アイドル誕生っ!?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 難しい
報酬 0.3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 02/03〜02/07

●本文

 昨年12月、一回だけ放送された新番組がある。
 新人アイドルの発掘とプロモートを目的とする、よく言えばマンネリな、悪く言えば在り来たりな番組だった。
 低予算低人数の壁に挑み、新人アイドルとスタッフ達は奮闘した。
 たとえ視聴者には僅かな時間でチャンネルを変えられたとしても、そこに輝きはあった。

 しかし、現実は数字である。
 結果が全てである。実力も運不運も結果の前では頭をさげる。

「頑張ってくれ。一週打ち切りも十分にある」
 局の偉い人は恐い事を淡々と言った。笑顔を浮かべているが、その目が全然笑っていない。笑っているのか怒っているのか分からない器用な表情だ。
 心機一転してのスタッフ募集。しかし、期待されていない穴埋め番組。製作予算も雀の涙ほどで出演料も満足に払えないが、代わりに得難いものを与えられる、それは自由な番組作りだ。

●新アイドル番組『アイドル誕生っ!?(仮)』
「企画、製作、出演者‥‥etc、大募集中。
 君も僕達と一緒に新しいアイドル番組を作ってみないか?

 ○○プロダクション代表 □□××」 

●今回の参加者

 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0509 水鏡・シメイ(20歳・♂・猫)
 fa0756 白虎(18歳・♀・虎)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1396 三月姫 千紗(14歳・♀・兎)
 fa1402 三田 舞夜(32歳・♂・狼)
 fa1511 ルーファス=アレクセイ(20歳・♂・狐)
 fa1747 ライカ・タイレル(22歳・♀・竜)
 fa2516 フォーティア(15歳・♀・狼)
 fa2565 霧賀ジュン(17歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

●三日目 ライブ
 東京都千代田区、秋葉原。
 日本を代表する電気街にして特殊な文化の発信地である。
 二月の第一日曜日に、アイドル誕生のスタッフはここでゲリラライブを敢行した。

「やっほ〜♪魔法少女アイドル、西村・千佳だよ♪ お兄ちゃん達元気〜♪」
 中央通の歩行者天国で、西村・千佳(fa0329)は通行人に元気な笑顔を振りまいた。千佳はフリフリのドレス姿で背中には天使の羽、手には魔法のステッキ、猫耳尻尾の魔法少女。毎週様々なイベントが行われるアキバでは珍しさには欠けるが、分かり易い事は重要だ。
「僕、お兄ちゃんやお姉ちゃん大好きなの♪」
 足を止める見物人を前にして、張り切る千佳。
「予定と予算の関係がな‥‥ベス、フォーティアの方はどうだ?」
 腕を組んで見守る演出家の三田 舞夜(fa1402)が、カメラで撮影していたベス(fa0877)に出演者達の様子を聞いた。
「まだ準備中‥‥あ、あたしが代わりに出ましょうか?」
「構わないが、君が出たら誰が撮影するんだ?」
 ベスの淡い期待を冷静に打ち砕く三田。
「あたしもアイドルなんですよっ。ぴ〜、カメラマンが居たらあたしも歌えたのに〜」
 半泣きで、しかし真面目にデジタルカメラを撮り続けるベス。三田が自費を投入してセミプロのカメラマンを雇っていたが、ベスが進んで裏方に回ってくれた事は大きい。
「フォーティアさん、準備できました」
 何故か手に竹刀を持った白虎(fa0756)がゴスロリ風のドレスを着た少女を連れてくる。メイドアイドルのフォーティア(fa2516)は少し顔が赤い。
「大丈夫か?」
「お任せください。少し緊張しちゃって‥‥わたくしは大丈夫です」
「そうか‥‥」
 フォーティアは少し熱があったが、三田はそれには気付かず、水鏡・シメイ(fa0509)に呼ばれて振り返る。千佳が今から歌う所で、水鏡と三田は音響担当なので仕事に掛かりきりになった。
「‥‥ここで耳や尻尾を出すのは駄目ですかね?」
 着物姿の水鏡の言葉に、三田は無言で眉根を寄せた。
「そんな顔しないで下さい。ちょっと言ってみただけですよ」
 獣化した姿は言わば彼らの本性だが、その姿になる事にかすかに後ろめたさがあるのは何故だろう。それが人の世で共存する事の難しさだろうか。
「お互いベストを尽くそうね」
 学生の霧賀ジュン(fa2565)がフォーティアに声をかけた。霧賀はアイドル歌手を目指す家出女子高生。お嬢様風だが、性格はかなり男性的だ。
「霧賀様、もう準備は宜しいのですか?」
 フォーティアが怪訝そうな顔で聞いた。ジュンは快活に笑う。
「え、俺は万全だけど?」
「誠に申し上げ難いのですけれど、そのお顔が‥」
 白虎がジュンに鏡を見せた。早く出ようと急いだせいか、あちこちに化粧むらが出来ている。
「まぁ、このくらい‥‥」
「駄目です」
「その通りですよ。私も上手ではありませんが、お手伝いします。フォーティアさんは先に出て下さい」
 白虎はジュンを捕まえて機材の置かれたロケバスへ引き摺っていく。この番組はスタッフ不足で、出演者はそれぞれが裏方仕事もこなさなければならない。白虎も本業はスタントマンだが、足りない裏方全般を引き受けていて実質今回はADの要だ。今は眉間に皺を寄せてジュンの化粧を直している。
「そういえば、前回の時も美術スタッフがいなくて大変だったと聞きました」
「へー、行き当たりばったりだね。もっと確りしてるかと思ったけど」
 本当なら番組が取れる予算ではないのだと、白虎は口には出さず真剣な表情でメイクを続けた。予算相応のかなり地味な番組にすれば良いのだが、それでは出演者達が納得できない。だから無理する。今日のゲリラライブもルーファス=アレクセイ(fa1511)が役所に何度も頭を下げて無理に許可を得たものだ。

「どうして千佳とフォーティアしか出ていないんだ?」
 チラシ配りに出ていたルーファスが戻ってきて尋ねる。
「準備に手間取ってな。用意の出来た者から出している」
 苦い顔で説明する三田。歩行者天国の時間を過ぎてしまったら、延長は出来ない。時計を見てルーファスも顔をしかめた。
「あと30分も無いよ」
「分かってる。こっちも急いでる」
 本職の裏方、美術担当が1人もいない事もあり、舞台裏は修羅場と化していた。喜劇ならそっちを放送した方が視聴率が取れるかもしれない。
「‥了解。それなら私は警備の人達に挨拶してくるから」
 ライブの方は千佳が持ち歌を披露していた。アニソン風のノリの良い曲を、小さな魔法少女アイドルが熱唱する。率直に言って歌は上手くない。
「チカちゃーん!」
 ファンだろうか。一際大きな声援があがった。
「お兄ちゃんありがとー♪」
 手を振って答える千佳の次はフォーティアが歌う番だ。
「あの、わたくしは司会ですから歌は、あの‥?」
 戸惑うフォーティアに、場を繋ぐようベスがカンペで指示を出す。
「わ、分かりました」
 緊張と発熱でフォーティアの顔が燃えるように赤い。
 翌日彼女は一日休むが、その日は最後まで頑張った。フォーティアの歌の途中で何とか化粧を直したジュンに、三月姫千紗(fa1396)とライカ・タイレル(fa1747)のデュオユニット「でぃすてぃにー♪」が登場し、全員で合唱してゲリラライブは慌しく終了した。
「おつかれさん、色々大変だったけど、おかげでライブは大成功だな」
 撤収のあと、ルーファスはスタッフに差し入れを配った。今回、交渉担当の彼はこのあと商店街と役所にお礼に回る。他のスタッフは飲みに行く様子だが、参加は微妙だ。
「悪いが俺もパスだ。今日のうちに編集に入りたい」
 三田は音響の他に編集も担当する。助手としてベスが拉致られていき、残りのスタッフは食事に行った。

●初日二日目 準備
「見切り発車の学徒動員ユニットですか」
 三月姫千紗の冷めた口調に、同じ事務所でプロデュース役の三田は眼鏡を指で持ち上げて目を細めた。
「今回は番組優先、仕方あるまい?」
「何が仕方ないのよ」
 七五三(なごみ)プロのアイドルの卵、千紗とライカ・タイレルのユニットはデビューしたてで今が一番大切な時期だ。千紗でなくとも不安になる。
「私、持ち歌の歌詞を考えてきたんだけど」
 そんな二人に、ライカが自作の歌詞を見せる。タイトルは「甘い季節」。バレンタインデーの時期向けに女の子の甘い恋を歌ったものだ。
「こんな感じね‥‥いつもドキドキ ガチガチの私でも 今日という日なら 気持ちを伝えれるよね バレンタインデー〜‥‥」
 一通り目を通した千紗は歌詞を三田に押し付けた。
「ふう、いいわ。私達は与えられた仕事を全力で頑張るだけですもの。でも曲はお願いするわよ」
「簡単に言ってくれるな」
 ライカと千紗の二人は撮影の合間に歌を練習した。
 二人は初日はミーティングと自己紹介用の簡単な撮影だけだ。この日はむしろ裏方業が忙しく、ベスは撮影を覚える為に睡眠時間を削り、更に番組宣伝用のHPも三田やルーファス達と協力して製作する事になっている。
「どんなHPにするの?」
「素材は今日撮った物を使う。ひとまず出演者のプロフィールと、ゲリラライブの前情報告知。それから人気投票と販売サイトも作りたいが」
「割と無茶言うよね」
 徹夜になりそうだった。徹夜すれば仕事が捗るというものでも無いのだが。ちゃんと寝ろよと無理を言って、三田は外出した。入れ違いにやってきたのは着物姿の水鏡だ。
「ルーファスさんを見かけませんでしたか?」
 水鏡は紙の束を持っていた。ゲリラライブ用のチラシだという。
「えっと、警察とTV局に行って夜はスタジオに顔を出すと聞きましたけど」
 と言ったのは機材やらの入った段ボール箱を運んでいた白虎。ルーファスはライブ許可や番組準備の為に飛び回っている。他のスタッフとは顔を合わせる時間が少なかった。
「そうですか。このチラシを見てもらおうと思ったんですが」
 番組のチラシ作りは音響担当の水鏡が自ら買って出た仕事。この番組には、各部署のチェックや進行状態の把握が難しい一面がある。皆が色々と兼務していて、製作進行にあたる人が居ない。
「確認するのはいま居る人でいいでしょう。三田さんもカメラマン探しに出かけてますし、待ってたら進みません」
 白虎に言われ、水鏡はそうする事にした。強いて言えば、雑用全般担当の彼女が製作進行を兼務していると言っても良い。

 裏方の殺人的忙しさに比べて、初日は比較的余裕のあるアイドル達は何をしているかと言うと。
「さあ、材料はこれだけ用意して頂きましたので、皆様思う存分にお作り下さいませ」
 台所には山のようにチョコレートが積まれていた。
 教師役のフォーティアがアイドル達にチョコレート作りを教える。趣味でも来るべきXデーの為でもなく(中にはそうした人もいるだろうが)、番組で視聴者プレゼントに彼女達の手作りチョコをプレゼントとしようという無謀な‥もとい嬉しい企画である。
「うみゃー、フォーティアお姉ちゃんよろしくー。ジュンお姉ちゃんも一緒に頑張ろうね♪」
 千佳はジュンを誘って参加した。歌の練習をしていた千紗もライカを誘い、四人でフォーティア先生のチョコ教室を受ける事になる。ちなみにベスも誘われたが、彼女は一瞬顔を輝かせた後苦悩の表情を浮かべて辞退した。
「ベス様、少しだけ参加して頂けませんか?」
 フォーティアが水を向けたが、ベスは苦笑いを浮かべた。
「有り難う。でもやるからには中途半端は嫌なんだ。頑張らないとね、トップアイドルは撮影だってやっちゃうんだからっ♪」
 その意気やよし。ベスにも番組でアピールする意思はあったのだが、この後も多忙により彼女は裏方に忙殺された。
 さて、チョコ製作であるが。
「上手くできるかなー?」
「こ、これは難しいなぁ‥‥なぁフォーティアさん、何かコツとかって無いの?」
「まあまあまあ‥‥!」
 千佳とジュンは完全な初心者らしく、毒入りチョコレートもかくやという作品が量産されていく。フォーティアは声にならない悲鳴をかみ殺して手伝った。「でぃすてぃにー♪」の二人は作りながら出来立ての歌を練習した。

『甘い季節』
いつもドキドキ ガチガチの私でも
今日という日なら 気持ちを伝えれるよね
 バレンタインデー〜

貴方への甘い想い このチョコに込めて
貴方のこころ   溶かし尽くしたい。
 スイートキッスのように

いつも弱気で 伏目がちの私でも
恋の魔法を込めた このチョコでなら

 貴方の心 蕩けさせてあげる
 
  さあ、た べ て ♪


「出来た」
 チラシを印刷し終えた水鏡は、さっそくそれを配りに出かける。
「どこへ行くんですか?」
「男子校です。男子校なら、アイドル好きな男子校生が食い付いてくれると思いますしね」
 女性の白虎には男子校は未知の物だから、そんなものかと納得した。和服を着た銀髪碧眼の青年がアイドルイベントのチラシを配る様は男子学生にちょっとした刺激を与えただろう。

「こんにちは、皆さんの一票一票が、アイドルの明日を切り開きます。
 ぜひぜひ、御協力をよろしくお願いします」

 不審者として警察に通報されたり先生に説教されたりもしたが、用意したチラシは全て配る事が出来た。学生の反応はまちまちだが、中には激励してくれた男の子もいた。


●放送
 スタジオの中央で、メイド姿のフォーティアがマイクを握る。
「番組の司会を務めさせていただいてます、フォーティアと申します。
 この番組は現在ホームページで人気投票が行なわれております、詳しくはホームページをご覧になってください。では主演者の方々の登場です」
 フォーティアは2名ずつ出演者達を紹介した。
 千紗は紺のワンピにピンクのカーデ、ライカは白と黒のフリフリドレス、千佳は魔法少女系フリフリドレス、ジュンは普段の女子高生スタイルと悩んだ末にこれまたゴスロリ風ドレス。いかにもアキバ系を感じさせるノリで始まり、続いて三田とベスが編集した先日の秋葉原ゲリラライブの映像が流れた。
 最後は人気投票の発表。
「千佳様、一位おめでとうございます」
「お兄ちゃんお姉ちゃん有難うなの♪ 元気に一生懸命頑張っていくから応援よろしくね♪ あ、それと同じようにお兄ちゃんやお姉ちゃんが好きな人募集中♪ 一緒にグループでやろうー」
 投票順位は以下、ライカ、ジュン、千紗、ベス。
「何故あたしの名前が‥‥」
「さあ」
 夜中に戻ったルーファスはベスが仮眠している間にこっそりHPに彼女の写真を載せて、投票に加えていた。その後、撮影中心になったベスは当日まで気付かなかった。
「お疲れ様」
 何とか無事に放送できた。さて反響は‥‥。