【遺跡調査】湖底潜入アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 1Lv以上
獣人 7Lv以上
難度 難しい
報酬 117.7万円
参加人数 12人
サポート 0人
期間 11/13〜11/19

●本文

 10月末。中国驪山の麓。
 TVでハロウィン特番をやっていた頃。
「どこ付けてもハロウィンかよ‥‥俺、かぼちゃ嫌いなのによ」
「その割には、嬉しそうだな」
「まあな。食べ物の好みは別にして、お祭り騒ぎは嫌いじゃないさ。辛気臭いよりは、活気があるのがいいに決まってる」
 これは噂というか与太の類だが、ハロウィンはWEAが意図的に広めたという説がある。
 ハロウィンはカボチャ(元々は蕪)の他に、お化けと怪物も縁が深い。
 怪物の夜とも呼べるこの祭日は、如何にも獣人向きだった。事実として、ハロウィンの前後には獣化OKの仕事が増えた。
 日頃獣化できなくて不満を溜め、ハロウィンを心待ちにする者もいるらしい。
「別に俺は一生獣化出来なくても困らないぜ」
「ナイトウォーカーに襲われてもか?」
「いやそれは困る」
「‥‥なぁ、一体、俺達の本性はどっちなんだろうな? 獣なのか人間なのか‥‥」
「そんな事は考えるだけ無駄だぞ」
 突き詰めれば、彼らは人でなく獣でもないが、だからといって怪物とは思いたくない。
 本性など、元より答えの無い質問だが、それを知る為に遺跡調査に赴く獣人も少なくないという。遺跡から発掘されるオーパーツが人間では扱えず獣人にしか反応しないのも、何か理由があるはずだ。
 獣人を執拗に狙うナイトウォーカーならば、或いは答えを知るかもしれないが、ナイトウォーカーと意思疎通が成立した例は皆無だった。
「‥‥」
 無駄口を叩いていた獣人達は、翌日には疑問から解放された。

「華清池のWEAの調査員が全滅‥‥?」
「連中は何度同じような報告をすれば気が済む。危機管理を云々する以前の問題だ!」
「アレがギリシャと同じものなら、中にいるのは我々の天敵だ。いつ外に溢れ出しても不思議はない。いつまでも同じ事を繰り返すわけにはいかんぞ」
 中国当局とWEAは議論の末、ともかく一度調べる他は無いという結論に達した。
「彼らに、遺跡に潜って貰うしかあるまい」
 穴の開いた湖底の周囲は封鎖されて、遺跡の入口は未だ手付かずだ。誰も蛇穴に手を出そうとはしなかった。しかし、隠していても被害は拡大している。
「‥‥無茶を通り越して声も無いよ。死にに行くようなものだな」

 WEAから、華清池湖底に現れた遺跡を調査する依頼が来た。
 表向きは華清池の陥没を調べる調査隊に怪我のため欠員が出たための増員である。
 西安近郊では今も度々NWによるものと思われる怪事件が起きている。
 遺跡では何が起こるか分からない為、少数精鋭で臨むという事だった。言葉は良いが、要するに決死隊だ。


 場所:中国西安近郊、驪山の麓にある華清池
 目的:九龍湖の湖底より出現した遺跡の調査
 注意事項:遺跡にはNWが潜んでいる可能性が高い。

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)

●リプレイ本文

―― Requiem aeternam dona eis.Domine,
 et lux perpetua luceat eis ――

 黄砂舞う大地に歌声が響く。
 銀色の髪の少女が、想いをこめて鎮魂歌(レクイエム)を謳う。
「‥‥行くぞ」
「待って」
 スーツ姿できちんとネクタイを絞め、右手に日本刀を携えて、獣の耳をはやした少女――唄歌いのパトリシア(fa3800)は仲間達の背中を追う。
「頑張って、みんなで生きて帰ってきましょうね」
「‥‥当たり前だ」


 中国。西安。
 WEAの仕事を請けた獣人達は、この城壁に囲まれた古都市を訪れた。
「看護班を手配してくれ。一角獣のバックアップが要るんだ」
 プロレスラーのタケシ本郷(fa1790)は、出迎えたWEAのエージェントに追加人員を頼んだ。
「待機班には十分な医療スタッフを用意した」
「‥‥一緒に突入はさせられないか。ま、しょうがねえな」
 本郷も自分達が決死隊だという事は承知している。死ぬ気は無いが、客観的に見れば明後日が全員の通夜でも不思議とは思わない。
「ミッションに変更は無いか? だったら追加情報と死んだ連中のデータを回してくれ」
「‥‥まったく、ハロウィンはとっくに終わったてのに、俺達は相も変わらず化物相手かよ」
 コートを羽織った俳優の片倉 神無(fa3678)が横から資料を覗き込む。
「本郷。えらく張り切ってるが、まさか良い所見せようとか思ってんじゃねえだろうな」
「冗談だろ。資料に難癖付けて早く帰れないかと思ってた所だぜ」
 こと格闘においては獣化すれば超人と化す本郷の偽らざる本心だ。彼らを含めて12名のメンバーは選り抜きの精鋭だが、それでも勝算は見えてこない。
「おっさん、俺は図書館を当たってみるけど出発は何時になります?」
 学生路上格闘家の森里時雨(fa2002)が怪しい敬語で片倉に訊いた。
「何時ってお前、出発は明日の朝だ。コンディションは整えとけよ、明日は地獄だからな」
「分かってます」
 神妙な顔で頷く森里の顔はまだ幼さが残る。
「高校生が決死隊とは世も末だ‥‥」
 溜息をつきながら片倉は煙草に火をつける。確か森里とあと二人未成年だった筈だ。

「‥‥うーん。調査の時はヨーロッパの方にいたから無関心だったけど、コッチはコッチで色々在ったんだね〜〜」
 資料調べに同行したアクション俳優の九条・運(fa0378)は華清池枯渇や、その後起きている西安付近の連続猟奇事件に関する記事を見ていた。
「こっちでは結構大きいニュースになってんだね」
「この猟奇事件て、本当にNWの仕業なの?」
 と聞いたのは興味本位でついてきたタレントのベルシード(fa0190)。眉間に皺を寄せてWEAの事件記録を調べていた森里が顔をあげる。
「‥‥多分そうです」
 森里は先日、西安で記者に感染したNWと戦った。数ヶ月前の始皇帝陵の調査以来、この地には多くの獣人が出入りし、そして何人も殺されているらしい。
 WEAと中国当局は事実をひた隠しにしているが、数が多いため隠蔽もままならず、殺された獣人やNWに感染された動物や一般人の変死体の事が何度かニュースを賑わせている。
「それにしても、調査隊が全滅というのは引っ掛かるな‥‥」
 アクション俳優のシヴェル・マクスウェル(fa0898)は別の疑問を持っていた。資料を見ると、華清池を監視していた調査員は獣人のみで6人。経歴を見る限り、実力はシヴぇル達よりは劣るが、それでも武装した獣人が一人の生残りも無く全滅したのが解せない。リストの中に烏獣人の名を見つけて呟く。
「逃げる暇も無かったか、空に逃げても無駄だったのか‥‥」
 記録によれば調査員達の死体は驪山の麓のキャンプで発見されたが、原型を止めぬ肉片だったらしい。
「現場写真の一枚も無いのか?」
「写真なんて撮ったらNWに感染するかもしれんだとよ」
「‥‥」
 NWは正体不明の情報生命体。感染拡大を恐れて情報媒体を持たない関係者が近頃急増している。実際の所、どこまで注意すればいいかは良く分かっていないのだが、今回も陸 琢磨(fa0760)や佐渡川ススム(fa3134)の提唱で情報媒体は現場には一切持ち込まない事になっていた。
 つまり、彼らが生きて帰る以外に、情報を持ち帰る手段は無い。


●遺跡調査
「‥‥それでは、私はここで待機しますので‥‥」
 カメラマンのシャノー・アヴェリン(fa1412)は華清池の手前で仲間達を見送る。
 シャノーは双眼鏡で華清池周辺を外から見張ると共に、知友心話を使って定期的に突入班11名と連絡を取る係りだ。もしもの時は、彼女が麓に居るバックアップのスタッフに知らせる。
「何かあったらすぐ連絡しますね」
 突入班からの緊急連絡は同じく知友心話を使えるプロレスラーの泉 彩佳(fa1890)が引き受けた。
「‥‥くれぐれも、お気をつけて‥‥」
「心配ゴム用! この間違った大人、佐渡川ススムにまかせてーっ」
 満面の笑顔でアマチュア芸人の佐渡川が作戦成功を請け負う。一見して軽薄なやさ男の佐渡川が、今回突入班の司令塔。
「だって‥ぇろさん、前線で戦うには弱いもの」
「ぐはっ」
 割と付き合いの長くなった彩佳の一言に、仰け反る佐渡川。
「ふ‥‥そこまで言われては見せねばなるまい。この俺の実力、猿丸流葬兵術・絡手六式‥‥【カメルーンの赤い風】!!」
 佐渡川は側に居た森里の耳元で卑語を囁き熱い息を吹きかける。
「‥‥俺は、誰も死なせないつもりでしたが‥‥みんなの為にここで死んでけマゾ皮ぁ!!」
 茨付きナックルで思い切り殴られた。片倉はぶっ倒れた佐渡川を一瞥し、煙草の煙を吐き出した。
「すげぇな。こんな所でコント見せるなんざ芸人の鑑だぜ」
「あー、これはきっとばーさまが育て方を間違ったからだと思うんだ。うん」
 頬に絆創膏を張り、佐渡川達は華清池に向けて出発した。この辺りは危険区域として既に無人のため、全員獣化し、奇襲に備えてベルシードの作った灰代傀儡を10mほど先行させた。

「穴が広がってる‥‥?」
 水の枯れた九龍湖に開いた穴は森里の記憶より二回りは大きかった。穴の側には数台の重機が打ち捨てられている。封鎖前に、復旧工事を行おうとしたのだろう。
「こっからじゃ中が良く見えない。俺が上から見てみようか?」
 竜人に変じた九条が言う。何故か頭にピラミッドストーンを乗っけた九条を一瞥し、佐渡川は首を振る。
「一人は危険だ」
 佐渡川の指示で竜人のアヤと鷹人の片倉も翼を広げた。三人は高度を取りつつ、穴に近づく。穴の中は深い空洞になっているようだ。三人は目を凝らす。常人の数十倍に拡大された視覚が闇の底で蠢くモノを見つけた。
「何かいる‥‥NWか?」
 翼の羽ばたきが聞こえたのか、闇の底の影が顔をあげる。

 GA‥HUUUU‥‥!

 地の底より響く獣の咆哮。
「見つかったっ!?」
 上空の三人は危険を感じて高度を取る。
「何、何なの‥‥?」
 聴覚と嗅覚を研ぎ澄ませていた人狼のパトリシアは周囲の異変に気付いた。空を飛ぶ三人が離れた直後、湖底の穴は蝙蝠の群れを黒い噴火の如く吐き出した。
「うわっと」
 九条は慌てて上昇し、破山剣を抜き放った。両手にナックルを装備した泉も上空へ逃げる。
「野郎っ」
 片倉だけは右手のIMIUZを真下に向けて連射した。サブマシンガンにやられて蝙蝠達が地に堕ちていくが、数が多すぎる。黒い固まりに飲み込まれた片倉は空中でバランスを崩し、穴の側に墜落する。
「こ、こいつら‥‥全部!?」
 噛み付かれた片倉は周りの蝙蝠達の頭がすべて昆虫のそれである事に戦慄した。
「え、シャノー?」
 虫蝙蝠から逃げる泉にシャノーからの心話が届いた。
「‥‥下からNWが、上がってきます‥‥」
 華清池から数百mの岩場に隠れ、双眼鏡を覗き込むシャノーは、麓側から接近する昆虫人間や虫獣の姿を捉えていた。その数、十や二十では無い。
「‥‥接敵、応戦します‥‥」
 マルスの火を両手で構えたシャノーは飛び掛ってきた虫狼の頭を一撃で粉砕した。
「どうしよう、ぇろさん! 囲まれちゃってるっ」
 心話で佐渡川に指示を求める泉。NWは山の中腹や山頂、麓からもどんどん現れる。
「大丈夫、こーいう時はおっちゃんの言葉を思い出せ。‥‥んなもん、逃げるに決まってらぁ!」
 佐渡川はシャノーに合流の指示を出し、密集して包囲の薄い所を全員で突き破ると提案した。
「承知した。俺と運で突破口を開く」
 水鏡の刃を構えた人狼、陸 琢磨がそう言うと、タケシ本郷も前衛を買って出る。
「二人じゃ無理だ。俺が楯になる」
 こんな場面では本郷の体力がモノを言う。最前列三人の次には森里から天界からの声を借りたパトリシアと両手で火尖鎗を構えたイルゼ・クヴァンツ(fa2910)の人狼二人。
 続く中列はCappelloM92を抜いたベルシードと泉、佐渡川。後列は熊人のシヴェルと森里。
「俺が勘定に入ってねえぞ?」
 九条と泉に助け出された片倉はIMIUZIのマガジンを取り替えて背後の虫蝙蝠達を牽制する。
「傷は?」
「痛くて死にそうだ」
 片倉は中列に入る。九条がポーションを渡した。
「着いて早々撤退か。‥‥それも良かろう、全滅の理由もハッキリしたし」
 突撃前にシヴェルは背後の湖底の穴をもう一度見ておく。
「理由?」
「奴らのディナーにされたのさ」
 憎々しげな視線をNWに向け、シヴェルはナイフの刃を高速振動させた。
 元々なのか、遺跡の入口が開いたせいかは分からないがここはNWの巣だ。獣人達は、そこへ自ら飛び込んだ哀れな昼御飯。

―― He comes the prisoners to release.in Satan’s bondage held,
 the gates of brass before Him burst.the iron fetters yield ――

 純銀のマイクを握るパトリシアは祈りを込めて賛美歌を謳った。恐らくこのオーパーツと彼女の歌唱力が無ければ、彼らは先達と同じ道を辿る事になったろう。
 巣穴を覗き込んだ獲物を貪り食おうと殺到したNWを弾き飛ばす。
「今だよ!」
 ベルシードは包囲に隙が出来たのを見逃さずに灰傀儡を明後日の方向に走らせる。一瞬、分身がNWの気を引いたのを合図に、獣人達は突撃した。

 最初の突撃で九条の黄金の仮面が割れた。陸のヴァイブレードナイフが砕けた。
 NW達は雪崩れのように迫ってくる。個人の力量で防げるものではない。オリンポス遺跡において入口の確保にはこの十倍以上の獣人が参加した。僅か12名では嵐に翻弄される小船のようだ。
「‥‥助かりました‥‥」
 何とかシャノーと合流を果たしたが、シャノーは重傷。体力に劣るベルシードもフラフラだ。
「まだ‥助かると決まった訳じゃないです。休んでいる暇は‥‥ありませんよ」
 と言ったのはイルゼ。朱槍を杖代わりにし、肩で息をしている。五体無事なのは九条と泉くらいで、他は前衛も後衛も酷い格好だ。パトリシアが歌で牽制しているが、彼女の体力もどこまで持つか。
「走れるか? 置いていく訳にはいかんのでな、無理なら私の荷物になれ」
 シヴェルがシャノーに手を差し出す。首を振り、立ち上がりかけてよろけたシャノーを本郷が支えた。
「大丈夫か? マックス、何か代わりを出してくれないか」
 折れたナイフを見せた本郷に、シヴェルは来る途中で拾った剣を渡した。
「こいつは‥‥いや、いい」
 おそらく死んだ調査隊の誰かの遺品だろう。本郷は剣を掴んで前衛に戻る。
「このままじゃジリ貧だぞ?」
「だな。‥‥死のふは一定」
 佐渡川は最後の突撃を仲間達に指示する。パトリシアの歌に合わせ、九条とベルシードの火球、片倉とシャノーの飛羽針撃を一点に集中して包囲を破る。
 NWの群れは前後左右から一斉に襲い掛かるが、立ち止まる事無く12人は走った。パトリシアはその間も歌い続ける。走りながらでは殆ど効果も期待できないが、歌うのを止めない。
「生きて‥‥帰る‥‥」

 全滅した。そうなってもおかしく無かったが、最早限界と思われた時に麓からバックアップの部隊が上がってきた。シャノーの知らせを受けて、緊急事態と判断したらしい。
 新手の存在に、NWの群れは分散した。その隙をついて12人は逃げ出す。獣人達が驪山を離れると、NW達はそれ以上の追撃を諦めて、潮が引くように山の中へ消えていった。
「‥‥巣に戻ったのか」
「帰巣本能? NWにそんな物があったのか?」
 ともあれ一命を拾った12人は待機班により治療を受けた。遺跡内部への侵入は叶わなかったが、NWの巣窟である事が判明したのは大きな功績だ。それは、遺跡よりNWが溢れる数日前の事件だった。