中国山奥NW探しの旅アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
緑野まりも
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
10.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/05〜07/11
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●本文
「聞いた!? 香港に出たらしいわよ!」
「頼むから主語を入れてくれ、なにが出たっていうんだ」
「ナイトウォーカーよ!」
バン! ドアを蹴破って現れた女、春日鈴美(カスガ・スズミ)は口を開くと同時に俺にそう告げる。ナイトウォーカー(NW)は、俺達獣人の敵、むしろ天敵とも言うべき存在だ。やつらは、日々俺達を狙っているらしく、時折その遭遇情報がもたらされる。鈴美が聞いたものもそのひとつだろう。だが、それがいったいなんだというのだ。
「あんた、覚えてないの? NWよ、NW! 数日前に言ったでしょ!」
「‥‥数日前?」
「NWを見たいわ」
「突然なにを言い出す」
いつものように、ドアを蹴破って現れた鈴美は、俺をまっすぐ見つめてそう告げた。
「だって、獣人として生まれてこの方、NWと遭遇したことないのよ? やつらは私達の天敵なんだから、一回ぐらい遭遇したいじゃない。だからNWを見たいの。あんたは? あんたも見たいでしょ?」
「見たくない‥‥」
なにを馬鹿なことを、NWになど遭わなくてすむのなら遭わないに越したことはない。そんな命を危険に晒すようなことを望んでするやつはそうそういないだろう。目の前に、例外がいるわけだが。
「なんでよ!? NWよ? 天敵よ? 倒すべき敵なのよ? だったら倒さないといけないじゃない!」
「そんなに見たいなら、探せば映像に映ってるやつもあるんじゃないか?」
話では、NWとの戦闘を特撮などに偽って撮影されたものもあるらしい。それと、いつのまにか、見るじゃなくて倒すに目的が変わってるぞ鈴美。
「バカね、本物を自分の目で見ないと意味ないじゃない! とにかく、NWを探すわよ。いい? あんたも、ちゃんと探すのよ!」
俺は見たくないと言ったはずだが‥‥いつものように、都合の悪いことは聞こえていないらしい。まぁ、そう簡単にNWが見つかるのならば、他の誰かがさっさと退治しているだろう。鈴美も、しばらくすれば、諦めて別のことをしだすと思った‥‥。
それが、数日前の話である。
「‥‥あ〜、お前、あれ本気で言っていたのか?」
「あたりまえよ!」
当然とばかりに俺を睨みつける鈴美。まぁ、わかっていたのだが、聞かずにはいられないだろ。
「話だと、盗まれた経典を見た窃盗団がNWに感染していたらしいわ。もしかすると、似たようにNWが潜んでる経典があるかもしれない。これはNWを探す有力な情報だわ」
「中国全土にどれほど経典があると思っているんだ。それを全部確かめるつもりか?」
「それでもいいんだけど‥‥ちょっとしたネタを掴んだのよ!」
いいのか? それはともかく、ネタだと? 鈴美は、香港で遭遇したという情報以外になにを聞いたのだろう。
「中国の山奥の話なんだけど、そこでは不思議な現象が起きるらしいの」
「‥‥どう不思議なんだ?」
嫌な予感がするので聞きたくないのだが、話したくて仕方ない様子の鈴美の顔を見れば、聞かねばならぬだろう。聞き返さなくても話すだろうしな。
「そこには村とお寺があるんだけど、村人がお寺にいくと、別人格が乗り移るらしいのよ。しばらくして、またお寺にいくと直るらしいんだけど‥‥これって、NWの感染症状に似てない?」
「‥‥‥」
似ている、が俺がそれを認めてしまうと、鈴美は間違いなくそこへ行こうとするだろう。
「なによ、不服そうね?」
「お前の職業はなにか言ってみろ?」
「ドラマディレクター‥‥それがなに? ちなみに、あんたはそのADね」
「そう、ドラマディレクターの仕事は、ドラマを作ることだ。間違ってもNWを探してくることじゃない。ついでにいうと、次のドラマをさっさと仕上げなければならない」
俺の言葉を聞き、ムッとした表情で睨みつける鈴美。だがこのまま、鈴美の言う通りにNWを探しにいくわけにもいかない。好奇心は猫を殺す、そんな言葉が俺の頭をよぎる。ちなみに俺は猫ではない、猫なのは鈴美だ。
「‥‥だったら、ドラマにすればいいでしょ! 今度のドラマは西遊記にするわ。古寺を訪れた三蔵一行っていう感じね」
「おい、そんないい加減な‥‥」
「文句ある! ないでしょ!」
強い意志を示す瞳で俺を睨みつける鈴美。どうやらどうあってもNWを探すらしい。こうなってしまっては、俺がなにを言っても聞かないだろう。
「はぁ‥‥わかった。役者とスタッフは集めておこう」
「ふふ、わかってるじゃない! それじゃ、NW探しに行くわよ!」
俺は大きくため息をつく。実際、本当にその寺にNWがいるとは限らないが、用心のために腕の立つ者を集めておこう。鈴美はそんな俺の考えも知らず、満足そうに笑みを浮かべるのだった。
●リプレイ本文
「みんな揃ってる! まず最初に言っておくわ、これは訓練ではない! これは訓練ではない、よ!」
いつものように、会議室のドアを勢いよく開けて、春日鈴美は第一声をあげる。はっきり言って、意味不明だ。続けて、今回の目的について、詳しい話をする。
「好奇心を満たす為には命を賭ける。うーん、共感できるし好感持てるわ。私達良い友達になれそうね。一杯どう?」
「ありがとう、いただくわ」
天目一個(fa3453)が好意的な視線を鈴美にむける。二人は、お互い満面の笑みを浮かべて杯を交わした。友好を結ぶのはいいが、お前達仕事中だぞ。
「ど、退いてください‥‥し、死ぬ‥‥」
勢いよく開かれたドアの間に挟まれていた佐渡川ススム(fa3134)が、床へと倒れこむ。そういえば、壁際に立っていたな、忘れていた。しばらくの間、佐渡川は瀕死の様子でピクピクと痙攣しているのだった。
「お、おい‥‥まだ着かないのか?」
俺達は、情報提供者であり通訳の、中国人の男の案内で、山深い山道を歩いていた。車で通れる道ではなかったので、歩くことになったのだ。
「だらしないわね、もっとキビキビ歩きなさいよ」
「む、無茶を言うな。撮影道具まで背負ってるんだぞ」
「あら、直己君は平気そうだけど?」
「鍛えているからな。AD、もう少し預かろうか?」
費用の問題で、スタッフは俺一人。鈴美に期待できるわけもなく、荷物持ちは俺ということになっていた。須賀 直己(fa3550)が分担してくれているが、なかなか量は多い。須賀の申し出はありがたいが、いまでも俺より持っているのだから、さすがに首を横に振った。
「でぃれくたーさん、むらがみえてきたよ!」
案内人の片言の声に、指差すほうを見ると、山の中腹に村のようなものが見える。まだあんなに登るのか‥‥。ちなみにこの案内人、異常なくらいよく喋る。実は、ここにくるまでもひっきりなしに喋り続けていた。お喋りの相手は主に竜華(fa1294)さんが務めてくれたが、正直うっとおしい。
「やれやれ、こんな中国の山奥まで来るはめになるとは‥‥しかもお前さんとまで一緒とはのッ」
「いやいや、これも運命の赤い糸ってやつですよ」
「バカを言うでない!」
「いて、いてて、マジで痛いから!」
目的地が見えてきたせいか、気を緩ませてDarkUnicorn(fa3622)ことヒノトが、佐渡川に声をかける。同じプロダクションということで知り合いらしい。佐渡川の軽口に、ヒノトは彼の腕を小突く。しかし、佐渡川は怪我をしているらしく、本気で痛がっていた。
その後、しばらく山道を登り、ようやく村へと到着した。
「何? 孫悟空なのに如意棒を持っていないだと? 見せてやる。これが性‥‥じゃなかった、斉天大聖様の如意棒だ!」
「ええい! このウサ姫に無礼千万! 皆の者、やっておしまい!」
「うわ! マジ痛い! 死ぬ、死ぬって!」
村へ着いた俺達は、とりあえずドラマを撮影することにした。鈴美は不満をこぼしたが、怪我などをしないうちに終わらせておいたほうがいいという提案にしぶしぶ承諾している。ちなみに、今のシーンは、孫悟空役の佐渡川が、敵妖怪役のヒノトとその配下の妖怪であるヴァールハイト・S(fa3308)と神塚獅狼(fa3765)にボコボコにされる所だ。あ、本気で当たってる。
「てめぇら! 私の弟子になにしやがる!」
三蔵法師役のブリッツ・アスカ(fa2321)が現れ、逆に妖怪達を蹴散らす。今回の話では、孫悟空よりも強い、武闘派三蔵法師が活躍するのが売りらしい。こんなので本当に大丈夫か。
「はいオーケー!」
一通り撮り終わって鈴美のOKがでた。あとは、細かい所が残っているが、それらは後で撮っても大きな問題はないだろう。
「村人から話を聞いてきたが、特に様子のおかしくなったってヤツはいないってよ。しかし、しばらくしたら元に戻るなんて変な話だ」
「こっちもめぼしい情報はなかったわ。確かに昔はそういう事件があったらしいけど、最近はほとんどないってくらいかしら」
須賀と天目は、村人から情報収集していたが、どうやらこれといった話はないようだ。いよいよ無駄足の予感が強まったぞ、鈴美。
「私もたいした話はなかったね。ただ、案内人の人がここ出身なんだって。来るまでそんな話聞かなかったんだけどねぇ」
竜華さんの話では、案内人は突然村を飛び出してしまったらしい。道中、あれだけ話していて、自分のことはほとんど話していなかったようだ。村についてから妙に静かだし、なにか事情があるのだろう。ところで、何故俺の腕にしがみついてるんですか、胸が当たってますよ竜華さん。
「とにかく! 古寺へ行ってみましょ! 何か見つかるかもしれないわ!」
結局、鈴美達は噂の古寺へ向かうことになった。ちなみに俺は、案内人と留守番だ。余計なのがついていくとNWが現れたとき面倒ということらしい。もちろん余計なのというのは俺のことではないぞ。
「ディレクター、あんまり前にでるなよ。何かあっても助けないぞ」
「わかってるわよ、自分の身ぐらい自分で守れるわ!」
「静かに‥‥誰かに気取られると面倒だ」
村からまた少し登った所にある古寺。須賀の忠告に、鈴美は真剣な表情で頷く。いまや、一行は獣人、または半獣人化して周囲を警戒しながら古寺に侵入する。神塚などは、鋭敏になった感覚も使って警戒している。
「人の気配はしないな」
寺といっても小さなお堂があるだけだ。その周囲にも、なにかしらの気配はしない。
「虎穴にいらずんば虎子を得ず。お堂をみてみましょ」
天目の言葉に、全員が頷き、それぞれ自分の武器を構えながらお堂に近づく。お堂の扉は閉まっているが封はされていないようだった。ヴァルがお堂の扉に手をかける。
「開けるぞ‥‥」
ギィと音をたてて、お堂の扉が開く、そして中にあったのは‥‥。
「‥‥何も無い?」
そう、中には何もなかった。空っぽである。訝しがる一同。
「なんだ、結局は無駄足か?」
「‥‥嫌な予感がする。急いで村へ戻ったほうがいい」
肩の力を抜いて呟く須賀。しかし竜華は、なにか嫌な考えが思い浮かんだのか、一同に村への帰還を促す。
「わしは先に戻っておる! 皆も急ぐが良いぞ!」
ヒノトもハッとした様子で、俊敏脚足を使いもと来た道を駆け出す。一同も、それを追いかけるように走り出した。
「ちょっとまて! 話せばわかる! いやわからんか!」
一方その頃、案内人と残っていた俺は、窮地に陥っていた。なんと、案内人は人気の無い所へと俺を誘うと、突然外骨格の化け物になって襲ってきたのだ。言わずもがな、案内人はNWだったのだ。どうやら、全ては嘘、獣人をこの山奥に誘い込む罠だったようだ。そして、まんまと案内人と村に残り一人になった俺に襲い掛かってきたわけだ。
「って、解説してる場合じゃないだろ、俺!」
俺も獣人になって慌てて逃げ出したが、NWのほうが動きはすばやい。戦闘に不慣れな俺では到底太刀打ちできないだろう。
「ぐぁ!!」
NWの鋭い爪が、俺の腕を切り裂く。激痛と共に、鮮血が飛び散った。やばい、殺される!?
「バカモン! 少しは抵抗せんか!」
「!!」
ズシュ! そんな音が聞こえたと思うと、一角獣姿のヒノトの角がNWを突き刺していた。どうやら寺から急いで戻ってきてくれたようだ。ヒノトは、すぐに距離を置くと日傘に仕込んであった刀と警棒を両手に構えて切りかかった。
「はぁ、たぁ!」
ヒノトは、角との三刀流でNWのコアを狙って攻撃するが、硬質化した両腕に阻まれてなかなか当たらない。一人で相手をするのは辛いかもしれない、しかし俺も怪我で動けそうに無い。
「助太刀するぞ!」
突然、空から声がしたと思うと、ヴァルが空中から急降下し、NWの頭部へと拳を叩き付けた。どうやら、彼は空を飛んできたようだ。その一撃にひるむNW。
「AD! 邪魔だ、安全な所に退いていろ!」
木々の隙間を縫うように、神塚と須賀が現れた。二人は、得意の軽業で一気にここまでショートカットしてきたようだ。二人はさっそく戦闘に加わる。それに続いて、アスカも戦闘に加わった。俺は、痛む腕を押さえながら、なんとか距離をとる。
「あら、酷い傷ねぇ。一応消毒しておこうか」
気づくと、天目がそばに寄ってきていた。言いながら取り出したのは、酒瓶。‥‥ちょっとまて、消毒って‥‥。
「ぶぅ!」
「いてぇ! 沁みる!」
予想通り、天目は酒を口に含むと、俺の腕に吹きかけた。麻痺していた痛覚が、再び蘇る。マジ痛いって!
「トドメじゃ!!」
そうこうするうちに、さすがのNWも、五人に攻撃されてはひとたまりも無いようだ。ヒノトの三刀流がNWのコアを捉えると、コアは砕け散った。コアを失ったNWはそれ以上の抵抗もなく倒れ伏す。
「あら、終わっちゃったの?」
そのすぐ後、鈴美と残りのメンバー戻ってきた。鈴美は、NWの残骸を見ると顔を顰めながらも残念そうに呟いた。俺は殺されそうだったんだぞ。
その後、NWの処理をWEAに任せて、俺達は帰路についた。俺の怪我は、ヒノトの治癒命光によって、日本に戻る頃には癒えていた。まったく最悪の旅だったな、NW探しなどもう懲り懲りだ。
「ちゃんと動いてるNWを見れなくて残念だったわ! 次はしっかりやるわよ!」
鈴美、頼むからお前一人で行ってくれ‥‥。