遊び指南アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 3.3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/30〜01/03

●本文

「遊びを教えて欲しいんですよ」
 キッカケは老人の一言だった。
「師匠、というと?」
「わたしの弟子に一人、真面目一辺倒の男が居ましてね。詰まらないんで、遊びを教えてあげて欲しい」
 と話すのは落語家の笑霞亭七助。話し相手は某TV局のプロデューサー。ある新春番組の収録後の事だ。
「なるほどー、遊びは芸の肥やしと良く言いますからねぇ」
「そんなのは嘘っぱちです。遊びは遊びですよ。遊び人を高座にあげる人はいませんでしょう」
 感心した風のプロデューサーに七助は真顔で言った後、苦笑いを浮かべた。
「だから、これはただの悪ふざけなんですよ」
「はぁ‥‥つまり、いたずら?」
「そうそう。私の道楽だから、費用はこっち持ちで、誰か上手い遊びをする人を紹介してくれませんか?」
 何人か呼んでくれれば、遊び代は全て七助が出すという。美味しい話に、プロデューサーは恐縮した。
「まあ、若い人の遊びは私みたいなのには分からないからね。宜しく頼みますよ」

「という訳なんですよ。俺も七助師匠にはお世話になってるから断れなくてね。いい人紹介してくれませんかね?」
 プロデューサーは色々なプロダクションに連絡を取った。
 まあ、他人の金で遊んで来いって言うんだから、こんな良い話は無い。仮に失敗してもTVに映る訳では無いから、それほど難しく考えることも無いだろう。
「そうです。遊び代は向う持ちです。師匠は一人当たり1本まで出すと言ってますので‥‥はい、よろしくお願いします」

 弟子の名前は笑霞亭七色。
 年齢は三十二歳、二十歳の時に笑霞亭一門に弟子入りして五年で二つ目になり、現在は真打ち目指して修行中。師匠の七助は、立てばパチンコ座れば麻雀歩く姿は馬券買いと言われた遊び人だが、七色は飲む打つ買う全てやらない堅物という。未婚で趣味は碁と漫画から六法全書まで幅広い読書。
 因果を含めて送り出すから宜しく頼むと七助は言うのだが‥‥。

●今回の参加者

 fa0360 五条和尚(34歳・♂・亀)
 fa0388 有珠・円(34歳・♂・牛)
 fa0443 鳥羽京一郎(27歳・♂・狼)
 fa0538 金城匠(24歳・♂・虎)
 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1302 つぶらや左琴(28歳・♂・狐)
 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa1402 三田 舞夜(32歳・♂・狼)
 fa1747 ライカ・タイレル(22歳・♀・竜)

●リプレイ本文

「なんでこんな事を‥‥」
 呼び出されて駅前に現れた笑霞亭七色は、不満顔だった。
「おいおい、話は聞いてるんだろう?」
 不安になって聞いた三田 舞夜(fa1402)に七色は渋々頷くが、納得してる顔じゃない。やれやれこいつは手強そうだと三田は心中肩をすくめたが、すまし顔で持っていた新聞を彼に押し付けた。
「俺が教えるのはこいつ」
「何です、これ?」
 三田が渡したのは競輪の予想紙である。
「ちょうどいいレースがあるんだ。一位賞金一億円の大物レースだ。出てくるヤツも一流、ネタとして見るだけでも悪くないだろ」
「いや、私は賭け事はやらないんですよね」
「だったら賭けなければいいんだ。こういうのは予想が楽しいんだからな、もっともレースを見ること自体は結果の確認に過ぎないというのは無粋だがね」
 三田はそう云って、予想の立て方を語りだした。
「まず、選手の出身地を近い地域別に分別する。これは競輪が一人では勝てない競技で後半まで助け合うからなんだ。だから‥‥」
 七色は居心地が悪そうだったが、素直に聞いた。ここで帰れば師匠に面目が立たないとでも思ったのだろう。レースは若手がベテランを抑える波乱の展開、百円だけ買った七色は外れた。
「落語家と言ったら、酒とギャンブルのイメージがあるでしょう。昔の寄席は博打場も同然だったと言いますが、私はどちらもやりません。それがおかしい事なんでしょうか?」
「さあな。体験しないとやれないってのは違うと思うが‥‥まあ、人それぞれなんじゃないの」
 三田は淡白に言って、駅前で七色と別れた。遊び指南は代わる代わる教師が現れる。次は新宿、そこにプロレスラーの五条和尚(fa0360)が待っている。
「多少いかがわしい方が面白いんですが、男が連れ立って2丁目に行くのは天から魔法を授けられるほどの勇気が必要です」
 五条和尚は丁寧な口調で七色を飲み屋に案内した。
「いや、私は酒は飲めませんので‥‥」
「まあまあ、そう言わずに。大門で縛られますよ」
 明烏のサゲで釘を刺す五条に、七色は嫌々ながらも付いていく。オレンジジュースを注文した七色を相手にして五条はよく喋った。
「酒の飲み方一つとっても、美味そうに呑む演技と実際に飲んでいる様子は違うものです。例えば私の聴いた禁酒番屋で‥‥。説得力のある演技とは実動のディフォルメであり、要素を抜き出したものと言えますね。それゆえ呑まなくても道具が無くても、実際の行動よりも実際らしいとなるわけですが、しかしそれは実動を知らなくて良いと言う道理にはなりません‥‥。私もね、レスラーと言う仕事柄、チョップ一つの攻防を巡る説得力、繰り出す技の重みには‥‥」
 説教好きな男なのだ。三日三晩は語り明かせる勢いで語った。七色は平然と聞いていたが、五条は別れ際に苦笑いを浮かべた。自分の言葉を相手が吸収してくれる事を期待した長話ほど、大体聞かされる方は堪った物ではないものだ。
「もし、私のような者の話でも七色さんに響くものがあったとしたら、漱石が言った目黒の秋刀魚です。今日は良いお酒でした」
 五条と別れた七色は時計を見て顔を顰めた。終電に間に合いそうも無い。
「弱ったなあ。どうしよう‥‥」
 タクシーを探すか朝まで時間を潰すかと考える七色の肩を誰かが叩いた。
「何言ってるんです。まだまだ、夜はこれからじゃないですか」
「ええ、そうです。清濁合わせ呑んでこそ芸人道。‥‥フッ、今夜は眠らせませんよ?」
 筋骨隆々としたカメラマンの金城匠(fa0538)はがっちりと七色の体を捕まえ、ディノ・ストラーダ(fa0588)は蠱惑的な笑みを浮かべた。
「なっ‥‥!?」
「大丈夫ですよ。今日は七色さんはお客さんって事で、俺達に任せといて下さい」
 金城は邪気の無い笑みを浮かべた。
「いや、私は家に」
 嫌がる七色を引き摺るように連れていき、三人はカラオケボックスに入った。
「まずは俺が耳汚しを」
 ディノが一番手でマイクを握る。ちょっと考えて、無難にSWABの少し前のヒット曲を選んだ。得意ではないが、上手く歌うより少々外した方が七色が歌いやすいだろうと気を回す。曲が始まると金城がタンバリンを叩いて盛り上げた。いつのまにか、金城は頭にカツラを被っている。
「ささ、次は七色さんの番ですよ」
「いや僕は」
 無理強いしない程度に七色に歌わせよう盛り上げようと二人は腐心した。接待カラオケのノリである。七色は古い歌謡曲を二回歌う。心底楽しんだかは分からない。
「仕事の後のカラオケはもっと楽しいんだけどね」
 二人から真夜中に解放された七色は途方にくれたが、やっと一日が終わったかとやれやれと肩を落す。後ろから声がかかった。
「七色さんやないですか」
 金髪碧眼の優男が立っていた。
「奇遇でんな。こんな場所で会えるやなんて」
 男の名はつぶらや左琴(fa1302)、職業はイケメン噺家。イケるイケないは置いといて、七色とは同業者である。何故こんな深夜に現れるのか驚きつつも丁寧に挨拶を返す七色に、左琴は満面の笑みを見せた。
「七助師匠から事情は聞いてます。それで、ボクは七色さんの付き人にして貰おうと探してましたのや」
「いや、困ります。兄さんにそんな事、される道理がありません」
 嫌がる七色を無視して今から付き人ですと宣言する左琴。タクシーを停めると七色を押し込めて、自分も乗った。
「は、話を聞いて‥」
「そら勿論。七色さんの噺は聞かせて貰いたいんやけど、その前に明日からの予定を今のうちに確認させて貰ってもいいですか」
 年末年始、この後も遊び指南の予定はぎっしり詰まっている。
 タクシーの中で左琴の話を聞きながら、初日からこれだけ慌しい一日で、大変な年末になったと七色は思った。

 二日目、大晦日。
 押し掛け付き人の左琴は午前中には再びやってきた。
「一緒に観ましょう」
 左琴はDVDプレイヤーを持ってきて、七色に薦める。
「なんのDVDなんですか?」
「映画です」
「ああ、なるほど映画鑑賞」
 身構えていた七色はホッと息をつき、自室で二人で左琴が持参したDVDを観た。1本目はベストセラーを映画化した割と有名なタイトルで、2本目は落語だった。本好きの七色は1本目の原作を読んでいたので、原作と映画の違いを感想として話すと、左琴は聞き返した。
「今の2本のDVDを七色さんはどういう視点で見ましたか?」
「え?」
「どっちも娯楽作品やけど、ボク達は噺家や。映画は娯楽として観れても落語は勉強という気持ちが一分は働いたんやないですか? 少しは見方が違うはずや。そら映画監督やったら映画は遊びでないし、ボクらの落語も然りや。他の人には遊びになるもんがそうでない、自分の見方一つで世界はどうにでも変わるもんと違いますか? ボクはそう思う」
 七色は正座して左琴の言を拝聴した。七色の感想は脇に置くとして、まことにその通りであろう。
 遊び指南が、禅問答の如き様相を呈している。

「この先に、俺の行きつけのバーがあるんだ。店長の人柄が気に入ってるんだが‥‥っと、最初に確認するがアルコールアレルギーとかあるか?」
 バーに誘った鳥羽京一郎(fa0443)は、なにやら七色が随分と警戒している様子なのに首を捻った。
「いや、私はまるで下戸でして」
「なら烏龍茶でいいか? 飲まないなら食べる方だろ? 何頼んでもいいが、とりあえず生ハムやチーズは大丈夫か?」
 鳥羽は自分はカミカゼを注文して、烏龍茶と乾杯すると共通の話題を探してあれこれ話したり聞いたりした。あまり話は合わなかったが、腹が立つほど悪くも無かった。
「たまにはこういうのも悪くないと思うぜ。未知の世界を知るのは悪くない。そこで出会った人間から興味深い話を聞けたりもする。そこから違う自分が見えたり‥‥ということもある」
 といって深みに嵌るのも良くないが、と鳥羽は分かったような事を言った。何事も程々が肝心とは良く言うが、程々を見極めるバランス感覚は簡単ではないだろう。
「はぁ‥‥」
 この夜もディノと金城は七色をカラオケに誘った。

 三日目、元日。
「連日連夜遊び歩いたのでは七色さんが酷だと思いますわ」
 演歌歌手の富士川・千春(fa0847)はそう云って、自分の割り当ては辞退した。尤もな話だと10人の遊び指南役は話し合い、1月1日は遊びのお休みと決める。
 七色は安堵の息を吐いた。正月公演に出て行く七色に、千春と左琴が付いていく。左琴は付き人と言っているので諦めているが一人多い。
「‥‥何かまだご用ですか?」
「私は七色さんの寄席を観覧させて頂こうかと‥‥駄目でしょうか?」
「ととんでもない。噺家が噺を観る客を追い返すなんて、そんな馬鹿な話はありません」
「うふふ☆」
 酷く恐縮する七色に、千春は微笑む。さて千春は時間があれば七色と映画館に行きたいと考えていた。話題のファンタジー映画の新作、左琴が七色に見せたDVDはこの映画の前作だった。好反応と聞いて、少し残念に思っていた。
 前座に出た左琴はへっつい幽霊、七色は延陽伯を演った。公演の後で左琴が七色を呼び止めた。
「所で、七色さん。ボクは落語を英会話でやってみようと思ってるんだが」
「英語落語ですか?」
「まあ、死神の逆やね。時そばに無理がなくても元犬には無理がでると思うんだけど‥‥」
「ふむふむ」
 その日は遅くまで英語落語の研究で暮れた。

 四日目、1月2日。
 この日はカメラマンの有珠・円(fa0388)、アイドルの卵の三月姫 千紗(fa1396)、アイドルのライカ・タイレル(fa1747)の三人が七色を誘ってコスプレ撮影会を行った。
「ま、俺達は遊びを教えるっていう『難しい』のは考えてないから。キミに色々と見せたい。それだけだから、そんな身構えないでいいよ」
 緊張した風の七色に有珠は微笑し、手をひらひらと振った。七色は三人を順々に見つめた。
「俺がカメラを教える、二人はモデルだよ。‥‥ああ、もしキミが男性が取りたいって言うなら、衣装は用意してあるよ」
 有珠は三十台も後半に差し掛かったが鍛えているからか体型は悪くない。
「いや、そんな趣味は」
「そう良かった。コンパクトと一眼レフはどっちがいいかな? 撮り方はいくらでも教えるよ。あなたの思うが侭に撮ってみて下さいな。フィルムは山ほど用意してありますから」
 有珠が七色にカメラの説明をしていると、メイドのコスプレを着込んだライカがすっと近寄った。
「苺一円です。次は無いと思って、仕事も遊びも全力勝負です」
「は?」
「ライバルは蹴落とせ!ファンは堕とせ!無さ毛無用にやっちマイナー‥‥」
 淡々と話すライカに、呆然とする七色。
「‥‥偉い人の言葉です。言葉の意味は判りませんが、凄いと思います‥‥」
 ライカは言葉をかみ締めるようにコクコクと頷き、七色の感想を待った。
「‥‥すごいですね」
「はい。害虫じゃなくて良かったと。ビバ、俺。とプロデューサーも言ってました。‥‥あ、置いてけ堀でした、お祭りは楽しまないと微妙ですよ?」
 ライカは日本語が下手という話だが、色んな所が確かに抜け落ちているようである。
 その後もワンダーな雰囲気でコスプレ撮影会は続いた。撮影会の後は衣装はそのままでアミューズメント施設で遊ぶ。撮影会はライカペースだったが、こちらで目を輝かせたのは千紗。
「勝負ですっ」
 赤い瞳の少女はビシッと七色に挑戦状を叩きつけた。まず向ったのはオンライン対戦可能なクイズゲーム。
「七色さん知識と教養が多そうに見えるから実力テスト!」
 三番勝負、接戦するも千紗のストレート負け。
「‥‥思った通り、やるわね」
 続いて鼓を叩く音ゲー。七色と千紗、七色とライカで二回ずつ遊ぶ。
「‥‥ここまでは準備運動よ」
 真打ちはボタンをバシバシ叩くミニゲーム集の通信対戦ゲーム。三人まで出来るのでライカ、七色、千紗の配置。
「両手に花の七色さん、貴方が主役。頑張ってね☆」
「は、はい」
 親子程も年の離れた少女とゲーセンでゲームに興じる機会は無い七色は羞恥で顔が赤かった。千紗の強固な押しにより飽きるまで遊び倒した。最後は七色さん両手に花という感じの構図で記念撮影。
「また、遊ぼうね!」

 これにて遊び指南は終了。
 七助に聞いた所では、直後の七色は色々と混乱しているらしい。
 ちなみに余談だが、遊び指南のスポンサーを引き受けた七助は経費が随分安く済んだ事に驚いたらしい。