謎列車と赤い星アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 1.3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 11/04〜11/08

●本文

 某プロダクションに、イベント会社から『ミステリートレイン』の仕事が舞い込んだ。
 ミステリートレインとは、乗客に行き先を知らせない団体旅行列車。
 面白そうな営業だとプロデューサーは喜んだが、打ち合わせを重ねて見るとどうも予算がしょぼい。
 その割にスポンサーの要求は派手だ。
「俳優やアイドルをバンバン使ってね〜、歌と芝居の楽しい旅行にしたいんだよ。あ、でも金はこれだけしか出せないからね。そこの所は宜しくね〜」
「‥‥えーと、持ち帰って検討いたしますので」
 断ってしまおうかと思ったが、勿体無いのも事実。長い不況でデパートの屋上も商店街営業も格段に減った。仕事は欲しい。しかし、まともな段取りでは受けられる額ではない。
「こういうのは好きじゃないが‥‥あいつらに任せてみるか」
 プロデューサーはスポンサーとイベント会社に条件を出した。
 人数は最大10人、それ以上のスタッフは使えない。また旅行の詳細もこちらに一任してもらう。
 はっきり言って、こんな条件で受けるとは思っていなかったし、断られたらそれまでだと思った。しかし、目論みは見事に外れる。
「それ、いいですね! 筋書きの無いドラマって感じでね、私はそういうのを求めてたんですよ〜」
(「おいおい、本気かぁ‥‥」)
 プロデューサーの頬を冷たい汗が一筋流れたが、後の祭りである。

「‥‥という訳でして、列車を動かす運転手と車掌、それから目的地のホテルと農園の人が少しは手伝ってくれるんですが、イベントの進行と招待客の世話は全て自前という事になります。二泊三日の予定で、東京から青森まで往復です。何でも、新しい林檎のキャンペーン目的だそうでして‥‥林檎狩りは必ず入れろと‥‥はい、ギャラの方はそんなところで」
 プロデューサーは色んなプロダクションに電話をかけまくった。
 果たしてスタッフは集るのか?
 歌と芝居の楽しい旅行になるだろうか?
 それは君達次第だ。


●ミステリツアー概要
旅程:東京⇔青森
期間:二泊三日
目的:新製品の林檎のキャンペーン。
条件:林檎農園での林檎狩りを必ず入れること。
お客:無料招待客100名(家族連れ、カップル、仲良し主婦達など様々)。
イベント内容:出演者に一任。

●今回の参加者

 fa0369 天深・菜月(27歳・♀・蝙蝠)
 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa0755 エミュア(18歳・♀・狼)
 fa0823 舟津・レイラ(20歳・♀・猫)
 fa0954 白河・瑞穂(17歳・♀・一角獣)
 fa1425 観月・あるる(18歳・♀・猫)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1658 奏奇 詠斗(17歳・♀・猫)
 fa1670 星蔵 龍牙(23歳・♂・竜)
 fa1714 茶臼山・権六(44歳・♂・熊)

●リプレイ本文


●出発
 朝7時、東京駅八重洲口に集合した。
「ミステリーツアーご乗車のお客様はこちらで〜すっ」
 手製の旗を元気に振る少女が居る。新人歌姫のエミュア(fa0755)、腰まである三つ編みが鞭のように揺れていた。
「本当だ、芸能人みたいな人達がいるよ」
「TVで見た事ない顔ばっかりだけど」
 招待客達はエミュアの周りに目立つ集団を認めて、ぞろぞろとその周りに集りだした。やや家族連れの客が多い、そのほかに若い女性のグループや年配の夫婦、一人旅の青年などなど、客層に統一性は無い。共通点を探すとすれば、旅行好きな事か。
 今回はスタッフが全て芸能人という豪華ツアー。逆を言えば、普段はスタッフがやってくれる事も全て自前という事だが。
「荷物、これで全部ですか?」
「待って下さい。えーと、荷物のメモは‥‥あれ?」
 新人スタント女優の天深・菜月(fa0369)は両肩に幾つもバッグや袋をぶら下げて、肩で息をしていた。その隣で新人演出家の白河・瑞穂(fa0954)は進行表やら乗客名簿やらの紙の束と格闘していた。
「‥‥はい、大丈夫です。たぶん。荷物はまとめて三号車の後ろに」
 瑞穂はそう言うと、菜月を残して他のスタッフの方に走っていく。菜月はふうと息を吐く。自分から雑用を引き受けると言ったとは言え、荷物持ちは大変だ。スタッフの有難みを実感した。
「権六さん、招待客を乗せる前に自己紹介やらないんですか?」
 瑞穂に声をかけられて車掌と話していた脚本家の茶臼山・権六(fa1714)は振り返る。スキンヘッドの頑固そうな中年親父である。
「推理劇で自己紹介するんじゃなかったか? 今は時間が無い。あそこに星蔵が居るから聞いてみろ」
 権六は招待客を案内している銀髪の男を指差した。新人声優の星蔵龍牙(fa1670)。横には新人歌手の観月・あるる(fa1425)も居て、乗客達に無料食事券を渡している。
「これは食堂車で使える無料券だよ。えー、駅弁引き換え券を希望したお客様はいらっしゃいませんかー」
 あるるは名簿片手に乗客の名前を読み上げる。
「二組まだ? うーん、列車を遅らせる訳にも行かん、出発だ」
「ドキドキするね、楽しい旅にしたいなっ!」
 乗客が列車に乗り込むと龍牙が前に出て、アナウンスを行った。
「本日はミステリー列車、赤い星にご乗車いただき、誠にありがとうございます。
 私はミステリー列車の案内人で、星蔵と申します。精一杯務めさせていただきますのでよろしくお願いします」
 目的地については喋らずにスケジュールを簡潔に説明し、その後で少しの注意事項を付け足す。
 その説明の間に、列車は東京駅を出発していた。

「列車動いたよっ、ねっ、どこへ行くの?」
「それが分からないから、ミステリーツアーなんだよ」
 目的地が分からないという事が子供の琴線に触れたのかはしゃいでいる。
「もしかしたら、宇宙に向かってるかもよ〜っ?」
「すげー」
 エミュアは主に子供連れの客に話しかけて回った。列車の旅は長いのだ、退屈させてはいけない。
「私、客車で何か吹いてこようかな」
 新人バンドマンの舟津・レイラ(fa0823)がサックスを取り出した。レイラの提案に、着流し姿の新人バイオリニスト、水鏡・シメイ(fa0509)は頭をかく。
「私達の出番はまだ先ですよ」
「それならBGMとして車内放送で流して貰うのはどうかしら? それなら獣化出来できるわ」
「本番の時に腕が落ちては台無しですよ。ただ正直に言えば、私も少し不安です、練習に付き合ってくれますか?」
 夕方にはホテルで演奏会を予定している。楽器は二人のサックスとバイオリン。エミュアもベースを弾く気だが、獣化しないと聴かせられた物ではないと反対意見が多い。素朴なデュオを伴奏に、あるるやエミュアが歌う。
「あら、私はどんな曲でも大丈夫よ」
「過信は禁物ですよ」
 二人は練習を始め、熱中すると時間を忘れた。

「そろそろだな。準備はいいか?」
 時計を見ていた権六がスタッフに声をかける。
「‥‥いいわけないだろう。スッピンでお客の前に立てってか? 茶臼山さんもこっち手伝って下さいよ」
 新人アイドルの諫早清見(fa1478)は獣化して仲間の準備に走り回っていた。
「我輩は脚本家である。スタイリストでは無い」
「手が足りない時に何言ってるんだ」
「冗談だ。おぬしの手つきは見ちゃおれん。我輩も本職ではないが、この際だ、勘弁してもらうとしよう」
 権六と清見、それに菜月の三人で手早く出演者の支度を行う。
「皆さん、少し遅れそうなんです。奏奇さん、先にお願いできますか?」
「僕が? いいよ。みんな頑張ってるし、僕も負けられないしね」
 瑞穂に呼ばれた時、新人マジシャンの奏奇詠斗(fa1658)はもう用意が出来ていた。タキシードをビシッと決めた赤髪の少女は緊張した顔で客車に向う。


●推理劇
「後ろの人にも見やすいように、この大きなカードを使います」
 詠斗はマジック用の大きなトランプを招待客に見せて、小さな子供に一枚のカードを引かせた。カードを持った6歳の少年はカードをしっかりと握って、詠斗に見せないように頑張る。
「‥‥えーっと何してるんですか?」
 5歳くらいの少女が詠斗のタキシードの裾を握って離さない。
「おかまいなく」
 コクコクと頷く少女。マジックに挑戦する気なのか、真剣な顔である。母親が謝りながら出てくるが、詠斗はニッコリと笑う。
「大丈夫です。彼女には僕のマジックの証人になって貰いましょう」
 本当は大丈夫ではないが、つい子供に甘くしてしまう。
 結果は‥‥失敗もあったが、楽しい時間を乗客に提供する事は出来たと信じたい。
「今日のお客様、結構手強いよ。キミ達も頑張ってね」
 約30分の公演でクタクタに疲れて、詠斗は控えの車両に戻ってきた。彼女の公演はまだ後にもある。詠斗は隅っこで次こそ勝つと闘志を燃やした。

「これから車内推理物語が始まります、お客様が犯人を見つけるゲームです。
 見事に犯人を見つけて下さった方には賞品を用意しておしますので、皆様方のご参加を心よりお持ちしております」
 先に龍牙がアナウンスを行う。イベントの始まりに、昼飯を食べてうとうとしていた子供を母親が起したりしている。出演者達が手分けしてイベントの概要を刷ったチラシを客に配る。
 車内推理劇『赤い星盗難事件』。
 脚本演出は茶臼山・権六。
 ミステリートレインに積み込まれていた秘宝『赤い星』が盗難された。秘宝がこの列車にある事を知っているのはスタッフだけ。犯人はこの中に居る。乗客達には探偵として、列車各所に隠された手掛かりとスタッフの証言から推理し、見事犯人を見つけ出して欲しい。
「‥‥と言う訳なのだ。我輩の秘宝を取り戻してくれ」
 謎の大富豪ドン茶臼山が語る。スキンヘッドで目付きの悪い権六は子供が泣くからとサングラスをかけさせられた。最初は我輩は演出家だからと嫌がったが、意外にノリノリで演技を続ける。
「赤い星到着までに秘宝は戻りますでしょうか‥‥皆さんが頼りです」
 進行助手の清見は客達にスタッフの居場所やヒントを教えた。
「なんか耳が出てるよー」
「あ、帽子取らないで」
 清見は芝居は苦手なので半獣化していた。耳や手足の毛、尻尾は服と帽子で隠しているが、至近距離では違和感がある。子供に帽子を引っ張られ、清見は脱兎の如く逃げた。
「あ、あのお兄ちゃんが犯人だ。追えー」
「ひぃー」
 子供達に追い立てられる清見。
「まあ、人気者ね。羨ましいわ‥‥え、赤い星? し、知らないよ、私は聞いたこともないわね」
 あるるはボリュームのある長髪をふるふると振って疑惑を否定した。
「ねーちゃん、大根やなぁ。しんけんみが足らんでぇ」
 子供に覚めた声で指摘されて、落ち込むあるる。最初は子供に釣られて家族連れの客ばかりだったが、徐々に打ち解けた雰囲気になり、他の客も参加し始めた。
「私はバイオリニストの水鏡・シメイです。私は『赤い星』が盗まれた時にはバイオリンの調整をしていました。ですから、私は犯人じゃありません」
「じゃあ、この後でシメイさんのバイオリンを聴かせて頂けるんですか」
「ええ、ホテルで‥‥おっと、誘導尋問は止めて下さいね」
 シメイの周りには女性客が多い。理由は‥‥まあ言うまでも無いだろう。さて同じ理由で男性客にはあるると瑞穂の人気が高い。
「秘宝が盗まれたって話ですけど、自分は皆さんと一緒にいましたからアリバイは十分ですよね?」
「瑞穂さんは普段は何やってるんですか? モデル?」
「半分当たりです。本業は演出家なんですけど、モデルの仕事もたまに‥‥」
 瑞穂の近くではレイラが音楽好きという青年と話していた。
「へぇ、舟津さんバンドマンなんだ。どんな曲やってるんですか?」
「邦楽、洋楽なんでも。あなたも楽器やってるの?」
「ドラムを少し、仲間と一応バンドやってるんですよ。良かったら今度一緒に‥」
 さて、このイベントは嘘を付いているスタッフを探すものである。
 その為にはスタッフとただ話すだけでなく、突っ込んだ質問も出来る。芸能人のイベントとしては異例と云えるだろう。一つ間違えば有名になった後の黒歴史だが。
「犯人がお前だっ!」
「ええーっ!」
 どこかの名探偵ばりにビシっと指を指されて、エミュアは焦りまくる。
「‥‥はっ、私は犯人じゃなーいっ」
「じゃ、誰が犯人なんだよ」
「カツ丼食うかー?」
 徐々に羽目が外れる客も居る。
「うーん、だんまりか? 体に聞くしかないようだな」
「お客様第一、お客様第一‥‥」
 念仏のように呟く詠斗。

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、目的地を目の前にして犯人発表が行われた。今回のイベントは目的地探しはあまり主題にならなかったが、芸能人達の捨身の挑戦により貴重な思い出が作られたようだ。
「私が犯人です」
 シメイが笑顔で言うと、悲鳴と歓声があちこちで起きた。最後は正解者のジャンケン大会があり、勝利者に権六が小道具の模造ルビーのネックレスを贈呈した。
「このネックレスはドラマで有名女優も付けていた‥‥かは分かりませんが、茶臼山さんがスタジオの小道具部屋で一番良いのを選んで下さいました。間違いなく逸品です。どうぞ大切にしてください」
「実際、幾らぐらいなんです?」
 小声でシメイが権六に聞く。
「さあな。模造品には違いないが割と良い細工だぞ。本物にしか見えん」
 優勝した30代のお父さんは子供に賞品のネックレスをあげている。子供達の歓声が聞こえた。
 イベントの余韻のさめやらぬうちに列車は青森駅に到着した。

 ホテルでは夕食時に演奏会を行った。
 サックスとバイオリンのデュオ。
「なんで私のベースが無いのー!」
 エミュアの抗議は黙殺された。

●二日目
 翌日は軽い朝食の後、招待客はバスに乗せられた。メインイベントの林檎狩り。
「ただの林檎狩りじゃありませんよー。昼食には皆さんが取った林檎も出ますからねー」
 昼食はジンギスカンとアップルパイ。焼き林檎や煮林檎もついてきた。
 アップルパイはなんとスタッフの手作り。
「美味しいパイが出来ますから、待ってて下さいね」
 笑顔で言う瑞穂の脇にはお菓子作りのハウトゥ本がちらりと見えた。招待客の脳裏に一抹の不安が過ぎる。
「そこの着流しエプロンさんも手伝って♪」
 あるるは楽しそうに生地をこねている。
「ぁー‥‥僕はちょっと料理が苦手なんだ。嫌いじゃないんだけどね」
 困った顔をしながら、しかし嬉しそうに詠斗もパイ作りを手伝う。レイラは料理の間サックスを吹くと言って辞退し、客の世話に清見と菜月が参加出来なかったが彼ら以外は全員が何かしら手伝ってアップルパイは完成する。
「‥‥救急車を呼ぶ用意は万全か?」
「恐いことを言いますね、諫早さん。安心して下さい、ほらここに救急セットが」
 清見と菜月が小声で笑えないコントをしていたが、幸いにリンゴに当たった人はいなかった。
「って‥‥あれ? やーんっ私の作ったの誰も試食しないのぉ!?」
 何故なら要注意人物のパイは脇に避けていたからだ。

 二日目の午後はスタッフにとっては疲れのピークで、裏方不在で走り回る苦労を五体に感じ取っていた。自腹でもバイトを雇うんだったと後悔したが、後の祭りである。意地でも最後まで続けなくてはならない。
 最後はエミュアとあるるが主役の「歌しりとり」。シメイとレイラの伴奏で、客が指定した曲を何でも、二人の歌手が歌う。客層もバラバラでしりとりという足枷付きではちとキツイが、招待客も参加できるので盛り上がる。
 と思っていたのだが、早々に挫折し、他のスタッフも助っ人に呼び出された。
「我輩までか!?」
「茶臼山さん、演歌とか軍歌とか得意でしょ」
「む、何か勘違いしておるようだが、我輩は魂の叫びのハードロックとド演歌しか聞かんぞ」

 段取りは必ずしも良くなかったが、やる気でカバーし、何とか乗り切る。
 夕方にホテルをチェックアウトして、帰りの電車に飛び乗る。実際、時間が押して飛び乗るようにして青森を旅立った。列車は日本海を通って朝には東京へ着いた。

「今回はミステリー列車:赤い星をご利用いただき、誠にありがとうございました。
 スタッフ一同、心より厚く御礼申し上げます。
 また、次の機会がございましたら、ご参加くださいます様よろしくお願いします」