ロック野郎ぜ 仕事始めアジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
緑野まりも
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
10.2万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
01/22〜01/28
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●本文
「足花さん、あけおめ〜」
「お前なぁ、一応俺は年長者で、しかも所属のプロダクションの社長なんだぞ。すこしは礼儀ってものを感じられる挨拶をしろ。まったく‥‥ふぅ、あけましておめでとう」
1月5日、足花プロダクションでは、社長の足花雄三に数少ない所属タレントからの新年の挨拶が行われた。その挨拶に苦笑と説教を零した足花は、そのタレントNASUKAに小さく微笑んで挨拶を返した。
「正月はどうしてた?」
「ん、実家のほうに帰ってたよ。母さんがどうしても戻って来いって言ってたからさ」
「そうか、親孝行はしっかりしてきたんだろうな」
「よしてくれよ、俺はべつに‥‥ただ、ゴロゴロしてただけさ」
世話話に面倒臭そうに答えるNASUKA。赤茶けたショートの髪のボーイッシュな少女で、高くそれでいて力強い声を持った、ロックバンド『Wheel of Fortune』のメインボーカル。マイナーの一時期は男性ボーカリストとして活躍していたが、メジャーデビューの際にカミングアウト、女性ボーカリストとして活動している。
「さて、そろそろ本題に入るが。ここしばらくは個人活動が中心になっていた『Wheel of Fortune』だが、そろそろ新曲を出してもらおうと思う」
「マジか!」
「ああ、ちょうどアニメ主題歌の仕事が依頼されたところだし。今年の仕事始めとして、新曲作成とそのプロモーションビデオの撮影を行う」
しばらく世話話をした足花は、表情を真剣な物に変えてNASUKAを見つめた。そして、新しい仕事の話をするとニヤリと笑みを浮かべる。それに対し、NASUKAは飛び上がらんばかりに嬉しそうに叫び、その目を輝かせた。
「でだ、今回は曲の内容についてこちらに全て一任されたわけだが‥‥。やはり、季節感に合わせた曲がいいと思う。でだ、『冬』をイメージした曲を作ってもらおうと思う。プロモ作成のロケ地も、北海道を予定してる」
「げ、なんかメッチャ寒そうだな、おい」
「ま、お前さんのロックで寒い冬をホットにするもよし。ブリザードのような凍える寒さを表現するもよし。メンバーのやつらと相談して、いい曲を作ってくれ‥‥ふぅ」
足花は、一通り仕事の話をすると、タバコに火をつけて、軽く紫煙を吐き出した。
「プロモの演出やその他は全部任せる。その後のスケジュールは、ここにあるとおりだ」
「うわ、丸投げかよ」
「それだけ、お前さんらを信じてるってことにしとけ。できるだけお前らの希望通りの手配はしてやるから。もちろん、予算はあまりないけどな」
「ちぇっ、貧乏プロダクションの痛いところだよな」
「よくわかってらっしゃる」
スケジュール表を手渡されたNASUKAは、少し呆れたように足花を見つめる。それを気にした様子もなく、足花はゆっくりとタバコをふかしていた。
「でも、ようやく新曲が出せるのか‥‥よし、やるぞ!」
「‥‥‥」
もう一度スケジュール表を見て、嬉しそうに気合を入れるNASUKA。そんな彼女を、足花は優しい瞳で見つめるのだった。
・依頼内容
ロックバンド『Wheel of Fortune』の新曲作成、及びプロモーションビデオの撮影
バンドメンバー、助っ人、プロモ撮影の(メイン)スタッフ募集
・備考
新曲は『冬』をイメージした内容。アニメの主題歌のため、バラード調よりもテンポの良いロックが望ましい。
ロボットアニメ『神霊装甲ヴァルキュリア』の新主題歌に採用予定。この作品については、現在放映中のアニメを参照。
プロモーションビデオの撮影ロケ地は、北海道を予定。撮影演出に使われる費用の予算は、宿泊費その他諸経費を除いて数十万程度。ちなみに曲の収録は東京のスタジオで行われる。
・今後のスケジュール
1月17日(公開) 新曲、プロモ作成
2月7日 (公開) テレビ番組『歌え! ロック天国』に出演、新曲紹介
2月28日(公開) ライブイベント『Breath of music 2006冬』にゲスト参加
3月14日(公開) 未定
●リプレイ本文
「来たぜ北海道!」
NASUKAがボーカルを務めるロックバンド『Wheel of Fortune』のメンバーは、新曲のPVのために北海道へと訪れていた。
「わ、雪だ、すっげー、空も広いぜっ」
空港を出ると、真っ白な雪に覆われている風景に、クレイスこと水威 礼久(fa3398)がNASUKAと一緒に大きな歓声をあげた。
「おいお前ら、こんなところで騒ぐな。ったく、やれやれ、またお守りか。だが、最後まで面倒を見るのがけじめだな」
「まぁ、兄さん、いいじゃないですか。レコーディングも上手くいったし、着いたその日ぐらい、少し羽目を外しても」
はしゃぐ二人の様子に、顔を顰めてため息をつく陸 琢磨(fa0760)。その弟、陸 和磨(fa0453)が兄をなだめるように声をかける。一行は、東京での新曲のレコーディングを終え、すぐにこの地へとやってきていた。歌が無事に完成したことに、みな少なからず緊張が解け、穏やかな気持ちになっている。
「二人とも元気ッスねぇ。俺っち沖縄生まれだから寒いの苦手なんスよー。コートプリーズ!」
「コートぐらい自分で用意しろ‥‥」
外に出て、すぐに身体を抱えてガクガク震える旺天(fa0336)に、ハーフコートを着込んでいる椚住要(fa1634)が淡々とした口調で言葉を返す。
「よし! とりあえずは姉貴から聞いたスノーブランドパーラーの特大パフェに二条市場、あと体験型が人気の動物園、ジンギスカンやスープカレー、白いティラミスも押さえておかなきゃな、時間があれば知床にも行って流氷見てみたいぜ」
「おう! ジンギスカン美味そ〜!」
「いいッスね! 折角北海道来たんだから美味いもん食いてーッス! ウニとかホタテとかイクラとかカニとか!」
ガイドブックを持った礼久の言葉に、NASUKAと旺天が楽しそうに反応する。そして、北海道の美味しい物を食いつくそうなどと盛り上がっていた。
「いい加減にしろお前達。俺達が何しにここに来たかちゃんとわかってるんだろうな?」
「わ、わかってるって‥‥俺達は新曲のPVの撮影の仕事でここに来てるって。で、でも、その前にちょっと観光気分を‥‥」
「‥‥‥」
「やっぱ琢磨って怖ぇ〜‥‥」
はしゃぐメンバーに、琢磨が一喝。そのギロリと厳しい視線に、礼久が少し怯えた声を漏らした。そんな彼らの前に、一台のバンが止まる。
「お待たせしました、レンタカー借りてきたので皆さん乗ってください」
「ライ、ご苦労さま! んじゃ、さっさと撮影終えちゃって、美味い物食いにいこうぜ!」
運転席には、狭霧 雷(fa0510)が乗っており。メンバーに搭乗を促す。彼は、レコーディングの合間に、北海道の移動手段や宿泊場所、ロケ地などの確認を行っていた。また、今回の撮影の予算管理なども請け負っている。NASUKAは、これ以上の小言が出ないうちにと、さっさと車に乗り込む。
「それじゃとりあえず、ロケ地のほうへ向かいましょう。ちょっと山の方なので移動に時間かかりますが、我慢してください」
全員が車に乗り込むと、雷が運転する車は、雪の道を軽快に走り出すのだった。
数時間後、人気の薄いスキー場へとやってきた一同は、事前に雇っていた撮影スタッフと合流した。運転の疲れもなんのその、雷はスタッフと打ち合わせを行い、撮影の準備を進める。
「では、準備も出来ましたし、そろそろ撮影を開始しましょう」
深夜、完全にスキー客が途絶えた頃。雷の指示で、ゲレンデに楽器類や撮影器具が持ち込まれ、撮影準備が行われた。
「ひぃ〜! さ、寒いッス! 雪が舞ってるじゃないッスか!」
「我慢しろ、雪が舞ってるほうが雰囲気がでるだろう」
ライトに照らされたゲレンデでは、粉雪が舞っている。吹雪というほどではないが、しばらく立っていれば、身体に雪が積もるほどだ。寒がりの旺天は、ガクガクと身体を震わせ、情けない声をあげている。しかし、要はあまり気にした様子も無く、その雰囲気に満足そうだ。
「予算の関係上、あまり長い時間、ここを借りることもできませんので、素早く確実に終わらせてしまいましょう。さすがに寒いですしね」
和磨の意見で、撮影器具はできるだけ良い物を、その分ロケ地に使えるお金は少ない。それに慣れない極寒の地で、長時間を外で過ごすのは旺天でなくても辛かった。雷のいつもの笑顔も、寒さで凍りつきそうで。一同は無言で頷き、所定の立ち位置についた。
「やべぇ、手がかじかんで、楽器が上手く弾けないかも」
「はは、マジで『震える指先かじかむ手に息を吹き掛け』‥‥だな」
冷たくなった手に白い息を吹きかける礼久の様子に、NASUKAが歌詞の一文をとって笑う。しかし、やはり二人ともちょっと声が震えていた。
「この程度の寒さ、心頭滅却すればたいしたことは無い」
「ははは‥‥兄さん、さすがにそれはいくらなんでも‥‥難しいんじゃないかな」
「この根性無しが」
琢磨が、まるで寒さを感じていないように、いつもの冷静な声で皆に言い聞かせると、和磨は少し震えながら苦笑を浮かべる。そんな弟の様子に、琢磨は顔を顰めるのだった。
そんなこんなで、凍える雪の中、PV用に演奏を撮影した一行だったが。実際演奏を始めてみれば、集中力のおかげかなんとかいつもどおりの姿を見せることができた。もちろん撮影終了後は、ほぼ全員がガチガチに身体を震わせていたことは言うまでも無い。
次の日は、氷の張った湖、雪原などいくつかの場所で撮影を行い。一通り必要な撮影を終了した。
「よし、終わったー!」
「はぁ、寒いところでの撮影はもう勘弁ッス」
「‥‥この壮大な景色は、感性を刺激して嫌いじゃなかったがな」
終わったことを喜ぶNASUKA、限界とばかりに暖房の前で身体を抱える旺天、煙草を燻らせてまだ景色を眺めている要が、三者三様の声をあげる。
「よし、残り一日は‥‥」
「へっへー、見所はしっかりチェック済みだぜっ」
北海道での日程はあと一日残っている。キラーンと目を光らせるNASUKAに、礼久がグッと親指を立てて応える。
「では、予算も多少残っていることですし、最終日はみんなで食べ歩きでも」
「ライもわかってるぅ!」
「新鮮な海の幸が食いてぇッス! 朝市なんてどうッスか!」
「寒いのが苦手なのに、朝市なんて大丈夫なのか‥‥それはともかく、美味い物を食うのはいいな‥‥あと美味い酒」
「ええ、俺も、皆さんがいいならかまわないですよ。もちろん、NASUKAさんはアルコールはダメですが」
「ちぇっ! まぁいいっか、経費で美味い物食えるなら。琢磨もそれでいいよな?」
雷の言葉に、皆が歓声をあげる。そんな中、一人顔を顰める琢磨。
「撮影も終わったから食べ歩きするのはかまわんが‥‥PV撮影の予算を使うのは感心せんな。それくらい自分で出したらどうだ?」
「当人の分は自費で出してくれるとのことで助かります。その分余裕が出来ますし」
「む‥‥もちろんそのつもりだが、釈然としないな」
「うわ、ライなにげに容赦ねぇ‥‥」
琢磨の苦言を、笑顔で受け流す雷。その様子に、ちょっとだけ引いた一同だった。ちなみに最終的には、食べ歩き風景もPVに使用するということで、予算の使用を認めさせたとか。
●完成したPV
深夜の雪原の中、白い衣装を纏った『Wheel of Fortune』のメンバーが映し出され、雪舞う風音と共に、静かに演奏が始まる。そして、広大な雪原で、一人歩く青年の姿(和磨)のイメージ映像が挿入される。
「一寸先すら見えない大吹雪 もうどれくらい歩いてきたのか 全てのものが動きを止めた この凍てつく世界を」
雪舞う雪原を、青年が歩いていく。要と雷のギターの伴奏と共に低く静かな琢磨の歌声。
「懐かしい暖かさにすがろうとしても 伸ばした腕すらかき消す吹雪に そんな物があったのか それすらもう曖昧で」
力なく手を伸ばす青年は、今にも倒れそうで。礼久と和磨のベースの低音、特に和磨のアイスブリザード(ギター)が凍える吹雪を連想させ、NASUKAの歌声が高くしかしどこか消え入りそうに響く。
「伝わらない想い 震える指先 かじかむ手に息を吹き掛け」
諦めたように手を戻し、震えるそれに息を吐きかける。しかし、白い息は風に吹き消された。そしてやがて、力尽きたように雪に倒れこむ青年。メロディも一瞬止まり‥‥。
「僕達が信じた明日に 尽きることない声が聞こえる!」
「「「「AWAKE!」」」」
「いかなる凍えに晒されようと 失う事なかれ その熱き魂!」
「「「「AWAKE!」」」」
急激な旺天のドラムアクションと共に、一気にテンションが上がり、曲調も激しいものに。NASUKAの声も、力強いものに変わり、雷・礼久・要・和磨が声を合わせて叫ぶ。青年は再び渾身の力を込めて立ち上がる。
「「吹き荒む風に向かう VIOLENTLY! 身体を掻き乱されても VIOLENTLY!」」
曲はどんどんヒートアップしていき、NASUKAと琢磨の声が合わさり熱いシャウトを生んでいく。
「「喩えどんなしがらみに囚われても 取り巻く全てを吹き飛ばして!」」
再び歩き出す青年は、決意の表情と力強い足取りに変わり。必死に雪原を歩いていく。
「「掴み取るのさ 一欠けらのSNOW CRYSTAL! 記憶の中のSNOW CRYSTAL!」」
青年の目に、夜明けの光が飛び込み、もう一度その光に手を伸ばす。すると、その手には雪の結晶の確かな手応えがあり‥‥。
「「翼がある限り目指す場所に向かっていつまででも飛び続けられるさ!!」」
雪の結晶を胸に抱いた青年の背中には、氷で出来た翼。そして、青年は翼を羽ばたかせて空へと飛び立っていく。大空を舞うような軽快な要のギターソロが曲のラストを締めるのだった。
●おまけ映像
「スッゲー! 見ろよ、あのズラッと並んだカニ! でっけぇ!」
「ホッケも今が旬らしいぜ、土産に買って帰るか?」
「あそこで大盛りのイクラとウニの海鮮丼やってるみたいッスよ! 食いてぇ!」
「イカか‥‥酒のつまみに良さそうだな」
朝市に出かけた一行。おおいに賑わっている市場で、はしゃぎまわるNASUKA達。
「お前ら、騒ぐのもほどほどにしておけよ」
「文句を言いながらも、ちゃんと付いてくるんだね兄さん」
「俺はお目付け役として、あいつらを見張ってるんだ。また下らん問題を起こさないと良いが‥‥」
その後ろを不機嫌そうに付いてくる琢磨に、和磨が笑みを浮かべる。ちなみに、雷は撮影担当だ。
その後、動物園、お昼にラーメン、午後は商店街でお土産を購入、夜はジンギスカンなどを楽しんで。一日中観光を楽しんだ後、夜の最終便で北海道を後にするのだった。
「楽しかったな北海道。またこようぜ!」