【遺跡調査】地底山河アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 10Lv以上
難度 難しい
報酬 219.9万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

 中国西安。
 10月下旬、WEAの中国支部は多くのエージェントをこの地に派遣した。
 そして現在、西安には大作戦の司令部が置かれている。世界規模の作戦の一局面を担う事になるため、実質的には中国支部が丸ごと引っ越してきたような有様だ。それにより各地で多少の問題や騒ぎが起きていた。
 芸能界を始めとしてWEAは獣人達をサポートするために各界と密接に結びついている。突然大きな動きを起こせば、それは表の社会にも混乱を呼ぶことになる。
 そうでなくても近年のNWの事件多発により、獣人やNWに関する情報漏れや一般社会への悪影響が指摘されていた時期だったが、なりふり構っていられないとでも言うように、WEAは秘密組織に似ぬ精力的な活動を行っていた。

「‥‥遺跡より帰還報告は無いか?」
「まだです」
 連絡員の言葉に、壮年の獣人は深く息を吐き出した。彼は中国政府の関係者であると同時に、WEAのエージェントでもある。

「しかし、ジョカとはな‥‥神話の時代に逆戻りしてしまったな」
 トウテツに続いて発見された始皇帝陵遺跡のミテーラは女 女咼(ジョカ)。中国神話の創造神の名を冠するミテーラ。まさか本物の神でもあるまいと思う反面、そもそもNWは人智を超え、物理法則を超越した存在。今更、神でも悪魔でも驚くには値しないとも思える。 
「共時性うんぬんは脇に置くとしても、我々の仕事に変わりはない。NWは殲滅する。それが何と呼ばれていようと、どれほど強大でもだ。奴らこそ不倶戴天、打ち倒すべき絶対悪なのだからな」
 中国政府は、研究者達の出したシンクロニシティという結論をあまり信用していなかった。二度ある事が三度起きた。ならば今度も倒して終わりという訳にもいかない。
「ジョカ対策は大作戦に組み込まれたが、我々はそれとは別に遺跡調査を続行する。遺跡深部に到達し、NW殲滅の鍵を探し出してほしい」
 その鍵は、あるかどうかも分からない。
 しかし、遺跡とNWには何か意味がある筈だ。可能ならば、先人達がNWを封印したその方法を知りたい。
「先に出発した調査隊からの連絡により、華清池の地下には巨大な地下空洞が確認された。夏か殷の時代と思われる古代都市があるらしい。遺跡内部の詳細な調査研究には数十年、いや百年単位でかかるかもしれない。無論今の我々にそんな時間は無い。
 必要な情報はミテーラ発生と封印に関する情報だ。研究者達は宝貝に分類されるオーパーツに関する新発見が期待できるとか言っていたが‥‥。
 この遺跡をギリシャのものと同様に考えるなら、地下深くに潜るほど強力なNWが出現するだろう。最深部を目指すのが一つの方法だ‥‥」
 大作戦に集まった獣人から志願者を募り、遺跡調査班が編成される予定だ。
 目的は、遺跡の秘密解明。
 無茶な話だが、大作戦を行う今だからこそ調査が可能という見方もある。大作戦後に遺跡や自分達が無事とは限らないのだから。


 地上で大作戦の準備が始められる頃。
 先発した遺跡調査隊は地下都市より更に奥へ下りていた。
「‥‥山がある」
「こんな所に地下山脈?」
「いや人工物のような、まさかこれも遺跡の一部!?」
 獣人達は中国西方の伝説の山岳を目撃していた。

 そしてはじまる――Alteration of World‥‥

果たしてどうなる。

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa5271 磐津 秋流(40歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●すべて世は事も無し
「死にかけた洞窟にまた入る事になるとはなぁ」
「時雨さん、大丈夫ですよ。だって今度は仲間が沢山いますし」
 路上格闘家兼学生の森里時雨(fa2002)と渚の妄想唄歌い少女パトリシア(fa3800)の二人は、始皇帝陵遺跡の前で感慨に耽っている。

 彼らが参加し、大作戦に先行して送り込まれた調査隊は『生きた』遺跡の圧倒的物量の前に惨敗した。全員生還を固く誓っていたが最後は散り散り。もしかしたら何人かは今も中に居るかもしれない。
「ああ、今度は違う。世界規模の大作戦だ。殷夏‥インカ帝国か! 始皇帝=インカ皇帝の‥が相手でも絶対負けん。‥‥えっと、誰だっけ? 言ってみ?」
「あれだけ怖い目に遭ったのにその余裕、さすが時雨さんです」
「そんなんじゃねーよ」
 そっぽを向く時雨にパティは腕を絡ませた。強く抱く。
「‥‥エロエロでピュアピュアだねぇ。いやホントに、お兄さん真剣に悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃうよ」
 職業欄にエロピュア芸人と書く恐ろしい男、佐渡川ススム(fa3134)が現れる。佐渡川は青臭い事を気負う喧嘩少年とか、何も目に入らない妄想少女を見てるうちに虚しくなった。
「どうせ自分が犠牲になればとか考えてるんじゃないか?
 そんな思いつめた少年には俺が喝を入れてやらないとね。喰らえ、猿丸流葬兵術Alteration『忌腐人の唄声』っ!!」
 禁断の構えを取る佐渡川に反射的に身構える森里。だが、それこそが佐渡川の狙い。
「殺った!」

 ずぼっ

「ぐ、ぐぉぅっ!?」
「‥ってちょっ? ‥‥パティちゃん!?」

(「時雨さんの身体に余計な力が入ってるって佐渡川さんが言ってたので、ほぐすために佐渡川さん直伝、猿丸葬兵術『忌腐人の唄声』を。
 佐渡川さんに意識が向いてる隙に時雨さんのおしりにマイクをブスリ…。キャッ☆」)
 数あるオーパーツの中でも屈指の謎を秘め、使いようによっては絶大な効果を得る事が可能な純銀のマイク『天界からの声』。
 断じてオノコの尻に突き刺すものではない。

「ひぎゃあああああああっっっ!!!!!」

 断末魔をあげる時雨を眺めるパティはいそいそとマイ水筒を取り出し、白い液体をゴクゴクと飲み始めた。
「ぱ、パティちゃん? 何してるのかな? 時雨くんが身も世も無い感じですけどいいのかな?」
「あ、水筒の中身は牛乳なんですよ。ローマは一日にして成らずってことで」
 恥かしそうに話すパティ。しくしく泣く時雨。
「時雨さんは大丈夫。佐渡川さんの言う通り最近ちょっと目にあま‥周りが見えないみたいでしたから、ほぐさないと」
「‥‥これも、愛か。そしてエロ‥‥ならば俺から言う事は無いな」

「ぐわあーー‥‥(マゾ皮の弄りとパティの鉄拳は覚悟してたが‥こ、これは違う‥‥アッ)」

 これも青春か‥‥そろそろ本題に戻ろう。


●誰がために行く
「森里は一緒じゃないのか?」
「調査隊の時の傷がまだ痛むらしい。酷い戦いだったらしいからな、今は少し休ませてあげよう」
 沈痛な表情で語るススムに、ADの磐津 秋流(fa5271)はそうかと気の無い相槌を返した。無謀な調査隊の話は秋流も聞いている。悪夢にうなされたとしても無理のない話だろう。
「ある意味トラウマだな‥‥パティちゃんも、洗えば落ちるというものでも無いし、今回も使うのに‥‥ホントに無茶をする」
「ん? ‥ああ、そうだな。しかし、二人のおかげで俺達は方針を確認できた‥。それに経験者が居れば何かと心強い」
 微妙に話が食い違うススムと秋流。
 今回、大作戦と別に手配された調査隊。
 決戦を別にしてまで獣人達はNWと自分達の関わりの意味を知りたかった。
「うふふ‥‥」
 上機嫌でメロンパン芸能人、湯ノ花 ゆくる(fa0640)が入ってくる。
 何か良い事があったらしい。パティといい、命がけの作戦前だというのにつくづく女は強い。それとも男の方が考えすぎなのか。
「ゆくるちゃん、何か良い事でもあったの?」
「うふふ‥、秘密です‥‥。生きて帰れたら、皆さんにも教えてあげますよ‥」
「生きて帰れたらか」
 時雨達の調査隊が地下都市までも満足に行けなかった事を考えると、遺跡の謎に迫ろうという彼らの生還は不可能に思える。しかし、不思議と皆、楽観的だった。
 理由はあるが、言うまでもなく全滅の危険は十分すぎる。つまる所、駄目元である。誰の為でも無い自分の好奇心で彼らは死にに行く。


●シカト作戦
 全世界で大作戦が開始されてから数日が経過していた。
 中でも多くの獣人が参加した始皇帝陵攻略部隊は戦局を有利に展開していたが、悩まされたのは地下空洞の驚くべき広さだった。
「華清池と別の入口が発見されたって聞きました。もう少し早かったら、車で入れる所も見つかったかもしれませんのに〜」
 アイドルレスラーの泉 彩佳(fa1890)が残念そうに呟く。彼女は最近車が運転できるようになったのだと嬉しそうに話していた。
「いや車は目立つから駄目だろ」
 森里が冷静にツッコミを入れる。
 彼らは今、仲間達の阿鼻叫喚をBGMにして地下都市を進んでいた。有利と言ってもそれは大局的な話で、発表されない死傷者は相当数に及ぶ。
「この先で大規模なドンパチが始まった。迂回ルートも見当たらんし、暫くここで足止めだな」
 偵察に出たススムとパティが戻ってきた。
 可能な限り戦闘を避けたい彼らは仲間が死んでいく後を、気付かれないよう静かに進んでいた。
「それじゃあ、お茶にしましょう〜」
 束の間の休憩。火や灯りは使えないので主に身体を休める事に使う。
「ジョカと言えば中国伝説上の帝ですよね‥‥伝説と、どれだけ関係あるかは分かりませんが‥、それらしいオーパーツがあるなら‥、役に立つような気がします‥‥」
 メロンパンをほうばりながら話すゆくる。
「WEAはなんで今回のNWをジョカだと言ったのかな?」
 NWは名乗らない。単に人面蛇身の姿から命名した訳ではあるまい。ダークサイドの事と言い、現場に知らされていない事が多すぎると感じる。
「最近宝貝が出てきたみたいだけど、やっぱり中国の神々も獣人だったのかな。西王母が虎の獣人とか、九尾が狐のDSとか〜」
「封神演義が『史実』とは考え難いが‥、有りそうな話ではある‥」
 彩佳が言う仮説を、秋流が肯定する。
 人に正体を見せなくなった今では想像しにくいが、特殊な能力と異形から、大昔の人間たちに獣人が神様扱いをされていた可能性は良く指摘される。
「私も考えたんだけど、だったら崑崙の仙人が獣人で、金鰲島がDSとか?」
「動植物の仙人がいる截教の方が獣人ぽくね? そしたら闡教は錬金術師の連中か‥‥いやあいつらが人間て保障もないのか‥‥やっぱ鍵はDSの」
 パティの仮説を森里が否定する。このところ神話伝承や奇書ばかり読み漁る森里は実際に遺跡を見た事で何か掴めそうな気がしていた。
「奥まで行ければ、何か分かるか―――」

 膠着状態は続き、彼らは戦闘にも参加せず耐える。
 本隊と共に突入する手もあったが、それでは調査続行が難しい。本隊を置いて自分達だけ先行すれば折角の作戦が本末転倒だ。何とか迂回路を探そうと努力している彼らに朗報が飛び込む。
「なんだか分からんが、奥からジョカが上がってきてるらしいぞ」
「棲み家を荒らされて怒ったのかね?」
「理由なんて関係ない。こいつは、――チャンスだ」
 ジョカの上昇に合わせて、戦場が地上付近に移動している。WEAはジョカとNWの群れを地上に放つ訳にはいかないと総力戦の構えだが、おかげで遺跡深部への通路が開いた。まさに千載一遇の機会。


●崑崙
 地下都市から更に降りる。どこまでも続く洞窟は、しかし人の手が感じられる。ここも遺跡の一部なのだ。
「すごいな。紀元前3世紀に、始皇帝がこんな巨大な物を作ったのか?」
「遺跡について、変な論文がありましたね。情報媒体に宿るNWは地下深くで長く生存できないから、地下階層型の複雑な地形と構造物を作り外部から水と空気を取りこんで、絶えず風と音を生み出す事で遺跡全体を巨大な情報媒体にしてるとかなんとか」
 出発前に読んだ資料を口にする森里。
「まさか?」
「与太話ですよ」
 NWについての仮説は殆ど与太話だ。それは森里を失望させ、逆にある種の確信を持たせた。獣人の中でDSだけがNWの情報を想像や推論でない形で持っている。NW研究においてDSへの道だけが正解だとすればどうか。
「ここに来るまで‥妙だと思わなかったか」
 手慣れた動作でライフルを点検しながら秋流がポツリと呟く。
「俺も専門家じゃない‥。詳しく調査してみない事には分からないが‥‥いや、いい」
 無口な男は喋り過ぎたと思ったのか途中で黙り込んだ。むっとして聞き返そうとする森里を、現場一筋の年上の男は片手で制止した。

「着いたぞ‥‥あれが、崑崙か‥‥」
 秋流は前方にそびえる山を見上げる。三、四百mはあるだろうか。
「見た所はぼた山みたいだね。地下遺跡を作った時の土砂で作ったみたいな‥」
 ススムが率直な感想を口にする。中から崑崙商会の馴染みの店員が出てきて「ようこそ崑崙へ」とか言われたらどうしよう。
「思ったより地味ですね〜。もし本当に崑崙山なら、封神台を発動させればいいんでしょうか〜?」
 こんな時でも、のんびりとした口調で話す彩佳。
「伝説がどこまで真実か‥‥、登れば分かります‥‥」
 ゆくるはスレッジハンマーを油断なく構えた。
 さすがにここまで来ると、戦闘を回避出来るとは思えない。先に到達した獣人も居ない様だ。
「行こう」
 ひとまず山の周囲を見渡すと、中に続く入口を発見した。
「何か書いてある」
 入口の横に立つ柱の文字にススムが気づいた。
「甲骨文字に似てるかな」
「読める?」
「‥いや無理」
 とりあえず写真に撮っておく。

 山の内部は通路が縦横に走り、とても短期間では調べ尽くせそうもない。一行は手近な所から調査を始めた。
「ちょっとこっちに来てくれ」
 小部屋の中を調べていた時雨が仲間達を呼ぶ。少年は完全獣化して四つん這いになり、床を調べていた。
「人が入った形跡がある」
「‥‥誰が?」
「NWかな‥‥いやでも」
 時雨達は遺跡がNWを封印する為に作られた物である事を疑わないが、今の遺跡はNWに占拠された彼らの巣である。
「‥‥やっぱり、DSだと思う。ほら、ここに靴あとが残ってるし、何か荷物を引きずった様子もあるんだ。NWはそんなことしないだろ?」
「ふむ‥‥」

「あー、こっちも壊れてます」
 倉庫のような部屋を調べたパティは情けない声をあげる。部屋中にガラクタが散乱していて、それらが全てオーパーツらしいと分かった時は目の色が変わった。
「むぅ。九竜神火罩とか土竜爪とか無いですかねー」
 中には聞いた事も無い道具もあったが、皆壊れている。
「ミテーラがやったのでしょうか‥‥、自分達を滅ぼす道具と知って破壊したのかも‥‥」
 ゆくるはそう云いながら、真っ二つに割れた盾を拾いあげる。
「あ、でもこの槍はまだ使えそうです。探せばまだあるかも!」
 彼女達の目が期待に輝いた。この部屋にあるのはどれも宝貝と呼ばれる種類のオーパーツのようだ。ならばここが崑崙である可能性は高い。もうかなり疲れていたが、気合も入るというものだ。

「本当にここが崑崙なのか‥‥?」
 ススムは工房のような大きな部屋を見回した。倒れた棚に、床に散乱する使い方の分からない工具、大小の炉が並んでいる。
 荒廃はしているが、保存状態は大昔のものとは思えない。好奇心からススムの手が謎の大型器械のレバーに伸びる。その時、悲鳴が聞こえた。
「ちっ! ‥‥敵かっ」

 天井から無数の糸が垂れ下がる大広間。
 部屋の隅に壊れた機織り機が転がっているが、部屋に飛び込んだ獣人達の目につくのは中央に鎮座する半透明の巨大なゼリー。不規則に蠢く高さ4mほどの黒いアメーバ。ライトで照らすと中央に光るコアが見えた。
 巨大スライムは彩佳の体を半ば呑みこんでいた。彩佳が部屋に入った時には何も無かったのだが、床から染み出した黒い粘体は一瞬で彼女に襲いかかった。
「油断しちゃいました〜」
 呑気な声を残して彩佳の身体が化け物の体内に沈む。

―― Angels we have heard on high. Sweetly singing o’er the plains
    And the mountains in reply Echoing their joyous strains.
     Gloria... In Excelsius Deo  Gloria... In Excelsius Deo ――
 部屋中に響き渡るパティの歌声。オーパーツは少女の声をNWだけに効く破壊音波に変換する。全身にダメージを受けて、不定形NWは激しく体を震わせた。
「この〜」
 一瞬拘束が緩み、彩佳は波光神息で絡みつくNWの体液を吹き飛ばす。その隙に仲間達が彼女の体をNWから引っ張りだした。
「無事か?」
「ありがとう。私は大丈夫です」
 騒ぎに合流した獣人達は、今までどこに隠れていたのか四方からNWが接近する音を聞いた。
「‥‥ここまでだな。撤退だ」
 入口と反対方向に走り出した森里の背中にとび蹴りを食らわすススム。
「いてぇ! なにしやがる」
「それはこっちのセリフだ! ‥‥ったく、パティちゃん、この馬鹿引きずってさっさと行けっ!!」
 敵が多すぎる。逃げるには誰かが時間を稼ぐ必要がある。背中を向けるススムにパティは躊躇する。その肩を秋流が叩く。
「‥‥先陣は先輩に譲るものだ‥‥若者はその行いを継いで成長する‥」
「えーっと、突然ドラマみたいな事言わないで下さい」
 困ったように言うパティに、秋流はうーんと考え込む。
「そうか。やはり俺には芝居の才能は無い‥。だが、これだけは譲る訳にはいかんのでね‥」
 そう言って横に立つ秋流の苦笑に、ススムも釣られて微笑む。もう一度森里を頼むとパティに言って、彼女の手からマイクをひったくった。
「まさか俺が使う事になろうとは‥‥」
 溜息を一つ付き、少女と少年を後ろに押しやる。
「心残りばかりだけど、馬鹿やれて楽しかったな。まゆさん‥‥ごめん」
 ゆくると彩佳が二人を連れていく。迫る敵の群れは見るからに極悪で、勝てる気が全然しない。
「‥‥行くぜ」


 その後、戦いは終わり、始皇帝陵遺跡と崑崙の本格的な調査が始まった。
 DSの資料が見つかったとかで、WEAでは遺跡の封印も検討しており、まだ揉めているようである。




●DS
 あの時、崑崙で時間が無いから別れて調査しようといったのは時雨だった。
 森里少年は出発前にWEAの資料の中からDSに連絡する方法を見つけた。それは普通に調査したのでは分からないように、しかしある程度の知識を持つ者には探し出せるように巧妙に隠されていた。

「崑崙で待つ」

 その指示に従い、時雨は崑崙の一室で一人の男と対峙する。
「あんたはDSか」
「そうだ。分かり切った事を聞くんじゃねえよ」
 男はプロレスラーのような巨漢で、遺跡の深部だというのにスーツ姿で少年を見下ろしている。
「まさか仲間を裏切るとはな‥‥見上げたやつだ」
「否定は、しない」
「ふん。用件を言いな」
 時雨は言った。
「DSの、‥‥NWの制御方法を俺に教えて下さい。お願いします」
「よし分かった」
 あっさり許されて時雨は呆然とする。
「俺は来る者は拒まねえ主義だ。どうせ素質の無い奴は死んじまうしな。教えて下さいなんて軟弱野郎は10人に9人は死ぬぜ。男を見せろよ?」
「待って下さい。俺は、方法を知りたいだけで、DSになりたい訳じゃ‥」
「同じ事だ。言葉も知らねえ奴に勉強を教えられるか? 半端はねえ。ついでに教えといてやるが、俺達と同じになれば、今のお前は消える。それだけは覚えとけ」
 DSになり、NWとコンタクトすれば例外なく精神汚染を受ける。
 それは言わば異生物と交渉する代償であり、自分だけは大丈夫という甘い考えは通用しない。
「俺は、情報が必要で‥‥」
「そうかい。そっち側からはどんなに頑張っても見えねえんだが‥‥ま、お前さんにはまだ早いみたいだな。つまらねえ、無駄足かよ」
 DSの男は舌打ちすると、肩をすくめて背中を向けた。
「ま、待て!」
「いいのか? そろそろNWが気づく頃だ。お仲間が死ぬぜ?」
 男が床をコツコツと叩く。悲鳴が聞こえたのはそのすぐあとだ。
 少年は背後から聞こえる仲間の声と、男の立ち去った扉を暫く見つめた。
「くそっ!」
 必死に駆け出しながら、死のうと思った。



●生きて生きて生きて
 戦いの後。
「恥かしい‥‥」
 重体でベッドに寝かされた男は死にそうな声を出す。
「あんな大見得切って、生き残るなんざしまらねえ話だよな〜。おまけに大作戦に勝って普通に遺跡調査開始されるし! 俺達の苦労は一体何だったんだ?」
 佐渡川は目に涙を浮かべている。
「‥‥」
 隣のベッドに寝る磐津はひたすら無言。
 老兵は去り際が大事。とどこかの提督の言葉を頭の中で繰り返している。
「でも、みんな無事で良かったよね」
 彩佳がにっこり微笑む。
 NWも退治され、平和が訪れた。少なくとも、大規模な事件は終わったことを感じている。
「しかしな、NW倒したのをいいことに、遺跡のヤバい所は封印しようって上の方は言ってるみたいよ? なんかそれ、お兄さんは気に入らないんだけどさ?」
 上層部を批判しつつ、佐渡川は病室を見回した。
「あの馬鹿はまだ落ち込んでるのか?」
 戦いの後、森里は暫く塞ぎ込んでいた。
「パティちゃんが付いてるから心配要らないとは思うけど。むしろ俺達はお邪魔? くくく‥‥少年も年貢の納め時か」
 意地悪な笑みを浮かべる佐渡川。どことなく、生き恥を曝した事を喜んでいる節がある。
「結局、陵墓の下になにを封じたかったのかな? ジョカにフッギにトウテツ? 何だか凄いね〜、始皇帝と言われるだけはあるかな〜」
 彩佳が言うと、磐津は重々しく頷く。
「さすがは中国四千年の歴史‥。奥が深い‥」
「それで納得しちゃうんだ」
 扉が開いて、大量のメロンパンを抱えたゆくるが入ってくる。
「元気そう‥」
「うん、死に損なったよ」
「はい‥。約束は守ります‥」
 生還の記念にとゆくるは写真を皆に手渡した。
「へ‥‥? こ、この写真はっ!!」
 パトリシアが銀のマイクを時雨の尻に突き刺した瞬間が、バッチリ写っていた。
「決定的瞬間‥、記念写真です‥‥」
 騒がしい病室に、少年と少女が近づいてくる。
「あ、みんな居るみたいだよ。早く行こ?」
「‥‥」



END