが孫悟空役の佐渡川と戦っていた。
「大変ですぇろさん、森里さん達がっ」
「ちょ‥‥この一大事にも『ぇろさん』な訳?」
 抗議する佐渡川に、信頼の証だと言い切るアヤ。
「そちらを狙われてしまいましたか。困った事態です」
 狼妖怪の格好をしたパティが言う。街中での戦闘は最も望まない展開だが、数も分からないNW相手に三人では危うい。
「わしが行こう」
 妖怪ウサヒメの格好でヒノトが言った。西安までは30キロ程。車は蕪木達が乗っていったので、後の移動手段と言えばヒノトと佐渡川が一台ずつバイクを持ってきていた。
「一人で行くのは危険だよ。‥‥でも、ここを空ける訳にも」
 と言ったのはミント。半獣化した彼女は紫のチャイナドレスを着て、青龍戟を肩から担いでいる。
 結局、皆で話してヒノトとパティを西安に行かせた。
「この事はジャーナリスト達に知られないようにしませんと」
 イルゼは記者達の様子を見に行った。念のため、護衛としてアヤがついていく。

 西安のNWはヒノト達が到着する前に、時雨がコアを破壊した。時雨も深く傷ついたが、一角獣の力で回復させる。死亡した記者の事は逃げ出した猛獣の仕業として片付けられた。
 当局は後始末に苦慮し、獣人達は追われるように驪山を後にした。
 ただ、この事件と華清池を関連付ける者は居らず、興味を分散する事には成功したと言える。