【遺跡調査】地の底へアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 10Lv以上
難度 難しい
報酬 219.9万円
参加人数 11人
サポート 0人
期間 10/16〜10/20

●本文

 中国西安。
「始皇帝陵遺跡に調査隊を派遣する?」
 WEAのエージェントの話に、華清池跡を監視していた獣人は耳を疑った。
 8月のNW騒動より2か月、現在は落ち着いているとは言え、始皇帝陵は依然として手をつけられない状態である。中にどれだけのNWが居るかは分らないし、誰も藪をつついて蛇を出したくは無い。
「二か月何も無かったから、そろそろ調査しようという事になったらしい。連中は、こちらが調査を拒めばミサイルを落としかねない」
 近年の『遺跡』の活性化に、各国政府は神経を尖らせていた。現代のような高度な情報化社会において、NWが人類を標的とすれば抗う術は無い。
 もし再び華清池から大量のNWが溢れ出し、獣人達がそれを止められなかった時、中国が受ける被害は甚大である。それが何度と続くものであれば今の世界は滅びる。
「今のうちに遺跡を調べ、その秘密を解き明かし、それが世界の脅威となるものならば取り除く」
「凄いな。俺達は地球防衛隊かよ?」
 獣人は実感が湧かなかったが、そういえば子供の頃、そうしたものになりたいと願った頃があった。大げさなだとは思うものの、遺跡から雲霞の如くNWが溢れ出す光景を想像すると、笑い飛ばす事が出来ない。
「相手が相手だからな。軍隊は遺跡に潜れない。‥‥という事で、死んでくれ」
 全く笑えない冗談であった。
 先の戦闘で遺跡に潜った獣人の証言によれば、華清池の地下は深い洞窟が続いており、更にその下には巨大な地下空洞があったという。
「地下都市があったという証言がある。残念ながら地図を渡せるほど情報は無いが。最終的には遺跡の破壊、もしくは制圧が目標だが、その前に遺跡内部の情報が欲しい」
「悪いが俺はまだ死にたくない。俺の部下も死なせるつもりは無いしな。他を当たってくれ」
 無理もない。
 しかし、放置も出来ない問題ならば、WEAは調査隊の有志を募る事にした。

 場所:中国西安近郊、驪山の麓にある華清池跡の地下遺跡
 目的:始皇帝陵遺跡の内部調査
 注意事項:遺跡には多数のNWが潜んでいる可能性が高い。

●今回の参加者

 fa0750 鬼王丸・征國(34歳・♂・亀)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa3464 金田まゆら(24歳・♀・兎)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)
 fa5112 フォルテ(14歳・♀・狐)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●準備
「有益と思えるものは可能なかぎり聞かせてもらおうか。死地へ赴く私たちへの手向けだ、機密や極秘事項などはナシにしてもらいたいな」
 アクション俳優のシヴェル・マクスウェル(fa0898)は不遜な笑みを浮かべてWEAのエージェントを見返した。
「‥‥」
 渡されたのは部屋の鍵。中は膨大な未整理報告書の山。何が有益で何が無益か、その判断が許されるほど彼らはNWの事を知らない。NWの事を知れば知るほど根本から違う異生物への疑問は際限なく広がるから。
「まるでファンタジーだ」
 シヴェルと同じく出発時刻まで資料室に籠る学生兼路上格闘家の森里時雨(fa2002)は、古代史や神話関係の書物を中心に読み漁っていた。
「分析も測定も出来ないNW相手に、原理も分からないオーパーツで戦って、命を数字で表示するゲームと変わりませんよね」
「違うのは、ゲームのようには行かないって事だが。少年、期待しすぎるなよ。案外、待ち構えているのは拍子抜けするバッドエンドかも」
 時雨の顔に朱がさした。厭味に聞こえたかなとシヴェルは少し反省し、そこで不意に視線を感じた。
「あ、あの‥‥ごめんなさいっ」
 書棚の後ろからパトリシア(fa3800)が彼女を見ている。
 銀髪の華奢な少女はシヴェルの鍛え上げられた胸部を凝視した後、視線を上下左右に揺らして脱兎の如く退散した。
「?」
 パトリシアと入れ替わりに、旅芸人のフォルテ(fa5112)とフンドシ芸人の犬神 一子(fa4044)が資料室に入ってくる。
「遺跡に入る前から、何だかみんな思いつめた顔してるよね」
 そう呟いたフォルテもどこか表情は固い。
「誰だって死ぬのは怖いさ」
 フォルテに答えつつ、犬神は地下に持っていく装備品のリストをシヴェルに渡す。
「ふむ、今回は来ないと言ってなかったか?」
「俺も無理して死地に赴く気は無かったんだがな‥‥まあ、しゃーなーなと」
 肩をすくめる犬神の目が一瞬フォルテの方を見た。
「呆れたな。お前、まさか‥」
 シヴェルは犬神を睨みつける。
「浮気か。しかも未成年」
「おいおい。俺はただ、孫ぐらいの子供が参加すると聞いて‥」
「ま、孫‥‥そんなに幼くは無いと思うのですが」
 別の意味で大きなショックを受けるフォルテ。
「ほう。これから重大任務に出発するというのに、痴話喧嘩とは余裕だな」
 戸口に立つ緑川安則(fa1206)の額に青筋が浮く。元自衛官の緑川は鬼教官等の役柄を得意とする個性派俳優だが、任務に志願した今は素か演技か分からない。
「うんうん。気持は分からんでも無いが淫行に耽るのは良くない」
「勘弁してくれ」
 批難がましい目を向けられて、シヴェルは自嘲気味に笑った。
「悪いはそれは無理だな。こんな仕事を受けるのは無知か無茶か無謀な人間だけだ。ついでに無礼と無節操も入れといてくれ」
 出発前の最終ミーティングで、前回のデータを元に地下進入ルートを慎重に話し合う。ヤマを張る程度なのだが、広大な地下迷宮はその存在自体が殺人装置。決死隊も迷子で全滅するのは怖い。


●突入直前
「わしは、純粋に地下都市に興味がある。何の為に作られたのか。目的はNWからの潜伏か、それとも封印か。どの時代の人々が作ったか気にはならんかね?」
 業界では鬼プロデューサーとして知られる鬼王丸・征國(fa0750)は突入前、子供のような笑顔でそう話した。
「情報源としては興味深いけど、それだけだね。NW退治に繋がるなら、俺達に選択肢は無い。だからこそ、俺達が死ぬことを前提にした調査隊なんてものが出来るのだし」
 淡々と話す便利屋の神保原・輝璃(fa5387)に、征國は戸惑った。
「達観しとるのう。若いのに諦めが早いと大きな男には成れんぞ?」
「事実を言っただけだよ。諦めてる訳じゃない‥‥状況打開の為にやれる事は全てやって、無理せず情報を収穫して、無事に事を済ませたいと思ってるよ」
「せやなぁ。NWに困らされるのはもう嫌やし。わいらがユートピアみたいなな、どえらいオーパーツ手に入れて来て、勢いを変えてやるんや!」
 胡散臭い大阪弁で答えたのは総合格闘家のミゲール・イグレシアス(fa2671)。ミゲールは北米出身の気さくな黒人で、ともすれば沈みがちな一行の空気を明るくした。
「そこまで都合よくは行かないんじゃないかな‥‥? 私達は、本格的な攻撃のための調査が目的だから、とにかく無理しないで生還することよね」
 金田まゆら(fa3464)の言葉には聞いていた全員が頷いた。普段はスーツアクターとしていつも着ぐるみを着ている彼女だが、今日はバイクスーツに皮ジャン姿で背中に刀を背負っている。
「無理せず生還か。甘いな、激甘だ」
「なんだと?」
 緑川は立ち上がり、調査隊の面々を見渡した。
「今回の任務は強行偵察、つまり敵攻撃を排除しながらの内部探索。敵戦力は未知数だが、我々にとっては無尽蔵の戦力を相手にするに等しい。常に全方位からの攻撃を警戒し、全員一丸となって臨まなければならないのだ。任務の危険度と重大性を考えれば、全員生還など夢にも考えるべきでは無い」
 全員生還と、一人でも生きて戻る事を優先するのでは難易度が格段に違う。
「そんな状況なのだ。だが、私は信じている。この任務を完遂できるのは世界で我々だけであることを。みんな生きて帰還するぞ」
「‥‥どっちが激甘なんだか」
 熱弁をふるう緑川に、腕時計に目を落とした森里が出発時刻を告げる。時雨の手は微かに震えていた。
「あ、あの‥‥」
「なんだね?」
 真剣な顔で森里は言った。
「アイラブ、パティ♪ アイライク、ナインペタン(貧乳)♪」

「‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「?」

 数瞬の空白の後、パトリシアが頬をぽっと赤らめた。
「若いのう」
 征國と一子に温かく見守られ、緑川は聞こえない振りをした。
 とうの森里は何故自分がそんな事を言ったのか分からないという顔をして後ろを振り返り、
 背後に立つなんでも屋さんの少女、月詠・月夜(fa5662)と視線を絡める。
「‥‥」
 おもむろに月夜の首に手をかける森里。
「うぐっ‥‥森里さん、錯乱しちゃ‥ダメですよ。‥‥ほら月夜に構わず、愛の告白の続きを‥‥」
「お、お前かぁぁぁ!!」
 本気で絞める森里。声帯模写でちょっとした悪戯を仕掛けた月夜は口から泡を吹いて昏倒した。

「三途の川が見えました‥‥」
「自業自得だ!」
「ただ皆さんの緊張をほぐそうと、悪意の無い冗談だったのに」
「お二人、なんだか楽しそうですねぇ」
 捨て身のギャグで緊張はほぐれたか。
 気を取り直して、地下へ降りていく11人の獣人達。

 願わくば全員で生還を。
 欲するのはこの状況に活路を開く情報。
 切実な願いの前に個人の選択は霞む。
 地球を守ろうとまでは思わないけれど。ともすれば巨大な歯車に組み込まれた自分を想像して途方にくれる。


●遺跡潜入
「何かが居るぞ」
 犬神が警告した時、11人は仲良く壁にへばり付いていた。
 地底へと続く縦穴にはエレベータも階段も無い。獣人の肉体能力を駆使すれば、走り下りる事も不可能ではないが、偵察に来た事をNWに知らせる事になる。能力温存の為もあり、壁を走れる者も翼を持つ者も壁に手をついて降りている。
「どこだ、見えないぞ」
 暗視装置を付けた獣人達はあたりを見回すが敵の姿は無い。
「何か、小さなものが‥‥!」
 眼を閉じて意識を集中したパトリシアは彼らの周囲に無数の気配を感じた。目を開けた彼女の瞳に飛び込んできたのは頭の上を通過する1m程のムカデ。
「!?」
 声にならない悲鳴を必死に呑み込むパトリシア。ムカデの後ろから子犬ほどもある巨大ゲジとゴキブリが寄ってきた。
「#N@KH&%!!!?」
 もはや限界。地壁走動を発動し、壁ダッシュで遁走するパトリシア。その動きに反応して獣人達の周りを囲んでいた異形の虫達が波打つように蠢く。
「なんだとーっ!」
 認識した事で、壁一面を這いまわる数百数千のNWに気づく。突然、身体が縮んだような錯覚を覚えた。それは踏んでも気づかないような小さな虫達。何れも巨大化し、異形であった。身体の一部が半ば溶けたものや獣と融合したもの、果ては頭部がヒマワリで胴が蜘蛛という混沌の産物。
 悪夢が現世に融けた光景。
「パトリシアめ、天界からの声を持つお前が真っ先に逃げてどうする? しかし、どちらにせよここでは戦えんか‥‥落ちるぞ!」
 一瞬の虚脱から抜け出した緑川が叫ぶ。翼があるのは竜人の緑川と鳥人の月詠の二人、それにパティと神保原は壁を走れるが、ではあと7人はどうするか?
「くっ、飛べる者走れる者は仲間を運べ」
「いきなり無茶を‥‥うーん、と言っても上に登ってたら振り切れないかな」
 仕方がないと壁に垂直に立った輝璃は手近に居た犬神とシヴェルを抱きかかえ、落ちるように走り出した。
「ちょぉ待ちなはれ、人数が合わんと違うか?」
 サーベルタイガーのような牙を生やした巨大ワラジムシと闘いながら、ミゲールが悲鳴をあげる。身長2m、体重120kg超の彼を誰が担いで降りるのか。
「‥‥気合いで飛び降りてみるか。多分、あと二、三百mぐらいだと思うが」
「死ぬわ! ‥‥ま、しゃーない。ええで、やったるわい」
 気楽に言って、男は度胸とばかりミゲールは壁を掴んでいた片手を離した。特殊能力に寄らない、本物の壁走り。文字通り、落ちるようにすっ飛んで行く。
「あのど阿呆!」
 舌打ちした緑川はゴキブリ大のゾウリムシの群れに襲われる金田の襟をつかむと、早くも黒い人玉になって転がり落ちているミゲールに追いつこうと急降下した。
 残されたのは鬼王丸、森里、フォルテ、月夜。
「月夜が三人を? 試してもいいですが、ミンチ確定ですか」
 非力な小鳥獣人には不可能な話。
「いいぜ、俺が残って奴らを引き付ける。その間にお前たちは下に行け」
 森里が死に場所を決める。
「‥‥」
 鬼王丸は果たして亀の甲羅で百mの直滑降が可能か考えた。
「くう‥‥」
 フォルは巨大ダニに追い詰められていた。
 こんなに呆気なく終わるのか。せめて、先に行った彼らが目的を遂行してくれる事を願うばかりだ。

―― Joyful Joyful We Adore Thee. God of glory Lord of love
hearts unfold like flowers before thee. opening to the sun above――

 その時、地獄の穴に讃美歌が響いた。
 壁から噴き出したミミズの大群に天界の声のフルパワーを浴びせるパティ。
 無尽蔵とも思える敵を全滅させるには至らないが、一時的に攻勢が弱まった。

「時雨さん!」
 森里達の前に走ってきたパティは全身ミミズの死骸まみれ。
「わたしはここで死ぬ気はありませんし、仲間を死なせる気もありません!」
 パティは片手で有無を言わせず森里を抱きかかえ、もう片方の手で甲羅に手足を引っ込めた鬼王丸を掴んだ。
「行きます!」
 スーツ姿の乙女が学ラン男を抱き、甲羅を背負って壁を疾走する。
「‥‥進める所までは進みますか」
 月夜はフォルテを腰に捉まらせてその後を追う。
「急ぎましょう。もう始まってるみたいです」
 フォルテの両耳は地底で始まった戦闘の音を捉えていた。


 驪山地下を巣とし、群れを形成する始皇帝陵遺跡のNW達は異物の侵入を正確に認識したようだ。如何なる情報伝達機能を有するかは不明だが、何千ものNW達が侵入者排除に向けて極めて機能的に行動を始めた。

 要するに、11人の獣人めがけて雲霞の如く地中のNWが集まり出したのだ。
 こうなるとお話にならない。全員が飛べたなら、車やバイクを使えたなら別だろうが、幾ら人より速いと言っても不案内な地下遺跡で二本の脚で大小様々なNWの群れを振り切るのは無理な相談。隠れるには人数が多すぎ、戦うには絶望的に少なすぎる。
 その上で、全員で生還しようという強い決意。仲間を囮にしていけば少しは進めたと思われるが、全員で生きて戻ろうと思えば逃げ回るしか無い。
 しかも体力不足のまゆら、フォルテ、月夜は地底に着いて早々に戦闘不能になり、獣人達は華清池跡に戻る事を断念。


●限界の果てに
「腹減った‥‥」
「水筒に牛乳が」
 地底放浪は何日も続き、明確に餓死をイメージする。
「地下都市に近づく事も出来ぬとはのう」
「逃げ回った印象だけど、たぶんその地下都市が次の階層への出入口になっているんじゃないかな」
 極限状態の中これまでの情報分析と打開策を話し合う。
「欧州の遺跡に比べると第一階層がかなり広いねえ。NWの種類も多い。虫のいい予想だけど階層は深く無いと見るけど」
「あれだけの生物にどうやって感染したんだ? NWは生物に感染しなければ実体化は出来ないはずだ。昆虫の類は良いとして、獣の貯蔵庫でもあるのか?」
「昨日襲ってきた猿NWの片腕から鯉が生えてた。近くに地底湖か川があるのかもね」
 始皇帝陵遺跡はまだ『生きて』いる。おそらくミテーラ級の親玉が健在で、現在進行形でNWが生み出されているのは確実。
「二度あることは三度あると言うが‥‥依頼はもう十分。あとは私達が戻れるかどうかだが」
 全滅する事で遺跡の健在ぶりを知らしめるのは嫌だ。
「せやかて、このままやったらじり貧やがな。強力な武具でもあれば蹴散らして戻れるんやけどなーっ」
「弾薬は尽きた。撤退だ。元気のあるうちに‥‥情報を持って生き残るぞ!」
 単独行動に自信のある者を選んで脱出させ、情報を渡すと共に救援を呼ぶ案も出たが月夜は体力に難があり、パティは森里と離れないと言い、緑川は全員生還を譲らず、輝璃は成功率が低すぎると断った。
 地上でも11人の生還は絶望視しされた。
 結果として調査隊を待たず始皇帝陵の大作戦は決行され、諦めかけていた11人の生存を知る事となる。