【遺跡調査】兵馬俑アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 松原祥一
芸能 フリー
獣人 2Lv以上
難度 易しい
報酬 3.2万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 06/30〜07/04

●本文

「悪いが、西安に行ってくれないか」
 TOMITVで馴染みの局員に呼び止められた君達は、訳も分からぬうちに会議室に集められた。
「西安て中国の? ‥‥てーと、遺跡絡み?」
 局員の表情は、TVや映画のロケという雰囲気では無かった。西安といえば近郊に遺跡が多い。
「ああ。兵馬俑は知っているな」
「始皇帝の? またベタなところから来たね」
 兵馬俑は死者を埋葬する時に副葬品として埋められた兵馬の像を言う。秦の始皇帝陵の物が有名だが、どうやら今回はそのものズバリらしい。
「中国政府の許可を得て、新しく発見された兵馬俑坑をうちが調査していたんだが‥‥調査隊がNWに襲われた」
 NW‥‥ナイトウォーカー、生物と情報の間を渡り歩く謎の情報生命体、彼ら獣人の天敵。
 話を聞いていた獣人達の顔色が変わる。
「襲われたって、無事なのか!?」
 NWの目的は獣人の捕食である。また人間が感染しても命は無い。
「5人死んだ」
 2人は獣人であり、2人はNWに感染した調査隊の人間、それに戦闘の巻添えで1人が死亡した。
 現れた二体のNWは殺された獣人達が倒したが、調査は中止。生残りの調査隊は解散した。
「君達に、この遺跡の調査を頼みたい」
 遺跡にまだNWが残っているかどうか。どうしてNWが現れたのか。何かオーパーツがあるか否か。そうした事を確認して欲しいという。
「‥‥急な話だな。人が死んでんだろ? そういう事はもっときちんと準備してからの方が良くないか?」
 もっともな疑念だが、局員は首を振った。
「WEAが今、新しい遺跡を探しているのは知っているだろう」
「ああ、NW絡みの遺跡だってな‥‥」
 その遺跡が、世界のどこにあるどの時代の遺跡かも分からないという激しく眉唾な話なのだが、どういう訳かWEAは必死になっている。ダークサイドが関係しているという噂だった。
「この事件もNW絡みだ。つまり」
 少しでも疑わしい所は放っておけない。そういう事らしい。
「名目上は映画のロケで許可を取った」
 最初の調査隊は大学の研究チームだった。事件の事は表沙汰にはしていないらしいが、その後が映画ロケとは無茶苦茶な話である。その分、時間は取れないから急いで調べてきて欲しいと言った。
「兵馬俑はだいぶ掘り返していたらしい」
 らしいとは、殺されたのが大学の教授とその助手で遺跡の調査状況が良く分からない為だ。先走った職員がNWの感染を警戒してそれまでの調査資料を全て焼却してしまったらしい。
「無茶苦茶だな」
 しかし、目の前で親しい人間を殺されたら自然な事かもしれない。
「その職員は? 獣人なんだろ」
「NWとの戦闘で重傷を負って、今は西安の病院に入院している。名前は五十嵐志信、うちの新入社員だ」
 話を聞く事は可能だという。

 さて、どうなる。

●今回の参加者

 fa0237 野村 承継(56歳・♂・鴉)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa0984 月岡優斗(12歳・♂・リス)
 fa2814 月影 愛(15歳・♀・兎)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3715 梓羽(12歳・♂・鷹)
 fa3920 Neiro(21歳・♀・蝙蝠)
 fa3963 ガルフォード・ハワード(18歳・♂・犬)
 fa4047 ミミ・フォルネウス(10歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 中国、西安咸陽国際空港。
「ここが西安かぁ‥‥」
 飛行機を降りて空港の外に出た金髪の子供が目を輝かせて辺りの景色を眺める。
「ここは咸陽だろ、西安はもう少しあっちだな」
 中国に住んでた事があるという黒髪の青年、陸 琢磨(fa0760)が南東の方を指差して冷静に訂正するが、感慨に耽る少年――月岡優斗(fa0984)は聞いてなかった。この依頼を聞くまで西安という地名を知らなかった優斗には、何もかも珍しいに違いない。
「さてと――。ここから兵馬俑坑にも行けるようじゃが、まずは西安市で生残りの職員から話を聞くのが先じゃな」
 DarkUnicorn(fa3622)=ヒメ・ヒノトは、見た目女子高生だが年寄り臭い喋り方で、今後の方針を仲間達に確認する。仲間達にも異論は無いようだ。西安の事も知らなかった優斗を別にしても、調査対象について彼らは殆ど何も知らない。
「さあ、乗って乗って」
 小型自動車が彼らの前に止り、運転席から煙草をくわえた少女が顔を出した。中学生くらいに見えるが、月影 愛(fa2814)は歴とした大人だ。どういうルートを使ったのか彼女は愛車のヒットWを持ってきていた。
 愛の車に全員は乗れない。病院へ行くヒノト、ベス(fa0877)、Neiro(fa3920) の3人が愛の車に乗り込む。他の6人‥‥琢磨、優斗、野村 承継(fa0237)、梓羽(fa3715)、ガルフォード・ハワード(fa3963)、ミミ・フォルネウス(fa4047)はタクシーに分乗した。
「病院はいいけど、遺跡に行く時はどうするの?」
 Neiroが愛に尋ねる。ヒットWは5人乗りだ。
「乗せれるだけ乗せるつもりだけど?」
 不思議そうに愛が答える。無理に無理を重ねれば全員乗れない事も無いが、やってみたい話ではない。市内で一台借りる事にした。見舞いに行かない者が何人かいたので、彼らがレンタカーの手配を担当する。
 琢磨、ガルフォード、ミミの3人だが、黒髪の少女ミミ・フォルネウスはそもそもこの依頼に参加するつもりではなかったらしい。
「みゅ〜・・・日本目指してたのに・・・ここ何処・・・?」
 首を傾げるミミ。彼女は欧州から日本の兄弟の所に行くはずが、何故か咸陽空港で途方にくれていた。仲間を見つけてパタパタと尻尾を振る勢いでくっついてきて、今に至る。
「みゅ〜‥‥日本まで‥‥送ってくれるなら‥‥」
「OH! ユーは色々と間違ってるZe! だけどドントマインドSa! よくあることだNe!」
 金髪碧眼のガルフォードは流暢な日本語を話すがやや語尾のアクセントがおかしい。職業がアメリカン忍者というから、中身も相当なものである。
 この二人に任せると車の手配が大冒険に変んじそうだったので、通訳を兼ねて琢磨が同行する。一行は西安市内で別れた。7人の獣人は五十嵐志信の入院する病院へ向う。

 中国、陜西省西安。
「私はここで待たせてもらうよ」
 野村承継は病室には入らず、外で待機した。承継は年長者の配慮として、大人数で話を聞くべきではないと言ったが6人は五十嵐の病室に入る。
「やれやれ‥‥積極的なのは良いことだがね」
 初老の男は皆が入っていったドアを一瞥し、苦笑を浮かべる。
 病室は個室で、五十嵐志信はベットの上で6人を迎えた。20代前半の小柄な女性だ。無表情に見舞い客を見つめる瞳には、目の前で仲間を失った悲しみが漂っている気がした。簡単に自己紹介をして、ベスがお見舞いのバナナをベットの横のテーブルに置いた。
「話は聞いてるよな?」
 気安く優斗が声をかけた。
「俺達で追加調査することになったんだよ。そんで調査の進み具合とかNWの事とか、知ってる事、教えてくれね?」
「‥‥」
 無言の五十嵐に、他の面々も口々に話しかける。彼らの言葉は異口同音で、遺跡の事、NWの事、それに何か気付いた事は無かったかという具合だ。何人かは無遠慮であると認識はしていたが、彼らも急いでいるので気を配る余裕が無い。火事の時に狭い非常口に皆が殺到する感じに似ている。
「ふむ、まだ辛そうじゃな。わしに傷を見せてくれるかの?」
 五十嵐の顔色を見ていたヒノトがそういった。一角獣族であるヒノトは治療術が使える。肩や胸にNWにやられた傷があるようだ。ふと気付いてNeiroは男達を追い出した。別に治癒命光を使うのにそんな手間は要らないが、その方が話し易いと考えてのことだ。
「あのー‥‥」
 治療の間、手持ち無沙汰で花瓶の水を換えたりしていたベスが改めて質問する。
「兵馬俑の向きは‥‥?」
 結果的に、彼らはこの面会で目的の大半を終えていた。が、実際に確認する必要がある。五十嵐はヒノトの治療によりかなり落ち着いた様子で、返り際は微笑みを浮かべて彼らを見送った。
「んじゃ、ちゃっちゃと終わらせよーじゃん!」
 優斗が病室から駆け出してくるのを見て、承継は成果があったと察した。琢磨達と合流し、移動の車中で10人で調査の手順を確認する。

 中国、秦始皇帝陵。
 兵馬俑博物館として、1号坑から3号坑までは一般公開されている。4号坑も存在するがこれは未完成の空洞で公開されていない。五十嵐の話によれば、その外にも非公開の兵馬俑が幾つもあるとの事だが、調査隊が調べていたのは新しく発見された、16号坑らしい。博物館からはかなり離れているが、10人は博物館が閉る夜になってから、遺跡に近づいた。
 巨大な鳥人が遺跡の上空を旋回する。
「これが兵馬俑坑、そして始皇帝陵か‥‥」
 半獣化して背中から黒い翼を生やした野村承継はもしもの攻撃を警戒して高度を保ちながら、眼下の遺跡を感慨深げに見つめた。尤も、調査のため掘り下げられた区画はビニールシート等で覆われていて兵馬俑は見えないが、辺りに不審な物や動く物は無いか意識を集中して調べる。
 一通り空から観察した野村は、仲間の待つ地上に戻る。獣化を解いても全身が黒づくめで、未だ鴉の幻影を引き摺っているようだ。
「承継先生、どうだ? 何か変わったものはあったか?」
 車から琢磨が顔を出した。
「琢磨君、答えを急ぐものではないよ」
 野村は泰然自若としていた。どこか面白がっているようにも見える。
「自分の理想に現実を近づけるのではなく、現実を理解し、他人と意見を交わし理解した上で行動すれば自然と正答に辿り着くものだよ。そうは思わないかな?」
 ある意味、承継は分かり易い男だ。だが若い琢磨は、人生の先輩の問いには答えず、無言で車から降りた。仲間達も続く。危険が無いと確かめられた訳ではないが、傍目に見えないものなら近づいて確かめるより無い。
「何度か連中とやったが、NWは獣化無しでは倒せない。1人でも無理だ、必ず複数で行動しろ」
 琢磨の言葉に仲間達は頷く。ここには子供も居るが、NWの危険を知らぬ者はいない。また獣化しなくては勝てないという道理も、良く分かる。人間は猛獣より弱い、まして化物に勝てる筈があろうか。
 各々、武器や装備、それに自分のパートナーを確認して兵馬俑坑に向う。

 多少夜目の利く者もいたが、ヘッドランプや懐中電灯の明かりを頼りに坑の中を調べた。
「油断は出来ないけど、潜んでいる感じはしないわね」
 愛は獣化し、兎の耳で不審な音がしないかと探った。
「‥‥来る途中に聞いたけど、ここを調べているのは僕達だけじゃないらしい」
 周囲を警戒しながら、梓羽が言った。この時期は例の謎の遺跡の手掛かりを求めて、全世界の獣人達が遺跡や博物館に押しかけていた。始皇帝陵も例外ではなく、一週間前からとっかえひっかえ、数十名のお仲間が来ているらしい。
「ダークサイドが居たとしても、もう姿を消しているかな‥‥?」
 正確には少し違う。が、結果として彼らが無事なのは同胞達のおかげと言って良い。
「しかし、こんな古い遺跡からNWが現れるとは‥奴らは随分、昔からいたんじゃな‥‥」
 金属探知機でオーパーツを探しながら、ヒノトが物憂げに呟いた。大昔の伝承に登場する怪物は強力なNWで、遺跡などに封印されているというまるでファンタジー小説のような話を聞いた事はあったが、実際に現場に立つと気が重い。
「そういえば以前、NWを使役する獣人と戦った事があるの」
 あれがダークサイドという者じゃったろうかとヒノトは思考を廻らした。ダークサイドについては、噂が先行していて実態は彼らも良く知らない。WEAの上層部はもっと情報を持っているのかもしれないが、彼らに知らされる事は僅かだ。
「ねえ、手伝ってくれない?」
 掘り起こされた兵馬俑を見ていたNeiroが、護衛役の梓羽や承継達を呼んだ。
「でも、僕達は襲撃を警戒していないと。調査隊も調査中に襲われたし」
 梓羽がそう言うが、調査班の方は途方にくれていた。
 確認したいのは兵馬俑の向きなのだが、この坑の中の埴輪は全て倒れた状態で整理してみないと向きが分からない。
「え‥‥これ全部直す、の‥‥?」
 ミミは驚いて猫耳をパタパタ動かした。一号坑ほど広大ではないが、見える範囲で何十体の埴輪がある。門外漢の自分などは触らず離れていた方が良いような気がした。
「全部は無理だけど、並べてみたら分かるかもしれないんだ」
 ベスが期待を込めて言う。五十嵐は教授達が「兵馬俑の向きがおかしい」と言っていた事を彼女達に話していた。一般に兵馬俑は東を向いていると言われているが、この坑の埴輪は別の規則性を持って別の方向を向いているようだった。
 それから数日をかけて、10人は倒れている兵馬俑を一つ一つ調べていった。表向きは映画ロケなので、その擬装も行わなけれなならない。調査がばれないようにテントや車など遮蔽物を使って坑の中を隠し、その上で調査は主に夜間に行うという難作業だった。
 どうやら埴輪は真西を向いてるらしいと分かったのが7月4日。更に調査すれば別の情報も出てくるかもしれなかったが、ギリシャで遺跡が発見された事で各地の遺跡調査は一端終了する事となった。この調査では各地で遺跡以外でも新しい発見があり、始皇帝陵も引き続き監視が必要との判断が下り、先行調査はひとまず完了した。

「有り難うございました。おかげで日本に帰る事が出来ます」
 五十嵐志信はヒノトの数回の治療により完全に回復した。まだ事後処理が残っているので暫く西安に居る事になるが、空港まで10人の見送りにやってきた。
「結局、ダークサイドは現れなかったが‥‥」
 彼らの調査中にすぐ近くの場所でNWと獣人の戦闘があった。その行動に不可解な物がある事から、ダークサイドの関与が疑われている。とすれば、調査隊を襲ったのもダークサイドだったのだろうか。
 謎は残ったが、10人は五十嵐に見送られて西安を後にする。
「今度こそ・・・たどり着かないと・・・」
 その後、ミミが日本に辿り着いたかは定かではない。