チャンバラファイトっアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 1万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/01〜12/05

●本文

「ここのシーンは映画のヘソだ、リアリティを出したいんだよ」
 真剣な顔で頼み込む若手の監督を、初老の殺陣師は鼻で笑った。
「監督さん、冗談言っちゃいけません。模造刀でもおっかないのに、真剣を使える場面じゃないんだ」
「そこを何とか‥‥危険な所は、あんたが演技を付けてくれたら大丈夫じゃないか?」
 食い下がる監督を殺陣師は暗い目で見つめる。
「駄目です。あなたは何も分かってない。話がそれだけなら、私も忙しいので失礼します」
 話は終わりだと言外に言って、殺陣師は部屋から出て行く。
「‥‥くそっ」
 ガンっ
 部屋に残された監督は苛立ちをゴミ箱にぶつけた。

「殺陣師をクビにする? ちょ、ちょっと待って下さいよ」
「そう。監督の言う事を聞かない男なんて、要らないんだよ。ベテラン気質のつもりか知らないが、こっちのやることなすことに文句をつけて‥‥あれは撮影妨害だ」
「またまたぁ‥‥仲良くやってるんじゃなかったの?」
 小太りのプロデューサーは暑くもないのにハンカチで汗をふいた。笑って誤魔化そうとするが、監督の渡会は態度を変えない。今直ぐでも殺陣師に解雇を告げに行きそうだ。
「そんな勝手は出来ないんだよ。ほら、今は組合とか色々あるでしょ、それは監督だって分かってるじゃないですかぁ。予定だって詰まってるんだしさ」
「何と言われても、俺にも譲れないものはあるんですよ。あの男とは一緒に仕事は出来ません」
 うまが合わないと言うのだろうか。
 自分が少し目を離した隙に監督の渡会と老殺陣師の清水の仲がまさかここまで悪くなっていようとは。
 弱ったプロデューサーは、一計を案じる。

「殺陣師のオーディションを行うって? だって、撮影はもう始まってるじゃないですか? そんな無茶な話‥‥」
「だからフリ、フリだけだよ。形だけでも新しい殺陣師を雇うふりすれば監督も納得するし、それで『やっぱりこの映画に清水さん以上の殺陣師は居ない』と言う事になれば、監督も我が侭は言えないさ」
 つまり、オーディションはやるが最初から採用する気は無いという事だ。
「そんなに上手く行きますかねぇ? 第一、オーディションて出演者はどうするんです?」
「だから、それを集めるのが君の仕事なんだよ。新人ばっかり集めるとヤラセだと監督に悟られるから、サクラも入れといてよ。あ、失礼のないようにちゃんと因果は含めてね」
 十分に無礼だと思うが。プロデューサー補の青年は頭を掻き、受けてくれそうな事務所を調べようとファイルを手に取った。

●新作映画『冬の雲雀』殺陣師緊急公募!
 新進気鋭の若手監督、渡会優が製作中の時代劇映画「冬の雲雀」の殺陣師を緊急募集している。同映画の殺陣師は既にベテランの清水敬三が務めているが、監督との不仲が原因と言われる。
 今回のオーディションは経験不問という事で職種を問わず、自由な参加を求めている。なお、同時に斬られ役の出演者も募集している。

 「冬の雲雀」は幕末の動乱の時代を舞台に、主人公の流れ者の渡世人が維新の陰謀に巻き込まれて博徒や官軍と戦う大活劇。殺陣のシーンには特に力がいれられているとのこと。

●今回の参加者

 fa0330 大道寺イザベラ(15歳・♀・兎)
 fa0427 チェダー千田(37歳・♂・リス)
 fa0494 エリア・スチール(16歳・♀・兎)
 fa0536 新堂 将貴(28歳・♂・獅子)
 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa0742 華坂瀬 朱音(20歳・♀・狼)
 fa1050 シャルト・フォルネウス(17歳・♂・蝙蝠)
 fa1482 武厳皇(34歳・♂・亀)
 fa2430 楠木兵衛(35歳・♂・一角獣)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

●オーディション前半
「あははは、貴方達は所詮ゴミなのよ!」
 艶やかな黒髪に燃えるような朱い眼、南蛮渡りの連発式短筒を構えたピストルお蘭は金銀綾錦の着物姿で白刃をさげた博徒達に威勢の良い啖呵を切った。
「しゃらくせぇ! 先生、早くこの女たたっ斬ってくだせぇ」
「おう」
 博徒の後ろから着流しの巨漢が姿を見せる。ヤクザの用心棒に身を落した剣客新堂将貴(fa0536)。
「‥‥運が無かったな。俺は女でも容赦はせんぞ」
 新堂はお蘭を見据えたまま、二尺三寸の得物をゆっくりと抜いた。
「冗談じゃないよ」
 彼女はギラついた目で睨みつけ、浪人に向けた短筒の引き金を引くが、弾が出ない。
「いっ?」
 驚くお蘭を新堂は上段から斬り捨てた。
「はぁあ‥‥うぅ‥‥」
 斬られた着物が床に落ちる。半身素肌を曝したお蘭は恍惚の表情で立ち尽くし、べちゃりと床に倒れた。
「‥ぐえっ」
「はい、OKです。お疲れ様‥‥」
 淡々とした渡会監督の声に、床に頭をぶつけて悶絶していたお蘭―大道寺イザベラ(fa0330)は顔をあげる。
 ここは血風吹き荒び裏街道ではなく、都内のスタジオの中だ。
 殺陣師オーディションに並行して行われた映画の斬られ役募集には、沢山の参加者が集った。用心棒役をやった新堂は苦い顔で助監督に食ってかかっている。
「即興だからってな、周りが全然ついてきてないぞ」
「うーん、大道寺さんが自分で演出したいって言ったんだからここは仕方ないですよ」
 曖昧な受け答えに新堂は舌打ちする。
「なんだぁ? そんなものなのか、ここには清水さんって言う腕利きの殺陣師が居るって聞いて参加したんだがなあ」
 新堂は首を廻らすが、今日ここに清水敬三の姿は無い。代わりに渡会監督とプロデューサーが彼らの演技を見ていた。
「監督さん、あの、これを‥‥」
 着物が半分切れたセミヌードの格好で大道寺は自分の荷物からCDを取り出し、渡会に手渡した。
「ん、これは?」
「あたし達、『RED IMPULSE』のデモテープです」
 ああ‥と渡会の顔に理解が広がった。
 今回のオーディションには彼女の他にレッドインパルスのディノ・ストラーダ(fa0588)とエリア・スチール(fa0494)が参加している。渡会はディノから同じテープを貰い、映画の挿入歌に使って欲しいと頼まれていた。
「斬りあいん時はこの音楽かけたいんだけどな」
 その時ヘビメタ調の曲を聴かされた渡会は少し関心を見せたらしい。
「‥あの、斬られ役って、‥‥映画の方にも出られるんですか?」
 シャルト・フォルネウス(fa1050)が質問した。ジーパン、ジャケットのラフな格好をした17、8才くらいの表情の乏しい少年だ。
「勿論ですよ。早い人には明日から入って貰います」
 収録は数日かかるとプロデューサーが説明するとシャルトは頷き、無表情のまま言った。
「‥‥分かりました、どうも」
 アーウェルンクス所属のシャルトの本業はミュージシャン。今回は自由参加を謳っただけに参加者の経歴は様々だ。履歴書によれば彼の参加動機は「チャンバラ‥‥面白そう」「‥体力つくかな?」とのこと。
「私の演技を見て貰えますか?」
 順番を待つ間に楠木兵衛(fa2430)は、恰幅の良い大男に声をかけた。
「俺ですか? ええ、もちろん構いません」
 190cm近い長身に相撲取りを思わせる横幅の大男は武厳皇(fa1482)。実際に10年前まで角界に居たが今はプロ格闘家に転身し、今回は殺陣師としての参加だ。
「私はフリーの役者です。このオーディションは良い機会と思って参加したんですが、何やら雰囲気が妙なんですよね」
 首をかしげた楠木に、武厳皇は鋭い視線を注いだ。
「え、何か不味いこと言いましたか?」
「このオーディションには事情があります。どうやら華坂瀬と俺しか知らされてないようだが」
 武厳皇と脚本家兼俳優の華坂瀬朱音(fa0742)は共に殺陣師候補。元相撲取りの台詞に楠木は引き込まれた。
「それはどういう‥‥」
「聞いて貰った方がいいでしょうな」
 そう言った武厳皇は視線を楠木の背後に向けた。
「やっぱりか〜、俺も確かに、妙な雰囲気は感じてたんだよね」
 楠木の後ろで耳に手を当てて盗み聞きのポーズで話を聞いていたお笑い芸人のチェダー千田(fa0427)は得心がいったとばかり、腕組みしてうんうんと頷く。
「まっ、そゆことなら俺も話し聞かせて貰うしかないね」
 でかくて不恰好な伊達眼鏡の奥で、チェダーの目が笑っていた。

●幕間
「ほぅ、なるほどね」
 昼の休憩時、参加者達は華坂瀬と武厳皇に呼び出されて今回のオーディションの裏側を聞かされた。
「端役は仕方が無いと思っていたが、俺達は道化役だったか」
 真っ赤なスーツを着たディノは仲間であるイザベラとエリアを見て肩をすくめる。
「まったく、無理な事を考える人はどこにでも居るんですね」
 落ち着いた口調で華坂瀬が言った。俳優としても活躍する美人だが、今回は殺陣師として参加した。
「‥‥映画に出られる話も嘘ですか?」
 と質問したのはぼーっと話を聞いていたシャルト。
「それは本当です」
 武厳皇が答えた。殺陣師を降ろす事への抗議で何人かの役者がストライキを起したらしく、その代役である。それを聞いて、内心不安だったチェダーはホッと胸をなでおろした。
「事情を聞いたら何か複雑だけどさ、俺らの事はまあいいよ。この時期の募集だもの、最初から訳アリは分かってた事だし、代役でも映画に出られるなら問題ナッシンっ」
 しかしとチェダーは殺陣師候補二人を見る。
「お二人さんは、違うよね。ピエロを引き受けるほど人が良かったら、俺らに話さないだろうし、何考えてるわけ?」
 武厳皇と華坂瀬は互いの顔を眺めて、先に華坂瀬が口を開いた。
「今回の事は無知な子供の我侭‥‥口で言って分からない監督にはご自分で体験して貰うしかありません」
 真剣な顔で言う華坂瀬に、チェダーはゴクリと喉を鳴らした。
「つまり、あの監督を真剣でブスっとヤると‥」
「だ、駄目です。は、犯罪です。映画が撮れなくなります!」
 驚いてエリアが大声を出した。エリアは売れないアイドル、今回もドレスを着て張り切って参加した彼女にとって、仕事が消える事は何より恐ろしい。
「誰がそんな事しますか! チェダーさんも何笑ってるんですかっ」
「こんな所でもボケとかんと‥‥映画はメガネナシだからなぁ」
 悲哀に満ちた顔で溜息をつくチェダー千田。
 とりあえず、その後の打ち合わせで参加者達は武厳皇と華坂瀬に協力してくれる事になった。

●真剣勝負
「刀は脆く折れやすいものです」
 武厳皇は用意して貰った二本の刀を打ち合わせて折って見せた。
「あーあ」
 脇で見ていた高白百合(fa2431)は側に居たプロデューサーの溜息を聞いた。勿体無いと呟いている。
「あの‥‥」
 声をかけた高白に、今気付いたとばかりにプロデューサーは驚いた。
「えっと、君は‥見学?」
「オーディションを受けた高白百合です」
 百合は芸能人らしくないとよく言われた、取り立てて特徴の無い容姿と気弱で控え目な性格だから本人も自覚はあるが、さすがに出会った当日に完全に忘れられた事は珍しい。
「ああ、そうだったそうだったねぇ」
 激しく余談だが、そんな百合の姿をシャルトは親近感を持って見つめていたとか。
「時代劇の撮影って、いつもこんな危ない事をやってるんですか?」
 真剣は使わないと言っても、模造刀も凶器だ。大勢で金属バットや鉄パイプを振り回していると思えば、危険度も想像に難くない。
「竹光を使えばね、まあこれも百パーセント安全とは言えないんだけど不安は減るんだよ。だけど監督が嫌がってねぇ。軽くてリアリティが無いと」
 それが高じて今度は真剣という話になった訳だが。
「清水さんが最初に竹光で殺陣を見せてくれた時は驚いたなぁ。竹光なのに本物みたいでねぇ」
 高白とプロデューサーが世間話をしている間に、武厳皇はオーディション参加者有志を使って真剣を想定した殺陣を見せていた。十分な指導を行っていないから、内容は酷いものだ。模造刀の重さに恐怖が先に立ち、腰のひけた演技だった。
「最後に、殺陣師として監督にお伝えしなくてはいけない事があります。今まで撮った殺陣の大半は取り直しです。映画が急ごしらえになる。役者の戸惑いと不信も捨て置けない、二次被害は重大事故を引き起こす恐れがある。監督はリスクを全部考えた上で前任を解雇されたのでしょうか、そのことをもう一度考えた上でどうされるかをお決め下さい」
 渡会は無言で聞いていたが、淡々とした声で「お疲れ様でした」と言った。
「私の番ですね」
 続く華坂瀬は、渡会監督が斬られ役に参加する事を提案した。
「私の殺陣に参加して頂いた方が、実力を理解して頂けると思います」
「面白いね。受けて立ちましょう」
 椅子から立ち上がった渡会は、刀を握っていた。
「なっ!? 監督! それ持ってきてたんですかぁ!?」
 四方山話に花を咲かせていたプロデューサーが慌てて監督を止めに入る。
「心配無用です。刀の扱いは心得ている。宵の虎徹は血に餓えておるわ」
「あんた本当におかしいっ‥‥おい何してる、みんな手伝え!」
 獣人は真剣を所持する者が少なくないが、無論非合法である。撮影に使うなどとんでもない。剣と魔法の世界ではないのだ。
「こら、危ないじゃないか止めろ。死にたいのか、俺の刀に手を触れるな!」
 渡会は群がるスタッフに愛刀を奪い取られまいと怒鳴り散らした。
「まずいな。逆上してるぜ」
 新堂はポツリと呟き、参加者に目配せした。
「よっぽど武厳皇さんの抗議が頭に来たんですかね」
「忠告しただけだ」
 楠木の言葉に、武厳皇は唸り声をあげた。
「きゃあぁぁっ、監督ーっ! 止めてーー!!」
 イザベラは金切り声をあげて騒ぎを増長する。彼女の仲間のエリアとディノは万が一の事を考えて避難に見せかけて人間スタッフを外に連れ出す。渡会が獣化したら事態は最悪だが。
「俺に任せろ。バッチリ決めさせてもらうぜ!」
 刀を掲げた度会に躊躇する仲間の間を縫ってチェダーが飛び出した。
「死ねやーーーっ」
 奇声をあげて飛び掛るチェダーに、驚いた渡会は反射的に刀を水平に薙ぎ払う。チェダーの服が引き裂かれ、その瞬間チェダーの動きが不自然に止まった。
「ヴ‥‥ゴフッ」
 チェダーの口から赤いものが大量に吹き出した。
「これは‥‥笑えねぇ、ナ‥‥」
 壊れたロボットのように、お笑い芸人はその場に斃れた。


●オーディション後半
 目の周りに六角形の隈取をした官軍兵士が博徒の群れに特攻する。
「や〜ら〜れたーーっ」
 長ドスで斬られ、くるくると大げさに回転して倒れる兵士。
「だ、誰かー、助けて下さい」
 ドレスを着た銀髪赤目の貴婦人が街道に転がり出てくる。背後から追いかける博徒が逃げる女性―エリアに追いつく。背後から斬られる所を隠し持っていた短刀で受け止め‥そこねて斬られるエリア。
「あぁ‥‥もうだ‥め」
 両手を広げて地面に倒れこむエリア。
「きゃっ!」
 溜まらず声を漏らした後、動かなくなった。
「おのれ、罪無き人々を嬲り殺すとはこの偽官軍‥‥」
 真っ赤な着物姿でディノが登場。
「はぁっ!」
 腰の刀に手を添えて気合の一声を発すると、何もされていないのにバタバタと倒れる官軍兵士。
「見たか、水鴎流居合いの極意っ‥‥この踊る赤い死神をなめるなよ」
 口上の後、渇いた鉄砲の音が数発響いた。顔色を変える赤い死神。
「む、無念‥‥ぐはっ」
 ヘビメタ調のBGMをバックに、踊りながら倒れるディノ。
「‥‥いた」
(「‥いつまでこの状態してればいいのかな」)
 赤い死神に殺された名も無き官軍兵士―シャルトは、踊るディノに頭を蹴られて思わず声をあげる。
(「‥でも指示があるまで動けないよね‥‥頑張ろう。ちょっとでも出れたら皆に自慢しよう。うん、そうしよう」)
 じっと倒れたままのシャルトの横に、また新たな死体が生まれる。
「きゃう」
 闇の忍び―高白は派手なジャンプで登場し、博徒に一刀の元に斬り捨てられると宙返りして危険なまでの角度で地面に激突した。彼女はそのまま昏倒する。半目を開いた高白の顔が転がった先はシャルトの顔の真横。
(「‥凄いなあ。俺ももっと頑張ろう‥‥」)
「‥‥むむ」
 死体の山を見つめて、うろたえた官軍指令官―楠木は、あたふたしながら腰の刀を抜く。
「私の部隊が全滅だと‥‥認めん! お前なぞ、お前なぞーっ!」
 滅茶苦茶に刀を振り回した楠木は突然走り出し、小石に躓いたように倒れた。
「ぐはーっ!」
 刀を背中から生やして、動かなくなる楠木。


「はい、カーット! お疲れ様ーっ」
「みんな良かったよー。じゃあ、本番もこの調子でヨロシクっ!」