日曜の怪談 セイレーンアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 緑野まりも
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/13〜08/18

●本文

「蒸し暑い‥‥」
 ファイルで自分に風を送りながら、ここ数日の熱波に俺はだらけていた。この部屋にクーラーが無いわけではないが、直属の上司がつけるなと言ってるのだから従わないわけにはいかない。たしか、理由は環境問題がどうのこうのと言っていたな。
「あ〜、暑い。資料室にでも逃げ込むかな」
 資料室、むしろこの部屋以外ならどこでも、クーラーによってギンギンに冷えた空気が俺を出迎えてくれるだろう。とても魅力的な誘惑だ。しかし、まぁ、ここに誰もいないと知ったら、あいつが怒り出すのは確実なのでそれは避けたい。そんなわけで、俺は窓を全開に開けて少しでも涼しくなるようにファイルで風を送っているわけだ。
「暑い! なによこれ! クーラーもつけずによくこんな部屋にいられるわね!」
 バン! そんな音を立ててドアが開くと、ドラマディレクターの鈴美が不機嫌そうな顔を、より一層顰めて入ってきた。クーラーをつけるなと言ったのはお前だろう。
「とにかく、こんな暑いところじゃ仕事も出来ないわ! クーラーつけて、全開で!」
 環境問題はどうした? まぁ、クーラーをつけることに文句があるわけじゃないから、俺は急いでスイッチをオンにして、限界まで設定温度を下げた。音を立てて送られてくる冷たい空気が気持ちいい。
「ったく‥‥、ようやく会議が終わったと思ったら、こんな暑い部屋が待ってるなんて。あんたももう少し気を利かせなさいよね!」
「それはすまなかった。‥‥会議でなんか言われたのか?」
 鈴美は、クーラーの風が良く当たる席、備え付けのソファに身体を沈めながらテーブルをバンバン叩いた。俺は文句も言わず窓を閉めながら、聞き返す。いつも理不尽なヤツだが、ここまで理不尽な事を言うのは、よほど不機嫌な時だけ。そういう時は、下手に刺激せず話を聞いてやるのが一番だ。
「もぅ! あの親父ども、急に難題を押し付けるんだもの! 夏休みドラマだなんて! 下には働かせて、あいつらは優雅なバカンスとか行ってるくせに、理不尽だわ!」
「上司ってのはいつでも理不尽なものさ」
 ちなみに、俺の直属の上司は鈴美、お前だ。
「なんか言った?」
「いや、なんにも」
「はぁ、この暑い中、夏休みもなしにドラマを撮らないとならないなんて‥‥そうだ! ロケ地を涼しいところにすればいいんだわ! 海とか山とか」
「お前にしてはいいアイディアだ」
 俺は元から夏休みなど期待していなかったが、たしかに炎天下のロケは勘弁してほしい。一番なのはクーラーの効いたスタジオの中だけでドラマを撮ることだが、鈴美の性格ではスタジオでジッとしてることはできないだろう。どうせロケをするなら涼しいところのほうが良いに決まっている。
「じゃあ、決まりね。まずは海へ行くわよ! スタッフと俳優の用意は任せたわ」
 こうして、夏休みドラマ製作兼バカンスが決まった。

・夏休み特別企画『日曜の怪談 夏の怪談話SP』
 番組名「日曜の怪談」 毎回怪談などの不思議な話(ホラーとは限らない)を題材にした単発ドラマ(場合によりシリーズ化)を放映する番組。

・俳優募集
 ドラマ「セイレーンの呼ぶ声」を撮るにあたって、作品に出演してくれる俳優を募集します。審査のうえ主人公、またその他の登場人物を担当していただきます。奮ってのご応募をお待ちしております。

・ドラマ基本設定
 海に遊びに来た主人公。しかし、釣り船に乗っているところ、船が転覆し、主人公は海へと投げ出されてしまう。溺れて気を失う主人公であったが、美しい女性に助けられ、気づくと浜辺に打ち上げられていた。
 目を覚ました主人公は、見覚えの無い土地に戸惑った。そこは、ほとんど人の暮らしていない孤島だったのだ。助けてくれたはずの美しい女性もすでに居らず、途方に暮れる。
 しかし、すぐに島に一軒だけある屋敷の主に迎えられる主人公。そこには、主人公と同じように船から投げ出されて、偶然助かった人たちが集まっていた。そして、そこで島に伝わる人魚伝説を聞かされることになる。
 数日間、船が来るまで孤島に閉じ込められることになった主人公達。そんな中、一つの事件が起きる。屋敷の主が突然失踪したのだ。彼の部屋には、紙切れに『セイレーンが呼んでいる』とだけ記されていた。そして、次々と同じように失踪していく人間達。
 逃げ場の無いこの孤島で一体何が起きたのか、主人公を助けた女性は何者だったのか。そして主人公達は無事に島を出ることができるのだろうか‥‥。

・主な登場人物
 主人公(男性) 海へ遊びに来ている最中に、船から投げ出され、美しい女性によって助けられる普通の男性。助けられた記憶はうろ覚えで、女性の顔をよく覚えていない。
 ヒロイン(女性) 主人公を助けた美しい女性。屋敷の住人、または主人公と同じ遭難者の一人に紛れ込んで、主人公の側にいる。実は人魚。
 屋敷の主(男性) 孤島にひっそりと住んでいる男性。裕福らしく、大きな屋敷に数人の使用人と共に暮らしている。島で暮らしているにはなにか理由があるらしいが。
 遭難者(性別不問) 主人公と同じように、転覆事故にあい、孤島に打ち上げられた遭難者達。船の船長、観光者、カップル、犯罪者など様々です。
 その他 屋敷の使用人など

・脚本例
 気まぐれなドラマディレクターのおかげで、脚本が変わる可能性があります。その中での、いくつかの例をあげておきます。

 人食い人魚編 屋敷で聞かされた人魚伝説は、「船を転覆させ、落ちた人を食べてしまう人魚」の話であった。そして事件は起き、失踪した人間達は、何かに食われたような無残な姿で見つかる。しかしそれは、人魚ではなく、屋敷の主が研究していた化物の仕業であった。無数に襲い掛かる化物達から、主人公とヒロインは逃げ出すことができるのか。
 人魚悲恋編 屋敷で聞かされた人魚伝説は、「人魚の結ばれぬ悲しい恋物語」だった。主人公も、その物語のように、ヒロイン以外に恋してしまう。嫉妬に焦がれる人魚の歌声は、次々と島に住まうものを失踪させていく。そして残された主人公とヒロイン、しかし主人公はヒロインを拒絶してしまうのだった。嫉妬に狂う人魚は‥‥。
 人魚恋愛編 屋敷で聞かされた人魚伝説は、「人魚の結ばれぬ悲しい恋物語」だった。しかし、ヒロインと主人公は惹かれていく。かつて、同じように人魚を愛するが、結ばれることの無かった屋敷の主は、二人の恋を見守り。そして、待ち続けたセイレーンの歌声に導かれ海へと消えていくのだった。
 ドジっ子人魚編 孤島の屋敷は、人魚族の住まいだった。屋敷の主とその娘のヒロイン、使用人達は全員人魚。人魚族は、正体がばれないように遭難者達をもてなそうとするが、人間とは常識の違う彼らは色々と騒動を起こしてしまう。

 などなど‥‥。出演者の皆さんは、変更される脚本に合わせて上手く役を演じてください。

●今回の参加者

 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa2102 西園寺 紫(14歳・♀・蝙蝠)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa3175 下心充(22歳・♂・一角獣)
 fa3194 ジョンジョル(26歳・♂・狐)
 fa3195 マッスル(28歳・♂・亀)
 fa4032 滝口まあや(24歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

●日曜の怪談『セイレーンの呼ぶ声』
「ここはいったい‥‥」
 物語は、気を失った男性(下心充(fa3175) )が砂浜に打ち上げられ、目を覚ますところから始まった。
「そうだ、確か船が転覆して‥‥私のような色男がどうしてこんな目に」
 男性は周囲を見渡し、見慣れない風景に顔を顰める。次に思い出したのは、自分が転覆した船から投げ出され、溺れ死にそうになったことであった。どうやら、運良く浜辺に流されて、死なずに済んだらしい。
「気を失う直前、美しい女性に助けられたような気がしたのですが‥‥やはり幸運の女神も私の美形に微笑んだのでしょうか。まるで人魚のような、ああもう一度お目にかかりたい」
 女性の姿を回想するが、どうしても記憶がぼやけてしまい思い出せない。ただ、美しかったことだけは覚えているようで、まるで恋に苦しむように胸を押さえた。
「とにかく、助けを求めないと‥‥」
 しかし男性は、想いを振り切るように首を振ると、誰かに助けを求めるために、よろよろと砂浜を歩き出した。丘の上に立つ大きな洋館へと向かって。

「ようこそ、我がジョンジョル城へ、歓迎するでござるよ」
「は、はぁ‥‥」
 たどり着いた洋館には、怪しげな日本語を話す屋敷の主(ジョンジョル(fa3194) )が、男性を迎えてくれた。
「船が転覆して遭難されたとか。ミーの城でゆっくり休まれるがよかろう」
「城って、どうみても洋風の屋敷‥‥」
「残念なことに、この島にはミー達以外住んでいないでござるよ。電話もなく、一週間後の連絡船が来るまでは、この島から出ることもできないでござる。どのみちしばらくはここに滞在してもらうしかないでござるよ」
「そんな、外と連絡が取れないなんて‥‥」
 屋敷の主の様子に訝しく思った男性だが、島から出る方法が無いことを知ると大きくため息をついた。
「実は、ユーと同じように遭難した女性が、少し前から滞在してるでござるよ」
「なんですって!?」
 結局、屋敷の主の厚意に甘え、屋敷に滞在することになった男性。そこで彼は、自分と同じような境遇の人間がいることを聞かされ驚いた。
「はじめまして、美津です‥‥」
「君はどこかで‥‥」
 男性と同じように遭難して、屋敷に迎えられた女性美津(滝口まあや(fa4032) )。美しい女性に、目を奪われる男性だが、彼女をどこかで見たことがあるような気がするのだった。
「‥‥このままでは呪われる」
 その後、いつも物陰に隠れて男性を観察する美津の妹(西園寺 紫(fa2102) )。
「ご主人様のお言いつけで、貴方様のお世話をさせていただきます。なんなりとお申し付けください」
 男性の世話を担当することになった屋敷のメイドクレア(姫乃 唯(fa1463) )。
「旦那様の厚意で滞在されることを許されているからといって、わたくしは貴方のような素性の知れぬ者を歓迎しておりません」
 絶えず屋敷の主に付き従い、男性に冷たい態度を示すメイドリコリス(シヅル・ナタス(fa2459) )。
「わたくし、話をするのが大好きでして。ええ、もちろん、付き合ってくださるのならいつでも大歓迎でございますよ」
 おしゃべり好きの使用人の男性(マッスル(fa3195) )など、屋敷の住人が紹介されていく。それぞれ、一癖ありそうな人物達であったが、数日の間は穏やかに時間が過ぎていった。その間に、美津と男性は急速に親しくなっていく。

「セイレーン、ようやく揃ったでござるよ。もうすぐ、もうすぐ会いにいけるでござる‥‥」
 ある夜、屋敷の主は自室に飾ってある写真を眺めながら、まるでうわごとの様に呟いた。写真には美しい少女の姿(パイロ・シルヴァン(fa1772) )。しかし、その写真を見つめる主の表情はどこか思いつめたような薄気味悪さを漂わせていた。

「大変ですわ! 旦那様が!!」
 しばらくののち、リコリスが主の置手紙を見つけ、血相を変えて男性の元へやってくる。「セイレーンが呼んでいる」と残し屋敷の主が姿を消してしまったというのだ。
「まさか、貴方が旦那様になにかしたのではないのですか!」
「私は何も‥‥それより、そのセイレーンというものが気になります。もしや私を助けてくれた人魚?」
 疑いの視線を向けるリコリス、しかし男性には見に覚えはなく。それよりも、屋敷の主が残した言葉『セイレーン』に興味を惹かれるのだった。
「セイレーン‥‥そんな、そんなことって‥‥」
 美津は、セイレーンの名を聞くと、酷く狼狽した様子で、何かを振り払うように首を振る。しかし、男性がセイレーンを気にし始めることに、心配する仕草を見せる。
「人魚なんているはずありません。どうか、そんな得体の知れないものを気にするのは止めてください」
 そんな中、屋敷の主がいなくなったことにショックを受けたクレアは、美津の様子を不審に思い、彼女を探り始める。しかし‥‥。
「ご主人様はいったいどこへ‥‥美津様が何か知ってるかと思ったけれど。暗い海‥‥まるで波の音が人魚の歌声のよう‥‥。あれは、ご主人様!?」
 夜の浜辺に屋敷の主を探しにでたクレアは、そのまま帰ってくることはなかった。
「貴方のせいで、私達は呪われた‥‥きっと誰もいなくなるわ‥‥」
 何かを知っているかのように、時折現れて不吉な言葉を残していく、美津の妹。男性が彼女を追いかけようとしても、すぐにどこかへと消えてしまう。
「あの子は人見知りが激しいから‥‥」
「しかし、全ての女性の味方である私から逃げるなんて‥‥」
 美津に聞いても、妹のことはあまり話したがらない。男性は、二人を少しずつ疑い始めるのだった。
「知りたいのならお話しましょう、この島に残る人魚伝説と、我が主人の過去を」
 失踪者の手がかりを探す男性に、使用人の男から語られる、島に残る人食い人魚の伝説と、人魚探しに執着した屋敷の主の過去。
「主人はこの話が真実である証拠を見つけ‥‥」
「きゃぁ!」
 しかし、話の途中で響き渡るリコリスの悲鳴。駆けつけた男性に、リコリスは恐怖に怯えた表情で縋り付く。
「歌声が! あれはセイレーンの歌声ですわ!」
「大丈夫、私が付いていますから。私は全ての女性の味方ですよ」
 錯乱するリコリスを抱きしめて落ち着かせる男性であったが、その様子を美津の妹が憎々しげに見つめていた。
「お姉ちゃんを捨てて、他の女とこの島を出るのね‥‥呪われろ」
 その後しばらくして、使用人の男が消えていたことに気づく男性。次々と消えていく住人の姿に、男性は恐怖を覚えるのだった。
「そうだ、屋敷の主の部屋になにか手がかりが」
 リコリスの協力で、屋敷の主の部屋を探す男性と美津。そして、見つけた手記と女性の写真。手記には、セイレーンが生贄を欲していることと、男性がその生贄にちょうどいいといった内容が書かれていた。
「これはセイレーン‥‥! そんな、まさか!」
「この写真の少女を知っているんですか?」
 写真を見て驚きの声をあげる美津。男性はそのことを問い詰めようとするが、美津は口をつぐんでしまう。不審に思う男性だが、そこに再びリコリスの悲鳴が。男性は急いで駆けつけるがすでに遅く、窓が開け放たれリコリスの姿は消えていた。男性は追いかけようと、窓から外に出ようとするが。
「いけません! 貴方までセイレーンの生贄になってしまいます!」
「美津、君は何を隠しているんですか! 私はもう信用できない!」
「!!」
 屋敷に残るよう言う美津だったが、男性は彼女の静止を振り切って外へと出る。男性の言葉に悲しげな表情で見送る美津。

「愚かな人間よ、さぁ私の元においで‥‥」
 外へとでた男性を導くように、まるで歌声のようなさざ波が聞こえ、浜辺へと向かう男性。そして、月明かりに照らされた岩場に、人魚セイレーンが現れる。
「お前が新しい生贄だね。早く私の元においで‥‥」
 美しい少女の姿のセイレーンだが、その笑みは邪悪に歪んでいた。いつのまにか男性は、身体の自由を失い、歌声に導かれるように海へと向かって歩き出す。男性が、このままでは溺れ死んでしまうと思ったその時。
「その人を連れて行かせはしない!」
「お前は! まだ生きていたのか、美津!」
 もう一つの美しい歌声と共に、美津が現れる。その姿は、セイレーンと同じ人魚の姿。美津は身体の自由を取り戻した男性に、悲しげに微笑んだ。
「これが私の正体です。少しでも貴方の側にいたくて‥‥隠していてごめんなさい」
「美津! また私の邪魔をするんだね!」
「貴女の好きにはさせない!」
「美津!!」
 憎々しげに叫ぶセイレーン、そして強い意志を持って睨みつける美津。男性の目の前で、二人の人魚がぶつかり合ったとき、大きな光と衝撃が起きて男性は気を失ってしまう。

「いったいなにが‥‥」
 朝、男性が気が付いた時には、すでに何事もなかったように浜辺は穏やかだった。その後、連絡船に乗って島から出ることができた男性は、連絡船の船長に「この島には、もう何十年も前から人は住んでいない」と聞かされる。驚きと、恐怖の表情で船から島を見つめる男性‥‥。
「貴方もお姉ちゃんの元に行くの‥‥セイレーンお姉ちゃんの!」
「な!?」
 突然、声が聞こえたと思うと、船から投げ出される男性。その視線には笑みを浮かべる、美津の、いやセイレーンの妹の姿があったのだった。