キス! キス! キス!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 緑野まりも
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 7.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/31〜06/04

●本文

「今の時代、ラブが足りないわ!」
「‥‥突然なんだ」
 バン! ドアを蹴破って現れた女、春日鈴美(カスガ・スズミ)は突然俺にそう告げる。どうせまた突拍子も無いことを考えたのだろうが、それに振り回される俺は自然とため息がでた。
「わからないの! ラブっていうのはキスよ! だからキスが足りないの!」
「また極端な三段論法だな‥‥」
「なにか文句ある?」
「いや、別に‥‥」
 この俺の目の前でわめき散らしている女は、ドラマディレクターである。いつも突拍子も無い思いつきで、突拍子も無いドラマを制作するのだが、なぜかそれがウケているのだから世の中わからない。ちなみに俺は、そのアシスタントディレクターだ。
「ここまで言ってわからないの?」
「‥‥‥」
 俺の目線の少し低いところから、上目遣いで睨み付けてくる鈴美。‥‥わかっている、わかっているが答えたくない。どうせ全ての面倒ごとは俺に押し付けるつもりだからだ。
「はぁ‥‥相変わらず、あんたバカねぇ。つまり、このラブの足りない世の中に、ラブたっぷりのドラマを提供してあげようってことじゃない! もちろんラブっていうのはキスのことよ?」
 やっぱりな、つまりこいつは、『キスシーンが多い恋愛系のドラマ』を作りたいのだ。しかし、なぜこんなにキスにこだわるかね、この女は。
「そもそも日本人は、キスに対しての抵抗感が強すぎるのよね! もっとこう、チュッチュッとか、ブチュ〜とか人前で見せ付けないのかしら?」
「だったら、そういうキスをお前がしてみろ‥‥俺に」
「バ、バカ言わないでよ! 何であたしがあんたなんかにキスしてあげなくちゃならないのよ!」
「言ってることと、してることが違うぞ。だいたい、他人のキスなんて見せ付けられても鬱陶しいだけだ。まぁ、最近の若いのはあまり抵抗感ないみたいだがね」
 駅のホームや、電車の中でもキスをしている若いカップルなど見かけることがある。そういうのを見ると、人目の無い他所でやれと言いたくなる。もちろんそんな説教じみたことは言わないがね、俺も若いからね‥‥。
「やっぱり、ちょっと恥らった感じのキスのほうがいいわね。あとハプニング系も重要だわ! 大人のディープなキスも入れたいし、無理やりな感じの略奪愛的なキスもあったほうがいいかしら?」
「なんでもありかよ‥‥」
「文句ある? ないでしょ?」
 ところで、そのドラマに俺の出番はないのか?
「とにかく! キスたっぷりのドラマを作るわよ! さっそくあんたは、俳優とロケ地と機材とその他諸々を手配しなさい! あたしは脚本とか演出とかに忙しいから!」
 やっぱりな‥‥、面倒なことは全て俺に押し付けてきた。こいつはADを雑用か何でも屋と勘違いしているのではないだろうか? まぁ、いつものことだし、これでこいつが良い作品を作れるなら仕方ないと思うがね。
「タイトルはもう決まってるのよね! 『キス! キス! キス!』よ!」
「何の捻りもないな‥‥」
 ドカ! つい口にしてしまった言葉に反応して、鈴美が怪力パンチを俺の後頭部に食らわす。本気でイテェ‥‥。

・俳優募集
 ドラマ『キス! キス! キス!』では、出演俳優を募集しております。審査のうえ、担当の役柄を決めさせていただきますので、得意な役、希望など書いて応募ください。

・ドラマ内容
 キスを題材にしたショートストーリーを集めたオムニバス形式の恋愛ドラマ。舞台は、現代の東京。物語別に、学園や駅のホーム、公園などさまざまな場所でのキスシーンをメインにドラマを製作。

・備考
 物語、登場人物などは配役が決定後お知らせします。以上。

●今回の参加者

 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1108 観月紗綾(23歳・♀・鴉)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa3158 鶴舞千早(20歳・♀・蝙蝠)
 fa3196 雪野 孝(48歳・♂・猿)
 fa3814 胡桃・羽央(14歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

「シーン15、結婚式を迎える幸せな新婚夫婦の誓いのキス!」
 鈴美の掛け声に、黒いタキシードを着た蓮城 郁(fa0910)と、純白のウェディングドレスを着た観月紗綾(fa1108)が、神父の前に立つ。
 夫婦役の二人は、多くのエキストラの祝福の下、結婚式を進めていく。そして、優しく微笑みを浮かべ、ゆっくりと顔を近づける郁。頬を赤く染めて、目を瞑っては彼を待つ紗綾。二人の唇が、触れ合おうとする‥‥。
「紗綾さん‥‥」
「‥‥!!」
 ヒョイ! 的を失った郁の唇が、宙で虚しく停止する。唇が触れ合う瞬間、紗綾がしゃがみこんだのだ。
「紗綾さん!?」
「ご、ごめん! あまりに恥ずかしくて反射的に!」
 郁が困ったように声をかけるが、紗綾は自分の頬を手で押さえながら、郁の顔も見れずに謝った。そして、鈴美の合図で取り直しとなる。
「紗綾さん‥‥」
「‥‥!!」
「ぶわ!?」
 次には自分のブーケを相手に投げつけてキスを中断させてしまう紗綾。何度取り直しても、紗綾はキスの段階で逃げてしまう。しまいには‥‥。
「キスなんて毎日してるじゃないですか」
「毎日っていうな! 人前でのキスなんて‥‥」
「これはドラマなんですから仕方ないじゃないですか」
「‥‥バカ!!」
「紗綾さん!」
 素で痴話喧嘩を始めてしまい、ついには教会を逃げ出す紗綾。
「もう! 十分休憩!! 郁君、アンタ捕まえてきなさい! それと二人とも頭冷やしなさいよ!」
「すいません!」
 鈴美の指示に、郁は慌てて紗綾を追いかける。教会近くの木の下で恥ずかしそうに俯いていた紗綾に、郁は頭を撫でたり優しく諭したりするが、紗綾はなかなか落ち着かない。
「わかってる、わかってるけど! やっぱり恥ずかし‥‥んん!!」
 ごねる紗綾、そんな彼女を郁は強引に抱き寄せ唇を奪った。お互いの舌と舌を絡み合わせ、長く甘い口付けを交わす。
「んん‥‥ぷはぁ‥‥」
「頑張りましょう。視聴者の胸が温まるような、女性の夢を応援するような、幸せな式になるように」
「郁さん‥‥」
「それと‥‥ウェディングドレス姿、凄く綺麗です‥‥いつか、本当にこんな式を挙げたいものですね」
 唇が離れると、力を抜き熱っぽく見つめる紗綾の背中を優しく叩き励ましの言葉を囁く郁。そして、少し照れた様子で言葉を続けた。
「はい、カット〜! 良い絵取れたわ!」
「ひぇ!?」
「ディレクター!?」
 さて、そんな二人の一部始終を、鈴美及びカメラスタッフがいつのまにかカメラに収めていた。驚く二人を他所に、鈴美は満面の笑みを浮かべて満足そうだ。
「さぁ! 次のシーン行くわよ!」
「もしかしていまの使うんですか!!」
「鬼だなお前‥‥」
 鈴美の傍らで、ADが額を押さえて首を横に振るのだった。

「シーン15! 旅立ちの別れ、再会の約束!」
「また15か‥‥」
 場所は変わり空港ロビー。鈴美の掛け声で、胡桃・羽央(fa3814)とウィン・フレシェット(fa2029)が、搭乗口近くで向かい合う。もちろん、ADの呟きは無視だ。
「ウィン君‥‥」
「わお姉ちゃん、そんな顔するなよ」
 羽央は、瞳の奥に涙を溜めて、いまにも零れ落ちそうな表情でウィンを見つめる。ウィンはそんな彼女の表情に困ったように、落ち着かない様子。
「わお‥‥ウィン君ともっと遊びたかったよ。離れるなんていやだよ‥‥」
「俺だって嫌だよ。だけど、もう会えないわけじゃないだろ‥‥」
「だって‥‥」
 ホロリ、羽央の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。この直後に、回想シーンが入るわけだが、そちらはまだ撮っていない。
「わお姉ちゃん‥‥俺!」
「‥‥ウィン君!?」
 チュッ! 可愛らしく音を立てて、背伸びしたウィンの唇が、羽央の涙を拭う様に頬に触れる。驚き、唇が触れた頬を手で押さえて見つめる羽央。
「大丈夫! もう一度会おうよ!」
「うん‥‥うん!」
 見つめる羽央に向かって、ウィンが明るく声をかける。その様子に、羽央は顔を赤らめながら頷くのだった。
「もう、立派な男の子なんだね‥‥」
「わ、わお姉ちゃん!?」
「絶対、また会おうね‥‥約束!」
 そして、羽央はウィンを強く抱きしめ、嬉しそうに囁いた。突然のことに、照れたように顔を赤らめるウィン。そして、羽央はそのまま、ウィンの唇に軽く触れる程度のキスを返し、そのまま手を振って搭乗口へと走っていくのであった。惚けるように羽央を見送るウィン。
「はいオーケー! なかなか良かったわよ! それじゃ次のシーンに移りましょう」
「ウィン君、可愛かったね♪ 十年、ううん、五年後が楽しみだね、うふふ‥‥」
「や、やだなぁ、羽央さん、そんな目で見ないでよ‥‥」
 役の仮面を外した羽央が、楽しそうにウィンをみつめて自分の唇に触れる。ウィンは、恥ずかしそうに自分の頬を掻いて照れるのだった。その後、買い物のシーンで、羽央がハッスルしていたのは言うまでもない。

「妻以外とのキスかぁ‥‥少し罪悪感を‥‥しかし、若い子とキスはやはり役得‥‥いやいやいや‥‥やっぱり役得かぁ?」
 撮影までの待ち時間。教師役、雪野 孝(fa3196)は思わず顔がニヤけてきてしまうのを抑えようとして、抑えられずにいた。すっかり一人浮かれ気分である。それに対し‥‥。
「キ、キスシーン‥‥ううう、経験無いからどうしていいのかよく判らないよぅ〜」
 真っ赤になった顔を抑えながら、鏡の前でうんうん唸っているのは生徒役の姫乃 唯(fa1463)。どうやら、彼女はキスシーン初挑戦、どころかキスさえ初めてのようである。
「はい! シーン15、夕日の中の告白」
「なんでそんなに15が好きなんだ‥‥」
「よろしくおねがいします」
「よ、よろしくお、おねがいしますぅ〜」
 相変わらずADの呟きは無視して、撮影は始まった。先ほどの様子はどこへやら、孝は紳士的な笑みで挨拶を交わす。一方の唯は、緊張でガチガチだ。
「これで、もう教師と生徒という立場じゃなくなったんだな」
 夕日の教室、二人きりになった孝と唯。唯に背を向け、窓の外を眺めながら、孝はぽつりとつぶやく。その後ろに立っていた唯は、何かを言おうと顔をあげる。
「先生! 私‥‥私っ、ずっと先生の事が好きだったんです‥‥! 一度だけでいいですから‥‥きっ、キスをっ‥‥あう〜、すみません〜」
 案の定、唯がセリフを噛んでNG。唯は申し訳なさそうにぺこぺこと、頭を下げる。
「もう一回! もう一回!」
「はぅ〜」
 それからも、何度もNGを出してしまう唯。そのたびに、鈴美の怒声。唯はすっかり萎縮してしまう。
「唯さん、少し落ち着こう。はい、深呼吸して‥‥」
「タカシサン‥‥はい、すぅ〜はぁ〜」
「緊張するのはわかる、僕も緊張しているからね。しかし、そんな時こそ落ち着いて役になりきるんだ」
「はい‥‥ありがとうございます」
 そんな唯に、孝は優しく声をかけて、アドバイスをする。孝を尊敬のまなざしで見つめる唯。もちろん彼女は、役得と浮かれていた彼のことなど知らない。
「唯君‥‥実は私も君のことを‥‥」
「ん‥‥」
「はいオッケー!」
 その後ようやく、キスシーンを撮ることに成功し、へなへなと座り込んでしまう唯であった。

「まぁ、今更キス云々で騒ぐような事じゃないしね〜。あ〜、私もウィン君としたかったなぁ」
「相手が俺で悪かったな」
「ん〜、蘇芳君もメガネ取ると可愛いからいいけどね♪」
「そりゃどうも‥‥」
 場所は夜の公園。撮影前、鶴舞千早(fa3158)と蘇芳蒼緋(fa2044)はそんな会話をしていた。どうやら千早は、年下の可愛い子が好きなようだ。そんな彼女の物言いに、苦笑する蒼緋。
「撮影始めるわよ! シーン15、待っていた想い!」
「もういい‥‥」
 夜の公園を歩く幼馴染の千早と蒼緋。千早が自分の恋の話を楽しそうに話すのを、蒼緋はつまらなそうに聞いていた。
「それでね、今日は郁君がね〜、あたいにバッグ買ってくれたんだ〜」
「‥‥‥」
 他の男性の話(もちろん郁とは関係ない)を、蒼緋に何の気兼ねなくする千早。それはいつものことで、今日に限ったことではない。しかし、今日の蒼緋の様子はどこかおかしかった。しばらく大人しく話を聞いていたものの、途中でなにかを堪えるように肩を震わす。
「で、郁君がそのとき‥‥んん!?」
 蒼緋の様子に気づかず、話を続けようとする千早。しかし、その口を蒼緋が強引に自分の唇で塞ぐ。そのまま、彼女を強く抱きしめ、ディープキスを交わした。
「んんぁ‥‥蒼緋?」
「もう俺の前で他の男の話はするな」
 いきなりのことにぼうっとなる千早。唇を離す蒼緋は、ぶっきらぼうに言い放ち顔を背けた。その言葉に、千早は突然涙を流す。
「ごめん‥‥もうしない‥‥」
「ちがう、ちがうよ‥‥あたし嬉しいの。本当はずっと待ってた‥‥蒼緋のことずっと待ってた‥‥あんな嘘までついて‥‥」
「嘘‥‥? 他の男のこととか?」
「ごめん‥‥でも嬉しいよ、蒼緋の気持ちがわかって‥‥ありがとう、いままでゴメンね‥‥」
 千早の涙に戸惑う蒼緋だが、千早は今までのことを告白する。そして、嬉し涙を流しながら笑みを浮かべると、蒼緋の首に腕を回して唇を交わすのだった。
「オッケー! バッチグーよ!」
 最後のシーンを撮り終え、鈴美は満足そうに頷いた。これであとは‥‥。
「じゃあ、編集お願いねAD!」
「やっぱりそうきたか‥‥」
 その後、無事作品は完成となる‥‥。