アイドル誕生っ!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
松原祥一
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
難しい
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報酬 |
0.3万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
12/02〜12/06
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●本文
この冬、新しいアイドル番組がスタートする。
新人アイドルの発掘とプロモートを目的とする、よく言えばマンネリな、悪く言えば在り来たりな番組である。
「頑張ってくれ。一週打ち切りも大いにある」
局の偉い人は恐い事をさらりと言った。その目は、代わりは幾らでもあるんだよと言いたげに見えた。気のせいだと思いたい。
「‥‥見返してやろうじゃないか」
しかし、弱小の製作会社ではスタッフも肝心な出演者も満足に揃えられないのが現状だ。外部に募集するしかなかった。
始まる前から期待されていない新番組、製作予算も雀の涙ほどで出演料も満足に払えないが、代わりに得難いものを与えられる、それは自由な番組作りだ。
「一蓮托生、て事ですかね」
「おっきなスポンサーが欲しいッす」
ともあれ、第一回の放送日が迫っている。
やるしかない。
●新アイドル番組『アイドル誕生っ!(仮)』
「企画、製作、出演者‥‥etc、大募集中。
君も僕達と一緒に新しいアイドル番組を作ってみないか?
○○プロダクション代表 □□××」
●リプレイ本文
流行の移り変わりは目まぐるしい。いわんやTVのそれは光の如しだ。
アイドルも多様化の時代を迎え、様々なアイドル候補が世に出る時を待っていた。
新番組『アイドル誕生っ!(仮)』はそんな時代に挑戦する。
「‥‥打ち切られなければ、な」
記録に残る第一回放送。
「ハ〜イ、みんな元気カナ? ビリィお兄さんだヨ!」
朝の子供向け番組を思わせる爽やかな笑顔が画面に現れる。
しかし、その服装は派手だ。
「今日はココにアイドルの卵達が集まってるんだ。みんなまだ緊張してるみたいだケド、これから歌やゲームでムチャクチャ頑張って、みんなにアピールするからネ。見てて応援したいナって思う子がいたら、公式サイトから投票ヨロシク! 水着審査もあるヨ!」
明るい色の赤髪に中性的な顔立ちの青年は高いテンションで喋った。
レザーパンツにロングブーツ、ジャケットの下はヘソ出しタンクトップ。指輪や金銀のアクセサリーをジャラジャラと全身に纏うのは番組司会役の夕月ビリィ(fa0841)、21歳♂。
場所は都内の某ライブハウス。ステージに一人立つビリィはカメラに向って親指を立てて笑う。
「テーブル、おいあのテーブル?」
グレーの髪をした色黒のベテランADがステージ前に置かれた白いテーブルに目を向ける。大きな紙袋と、そこからはみ出した赤いミニワンピースと白のレース胸当てエプロン、それに女性物の下着らしきものが散らかっていた。
「誰だ、こんなの置いたのは‥‥企画屋さんか?」
「俺じゃないですよ。そういえばさっきデボ子がそっちで‥‥」
ハグンティ(fa0088)に水を向けられて、企画担当の三田舞夜(fa1402)が言いかけた所でドアが開いた。白のワンピ水着を着た畑下雀(fa0585)が声を弾ませて入ってくる。
「ご、ごめんなさい‥‥あ! あのそれ、デボ子の服じゃないですか‥‥?」
畑下はハグンティが掴んだエプロンを見てずれた眼鏡を直し、不思議そうに首を傾げる。
「どうやらデボ子の忘れ物だったか。‥‥所で、なんでもう水着になってるの?」
舞夜の声は呆れていた。
畑下雀は今回の出演者の一人で新人アイドル歌手。童顔巨乳天然眼鏡と絵に描いたような萌え系人材。
「‥‥お母さんが、この衣装を用意してくれたから‥‥」
恥かしそうに下を向く畑下。その様子に、ハグンティはさっきまでビリィを撮っていた長身の男を呼ぶ。
「ウルフェッド撮るのはお前だ。如何だ?」
「俺は問題ないな」
中年カメラマンのウルフェッド(fa1733)は手短に答えた。言外に社長がOKならばという含みがある。ウルフェッドとADのハグンティは同じプロダクション、裏方互助会に所属している。ハグンティはそこの所長であり、この場で一番演出に詳しいのも彼なのだ。
「なら続行だ。すまなかった、気付かなかった俺が悪いんだ」
ハグンティは謝ったが、原因は初回特有の段取りの悪さとスタッフ不足だ。出演するアイドルの多さに比較して裏方が少ない。三田が音響・企画・編集、ウルフェッドが撮影、ハグンティはそれ以外全てを行う。初歩的なミスが多発するのも無理はない。
(「大道具系がまさかいないとわねぇ‥‥経験からやれることやるしかねぇが」)
美術系は裏方・出演者を含めて誰もいない。潜在能力的にはウルフェッドか畑下に天分があるが、ウルフェッドは撮影に専任させたかったし、畑下に美術を任せるのは自ら地雷を踏むのも同じだ。
「社長‥‥」
渋い顔のハグンティにウルフェッドが声をかける。
「ウルフェッドそっちは如何だ? 手伝いがいるなら片端から指示をくれ。裏方の仕事はいい作品を作る為に手間を惜しまんことだからな。(立場は)気にするなよ?」
「それならサブのカメラが欲しいな」
「やっぱりな。そうだろうと思ったよ。任せてくれ」
「んじゃ、各ユニットの自己紹介と自己アピール! まずは‥結成されたばかりの動物コスプレユニット『アリス探偵団』!」
ビリィの紹介でステージに上がったのは二人の子供。
ピンクのエプロンドレスを着た猫耳猫尾ミント・シルフィール(fa0608)が先に笑顔で登場し、その後に黒い羽を背負った笹原詩音(fa1457)がクールな表情で続いた。
「‥‥あのねシオンちゃん、アリス探偵団は歌の名前じゃなかったのです?」
「あれ、僕ユニット名だって言わなかった?」
どうしましょう、と両手で顔を押さえたミントだったが、自作の天使の羽を付けたマイクを取り出した。
「今からアリス探偵団を歌っていいですか?」
思い出したように頭上を見上げて、ビリィに尋ねるミント。
「勿論いいけどさ、名前の事はいいの?」
「わたくし達、歌うために来たのですもの。名前は持ち帰ってけんとうするのです」
得意の高音を生かしたミントの可愛らしくおしとやかな歌声がステージに満ちた。彼女の歌声に合わせて詩音の鍵盤がノリの良い音色を奏でる。
『アリス探偵団』
♪探しものはどこ?
わからない事は何でも調べる
探せない物なんて世の中にあるの?
答えはどこかに必ずある
それを見つけるのがアリス探偵団
追い求め探し出すわ(台詞のように)
全ては解く為にある謎
解き明かされない謎なんてないはず
必ず見つけてみせる
いつでもきてね解いてみせるから
(歌:ミント、曲:しおん)
二番手も二人組、妙齢の女性二人のユニット『Anorua』。
「」
観月・あるる(fa1425)と雪音希愛(fa1687)
「はじめまして。わたしはヴォーカルの観月あるる! 好きな物はお菓子とちま人形、苦手なのは人類の天敵ゴキブリ。スリーサイズはぁ‥‥ナ・イ・ショ・だよ♪」
「キーボード担当の雪音希愛と申します、好きな物は‥‥ええっとスリーサイズは153cmです」
「「は?」」
あるるとビリィは思わず希愛の胸に視線が吸い寄せられた。
「あ、すいません、‥‥今のは私の身長です」
顔を赤くして訂正する希愛に、あるるは胸をなでおろした。
「ビックリしたぁ。そうよねぇ、そんなにあったらノア、ドカンだよね」
「‥あるるさん、ドカンって何? その連想、ちょっとショックなんですけど」
「あら心配ないわよぅ、このあと水着審査でノアのスタイルはバッチリ証明できる」
あるると希愛は二人とも豊満なボディの持主だ。まだ羞恥心が先に来るが、ユニットの為に頑張る気でいた。少なくとも犯罪チックなミント・詩音組には負けられないと闘志を燃やす。
「いや‥水着で勝つ気ないんだけど‥‥てゆーか僕逃げるしさ」
恥かしがりながらも楽しそうにフリフリヒラヒラの子供用水着に着替えるミントを置いて、抜き足差し足で着替え室を抜ける詩音。
ステージからAnoruaの曲が流れてきて詩音の足が止まる。
ノアのシンセサイザーが生み出す軽快なテンポの曲に乗せて、あるるの歌が聞こえた。
『シークレット X’mas』
♪恋する乙女は強いの
甘いクリスマスのために親だって騙す小悪魔よ
そこの君、彼女の尻尾には気付かない振りしてね
作戦開始のベルがなる Holy night
今夜ばかりは裏切り無しの小悪魔達
さあ、君がハートに火をつける番だよ My Darling!!
(歌:あるる、曲・バックコーラス:ノア)
その次の三番手は新人アイドル声優の百瀬悠理(fa1386)。
「はじめましてー、ユウです」
腰までも届く豊かな茶髪に、青い瞳の少女は兎耳兎尻尾のコスプレスタイルで壇上にあがった。
「小学生グループ、高校生グループと続いて今度は中学生か」
水着を拒否してステージの袖で見学する詩音が呟く。
「見た目はね」
後ろから声がかかり、舞夜が少年の肩にぽんと手を乗せた。
「水着は絶対いやです」
「それはもういい。ミニゲームの準備、ハグンティだけじゃ大変だから手伝ってくれないか?」
「でも、今日無理に全部撮らなくてもいいんじゃないですか?」
制作期間は5日間ある。撮影は二日の予定と聞いていた。
「このライブハウス今日しか使えないんだ。だから撮れる分だけ一気に撮らないと」
ステージでは悠理が歌う所だ。
「全国のお兄ちゃん、お姉ちゃん、よろしくお願いします♪」
光に照らされたその場所から一歩離れると、衣装やメイク係も居ないので、他の出演者や着替えと化粧に悪戦苦闘している。
優雅に見える白鳥も水面下では必死に水を掻いていると良く言われるが。
「熊も小鳥も猫も兎も狼も烏もトカゲも、光の外でバタバタと足を動かしているんですね」
「まあね。誰でも、そうじゃないかな‥‥」
甘く軽妙な恋愛ソングを背中で聞いて、少年はベテランADに手伝いを申し出た。
『私の王子様』
♪夢の中で貴方に
クチヅケしたの
今でもちょっぴりドキドキしてる
明日会えたら何を話そう?
そんなことばかり考えて 眠れなくなりそう
貴方に出会えた 喜びをいつも
抱きしめているよ だけど
まだ隣にいる 資格なんて無い
もう少しだけまってて
私の王子様☆
(歌・曲:ユウ)
四番手、最後(トリ)は畑下雀。
脇腹の辺りが大きく開いた白い水着姿で登場した畑下は、カチンコチンに緊張してステージ中央で転んだ。
「あっ‥‥」
‥ゴンっ!
両手を投げ出したポーズで頭から床にキスする。動かない。
「ハァ‥‥あのー、大丈夫?」
死んだかなと思いながらビリィが尋ねると、むくりと起き上がった。顔が赤い。
「い‥いたいです‥‥」
「あれ眼鏡は? 割れたんじゃない」
「あ、大丈夫です。‥‥水泳の時は外してますから‥‥」
「今日は水着審査だけだから泳がないんだけどナ、もしかして頭強く打ってない?」
言われて畑下の顔は首まで真っ赤になった。今にも泣きだしそうだ。
「‥‥ごめんなさい。デボ子‥‥ほんとに要領悪くて‥‥みんなにいつも迷惑を‥‥恥ずかしいです」
「んにゃ、こんなの良くある事故でショ。気にすることないヨ。ぶっ続けで俺も疲れたし、あんたも少し様子見た方がいいネ。休憩にしよう」
幸い、畑下に大事は無かったようで、休憩後に今度は(彼女なりの)元気を見せて流行のアニソンを熱唱した。
各組の自己紹介と歌の後は、ミニゲーム。
「畑下さん、お互い頑張りましょうね」
「はい‥‥よろしくお願いします」
コンビで戦う二組に対して不利な百瀬と畑下は、このミニゲームだけは協力戦線を張ると決めていた。
しかし‥‥。
「旗立てゲーム?」
「企画屋さんからは、そう聞いたが‥‥」
パペット(指人形)を両手にはめて旗を立てる競争。明日はミニゲームを屋外ロケと思って車を用意してきたハグンティ。
「いや旗揚げゲームだし。紅白の手旗持ってサ、赤上げて 赤下げないで 白上げるってヤツだヨ」
「そうだったのか」
三田とハグンティとウルフェッドで話し合ったが、四組の自己紹介と歌で尺は十分という意見にまとまり、今回はミニゲームは外す事にした。番組正式タイトルの件も今回は棚上げだ。
段取りは最後まで良くはならなかったが、何とか番組収録はラストまで辿り着いた。
「ハ〜イ!どうだったかナ? 応援したくなった子は見つかったかナ? 見つかったら公式サイトでその子のいるユニットに投票! 君の愛のパワーで卵達が成長していくんだヨ! どんな卵が孵るのか、お兄さん楽しみだなァ♪じゃ、またネ!」