大寒中水泳大会っ!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
松原祥一
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.2万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
11/25〜11/29
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●本文
「大寒中水泳大会」
大が二つかぶってお馬鹿っぽい企画である。
「なせばなる。ならねば貴様クビっ」
プロデューサーは狂犬か。
「芸能人なら体を張れ。命を掛けろ。視聴率は神様だ。つまんないヤラセなんざ使うつもりは無いから命知らずを集めてきやがれっ」
スタッフに怒号が飛んだ。
しかし、プロデューサーも鬼では無い。ちなみに虎である。
必死の説得により、シベリアとか北極とか楽に死ねる場所は譲ってくれた。
近場で、信州松本。そこの『屋外』プールが死に場所、もとい会場に決定する。
「その代わり、ただ入ってただ泳ぐだけじゃ駄目だぞ。楽しく、激しく、チワキニク躍るエンターテェメントだっ。‥‥分かったな」
お笑い芸人を集めて信州松本の屋外プールで阿鼻叫喚の大寒中水泳大会。
当然の如く、難航する出演者集め。まだ真冬全開ではないとは言え11月下旬の寒空に全開で行う寒中水泳。風邪を引け、場合によっては入院しろと言うようなものだ。
「そこを何とか‥‥でも出演料は割高でしょ? 色々とサービスしますから頼みますよぉ」
さて、命知らずは松本の地に集るのか。
●リプレイ本文
収録日当日。
この日、長野県松本市に命知らずは揃った。
「やあ、いいですねぇ。お笑い芸人の方は体を張ってなんぼです。此方のプロデューサーの方とは気が合いそうですよ」
終無(fa0310)が暢気な事を言った。白髪赤目の落ち着いた雰囲気の青年は、商売道具のカメラが入った鞄を手に車から降りた。
「だよなぁ。うん、オレも気に入っちゃったよ。こういう企画さぁ、続いて欲しいよね」
新米音楽演出家の三田舞夜(fa1402)は終無に同意して頷いている。
「‥でも真冬じゃないとは言え、タレントさんも大変ですねぇ」
首にタオルをかけた太った青年、山田悟志(fa1750)は車の後ろから荷物を下ろしつつ、集った出演者達の方を眺めた。
「ただまぁ、こういった仕事を潜り抜けて、皆さん大物になっていくのですから、そのお手伝いが出来るのは僕達の誇りですよ」
三人とも裏方だ。同情はしているが、自分は地獄を見ないのだから気が楽である。
出演者はまず新人が4人。大道芸人の志羽翔流(fa0422)、タレントの猫美(fa0587)、アイドルのライカ・タイレル(fa1747)とアイドル候補の燐ブラックフェンリル(fa1163)。
それに役者の風光明媚(fa1500)、俳優のAAA(fa1761)、振付師のもりゅー・べじたぶる(fa1267)を加えた計7人が、極寒地獄にその身を投げ打つ。
集合場所ではちょっとした揉め事が起きた。
「‥‥私何故ここにいるのでしょう? 三田サンに「寒いの慣れてる?」と聞かれてハイと答えたら、連れて来られたのですけど?」
ライカが戸惑い気味に言うと、髭面のディレクターは顔を引き攣らせた。
「三田君、困るなぁ‥‥どういう事?」
「そんな訳ないじゃないですか。オレが騙したなんて‥‥ライカの我が侭ですよ。ちゃんと言っときますから今回は勘弁して下さい」
三田はライカと同じプロダクションだ。二人はスタッフから少し離れて話し、どうやらライカは納得した。その様子を不快な表情で眼鏡越しに眺める釣り目の少女。今回最年少、中学生のコスプレタレント猫美だ。
「ネコミ、あの人たちと一緒に仕事したくないですぅ」
猫耳猫尾を着けた少女の抗議にディレクターは苦虫を噛み潰した顔。
「何、おいおい猫美ちゃんまで我が侭言わないでよ」
「だってぇ、あの人達この前の打ち合わせに顔出さないし、感じ悪いんですよぅ」
頬を膨らませる猫美。参加者同士の打ち合わせは自由参加だが、それを重視する者も少なくない。来なかった裏方の山田、三田、それにライカの三人は仲間では無いと言い切る猫美をスタッフが必死に宥める。
「でも僕、昨日山田さん達と今日のこと話したよ」
「って、ひっどーい。それじゃネコミだけ仲間外れですかぁ? 大体7人て何? 組対抗戦にしますって話したのに奇数じゃ出来ませんよぉ。メチャメチャですぅ」
燐の不用意な一言が少女に更に火をつける。
「ふぅ、この分じゃ当分動きそうにないね」
風光は困ったものだと肩をすくめたが、爽やかな笑顔だった。端役として多数のドラマに出演してきた風光にはこの手のトラブルで待たされるのは慣れっこだ。
「暫く待ちだよね。僕はそこに居るから、終わったら呼んでよ」
生真面目な山田は胃を押さえている。その横を通り過ぎて、風光は駅前の喫茶店に入った。
結局、一時間ほど遅れたが全員でプールへ向う。
●本番前
プールサイドで最後の打ち合わせ。
「種目、結構多いねぇ」
参加者から募集した競技種目は直前の段階でも七種目が残っていた。30分の番組でこの数は多すぎる。
「どうしよーか?」
「俺は大丈夫ですよ。全種目いけます」
プロデューサーにやる気を見せるもりゅー。競泳用水着にトレードマークのグラサンとバンダナを着用し、意気高々。
「一人だけはしゃぐなよ、俺だってどっからでもこいだ! ‥‥いや、シンクロは個人的に避けたいんだけど‥‥」
売り込みに必死な志羽は『芸人根性』と筆で書いた赤褌を締めてやる気をアピール。
「いやあ、考えることはみんな同じなんだね」
褌姿で登場した風光は苦笑いを浮かべる。実はAAAも褌に着替えていた。女性陣は、猫美とライカはワンピ水着、燐も似たようなものだがこちらはスクール水着。並んでプールサイドに立つと、統一感が無い。
「おい山田、悪くは無いが‥‥ちょっと雑だな。一人分ぐらい被り物持ってこれなかったのか?」
「えー、予算無いんですから、無茶言わないで下さい」
山田がぺこぺこと頭を下げる。暑い筈は無いのだが何故か額をハンカチでしきりに拭く山田。
「その代わりと言ってはなんですが、安全対策はバッチリですよ」
山田が自信満々にプールサイドの反対側を指差すと、そこには担架が用意され、白衣の医者と看護婦が立っていた。視線に気付いたのか親指を立てて微笑む医者A、何故だか素晴らしく不安になる出演者達。
「‥‥皆のやる気は分かった。そこまで覚悟してるなら、全部撮ろうじゃないか。あー、最後に一応断っておくが、俺は反対した! しかし、君達がどうしてもやりたいと言うから仕方なく‥‥。俺は体を張って止めたが、命も要らないという君達が無理矢理に!」
因果を含めるヤクザの如き顔で念を押すディレクター。
出演者の背後で終無がカメラを回し、温度計の数値を撮っていた。
「只今の気温5度、水温4度‥‥」
●身体張ります!生命懸けます!ポロリあるかも?
「ポロリはダメ? いいじゃん、無くても水泳大会のお約束なんだから。女性出場者もいるんだし」
志羽が言う。しかし、ワンピース水着でポロリは難しくないか?
さて競技は七人で行うが、予め青組と白組に分かれて総合ポイントを競う。青組が猫美・志羽・AAA、白組が風光・燐・もりゅー・ライカ。一人多い白組はポイントでハンデを負う。
最初の競技は、氷柱抱き耐久レース。
プールサイドに置かれた大きな氷の柱に各組代表者一名が出て氷柱に抱きつき、いつまで我慢できるかタイムを競う。
が、しかし。
「あああ‥‥寒いわ寒いわ寒いわ!ちょっとこの企画考えた人、すぐに出てきなさいよ!!」
AAAが悲鳴をあげる。
カメラが向いた時は服をバッと投げ捨て、セクシーポーズでウインクして見せた髭坊主35歳、寒さと巨大な氷柱の脅しが効いて早くも音をあげた。
いや、ここでAAA一人を笑うのは酷であろう。
出演者全員、まだプールに入ってもいないが早くもガタガタ震えている。
この後も競技は氷山尻相撲デスマッチ、寒中シンクロナイズド、寒中トライアスロン、大寒水中騎馬戦、極寒ドーバー潜水クイズ、最終サバイバル決戦と、命知らずの大バーゲンかと思う様相を呈する予定である。
出演者達は歯をガチガチと打ち鳴らしながら、暖房の効いた室内で致死性の高いその競技の数々を夢想した自分達を呪った。アホかと、マジで死ぬぞと。
「くっ、こんな寒さに負けるかオトコノコだろー!」
白組のもりゅーが意を決して飛び出した。彼は得意の軽業を披露して氷柱の直前で跳び、逆さまに氷柱に飛びついた。
ドグァッ!
「ぐはぁっ」
寒さ故か目測を誤り、逆さになったもりゅーは氷柱に激突したが掴み損ねてそのまま肩からぐちゃっと床に落ちた。柱の方も、ぐらぐらっと左右に揺れたかと思うとそのままドボーンとプールに転落した。
しーーー‥‥‥ーん
「や、やっちまったぁ!」
「おい医者、医者‥‥坊主はまだ早いーっ」
※約30分撮影は中断するが、もりゅーが超回復力の持主だったことが幸いして最悪の事態は回避。
「もりゅー‥‥僕達、貴方の犠牲は無駄にはしないよ」
戦死した(※死んでません)もりゅーの最期に涙を流す白組の燐と風光、ライカ。
とりあえず氷柱が無くなったので結果はドローという事で残った皆はスタッフの用意してくれた桜鍋をつつく。
「どんどん食べてよ。信州の蕎麦の熱いのと冷たいのも両方用意してあるからね」
和やかな休憩タイムが過ぎていく。
休憩の間に、全ての競技を行うのは自殺行為であろうと再検討がなされた。既に一人脱落者が出ている事も憂慮して、競技の数をぐっと減らす事に決まる。
「危ないから絶・対・に!真似しちゃ駄目だよっ!」
燐がカメラの前でニッコリ微笑む。
本当なら事故がおきた時点で中止しないと拙いのだが、そこは編集で誤魔化すのだそうだ。酷い話である。
氷山尻相撲デスマッチ。プールの上に先程の氷柱を数本繋げた筏を浮かべて、主演者は氷の筏の上で尻相撲を行う。敗者はプールの中に突き落とされる勝ち抜き戦だ。
青組の一番手は猫美、白組は燐が出る。153センチと157、身長はやや燐が上だがウェイトは猫美。緒戦から好勝負が期待できた。
「えいっ‥‥きゃっ!」
「え?」
猫美はサイドステップで燐の突き出しを躱して横から押し出そうとしたが、氷に足が滑って転がった。倒れた猫美の足に躓いて燐も転倒、二人はもみくしゃになってそのまま水中に両方ともドボン。台本も無いのに、狙ったように見せてくれる。水中でもつれた二人が水着を掴んでもがく姿は真に迫った。
続く中堅は青組が志羽、白組はライカ。
「女性が相手でも手加減はしないぜっ!」
「不束者ですが宜しくお願いしますっ」
大道芸人として日頃から鍛えている志羽とアイドルのライカでは最初から勝負は見えている。一押しでライカは水中に没した。
「手厳しいねぇ‥‥ははは、はあ」
白組大将の風光は勝てないまでも何とか見せ場を作ろうと思いつつ氷の台にのぼった。
「あんたなら全力が出せる。俺の為に散ってくれ!」
開始の合図と同時に志羽が猛チャージをかけた。いきなりピンチの風光はこのまま倒れるのだけは避けたいと必死に志羽の体に手を伸ばした。
「あ、そんなところ掴むなよ‥‥あんた、見苦しいぜっ」
風光を振り払おうと志羽が体を捻ると、風光は手を滑らせて水中に落ちた。
「よっしゃー!」
ガッツポーズを取る志羽。
「まぁ‥‥」
顔を赤らめるAAA。
風光が最後に必死に掴んだのは志羽の赤いアレ。
「試合に勝って、勝負に負けた」
ポロリと出した志羽は罰ゲームへ。青組が二人になり、続行不可能と判断してここで競技終了。
最後にシンクロナイズドスイミングの練習シーンを撮り、収録終了。
後日放送された番組は舞夜がいれた曲や終無の荒いが派手なカメラワークが手伝って水上の仁義なき戦いといった風情の怪作に仕上がっていた。