ロック野郎ぜ! 出会いアジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 緑野まりも
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 4万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 04/12〜04/18

●本文

 雑居ビルの3階、『足花プロダクション』の看板を掲げた小さなオフィスに、無精ひげを生やした30代の男がデスクで伝票処理をしていた。名は足花雄三、このプロダクションの個人経営者である。経営者といってもプロダクションには従業員が彼一人、つまり彼はマネージャーであり、事務でもあり、プロダクションの行う仕事を全てを一人で担っていた。
 所属タレントもたった一組、ロックグループ『陰龍(インロン)』。足花が、インディーズから見つけ出し、手塩にかけて育て上げ、最近はかなりの人気を得ているバンドであった。
「足花さん、大事な話があるんだ‥‥俺達『陰龍』は、今日をもってこのプロダクションを抜けさせてもらう」
「‥‥‥そうか」
 そんな足花プロダクションに、ある日『陰龍』のリーダーRYOから移籍の話を持ち出された。簡単に言うと大手プロダクションから声がかかり。そちらへ移籍することにしたというものであった。足花は無言でその話を聞き、一言漏らすと椅子の背もたれによりかかった。
「あんたには感謝してる。俺達を見出し、ここまで育ててくれたんだからな。けれど、俺達もプロだ。より条件の良いほうを選ばしてもらう‥‥」
「ふ〜‥‥わかった‥‥お前達の力なら、より高みへと昇ることができるだろう。俺のことは気にせず、自分の道を信じていけ」
「足花さん‥‥!」
 足花は、タバコを取り出し一服する。そして、RYO達を止める事はせず、穏やかな表情で彼らを送り出してやるのだった。そんな足花を一瞬驚いたように見つめ、RYOは深々と頭を下げてオフィスを出て行った。
「ふ〜‥‥巣立ちってやつだな‥‥」
 足花は、タバコを吸いながら天井を見つめてポツリと呟くのだった。

 数日後、足花はあるライブハウスに来ていた。プロダクションの新しい柱を見つけるためである。今日ここではライブイベント『Breath of music 2006春』が開催されていた。
「次は‥‥『NASU with STARDUST』? NASU‥‥どこかで聞いた名前だが‥‥そうか、『Venus』のボーカルがNASUじゃないか? しかしなぜ‥‥」
 参加バンドのリストを眺め、訝しげな表情を浮かべる足花。ロックバンド『Venus』は、巷で人気のインディーズバンドであり、足花の今回の目的の一つであった。しかし、そのボーカルであるはずのNASUが、別のバックバンドを連れて現れたことに、足花だけでなく、ほかのファン達も動揺していた。
「‥‥『The light of day(夜明け)』」
「こいつは‥‥」
 何の説明も無く歌い出すNASU。しかしそれは、すべての想いを込めた心揺さぶる歌声。最初動揺していた客達も、NASUの高く力強い歌声に魅了され、歓声を上げる。足花は、宝の地図を見つけた冒険家のように、興奮を隠せない視線でNASUを見つめていた。新しい柱は決まった、彼の表情はそう物語っていた。

「NASU君だね」
「‥‥おっさん誰だ」
 次の日、足花は17歳ほどの赤毛の少年NASUに声をかけた。見慣れぬ男を警戒するように睨み付けるNASUに、穏やかな笑みを浮かべて名詞を取り出す足花。
「私はこういうものだ」
「足花プロダクション社長、足花雄三? ‥‥聞いたこと無いな。それで、そのプロダクションの社長がいったい俺になんのようだ?」
「もちろん、君をスカウトしにきた」
「なんだって?」
 名詞を見ると、よりいっそう胡散臭い者を見るような視線で見つめるNASUに、足花は動じた様子も無く話を進める。
「昨日のライブ、聴かせてもらったよ。荒削りだが、人の心を動かす良いものを持っている。私としては、ぜひ君をうちでデビューさせたいのだが」
「おいおいおっさん! 昨日のライブを見たなら知ってるだろ! 俺は『Venus』から追い出されて、一人なんだ! 今の俺にはなにもないんだぜ?」
「それでも君は歌い続ける‥‥そうだろ?」
「う‥‥あたりまえだろ! 俺には歌うしかないんだから‥‥」
「だったら、うちで歌ってみないか? 君にとっても一人で歌い続けるより、よほどチャンスのはずだ」
「それはそうだけど‥‥」
「いきなり現れてスカウトでは信用できない‥‥か?」
 足花の説得を、疑わしい目で見つめるNASU。足花は苦笑しつつも、穏やかな笑みを浮かべ。
「まぁ、そうだろうな。しかたない今日のところはこの辺にしておこう。気が向いたらオフィスのほうにでも来てくれ、住所はそこの書いてある」
「お、おい! ‥‥足花プロダクション‥‥か」
 渡した名刺を指差して立ち去る足花。NASUは意表をつかれたように、立ち去る背中を見送り、渡された名刺を見つめて呟くのだった。
「ああ、そうそう。君、女の子?」
「俺は男だ!!」
 途中振り返った足花は、素朴な疑問を口にする。NASUは叫ぶように否定するのだった。

「いらっしゃい、よくきたね」
「せめぇところだな‥‥」
 数日後、足花プロダクションを訪れたNASUは、オフィスの狭さに呆れた表情を浮かべた。
「ああ、なにせ私一人の貧乏プロダクション。最近、唯一の所属タレントも別に移籍してしまったからね」
「ひ、一人って‥‥どおりで、俺なんかに声をかけるわけだ」
「がっかりしたかね? 『Venus』が所属したような大手プロダクションでなくて」
「!! そんなの関係ねえよ! ただ、あんた一人で本当に大丈夫か不安なだけだ!」
「ごもっとも‥‥。まぁしかし、これでも一応プロダクションの看板を掲げている以上、タレントのマネージメントはしっかりやらせてもらうよ」
「‥‥‥」
「やはりこんな貧乏プロダクションでは不満か? まぁ、君の実力なら、いずれ良いところに声がかかるかもしれないが‥‥」
「‥‥いずれじゃだめだ。今じゃないとだめだ! だから、どんな小さなチャンスでも掴みたい!」
 少しおどけながら笑みを浮かべる足花を、キッと睨みつけるように見つめるNASU。その顔に、足花も真剣な表情を返し。
「そうか‥‥ならば、君の歌でチャンスを掴んで見せろ。これから君は、新しい仲間達と共に、ロックで戦っていくんだ。私がその手伝いをしよう」
「よろしく‥‥頼む!」
 足花の差し出した手を、がっちりと握り締めるNASU。NASUと足花プロダクション、新しい旅立ちである。

 数日後、足花プロダクションから『バンドメンバー募集』の依頼が出された。NASUと共に、ロックバンドとして仕事をするメンバーの募集である。
 選ばれたメンバーは、NASUとユニットを組み、一緒にロックバンドとしてデビューすることになる。果たしてメンバー達は、厳しい練習を乗り越え、無事デビューできるのだろうか。

●今回の参加者

 fa0336 旺天(21歳・♂・鴉)
 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa0453 陸 和磨(21歳・♂・狼)
 fa0510 狭霧 雷(25歳・♂・竜)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa3398 水威 礼久(21歳・♂・狼)

●リプレイ本文

「みんな、来てくれたのか!」
「こんにちはNASUさん。改めてよろしくお願いします」
「‥‥‥よぉ」
 以前に『NASU with STARDUST』として組んだことのある、豊城 胡都(fa2778)と椚住要(fa1634)の姿に、NASUが喜びの声をあげて軽く抱きつく。二人も、笑みを浮かべNASUとの再会を喜ぶ。
「私も‥‥諦めかけた『夢』、もう一度追わせてもらいたいと思います」
「雷‥‥ああ! 一緒にがんばろうぜ!」
 同じく、以前世話になった狭霧 雷(fa0510)に、NASUが嬉しそうに肩を叩いて笑いあった。共に諦め掛けた音楽を取り戻し、再出発することを誓い合う二人。
「初めまして‥‥か? タクマだ、よろしく」
「カズマです」
「あんた達‥‥たしかこの間のライブで一緒だった、アーウェルンクスの‥‥」
「覚えててくれて光栄だな。二束のわらじってことになるが、こちらも全力でやらせてもらう」
「俺が、声を掛けさせてもらった。この間のライブで気になっていたんでね」
「あんた達が加わってくれることは心強いよ。これからは仲間だ、よろしくな!」
「ええ、兄さん共々頑張りますので、宜しく御願いします」
 陸 琢磨(fa0760)と陸 和磨(fa0453)の二人が挨拶すると、NASUが驚いた様子で二人を見つめる。彼らは、以前同じライブに参加したグループの一つだったからだ。足花にスカウトされたという二人とNASUは、ガッチリと握手をしあった。
「あらあら、素敵な男の子達が友情の握手。青春ですわねぇ」
「姐さん良いこと言うっスねぇ。俺っちも一緒に青春させてもらっスよ。NASUのライブは前に見させてもらったけど、なんつーかスゲーッス。一緒にできること嬉しいっス!」
「お、おぅ‥‥よろしくな‥‥」
 星野 宇海(fa0379)が、NASU達の様子をおっとりとした口調で微笑むと、旺天(fa0336)が高いテンションで捲くし立てて、NASUの手を両手で掴みブンブンと振るように握手する。その勢いにNASUは苦笑を浮かべながら頷く。
「なかなか個性的な面子が揃ったみたいだな。俺は水威礼久、クレイスって呼んでくれ」
「クレイスか、よろしくな」
「お前がNASUか、男にしては小さいな! 俺はこのチャンスを活かしたいんだ、足手まといにだけはなってくれるなよ? って、痛ってぇ! なにすんだよレティス姉!」
「生意気言わないの! NASU、久しぶり!」
 最後の一人、水威 礼久(fa3398)が挨拶をすると、付き添いで来ていたレティスが礼久を小突いてNASUに微笑んだ。
「彼らが今日から君の仲間だ。彼らと共に、この音楽業界で戦って行くことになる」
 足花の言葉に、一同はお互いの顔を見渡し大きく頷くのだった。

 NASU達は早速、足花の用意した練習スタジオで練習を開始するのだが。
「バラバラ‥‥だな」
「ついつい楽しくなっちまってさ〜」
「すまないな、悪い癖でさ。楽器を握れば周りが見えなくなるんだ」
 要がため息をつくと、悪びれた様子も無く旺天が笑みを浮かべ、礼久が頬を掻きながら苦笑する。お互い面識の少ない同士、すぐに演奏を合わせるのはなかなか難しいようであった。
「たしかにバラバラだけど、俺はいいと思うぜ。無理に合わせようとせず、もっと自分を出していこう!」
「‥‥そのためには、メインボーカルであるおまえが、みんなを引っ張っていかなくちゃいけないぞ」
「私達がサポートしますから、がんばりましょうね」
「お、おう‥‥」
 NASUは皆に小さく納まらぬよう声をかける。そんなNASUに、サブボーカルとして参加した琢磨と宇海が発破をかける。ツインドラムにツインギターのバンドには、それに負けない力強いボーカルが不可欠なのである。
「さぁそれでは、いままで以上の歌唱力をつけるために、あちらで特訓しますわよ」
「え、特訓!?」
「はい、ビシビシいきますので覚悟してくださいね!」
「ま、まって‥‥」
「がんばれよ‥‥」
「はい、琢磨さんも!」
「お、俺もか!?」
「もちろんですわ、妥協せず厳しく参りますわよ〜」
「ひぇ〜〜!」
 そんなこんなで、宇海が特訓を行うためにNASUを連れて行こうとする。それを琢磨が冷静な表情で見送ろうとするが、結局一緒に特訓させられることになるのだった。
「兄さん‥‥無事に帰ってきてね‥‥」
 宇海の龍の角が、一瞬鬼に見えた‥‥そんな風に思って、和磨は哀れんだように兄達を見送るのだった。

「ふぅ‥‥だいぶ息が合ってきたな。今日はこの辺にしておくか」
「つっかれたぁ!」
 練習は夜まで続き、楽器担当メンバー達も汗だくになりながら少しずつお互いの息があってきたようだ。要の指示で、ようやく身体を休めた一同は、クタクタになりながらも満足そうな笑みを浮かべた。
「あ〜、腹減ったぁ!」
「そうですね、結局お昼から何も食べてませんし」
「あ、だったらこれから一緒にメシでもどうっスか。美味いラーメン屋知ってるんスよ」
「ラーメンか、いいね! じゃあ、テンのオゴリで!」
「ええ〜、マジっスかぁ!?」
 礼久が空腹に声をあげると、和磨が同意するように頷く。それを聞いて旺天がラーメン屋への食事に誘うと、礼久が真っ先に食いついた。
「まぁ、それはともかく、皆で食べに行くのはいいですね。NASU達にも声をかけて行きましょう。ねぇ、要さん」
「ああ‥‥そうだな」
 そんな様子を楽しそうに眺めていた胡都も、要にも誘いの視線を向ける。要は、淡々とした様子で後片付けをしていたが、胡都の視線に同意し頷いた。こうして、一同は食事に出かけ交流を深めるのだった。

「‥‥居残り練習かい?」
「はは、そう言われるとなにか学生の頃の補習を思い出しますね」
 一人残りギターの練習をしていた雷。様子を見に来たNASUが、そんな雷に小さく微笑んで問いかける。雷は、NASUの言葉に苦笑を浮かべて頷いた。
「‥‥技量で劣るのは百も承知ですから‥‥足を引っ張るわけにはいかないじゃないですか」
「そんな、気負わなくていいと思うぜ。俺は雷の演奏はいいと思うし、皆だって十分認めてるよ」
「ありがとうございます‥‥。でも、それでも、自分が満足した演奏をしたいんです。そのための努力は惜しまないつもりですよ」
「そっか、それも雷のいい所だよな。あの、さ、そこのギター弾いてみてくれないか?」
「こちらの普通のギターですか? ええ、わかりました‥‥」
 しばらく話をしたあと、NASUの希望で、木製のギターを手に取る雷。
「‥‥〜〜♪」
「へぇ、いい曲‥‥優しい雨のように〜、僕が君を包むよ。悲しみも寂しさも涙も〜、全てを洗い流すように〜‥‥」
 雷が即興でスローテンポのバラードを弾き始めると、NASUがそれに歌詞をつけて歌い出す。ギターのやわらかい音と、少年のようなNASUの高い声が醸し出すハーモニーが、スタジオを暖かく包み込むようであった。
「雷、自信持てよ! 今の演奏、すげぇ心(ソウル)が篭ってたぜ!」
「ええ‥‥ありがとうNASU。満足できる演奏を、これから出来そうな気がします」
 一曲弾き終えた雷に、NASUが満面の笑みを浮かべる。その笑みに、雷も心からの笑みを返すのだった。

「どうだ君達。バンドとしてやっていけそうか?」
「足花さん。その答えは、俺達の演奏を聴いて判断してくれよ」
 一週間後、プロダクションの社長兼マネージャーの足花雄三がバンドの出来具合を見ることになった。一同は一週間の練習の成果を全力でぶつけることになる。曲は『The light of day(夜明け)』、以前作ったNASU作詞の曲を、要がこのバンド用にアレンジしなおした曲であった。
 チッチッチッ! 旺天のスティックを合図に、旺天と胡都のツインドラムが激しくリズムを刻み出す。旺天の激しいテンションに、胡都が正確なリズムで合わせ、うまい具合に荒々しさと繊細さが共存しているようだ。
 それに、要と雷のギターが続き、追いかけるように礼久と和磨のベースが加わる。冷たさと暖かさ、誠実さと軽薄さ、そんな相反した感情がお互いを補い合うような、混沌としているようで確かに人を惹きつける音楽が生まれてくる。
「朝霧立ち籠める夜明け前! 吐く息は白く霧に紛れるぅ!」
「進む道に迷い! 帰る場所も無く! ただ立ち尽くす俺達は!」
「ど・こ・へ・も・行けやしない!」
 NASUのシャウト! 最初からアップテンポで、高く響く力強い声。それは、バンドを従え、先頭を突き進むような激しい歌声である。それを、琢磨の低く激しい声と、宇海の良く透るアルトの声が補い、一つになっていく。
 個々が激しく主張しながらも混ざり合い、聴く者を混沌の渦の中心にいるように思わせる。NASU達は、そんな強さをもったバンドに仕上がっていたのだった。
「‥‥いいだろう。まだ荒削りだが、強さを感じられる音楽だ。私も、全力で君達をプロデュースさせてもらうよ」
 聴き終えた足花は、力強い拍手を返して賞賛し、満足げな笑みを浮かべた。
「それで、バンド名は決まったのかい?」
「ああ、俺達は‥‥『Wheel of Fortune(運命の輪)』!! 変わり続け、回り続ける。そんな想いをこの名に籠める」
 足花の問いに、NASUは拳を握り決まったバンド名を口にする。こうして、音楽界に新しい運命の輪が回り始めるのだった。