映画を撮ろうよアジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 松原祥一
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 0人
期間 02/11〜02/15

●本文

 某月某日。
 映画好きが集って、自分達で撮る映画の話をしている。
 一本うん億円、うん十億円の商業映画でなく、映画会社もスポンサーも絡まない低予算の自主制作映画。
 何の束縛も無く好き勝手に撮れるのは楽しい。
 話すうちに夢は際限無く膨らむ。
 もちろん、酒の席で話すのと実際は違うものだ。いざ撮り始めれば現実的な問題は山盛り。拘りぬいた挙句に延期、分裂、空中分解‥‥未完成の道を辿る場合も少なくない。仮に完成しても、上映のアテも無い。
 それでも趣味としての映画作り、或いは映画界のステップとして自主映画を作る人は多い。

「やってみようよ」
 誰かが言った。
 監督も、脚本も、俳優も、カメラも美術も音楽も何もかも未定である。
 すべて白紙のキャンバスに、これからみんなで色をつけていく。
 果たして、どんな映画が出来上がるだろう。

 もうすぐ初会合がある。映画作りの話をした時には随分と沢山人がいたし、その後も色々と声をかけた気がするが、どんな人達が集るだろうか。もし1人も来なかったら、どうしよう‥‥。

●今回の参加者

 fa0523 匂宮 霙(21歳・♀・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1511 ルーファス=アレクセイ(20歳・♂・狐)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa2315 森屋和仁(33歳・♂・トカゲ)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2564 辻 操(26歳・♀・狐)
 fa2947 丸山秀雄(21歳・♂・アライグマ)

●リプレイ本文

 最初の会合は、誰かの部屋だった。
 事務所関係の仕事でも無く、どこかの一室を借りてという話も無く、有り体に言えば休日に友達の家に遊びに行ったような感覚である。
 職種も経験もバラバラな10代後半から30代までの男女10人が集った所から、話は始まる。

「‥‥さーて、何を作るかも決まってない訳だけど」
 ストーリーテラーのルーファス=アレクセイ(fa1511)は自分以外の9人を見回して言った。
「現代劇なら準備に必要な物はあらかた決まってくるよ。素材集めから始めるか?」
 何しろ全てゼロからのスタートだ。取っ掛かりが欲しい所だが。
「あ、それなら私、流れをまとめて見たんだけど‥‥こんな所かなぁと」
 女優の青空 有衣(fa1181)が立ち上がり、持参したプリントを皆に回す。それには、大きな字で自主映画作りの大雑把な流れを8項目に分けて書かれていた。
「今回はこの中の1と2、まず何を撮りたいのかコンセンサスとって、それからルーファス君も言ってた必要な物の洗い出しだと思うんだけど‥‥」
「まあいいんじゃないか」
 青空の提案には反対意見は特に出なかった。
「それじゃ私から話していい? 私は現代モノでコメディ以外なら何でも構わないよ」
 そう言って有衣は座った。
「では次、俺いいですか?」
 アニメーター志望の丸山秀雄(fa2947)が手を挙げ、立ち上がると咳払いを一つ。
「えっと、先に言わせて下さい。今はデジカメ使えば素人、非芸能人でも撮影も編集も、ネットを使えば配信も出来るって凄い時代なんですけど‥‥まあ見て貰えるかは作品次第なんですが、そういうメディアの岐路みたいな時だから俺みたいな若僧が下積み飛び越してメインやれたりする訳で‥‥」
「要旨をまとめなよ」
「あ、すみません。なんか慣れてなくて。それで、こうして自主制作映画をやるっていうのは、意義のあることだと俺は思います」
 多少つっかえながら丸山は自分の考えを述べた。顔を紅潮させて座ろうとした彼は、やりたい事を何も話してない事を思い出して話を続ける。
「――ある日、突然、獣人になってしまった普通の人間。最初は精神的な変調もなく、人間らしい生活を続けていられたはずの彼(彼女)は、しかし持て余す強大なパワーと異形の姿であることの重圧‥‥獣圧に負けて、次第にその心には狂気が染み渡っていく‥‥ここでいう獣人は、フィクションとしてのです。それで」
「ふむ、サイコホラーねぇ」
 丸山の話に関心を示したのは新人脚本家の匂宮 霙(fa0523)。匂宮はホラー物が得意だったから、今回も出来ればホラー作品でと思っている。
「まあ皆で作るのだから妥協はするつもりだが、生憎と俺は恋愛は嬉しい方じゃない。それだけ考慮して貰えると助かるんだが」
 座ったまま、匂宮は短くそれだけ発言した。
「恋愛禁止ですか?」
 新人和楽器奏者のSyana(fa1533)は隣に座ったカメラマンの森屋和仁(fa2315)に小声で尋ねた。
「まだ分からない。脚本を匂宮が作るとは限らんし、今は皆の希望を取り敢えず聞こうってだけだから。まあ彼女も言ってる通り、妥協は必要だがな‥‥」
 シャナは恋愛や友情の絡んだドラマのイメージを持ってきていた。しかし、先に脚本希望者から拒否されると意見は出し難い。
「僕はこの映画の中で自分の作った音を活かして、場面の雰囲気をサポートしたいと思います。映画のイメージは‥‥まだハッキリとしたものが見えてないですが」
 音響係の希望を出してシャナは撮りたい物の意見は保留し、森屋の方を見る。
 森屋はこの場の最年長者で、シャナは彼を頼れる人物と見ていた。サングラスをかけているので視線に気付いたかは分からないが森屋が発言する。
「ジャンルの絞込みは難航しそうだな。俺が考えてるのは現代で女同士の友情系の作品だが皆のイメージは取り込みたい。まあ、まだどうやって本を作るかも決まってない訳だが‥‥取り敢えず、現代物でほぼ決まりならその辺の準備は前倒ししておきたい。それで予算も見えてくるだろ」
「予算の話はまだ後でいいんじゃないか?」
「金の話から入ると堅くなる」
「でも予算が無いと何も出来ないよ」
 予算――揉め事の元凶、鬼門にして全ての源。
 当然ながら現時点では全て自腹、参加者=出資者だが、果たしてどこまでそれでやれるかという不安はある。外部に出資者を募れば、それだけ別の制約が加わる訳だが。
「低予算は覚悟の上でしょ。カメラは自前かな? 最近のデジタルビデオって高性能だから、多少画質が落ちるけど、返ってそれを効果的に使えるから、面白い絵が取れるかもしれないのよね」
 カメラマンの郭蘭花(fa0917)は愉しそうに話した。学生の頃に自主制作の経験があるらしい。
「色々と大変だけど‥‥大丈夫。きっと面白いのができるわよ☆ 誰かが「もう駄目だ‥‥」って言わない限りわね!」
 彼女はこのノリが好きなようだ。
「それで、あたしはカメラと照明、美術関係でいいかな? 他も足りないって言うなら手伝うけどね」
 この場の面子で撮影のプロは郭と森屋。この会合では、映画での役割・担当の話は後回しにされた感があったが、音響関係がSyanaの他に選択肢が無いように、順当に考えるなら問題の無い所だ。
「演技なんてやった事無いけど、あたしは役者希望だ。‥‥と、その話はまだ早いか?」
 と言ったのはバンドヴォーカルの亜真音ひろみ(fa1339)。
「希望を言うのは自由だ。何がやりたいか分からない事には話し合いも始まらん」
「そうだな。それで、あたしの作りたいものは友情とアクションものだな。反対に作りたくないのは‥‥恋愛もの」
 その場の何人かはさもありなんと頷いた。亜真音は筋骨隆々とした肉体の持主で格闘家かスポーツ選手を連想させる。実際、多少格闘技もかじっているらしい。
「あんたとは気が合いそうだ」
 ブリッツ・アスカ(fa2321)は亜真音に笑いかけた。アスカの本職は格闘アイドルで、日頃から映画に出たいと思っていたがオファーが来ず、この会合に参加した。
「俺も、友情とアクションはこの映画に欠かせないと思う。分かり易いし、普遍的なテーマだし。逆に、客が素直に楽しめないような難解な話とか暗い話は作りたくないな」
 これで一通り発言しただろうか。
 いや、1人残っていた。マルチタレントの辻操(fa2564)は壁際で黙って話を聞いていた。
「辻君は意見は無いのか?」
「一つあるけど。作品の方向性をどうこう言う前に、総監を決めておくべきじゃないかしら?」
 映画は大人数による分業だ。プロデューサーや監督は必要になるが。
「その為の話し合いだろう? 話してみないと、誰を監督になんて選べないよ」
「全員の映画だ。ある程度固まるまでは皆が監督でプロデューサーでいいんじゃないか?」
「それって要するに先送りでしょ? 面倒なのよね。そういう事は得意な人がやればいいじゃない」
 辻はぐだぐだな展開は御免だと思っていた。有志が集まって趣味でやる企画だからこその自由度だが、一方で余計な負担を際限なく背負う危惧もある。
「周りの意見も大切だけど、自分の意見を妥協してアレもコレもじゃボケた映画にしかならないわよ。餅は餅屋じゃないかしら?」
 厳しい口調で言った。と言っても、此処に揃ったのは理想も経験も違う面子。辻も、すんなりとは役割分担は決まるとは思っていない。
 今回の会合ではひとまず現代劇という事だけが決められて、後の事は次回に持ち越された。


●準備
 映画の全体像はまだ未定だが、今のうちからロケ地探しや素材収集は始めていた。
 何を撮るかも分からないのにロケ地を探して意味があるのかと思う向きもあると思うが、皆何かを始めたいのだ。
 他にも自宅で準備する者、次の会合に向けて企画を煮詰める者など、様々だった。

「ねえ、プロに混じって自主作成の映画、撮ってみない?」
 大学の構内でナンパ紛いの勧誘をしているのはルーファス=アレクセイ。本業は作家の筈だが、ルックスが良く、芝居がかっていて俳優に見える青年だ。
「それって、なんかの番組ですか?」
「違うよ。だけど作品が出来たらTVには出るかもね」
 口八丁で支援者を募る。怪しいと警戒する学生も多かったが、何校かルーファスの話に乗り気で一緒にやりたいと言ってきた。次の会合で皆と相談する必要があるだろう。

「形だけ作っておくかな」
 丸山は自室でこの企画のホームページ作りを始めた。まだ書くべき内容がないのが痛い所だが、とりあえずメンバー紹介のページやプログから作り、友人の青空にHPのアドレスをメールした。
「ホームページ? へぇ、もう作ったんだ」
「プログは自由に書き込めるようにしたので、暇な時にでも書いて貰えれば」
 映画のサイトと言えば、本来は監督なりがチェックするし、内容未定で立ち上げるものでもない。この辺りも辻がぐだぐだと指摘した所か。らしいと言えばらしい。
「さてと。私も頑張るか」
 メールを見た時、青空は近くの商店街に来ていた。
「パンフレットの広告?」
「そうなんです。あ、と言ってもまだ決まりって訳じゃないんだけど」
 青空有衣は近場の商店街で、映画のスポンサーになってくれそうな店が無いか探した。会合の席ではスポンサー探しの話は保留になったので感触を確かめるのが目的だ。
「いくらぐらいなの?」
 雑貨屋のおばさんは些か興味を覚えたようだ。
「今のところ、一口何千円レベルで考えてます」
「ふーん、いつ公開なの?」
「‥‥あはは、それがまだ決まってなくて」
 じゃあ、しょうがないわねとおばさんは笑った。お茶を貰いながら、青空も微笑む。映画の話は長く続かないので最近の仕事の話など世間話をして次の店に行く。

「映画の撮影で使えそうな所となると、あそこぐらいかな」
 亜真音はいつも歌っている公園と以前出演した番組で訪れた公会堂を訪れた。
「今度、映画の撮影をやるんで出来れば使わせて欲しいなって思ってね」
「‥‥ああ。じゃ、この用紙に書いて」
 顔見知りの係員が施設使用の必要書類を亜真音に手渡そうとするが、彼女はひょいと避けた。
「?」
「使えそうならいいんだ。まだ本決まりじゃないし」
 時期未定、内容未定ではさすがに場所を押さえるという事は出来ない。
「決まってないのか? そいつは先走りすぎだな」
「ああ、そうかも。でも頑張っているやつの背中を押してやりたいんだ」
 決まったらまた来ると言って、亜真音は出ていく。
「元気だな」
 扉を見つめて係員が呟く。実際のところ、亜真音だけでは無い。
 紫外線に弱く外出嫌いの匂宮も風景を探してスクーターを飛ばしていたし、アスカもバイクを借りて「近場だけではいい場所は見つからない」と郊外まで遠征していた。テーマも決まっていない事を考えると、無駄足のような事に皆、一生懸命だった。

「一応必要な人員は結構上手く分けられていると思うんだが‥‥問題はやはり予算か」
 森屋はこの映画の予算を割り出していた。予算作り自体はまだ始まっていない。その事前準備のつもりだった。
「撮影機材は持ち込み、メイクも衣装も自前で頑張って貰えば大きな支出は減るが、あとは‥‥」
 会合で辻が「フィルムはどうするのか?」と質問した。映画のフィルムは高い。確定ではないが、郭が言ったようにデジタルビデオになるだろうか。そうやって出費を抑えていけば数十万円で十分に製作可能だ。
「‥‥」
 しかし、それは映画が撮れるだけだ。
 それ自体が目的なら何も問題は無いが、コンテストや映画祭への出品や映画館での上映を視野に入れるなら話はまた別になる。
「ふぅ、やるべき事は山積みだが、久しぶりに楽しめそうだな」
 映画作りはまだ始まったばかり‥‥いや世間的に言えばまだ始まってもいないのかもしれない。
 次の会合は3月中頃である。


つづく