香港に潜むNWを討て!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 緑野まりも
芸能 フリー
獣人 3Lv以上
難度 難しい
報酬 6万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 04/08〜04/10

●本文

「おつかれさまでした〜」
 元気な声で、16歳の新人女優伊藤ミリはスタッフや共演者達に挨拶を交わし、撮影現場をあとにする。前回のドラマで人気を得ることができた彼女は、CMの撮影のため、ここ香港へと来ていた。
「ミリ、お疲れ様。撮影が無事終了してなによりだわ」
「美香子さんおつかれさまです。このあとは確かオフでよかったんですよね?」
「ええ、そうね。帰国は明日になるから、今日の間はオフで構わないわよ」
「よかった! 私、香港初めてだからちょっと楽しみにしてたんです」
 ミリは、待機していた美人マネージャー春原美香子にこの後のスケジュールを確認し、嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「遊びに来たんじゃないんだから、あんまり羽目をはずさないように注意しなさいね。それと、あまり食べ過ぎないように、体重管理を心がけて‥‥」
「わ、わかってますよぅ。ちゃんと指定の時間にはホテルに戻りますから。それじゃいってきま〜す」
 美香子の小言に苦笑を浮かべ、ミリは逃げ出すように香港の街へと繰り出していく。美香子はその様子に、大きくため息をついた。
「まったく‥‥あの子、一人で大丈夫かしらね。‥‥さて、私もショッピングに行きましょう!」
 しかし、そんなため息もどこへやら、美香子は楽しそうに笑みを浮かべるとポンと手を叩いて、香港の街へと繰り出していくのであった。ミリのことを心配しながらも、自分も香港でのショッピングを楽しみにしていた美香子であった。

「ん〜、美味しい! やっぱり本場は違うよね」
 屋台で買った点心を口に頬張りながら、ニコニコと嬉しそうに街中を歩くミリ。彼女は、貴金属や服などに目もくれず、立ち並ぶ飲食店にばかり視線を巡らせていた。
「あ〜、次はどれを食べようかなぁ。美味しそうな匂いがいっぱいあって、選べないよ」
 香港グルメガイドブックを眺めたり、屋台に並ぶ料理に視線を奪われたりと、ミリは食べることにばかり気を取られている様子である。というのも、彼女は豚の獣人であり、食べることが一番の喜びであるからだった。もちろん、全ての豚獣人がそれに限ったことではないが‥‥。
「美香子さんに注意されてるけど‥‥今日ぐらいはいいよね!」
 マネージャーに食べすぎを注意されているにもかかわらず、誘惑に負けたミリは時間の許す限り食べ歩きをしようと誓う。また体重維持のダイエットが大変になりそうだ。
「さて、次はなにを‥‥」
「お嬢ちゃん、そこの路地にも美味しいお店がいっぱいあるよ」
「え!? 本当に! ありがとうオジサン!」
 さて、そんな食べ歩きをしていると、地元の人間と思われる男性が声をかけてきた。彼は、一つの路地を指差しては、人懐っこい笑みを浮かべている。ミリは、その笑みについつい警戒を解いてしまい礼を述べると、美味しいものの誘惑に負けて路地へと入ってしまうのだった。
「‥‥あれ? お店なんてないんだけど‥‥」
「オイシイモノ‥‥オマエ‥‥ギギギ」
「え‥‥!? さっきのオジサン!?」
 路地に入ってみると、そのさきは行き止まり、店などなにもない。不審に思い首をかしげるミリの後ろに、さきほどの男性が現れ異質な声をあげた。
「ギギギギ‥‥」
「も、もしかして‥‥ナイトウォーカー‥‥」
 様子のおかしい男性に、怯えるようにあとずさるミリ。男性は、見る見る間に頭部と両腕を虫の様な外骨格に変質させていく。その姿はナイトウォーカー、獣人を捕食する天敵の姿であった。
「クイモノ‥‥ギギギ!」
「い、いやぁ! 誰か助けて!!」
 その姿を化物に変え、ミリに襲い掛かるナイトウォーカー。ミリは逃げ出そうとするが、路地は行き止まり、悲鳴をあげるしか手段はない。
「おバカ! 早く、獣人化しなさい!」
「美香子さん!?」
「グガァ!」
 ナイトウォーカーがミリを切り裂こうと腕を振り上げたそのとき、ミリを叱責する聞きなれた声が聞こえた。駆けつけてきた狐獣人、それはいつものスーツ姿ではないがたしかにマネージャーの美香子であった。素早い動きで、ナイトウォーカーの横を走りぬけ、すり抜けざまに爪で身体を切り裂く。変質していない男の胴体に傷を負い、苦悶の声をあげるナイトウォーカー。
「コアは‥‥あそこね!」
「い、いきます! 虚闇撃弾!」
 ナイトウォーカーの額、拳よりやや小さめの宝石のような石を見つけた美香子。獣人化したミリが、闇の玉を飛ばしナイトウォーカーを怯ませると、美香子は渾身の力でコアを男から引き剥がす。そして、コアを失ったナイトウォーカーは、その場に倒れ伏すのだった。
「何とか倒せたわね、とにかくWEAに連絡を‥‥」
 倒れたナイトウォーカーの姿に大きくため息をつき、美香子はコアを破壊した。一息ついた美香子は、携帯電話を取り出しWEAに報告をするのだが。
「あの、美香子さん‥‥何か落ちてますけど‥‥」
「なに? これは‥‥経典?」
 ミリが、ナイトウォーカーの死体の近くに落ちている巻物のようなものを見つける。それは、仏教のことが書かれている経典であった。
「もしかして、これが媒体なら‥‥」

 数日後、WEAからの報告を受け、美香子達は一つの依頼を出すことになる。
「このあいだ襲い掛かってきたナイトウォーカーの感染者。身元はわからなかったけど、この経典のことはわかったわ。これは、数日前にある寺院から盗まれた5つの経典のひとつで、感染者の男はその盗みを行った窃盗グループの一人らしいの。そして、もしナイトウォーカーの感染媒体がこの経典だとするならば‥‥」
「残りの経典にもナイトウォーカーが潜んでいて、その窃盗グループに感染していると‥‥」
「そういうことよ。WEAは警察からの情報で、窃盗グループのアジトを突き止めている。私達は、ナイトウォーカーに感染している可能性のある彼らを排除しなくてはならないわ」
 獣人の天敵であるナイトウォーカー。これらを倒すため、獣人達は窃盗グループのアジトに乗り込むことになるのだった。

「ミリ、貴女はホテルに残りなさい」
「そんな、私も戦います。わ、私だって獣人だもの‥‥」
「貴女はまだ未熟、足手まといよ。わざわざ危険な場所に行ってまでナイトウォーカーと戦う必要はないわ。それに、大事な商品に傷が付いたら困るもの」
「で、でも‥‥美香子さんは行くんでしょ?」
「‥‥大丈夫よ。私は貴女と違って、NWと戦うことも一度や二度じゃないから」
 依頼後、ミリに残るように言う美香子。自分も戦うというミリに、厳しい言葉をかけながら、どこか彼女を心配するように目を細める。きっと言葉以上に、彼女を大事に思っているのだろう。
「わかった? 貴女は安全なところで待ってるのよ?」
「う、うん‥‥でも、私もみんなの役に立ちたいのに‥‥」
 改めて言い聞かせる美香子に、ミリは頷きながらも小さく不満の声を漏らすのだった。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1137 ジーン(24歳・♂・狼)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2555 レーヴェ(20歳・♂・獅子)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)

●リプレイ本文

「美香子さん‥‥私‥‥」
「それじゃミリ、行って来るわね。ちゃんとホテルで待ってるのよ」
 作戦の夜、ホテルでミリが何か言いたそうに見つめる。美香子はそれに気付かぬフリをしてホテルを出ようとした。
「まぁまぁ、過保護過ぎるのもよくないと思うぜ? ある程度身を守る術は身につけとかないと。美香子さんと一緒に外から見学させちゃどうだ?」
「余計なことは言わないでください。ミリは、大事な商品よ。いらぬ危険を負わせるわけにはいかないわ」
「!! そ、そうですよね‥‥」
 そんな二人に、気楽な口調で佐渡川ススム(fa3134)が声をかけるが、美香子はピシャリと厳しい言葉を返す。その言葉に、少し悲しげに俯くミリ。
「いつも美香子さんがくっついてる訳にもいかんでしょ? 例えば、俺と美香子さんがデートしてる時とか。いた! いたたた!」
「‥‥‥」
 ススムが美香子の肩を抱いて軽口を叩こうとするが、美香子に腕を捻り上げられ悲鳴をあげた。呆れたようにそんな様子を見つめる一同。
「イヤ、マジ! マジに痛いから!」
「はぁ‥‥それでは行きますよ、みなさん」
 悲鳴を上げるススムに、大きくため息をついて美香子は腕を離す。ちなみに、一同には内緒だがススムは以前の仕事での怪我が治っておらず、本気でかなりの激痛だったとか。
「‥‥だ、誰か帰りを待ってくれている人がいる、それだけで人は強くなれるものです。‥‥そ、それにミリさんがここで待っていればこそ美香子さんも安心して戦えるのだと思います」
「う、うん‥‥でも、私もナツキさんみたいに皆の役に立ちたかったよ‥‥」
「ミリさん‥‥」
「大丈夫、ちゃんと待ってるわ。足手まといにはなりたくないものね。いってらっしゃい!」
 ホテルを出る一同を見送るミリに、夏姫・シュトラウス(fa0761)が励ますように声をかける。ミリは同年代の夏姫を少し羨ましそうに見つめるが、自嘲気味に笑うと手を振って見送った。

「警察はどうなってるんだ? 俺達のことがバレては色々面倒だぞ」
「その点については、WEAの働きかけがあるので大丈夫ですわ。しかし、くれぐれもNW(ナイトウォーカー)以外の命を奪うことのないよう」
「わかってる、僕らも人殺しで捕まりたくないからね」
 窃盗団のアジトに向かう途中、ジーン(fa1137)が警察の動きを気に掛ける。それに対しての美香子の説明に、MAKOTO(fa0295)達は納得したように頷いた。
「あそこがNWが潜伏してると予想される廃ビルか‥‥」
 四階建ての廃ビルの一つを睨みつけ、陸 琢磨(fa0760)が呟く。廃墟となっているそこは、周囲のビルとほとんど違いもなく、一見人の姿をみることはできない。しかし、鳥獣人となって空から見張りをしていた協力者メグミの報告で、たしかに窃盗団が根城としているようであった。
「作戦は、深夜の奇襲。真の姿で一気に殲滅するぞ」
「犬のフリすればばれないかなぁ?」
「いやいやいや、それは無理だろ!」
 レーヴェ(fa2555)が無表情で作戦を確認すると、燐 ブラックフェンリル(fa1163)が軽く首をかしげて提案する。しかし、即座にススムがツッコミを入れた。流石に銀髪の巨狼では、目立ってしまって普通の犬のフリなど無理であろう。

「そろそろいいだろう。乗り込むぞ!」
「じゃ、お先に!」
「単独行動は危険だ。無理はするなよ!」
 周囲が闇に包まれた深夜。ジーンの指示に、全員が廃ビルへと乗り込んでいく。尾鷲由香(fa1449)は、獣人の姿となり羽を広げビルの屋上へ。それを見届けた琢磨達は、美香子に見張りを頼み、地上の入り口からビルに忍び込んだ。
「さて、どう出るか‥‥」
 屋上へ降り立った由香は、周囲を警戒しながら階段へと向かう。人の目には闇と映る夜闇も、彼女の鋭敏な視覚には十分な視界が映っていた。
 階段を降り、慎重に各部屋を見て回る由香。ほとんどの部屋はドアも無く、何も残っていない室内には割れた電灯が散らばっていた。
「あれは‥‥」
 そんなビルの中に、一つドアの付いた部屋を見つけ、物音を立てぬように中を覗き込む由香。室内には電気がついており、他の部屋とは違い調度品やベッド、そしてパソコンが置かれている。パソコンの前には男が座っており、なにやら作業をしている様子であった。
「一人‥‥か、悪いけど寝ててもらうよっと!」
「うっ!!」
 由香は、素早く部屋にもぐりこむと、こちらに気付いた様子も無い男を、手刀で一撃。男はうめき声をあげて気絶した。
「人間か‥‥こいつは警察に任せればいいかな」
 あっさり気絶した様子の男を見て、小さくため息。一息ついて部屋をでようとする由香だが‥‥。
「これは‥‥!」
 由香の目に、ふとベッドの上に置かれたそれが映る。開かれた経典が‥‥。そして、驚く由香の後ろでは、先ほど倒された男が異様な姿へ変容し立ち上がるのだった。

「ああもう! 面倒だね!」
「な、なんだお前ら!」
 入り口から忍び込んだマコト達は、まだ起きていた窃盗団と対決していた。窃盗団は、襲撃と獣人達の姿に驚き、わめき声をあげては銃を乱射してきた。さすがに獣人達も、そのまま弾を受けるわけにもいかず壁に隠れて様子をみる。
「俺が行こう‥‥」
 虎のマスクを被ったレーヴェは、その身に霊包神衣を纏い、窃盗団の前に飛び出した。窃盗団はレーヴェを銃で蜂の巣にしようとするが、強靭な獣毛が弾を弾き返し、その歩みを止めることは出来ない。そして、レーヴェは驚く窃盗団をなぎ倒していく。
「バ、バケモノ!? に、にげろ〜!」
「逃がすか! ススム、レーヴェ、ここは頼む!」
「お、俺!?」
「わかった‥‥」
 窃盗団の一部が驚き二階へと逃げ出す。琢磨達はススムとレーヴェに、残った者達を任せて、これを追いかける。ススムは、レーヴェの倒した窃盗団達にニヤリと笑みを浮かべた。
「さて‥‥、最近お前らの仲間で性格が変わったとか様子のおかしい奴いない? 素直に言わないと、この強面のおにーさんが黙っちゃいないよん?」

「ひ、ひぃ! 助けてくれ!!」
「なんだ!?」
 逃げた窃盗団達を追いかけた琢磨達であったが、すぐに恐怖に怯えた男達が引き返してくる。彼らの後ろには、頭部と腕を昆虫のような外骨格に変質させた人型の2体のNWが正体を現していたのだ。
「やっぱりいたね!」
「2体‥‥か。本当にこいつらだけか?」
 NWの姿に、空手の構えで睨みつけるマコト。そして、訝しげにほかのNWを警戒するジーン。
「考えてもしかたない! いくよ!」
「‥‥はい」
「よし、僕も!」
 完全獣化したマコトと夏姫は、金剛力増により筋力を強化。燐も俊敏脚足で脚力を強化し、NWに向かって突っ込んでいく。NWも迎え撃つように、甲殻化した拳で殴りかかってきた。
「たしかにそうだな、俺達も‥‥む、美香子から連絡か? こちらタクマ、NWを確認した」
「大変よ。4階で発煙筒があがりました。由香さんになにかあったと思われるわ」
「なんだと!? イーグルが!」
「‥‥ここは僕達が! タクマ達は、由香の所に向かって!」
 美香子からの連絡にギリっと歯を鳴らす琢磨。その様子に状況を察したマコトが、NWの一匹を押さえ込みながら叫ぶ。夏姫と燐も、NWを相手にしながらジーン達に頷く。
「わかった、頼んだぞ!」
「急ぐぞタクマ」
 この場をマコト達に任せた琢磨とジーンは、俊敏脚足によって強化された脚力で一気にNWを飛び越えると、4階へと駆け上がる。
 ドゴン! 4階に上がった二人の前で、一室のドアが吹き飛び、煙と共に一つの影が飛び出てくる。
「ガッハッ! あたしとしたことが‥‥」
「大丈夫か!」
「なんとか‥‥ね。咄嗟に発煙筒を使ってよかったよ」
 NWに背後を襲われ壁に叩きつけられた由香。彼女はダメージを受けながらも、発煙筒を使いNWの目をくらましては部屋を脱出したのだった。駆けつけてくる琢磨達に、苦痛に顔を歪めながらもなんとか立ち上がる。
「やるぞタクマ」
「ああ‥‥。その傘、刀だったんだな」
 部屋から出てきたNWに、傘から仕込み刀を抜くジーンと、まるで水を固めたかのような透明な青刀を持つ琢磨。二人は、強化した脚力による高速移動と、壁や天井を使った立体攻撃でNWに切りかかる。突然の新しい敵の出現と、その素早い動きに翻弄されるNW。
「食らえ!」
「斬!」
 ジーンと琢磨は、NWの頭部にあるコアを狙って渾身の一撃を放つ。十字に切り裂かれるコア、しかし破壊にはあと一撃‥‥。
「これで! 止めだ!」
 痛みに歯を食いしばりながら、由香が壁を蹴って飛び掛り、ダークをNWのコアに突き立てる。パキン! と音を立ててコアは砕け散るのだった。

「イグニッション!」
 NWの変化が少ないボディに拳を押し付けたマコトは、ブラストナックルを爆発させた。強化された筋力を伴ったその一撃は、NWの身体を破壊し活動を停止させる。
「夏姫、今!」
「グルル! ガァ!」
 夏姫も、燐の援護のもと、NWに牙を立てコアを噛み引き抜いた。情報を失い崩壊するNW。
 こうして、3体のNWを無事殲滅することに成功した一同。怪我を負った由香であったが、持っていたヒーリングポーションで傷を癒すことができた。他の窃盗団メンバーは、レーヴェとススムによって捕縛され警察に引き渡されることになり。今回のNW殲滅作戦は成功で幕を閉じるのだった。