森に棲む凶獣アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 緑野まりも
芸能 1Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 やや難
報酬 7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/08〜10/11

●本文

「いま熊被害の多発している森へと来ています。今月だけでも、三件の熊による被害が出ており、自治体はなるべく森には近づかないようにと付近に注意を促しています」
 マイクを持った女性レポーターは、山道を歩きながら、最近起きている森の異変について説明する。
「ここ数年は、このあたりも紅葉の名所として観光客が増えていたところであったため。この熊被害が、地域の経済にも影響するのではないかと懸念されています」
「はいカット、けど本当に森に入って大丈夫なんだろうな?」
「なにビビッてるのよ。そうそう熊なんて遭うわけないでしょ」
 カメラマンの不安げな声に、レポーターの女性は鼻で笑って肩をすくめる。
「むしろ、凶暴な熊をカメラに撮れれば、スクープよスクープ! こんな地方の特班員からオサラバできるかもしれないじゃない!」
「おいおい、本気で言ってるのか?」
「あたりまえでしょ。だいたい、私達はまがりなりにも獣人なんだから、いざとなれば熊ぐらいどうってことないわよ」
「そりゃ、まぁ‥‥」
 レポーターの言葉に同意しながらも、カメラマンの男性は曖昧な表情を浮かべる。森は非常に静かで、動物の気配がしない。それはあまりに不自然で、不安を掻きたてられるのだ。
「なんかおかしいよ。まるで危険を察知したかのように、動物達の気配が全然しない」
「なにそんなに怖がってるのよ、みっともない。ほら、もう少し撮っておくわよ」
 レポーターはカメラマンの不安など意に介せず、撮影を促して再びマイクを握る。
「いまは人の姿もほとんどなく、森はとても静かです。何故熊は突然人を襲うようになったのか、いったいこの森で何が起きているのでしょうか‥‥。今後の調査がきた、た、た、た‥‥」
 饒舌に話していたレポーターが、突然言葉を詰まらせて、驚いたような表情で目を見開いた。カメラマンはその様子に不審に思い、顔を顰めながらつい口に出す。
「ん、どうかした?」
「く、く、く‥‥」
 驚きはみるみる恐怖に変わり、口をあんぐりと開けたレポーターは言葉にならない声を繰り返しながら、震える指をカメラに向かって指差す。
「なんだ、本当に熊でもでたのか‥‥え?」
 カメラマンはカメラを持ったままで振り返る。そのレンズの先には黒い塊のような何かが映り、こちらへと向かって走ってくる。それは、たしかに熊の姿に見えるのだが‥‥。猛烈なスピードで向かってくるそれは、熊の面影を残しながらも、『肉体が鎧の様な甲殻に覆われていた』。
「く、く、くまのナイト‥‥ウォーカー」
 その異様な姿に一瞬判断が遅れた。カメラマンは、向かってくる勢いのまま突っ込んでくるNWに轢かれてしまう。カメラに映った画面は、衝撃に揺れ、空中に投げ出され、地面に衝突しブラックアウトする。
「ひ、いや、たすけ‥‥!」
 その後、女性レポーターの一瞬の悲鳴が録音されていた。おそらくは、パニックになり獣人に戻って逃げることもできなかったのだろう。

「と、以上のようなことがあったもようです。局の者が、行方不明になった二人を不審に思い。二人が向かったという森に行ったところ、壊れたカメラを発見。これに残されたテープに記録されていました。事件から数日たっても戻らないことから、二人の生存は絶望的でしょう」
 地方テレビ局の一室に呼ばれた獣人達に、女性獣人が事件の報告をする。
「事件発覚後、問題の森にはすでに誰も入れないよう、地元警察の協力で封鎖しました。我々は速やかに、彼らを襲った熊のNWを駆除しなくてはなりません。皆さんの健闘に期待します」
 森から熊が抜け出した形跡は無く、また逃亡可能な情報媒体がある可能性も低いため、NWはいまだ森に身を潜めているだろう。集められた獣人達は、森に向かい危険な熊のNWを退治するため準備を開始するのだった。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0443 鳥羽京一郎(27歳・♂・狼)
 fa1886 ディンゴ・ドラッヘン(40歳・♂・竜)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

「まずは、レポーターとカメラマンが襲われた辺りを探索してみましょう」
 山につくと、森里時雨(fa2002)の言葉に、一同はとりあえずカメラの見つかった場所を探索することにした。
「あるーひ。森の中。くまさん『ピー』出会った♪」
「ごきげんですね」
「秋山の三大風物詩‥‥紅葉狩り・松茸狩り・熊狩りに今年初参加だからなぁ」
「‥‥まぁ、松茸ならここに‥‥」
「エノキですか?」
「エノキって言うなぁ!?」
 山道を歩きながら、軽口を口にする佐渡川ススム(fa3134)に、時雨が笑みを浮かべる。自分の股間辺りを指差すススムは、時雨にネタを返されると、大げさに泣くマネをした。
「ほら、下ネタやってないで、ちゃんとNWの痕跡を探しなよ!」
「ぐぁ‥‥、ヤバイ、マジ死ぬかも知れないっす‥‥」
 そんな二人を、ドンと力いっぱい(本人的には手加減して)背中を押すMAKOTO(fa0295)。その予想以上の衝撃に、ススムは苦悶の表情を浮かべた。実は彼は、山道を歩くのも辛い重傷を負っていたりする。大丈夫なのだろうか本当に。
 その後、一行は事件が起きたであろう現場に到着。大きな熊の足跡と、血痕、そして何かを引きずっていったような跡を発見する。それは、山道から外れ、森の奥へと消えてしまっていた。
「とりあえず罠を仕掛けてみたが‥‥こんなもので熊、それもNWを捕らえられはしないだろうな」
 時雨の提案で、犬神 一子(fa4044)がNWが出そうな場所にいくつかの獣用の罠を仕掛ける。しかし、すでにNWとなってしまった熊に、どれほどの効果があるのか不安である。
 しばらくの間、森を探索した一行。しかし、その日はNWの姿を確認することはできなかった。やはり広い森の中、そうやすやすと発見することはできないようだ。

 次の日。前日に探索とサーチペンデュラムで、NWが出そうなところに当たりを付けた一行は、少数の囮を用意してNWを誘き寄せることにした。
「囮を用いて誘い出し、包囲・殲滅。‥‥奇襲の基本ですな」
「現れたら、できる限り迎撃地点に誘導するようお願いします」
「わかってる。前にも戦ったことあるし、なんとかなるかな」
 ディンゴ・ドラッヘン(fa1886)と時雨の言葉に、囮役の因幡 眠兎(fa4300)が頷く。
「それじゃ、俺と因幡が囮として先行するから、みんなは少し離れたところで俺の合図を待ってて」
「おい裕貴、何故わざわざ危険な囮役を自分から買って出るんだ」
「心配してくれるんだ。大丈夫だよ、前にライブハウスの仲間と登山にも行ったから」
 囮役を買って出た篠田裕貴(fa0441)に、鳥羽京一郎(fa0443)が心配そうに声をかける。それに嬉しそうに笑みを浮かべた裕貴は、大丈夫と頷きかけた。
「‥‥ほう、ライブハウス仲間と登山、だと? 俺が居ない間に随分と他のヤツと遊んでいたようだな、裕貴?」
「あらら、心配の次は嫉妬? 忙しい人だねぇ、あはは」
「ふん、因幡には関係ないことだ」
 京一郎の様子に、面白そうに笑う眠兎。それに対し、京一郎はそっけない態度で返すのだった。

「さっきのこと、気を悪くしないでね。嫌ってるわけじゃなくて、俺以外の人には、いつもああなんだよ」
「クスン、私傷ついちゃった。あんなふうに言わなくてもいいと思う‥‥」
「ご、ごめん‥‥」
「クスクス、嘘だよ。ぜんぜん気にしてないから!」
 囮として森を歩く裕貴と眠兎。京一郎の態度をフォローする裕貴に、眠兎は嘘泣きしてからかったりしながら、森を探索していった。二人は半獣化しながら、それぞれ鋭敏視覚と鋭敏聴覚で周囲を警戒して、森に異変が無いか確かめる。そうして、しばらく歩いていると‥‥。
「‥‥因幡」
「うん‥‥動物の気配が無くなってる」
 裕貴が注意を促すように声をかけると、眠兎はわかっているとばかりに頷く。いつのまにか周囲からは動物の気配が消え、森は静寂に包まれていた。二人は、鋭敏化した感覚に意識を集中し、より一層の警戒をする。
「いる!」
「うん、間違いなく熊のNWだ!」
 先に気づいたのは、眠兎だった。鋭敏化したその聴覚に、大きなものが森の草木を分け入ってくる音を感知する。眠兎が音のするほうを指差すと、裕貴もその姿を確認した。ずんぐりとした人よりも数倍大きな体型のシルエット、四足歩行でこちらへと向かってくるそれは熊と呼ばれる生物の物だが、その身体は毛皮ではなく鎧のような甲殻に包まれている。
「よし、京一郎達に連絡を取りながら、予定の場所に誘導しよう」
「やば、こちらが気づいたことに、気づかれたみたい!」
 裕貴が知友心話で、ススムと京一郎に連絡を取ろうとする。しかしNWの方も、気づかれたことを察知したのか、裕貴達に向かって走り出した。
「とにかく逃げるよ!」
 凄い勢いで向かってくるNWに、裕貴達も走って逃げ出した。しかし、熊というものは、最高で時速60キロもの速度で走れるという。それでなくても慣れない山の中、すぐに追いつかれるのは確実だ。
「逃げるのは無理! だったらここで‥‥!」
 逃げることを諦めた眠兎は、背中に背負っていた青龍戟を手に構えた。ドドド! と音を立てて迫り来る巨体に対し、キッと強い視線を向ける。しかし‥‥。
「木が邪魔で振りぬけない!?」
「危ない!!」
「きゃあ!!」
 ガキーン!! 金属が硬い物に弾かれる音が、森に響き渡り。続けて、眠兎の悲鳴が上がる‥‥。

「いまのは悲鳴か!?」
「急ぐぞ! こっちだ!!」
 裕貴から連絡を受けた京一郎達。すぐに、彼らの下に向かおうとするが、途中悲鳴が聞こえる。一子が、鋭敏聴覚で悲鳴の聞こえた位置を把握すると、俊敏脚足で走り出す。それを追って、一同も急ごうとするが‥‥。
「ぐ‥‥悪い、先に行ってくれ」
 途中、ススムは怪我のために動きが鈍り、皆から遅れてしまう。
「どうおりゃぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
「うおおおおぉぉーーーーー!!」
 いち早く駆けつけたのは一子と、時雨。武器を弾き飛ばされた眠兎を抱き庇って、かろうじて体当たりを避けた裕貴達に、再び襲い掛かろうとしたNWに向かって、二人は突っ込んでいく。そのままの勢いで一子が刀をNWに突き刺す。しかし、NWの硬い甲殻に阻まれ、決定的なダメージを与えることはできない。時雨も、強化した脚力でキックをするが、やはり大きなダメージにはならなかったようだ。
「く、他の武器は置いてきちまったっス!」
「とにかく、動きさえ止めちまえば後の連中がなんとかするだろ!」
 時雨のSMGも、現場から少し離れた戦闘予定地に置いてきてしまっている。しかたなく二人は、NWの動きを抑制するように、周囲から纏わり付く様に攻撃を繰り返した。
「二人とも、少し離れて!! 一粒で300mならず基本射程距離で30m〜〜!!」
 掛け声と共に、ブォン! ヒュン! と風を切る音。マコトが、穂先が十字の形をした黒い長槍をNWに向かって投げつけたのだ。金剛力増によって、強化された筋力で放たれた槍は、NWの胴体に深く突き刺さる。さすがの熊のNWも、これにはダメージを受けたようである。NWは一層暴れだし、森の木々を薙ぎ倒していく。
「ディンゴ・ドラッヘン、参る!」
 ギュイーン! と、モーターで何かが回転する音がしたと思うと、ディンゴが飛び出してきた。その左手には、回転するドリルが装着されており、勢い良く回転するそれをNWに向かって突きこむ。ドリルと甲殻が、激しくぶつかり合う音が響き渡り、火花と甲殻の破片が飛び散っていく。
「裕貴、大丈夫か?」
「う、うん、なんとか‥‥ね。それより因幡は?」
 続いて到着した京一郎は、裕貴に駆け寄り、無事を確かめる。裕貴は、京一郎に頷きながら、眠兎の安否を気遣った。
「だ、だいじょうぶだから、そろそろ離してね」
 その眠兎も、裕貴の腕の中でもぞもぞと動きながら、無事を伝える。どうやら、二人ともかすり傷程度で済んだようだ。
「ちっ、あの調子じゃ、こんな武器では効き目が薄いか。青月円斬‥‥も、月の光が無ければ使えん」
 京一郎は、右手に持った短剣を見て舌打ちし、空を見上げるが生い茂る木々で月の光どころか、太陽の光さえほとんど届かない。そうこうするうちに、近接戦闘しているディンゴがNWの両腕に捕まり、身体を締め付けられる。
「ヤツのコアは、背中側の首の付け根あたりだよ!」
「‥‥できればやりたくはないが、しかたない!!」
 二本足で立ち、ディンゴを締め付けるNW。裕貴の指示に、嫌そうに呟きながら、京一郎がNWの背後に駆け寄る。そして、首元にあるNWのコアめがけて、その鋭利な牙を突きたてた。そのまま強靭な顎で、コアを胴体から引き千切る。
「‥‥やったか!?」
 一同の見守る中、熊のNWは力尽きたようにその身体を停止させ、地面に倒れ伏した。コアを噛み砕く京一郎、後に残ったのは、死後数日たっている熊の死骸であった。
「無事か、ディンゴ?」
「うむ、この鎧のおかげで助かった。成程、これは良き品ですな」
 NWに締め付けられていたディンゴも、着ていた鎧のおかげで大事に至らずに済んだようだ。その後、数日かけて後始末を済ませた一行は、なんとか無事に依頼を達成できた。
「お〜い、途中でこれを見つけた。たぶん、レポーターの遺品っすね」
 最後に、ススムが見つけてきたマイクに、一同は哀悼の意を表し。山を降りるのだった。