それぞれのバレンタインアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 緑野まりも
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 02/14〜02/18

●本文

 朝、自宅から出て、大学へと向かう。今年は暖冬暖冬と言うけれど、やはり冬は寒いもので、二月に入ったばかりの今日も、吐く息は白くコートは手放せない。雪が降らないだけマシといったところだろうか。徒歩で20分、キャンパスに入って10分、これが毎日通う道のりだ。キャンパスに入る頃には、周囲にも私と同じ大学生達が多く見られる。この約一年で、私も随分とここに慣れてきたと思う。まぁ、慣れるということは、この大学生活が毎日変化の少ない、単調なものだと言うことなわけだけど‥‥。

 私こと白滝蘭(シロタキ ラン)は、去年から都内の大学の経済学部に通う一年で、趣味はウィンドウショッピング、特技は子供の頃からやってた水泳、勉強や運動はそこそこの、まぁ普通の女の子なわけです。性格は、これも一般的な普通だと思うんだけど。友達から見ると、私は勝気でしかも負けず嫌いで、男に対してもズバズバ物を言うけど、おせっかい焼き‥‥らしい。別にそんなつもりないんだけど、男だからとか女だからとか分けて物事を考えるのは好きじゃないかな。呼び名はだいたい「ラン」、親しい子だと「蘭太郎」とか「蘭乃進」とか、男の子っぽい呼び方されるときも‥‥ちなみに「シラタキ」って言ったら怒るから。
 そんなわけで、私は慣れて来た大学生活を、毎日平和にまぁなんとなく退屈に過ごしているわけです。しかし、そんな私の周囲では、最近妙に騒がしくなってきた。理由は、なんとなくわかるけど、つまり二月のビック(?)イベント「バレンタイン」ってやつです。女の子達はこれを機会に告白とかして、男と仲良くなりたいとか考えているわけで、友達とかもその手の話で盛り上がったりしてるんだよね。誰がカッコいいとか、誰と誰がくっつきそうとか、そういう感じ。
 へ、私? 私はそういうの興味ないない。いままでだって、別に男が欲しいとか思ったこと無いし。まぁ、ちょっとだけ恋愛に憧れた時期はあったけど‥‥。それはともかく、いまのところ男とそういう関係になりたいとか思ってないから、バレンタインなんて関係ない‥‥って思ってたんだけど。
 事の発端は二月一日。私はいつも通り、講義を受けてサークルに顔を出して、友達と一緒に大学を出ようとした時。たまたま、偶然、神の悪戯で、「自称」私のライバルっていう女と鉢合わせしてしまった。彼女は、まぁ中学校からの「腐れ縁」ってやつで、なぜか高校、大学と同じ学校に通うことになってしまっている。そんな彼女が、何を思ったか勝負を吹っかけてきた。その勝負とは、詳しい話は割愛するけど、彼女曰く、大学生にもなって彼氏もいない寂しい〜毎日を送るのは女としてどうか(自分は彼氏ぐらいいつでも出来ると付け足してたけど)というわけで、バレンタインの日に告白して彼氏が出来た方が勝ち(そもそもいつでも出来るなら勝負にならないと思うし、勝ち負けとかあるの? と思うけど)というものだった。
 まぁ、結局、売り言葉に買い言葉ってやつで、勝負を受けてしまったわけです。こんなことで彼氏を探すのはどうかと思うんだけど、受けてしまった以上負けるのも嫌なので、2月14日、約二週間でなんとか彼氏にしたい男を見つけることになってしまったわけだ。まぁ、心当たりというか、気になる男がいないわけでもないし‥‥。

・バレンタイン特別ドラマ「恋はチョコの融ける速度で」
 バレンタイン企画として、特別ドラマ「恋はチョコの融ける速度で」を製作します。それにつきまして、出演する俳優を募集しております。下記の要綱に従って、振るっての応募をお待ちしております。

・作品概要
 いつも通りの平和で退屈な毎日を過ごしていた大学一年生の白滝蘭は、バレンタインの日に告白して、彼氏を作るという勝負を受けてしまった。その日から、なんとなく気になっている男性達を意識して考えるようになり、ゆっくりとしかしあっという間に、まるでチョコレートが口の中で融けていくように、恋をしていってしまう。バレンタインの日に贈るラブコメディドラマ、「恋はチョコの融ける速度で」。

・話の流れ
日常風景 主人公視点の大学生活や友人関係、その他の出来事などの日常風景。主な登場人物の紹介などを行う。
集団デート 友達の提案で、女性陣と男性陣とで遊園地に遊びに行く。ここでの出来事で、主人公と男性陣との関係が親密になっていく。
告白 2月14日、主人公が最も気になる男性に告白を行う。そして、無事に結ばれることになりハッピーエンド。

・主な登場人物
白滝蘭(大林巳奈穂) 今作の主人公。大学の一年で、勝気で負けず嫌いな女の子。いままで恋人どころか、恋愛さえしたことがなかったが、バレンタインの日に告白して彼氏を作る、という勝負を挑まれて、それを受けてしまう。目上には礼儀正しく、同列には男女問わず強気、年下にはちょっと姉御肌な性格。大学から歩いて30分の距離の賃貸マンションで一人暮らし。

気になる男性達(3〜6名) 蘭の周囲にいる男性達。幼馴染や大学の同期、喧嘩友達、サークルの先輩、講師、高校の後輩など、様々な立場の魅力的な男性達。

ライバルの女(1名) 蘭に勝負を持ちかけた女の子。中学からの腐れ縁で、なにかにつけては蘭に勝負を持ちかける。周囲からすれば、喧嘩するほど仲がいい。

蘭の女友達 幼馴染や、大学からの友達など、様々。今回の勝負も、応援したり、からかったり、おこぼれを貰おうとしたり、色々。

・備考
 主人公白滝蘭役には、女優大林巳奈穂(オオバヤシ ミナホ)を起用。大林は、今年二十歳の女性俳優で、三歳のころから子役で活躍、演技派として知られており、特に勝気な女性役で定評がある。
 物語は、2月1日から始まり、2月14日の告白で終わる。登場人物と主人公は、それ以前に知り合っており、ある程度の人間関係を築いているとする。
 集団デートの撮影は、日本随一の巨大テーマパーク「ファンタジーランド」で行う。

・使用可能ファンタジーランドアトラクション
レールウェイ・ウィズ・レールガン:ライド系
 宇宙鉄道に同乗して列車と乗員乗客を守る宇宙鉄道警備隊となり、列車を襲う悪者達をレールガンで狙ってやっつける。

パイレーツ・シー:ライド系
 昔、この海を荒らし回っていた海賊達が残した財宝の在処の地図を偶然手に入れた主人公達は、小舟に乗ってその海賊が根城にしていた島へ向かう。だが、そこは海賊達の罠が張り巡られ、未だに海賊達の怨念が渦巻いている。

ゴーストマンション:お化け屋敷系
 住人(=参加者)達の借りたマンションは、幽霊達の集会に使われている曰く付きのマンションだった! 閉じこめられた住人達は、驚かす幽霊達をかわしながら出口を見付けてゆく。

●今回の参加者

 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa3237 志羽・明流(23歳・♂・鷹)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa5475 日向葵(21歳・♀・蝙蝠)
 fa5483 春野幸香(21歳・♀・狸)

●リプレイ本文

●2月1日
「蘭ちゃん、おはよ」
「由紀、おはよう!」
 大学へと向かう30分の道のり、半分ほど歩いてようやく身体が暖まってくる頃。いつもの場所で、親友の少女が声をかけてきた。彼女の名は白那由紀、高校時代からの友人で、そのまま同じ大学に通う私の親友。控えめで大人しく、とても女の子らしい子で、私とは気があっていつも一緒にいた。こっちに来てからは、親戚の家で暮らしてるそうで、いつもこの場所で落ち合う。
「ごめん、待った?」
「ううん、私も今来たばかりだから」
「そっか、それじゃ行こう?」
「うん」
 今日はちょっと早足で来たのに先に来てたっていうことは、いつもはどれくらい待たせてしまってるんだろうか。由紀にはいつも悪いことしてるかな、これからはもうちょっと早く出てみよう。そう思いながら、私達は大学へと向かって歩き出す。
「もう2月ね」
「そうだね、早く春にならないかな」
「あはは、あと一月の辛抱よ」
 いつもどおり、取り留めの無い話をしながら歩く私達。しばらく歩いて、大学の門を抜けキャンパスに入ると、周囲にも私達と同じ大学生達が歩いているのが見える。約一年間、あとすこしで本当に一年間繰り返してきた、単調で平和な毎日。
「そういえば、しばらくしたらバレンタインね。蘭ちゃんはチョコレート誰かにあげるの?」
「バレンタイン? あはは、ないない! 今年は父親とも離れて住んでるし、義理も用意しないかな」
 この時期になると女の子の間でよく話題になるバレンタインだけど、いまのところ私には関係ない。気の無い男子に義理チョコ配るのは私のガラじゃないし、それこそ本命なんて居るはずもない。
「でも‥‥隼人‥‥」
「オッス、蘭太郎!」
 由紀が何かを言おうとした声を遮るように、私の肩を叩く男の声。
「ちょっと隼人、学校で蘭太郎はやめなさいって、いつも言ってんでしょ!」
「まぁ、そんな気にすんなよ。いまさら周囲を気にするお前じゃないだろ」
 声をかけてきたのは、宮崎隼人。ボサボサの黒髪、そこそこの身長、そこそこの容姿、外見的には特に目立つところも無い平凡な男子。私達と同じ大学の、法学部に通っていて、勉強の方はそれなりに出来る。人当たりの良い性格で、結構誰とでも仲良くなれるみたい。私とは、実家が近所で、小中高と同じ学校であり、いわゆる幼馴染ってやつ。私にとっては、お互い憎まれ口を叩きあいながらも一緒に遊ぶ、悪友みたいなもんかな。
「だからってね、そんな男みたいな名前で呼ばれてたら、みんな私を誤解するでしょ!」
「男みたいじゃなくて男‥‥イテェ!」
「殴るよ?」
「もう殴ってるだろ!」
「ふふ‥‥相変わらず仲がいいね」
「あ、ごめん由紀、話の途中だったよね」
「ううん、別にいいの。おはよう、隼人さん」
「おはよう白那、今日もこいつと一緒なんだね」
「うん」
 私達のいつものやりとりを、楽しそうに笑う由紀は、隼人と挨拶を交わす。二人も同じ高校に通っていたわけだから、やっぱり顔見知りで、何度も一緒に遊びに行ったことがある。友達はそれなりにいるけど、私にとってこの二人が特別に仲の良い友達かな。
「それじゃ俺、こっちだから」
「またね、隼人さん」
「おちこぼれるんじゃないわよ〜」
「お前こそな!」
 校舎に入って、隼人は別の教室に向かって分かれていく。一度背を向けたら、こっちが声をかけても振り返らず、後ろ手に手を振って行ってしまった。
「隼人さん、いつも楽しそうね」
「ただのバカなだけよ」
「そうかな? 彼、蘭ちゃんと一緒だから楽しそうなんだと思うけど」
「は?」
「蘭ちゃんは、隼人さんにバレンタインチョコあげないの?」
「あげないあげない。だいたいここ数年あげてないし、隼人だって期待してないでしょ」
 由紀から見てどうなのかは知らないけど、私と隼人は単なる幼馴染。たしかに男子の仲では一番仲がいいけれど、ただそれだけ。むしろ、あまりに一緒にいる期間が長くて、男とか女とか意識する関係じゃなくなっちゃってる。
「そうなんだ、お似合いだと思うんだけれど‥‥」
「ほら、由紀、講義に遅れるよ?」
「うん」
 由紀が小さく何かを呟いたけれど、私には聞き取ることができず。由紀は、私の言葉に一つ頷いて、私達は教室へと向かって歩き出した。

「それじゃ由紀、バイバイ」
「うん、また明日ね」
 一日の講義が終わる。この後、由紀は家庭教師のアルバイト、私はサークル活動。私は軽く挨拶を交わして教室を出ると、部室棟へと向かって歩き出した。自分のサークルの部屋へと付くと、ドアを軽くノックして中へとはいる。
「おはようございま〜す」
「白滝さんおはよう」
 部室にはすでに男の人がいて、ニコリと笑みを浮かべながら挨拶を返してくれる。如月優先輩‥‥綺麗な黒髪を短く切りそろえて、身だしなみもばっちり、眼鏡を掛けたその顔は知的でしかも綺麗。絶えず笑顔で、誰にでも優しく、気配りを忘れず、なんでも器用にこなし、勉強もできる。この理想的な男性は、私と同じサークルの先輩なのである。
「白滝さん、お茶でも飲みますか?」
「あ、はい」
 如月先輩は、読んでいた分厚い本を閉じ、椅子から立ち上がると紅茶の用意をしてくれる。本来なら、後輩である私がそういうのはした方がいいんだろうけど、如月先輩は自分から率先してそういうことをしたがる。しかも、その入れてくれた紅茶がとても美味しいので、無理に私がやろうとしても逆に迷惑になってしまうのだ。
「どうぞ、今日は良いお茶菓子が入ったので、こちらも是非」
「ありがとうございます。美味しそうですね、いただきます」
 優しい笑顔を浮かべてお茶を出してくれる先輩にお礼を述べて、紅茶を一口。う〜ん、この甘い香りとさっぱりとした後味。幸せで思わず笑顔が零れ落ちそうになるね。お茶菓子も高級そうで、とても美味しい。どこかのお嬢様になった気分になる。
「如月先輩、今度は何を読んでるんですか?」
「イギリスの有名な女流作家のミステリーの原書が手に入ったので、それを」
 さすがは如月先輩、イギリスの原書を辞書も無しに読めるなんて。やっぱり、こう何でもできる人って憧れちゃうなぁ。私はサークルのほかのみんながくるまでの少しの時間、こうやって先輩とおしゃべりするのが一つの楽しみになっている。先輩も嫌な顔せず付き合ってくれるので、とても助かるかな。

「それじゃ、お疲れ様です」
「お疲れさま」
 夕方、活動も終わって部屋を出た私は、そのまま校舎を出る。今日はこのあと用事もないので、まっすぐ家に帰ろう。そんなことを考えながら歩いていると‥‥。
「あら、蘭さん、奇遇ですわね」
「‥‥‥」
 門へと向かう並木道の途中で声がかかる。私は、それを無視してそのまま行こうとするのだが。
「ちょ、ちょっと、お待ちなさい! わたしが声を掛けたのですから、返事ぐらいしたらどうです!」
「‥‥なに、雪菜。私、急いでるんだけど」
 慌てたように声の主が、私の目の前に立つ。春菊雪奈、中学時代からなにかと私をライバル視して、突っかかってくる女。高校、大学と同じ進学先に進み、顔をあわせるたびになにかしら勝負を吹っかけてこようとする迷惑な子なんだよね。別に本当に急いでいるわけじゃないけれど、彼女の相手をしているとまた色々と面倒なことになりそうなので、さっさと話を終わらせようとする。
「あなた、今年のバレンタインはどうされるの?」
「どうって、別に?」
「やっぱり‥‥。大学生にもなって、彼氏もいないようじゃ、女としてどうかと思わないかしら?」
「はぁ? 雪菜だっていないんでしょ? お互い様じゃない」
「私は、望めば彼氏の一人や二人、どうってことないですわ」
 雪菜は何を言いたいのだろう。相変わらず、脈絡のない話をするのが好きみたい。この子のこと、嫌いなわけじゃないんだけど、この性格はどうにかならないかな。そんなことを思っていると、雪菜はニヤリと笑みを浮かべた。まずい、この笑みはなにかしら勝負を吹っかけようとするときの笑みだ。
「そうですわね、どっちが女として上か勝負しましょう」
「はぁ!?」
「こうしましょう、今度のバレンタインデーに男性へチョコをあげて。彼氏ができた方が勝ちということで」
「ちょっと待ちなさいよ! そんな勝負なんになるのよ。だいたい、そんなことで彼氏を作るなんて馬鹿げてるでしょ?」
 突然何を言い出すのかと思えば、彼氏ができた方が女として上だなんて馬鹿げている。そんなことで、女性の魅力は測れない‥‥多分。
「あら、自信が無いの?」
「だから人の話を聞きなさいよ」
「では仕方ありませんわね、蘭さんは不戦敗ということで、女として上なのはわたしということでよろしいですね?」
 ムカ‥‥、たしかに雪菜は女として綺麗な方に入ると思う。だけど、私だって負けているなんて思わない。
「所詮シラタキは、お鍋の脇役でしかありませんものね」
「‥‥あんたね、シュンギクごときが勝ち誇らないでよね! いいわよ、その勝負受けてやろうじゃない!」
 正直、どっちが女として上かなんて興味は無いけれど、こんなことで雪菜に勝ち誇られるのは気分が悪い。結局私は、売り言葉に買い言葉で勝負を受けてしまうのだった。

「では、バレンタインの日を楽しみにしておりますわ!」
 そのあとすぐ、雪菜はそう満足そうに言ってその場を立ち去っていってしまった。私は、改めて冷静に考えて、なんともくだらない勝負を受けてしまったと後悔したわけだ。
「う〜、でも負けるのも癪だし。どうしよう〜」
「あれ? 白滝先輩じゃないですか!」
 悩みながらマンションの近くまで歩いていくと、男の子の声に呼び止められた。私の方に駆けて来る彼は、見覚えのある少年で。
「裕也くん?」
「はい、お久しぶりです、白滝先輩」
 子犬のような笑顔で挨拶をしてくるのは、早島裕也くん。高校時代の部活の後輩で、当時けっこう懐いてくれていた子だ。いつも元気で陽気な性格で、面倒なことも率先してやってくれる良い子だ。私が高校を卒業してからは、さすがに距離も離れて会うことは無かったんだけど。
「ほんと、ひさしぶりね。でも、なんでこっちにいるの?」
「今日はね、不動産屋めぐりです。俺、白滝先輩と同じトコ受けたんですよ」
「え?」
 笑顔でそう言った裕也くん。たしかに彼は今年で高校卒業だし、そのまま大学へ進学するだろうけど‥‥。
「きみって、地元の大学志望じゃなかったっけ?」
「え、ええ、まぁ、二年のころはそうだったんですけど‥‥」
 私の地元にも一応大学はある。うちの大学よりは偏差値低いけど、彼にはちょうど良かったはずだ。それに、うちの大学に入るには、当時の学力を考えるとかなり勉強しなくちゃならない。何度か勉強を見てあげたから間違いない。
「そういえば、春菊先輩も一緒ですよね?」
「む、今は雪菜の名は聞きたくない」
「あれ? またいつもの勝負ですか? 先輩達好きだなぁ」
「あっちが吹っかけてくるんだからしかたないでしょ! そんなことより、今は君の事! それで、もう住むとこ探してるっていうことは、受かったの?」
「はい、推薦でなんとか‥‥」
「すごいじゃない! おめでとう!」
 照れたように笑う裕也くんに、素直に賞賛を贈る。私が知らないうちに、随分とがんばったんだなぁ。ん? でもまてよ? さっきわざわざ雪菜の名を出したということは。雪菜も、高校のときは同じ部活で、彼にとっては部活の先輩になる、もしかして。
「もしかして、雪菜を追いかけてきたの?」
「はい? ‥‥そんなわけあるわけないじゃないですかぁ。色々と検討した結果ですよ」
「そうだよねぇ〜」
 単なる杞憂だったようだ。
「あれ‥‥白滝先輩もそうやって決めたんじゃないんですか? もしかして誰かお目当ての‥‥」
「あはは、そんなわけないって」
「そうですよねー」
「あっさり納得されるのも、なんとなく失礼なんだけど?」
「冗談ですってば‥‥白滝先輩俺らの代でもいいって言ってるヤツ多かったんですよー?」
「また冗談言って。あんまり先輩をからかうんじゃありません。でもそっか、裕也くんもまた同じ学校か」
「よろしくおねがいします、先輩!」
 裕也くんの笑顔を見ると、私も笑顔になる。子犬みたいに懐いてくれる可愛い後輩が、また同じ学校に来てくれることに、ちょっと嬉しくなった。もちろん、背は裕也くんのほうがずっと高いけれど。
「白滝先輩って、このあたりに住んでるんですか?」
「うん、そこのマンションに。よかったら寄ってく?」
「いえ、さすがにそれは‥‥。それに時間もあまりないですし」
 家に誘うと、何故か急に顔を赤くして視線を逸らす。何を遠慮してるのかわからないけど、たしかに今から地元に帰るとなると結構な時間になってしまうだろう。ここで引き止めるわけにもいかないかな。
「また今度来ますんで、そのときはよろしくおねがいします」
「うんわかった。あ、ケータイの番号は変わってないよね?」
「はい、なにかあったらいつでも、それじゃまた!」
 裕也くんは、礼儀正しく頭を下げると、手を振って元気に駅の方へ走り去ってしまった。私は、その背中を見送って、高校時代の彼の姿を思い出しながら笑みを浮かべる。
「ほんとに変わってないなぁ」

●2月2日
「え? バレンタインで彼氏を作る勝負?」
「そ、どうしよう由紀」
 次の日、私は昨日の夕方にあった雪菜との勝負の話を由紀にする。彼女は、少し驚いたような表情で私を見た。
「それで、誰か気になってる人とか、心当たりいるの?」
「それがいないから困ってるんじゃない」
「う〜ん‥‥」
 首をかしげ悩んでくれる由紀。本当にこの子はいい子だよね。
「だったら、仮の恋人を隼人さんに頼んでみたら? 彼だったら、多分付き合ってくれると思うけれど」
「隼人? そりゃ頼めばやってくれそうだけどさ。それじゃ、雪菜が納得しないでしょ」
 雪菜も中学から一緒だけあって、隼人のことは良く知っている。私達の関係が知られている以上、恋人『役』としては隼人は不適切だ。
「そうかしら?」
 もう一度首を傾げる由紀。そのままいい案は浮かばず、大学の門を通り抜ける。
「あ、私、教授に用があったの。先に行ってるね」
「うん、それじゃまた教室でね」
 そう言って、少し駆け足で先に行ってしまう由紀。彼氏‥‥かぁ、どうしたらいいんだろ。
「よぉ、蘭」
「おはよ」
 隼人がいつものように声をかけてきた。
「考え事か? 話は聞いたぜ、とんでもない事になったな‥‥」
「まぁね‥‥」
 昨日の雪菜の件、隼人はもう知っているようだ。結構こういう話は耳聡い方だし、もしかすると雪菜本人から聞いたのかもしれない。
「まあ、どうしても彼氏になる奴が見付からないようなら、俺に任せろよ。何時でも彼氏役ぐらい演じてやるからさ」
「ありがと」
「‥‥‥」
 隼人の申し出に、私はそっけない礼を返す。やはり、彼氏『役』に隼人では、雪菜は納得しないと思ったからだ。そのあとは、気を使ったのか、隼人は何も言わず、校舎に入って分かれた。
「ねぇ、蘭ちゃん。彼氏を探すんだったら、こういうのはどうかしら?」
 教室に入ったあと、先についていた由紀が、一つの提案を持ってきた‥‥。

●2月11日
「あ、白滝せんぱ〜い!」
「おはよう裕也くん。如月先輩も、お待たせしてしまってすいません」
「いえ、ぜんぜん待ってませんよ」
 集合時間十分前についた私だったが、どうやらみんな先に来ていたようだ。
「如月先輩、今日は来てくれてありがとうございます。裕也くんも、ちょっと遠いし、無理しなくてよかったのに」
「僕は誘ってくれて嬉しかったですよ」
「無理だなんてとんでもない。電話もらって、楽しみにしてたんですよ」
 如月先輩と裕也くんが笑顔を見せてくれた。突然の誘いだったのに、来てくれて本当に嬉しい。
「来るのが遅いですわよ、別に準備に時間掛けるような性格でもないでしょうに」
「なんであんたがいるの?」
「私が呼んだの。ほら、男子3人だし、女子も3人の方が良いと思って」
 文句を言う雪菜。怪訝に眉を顰める私に、由紀が説明してくれる。別に、ほかの女友達でもよかったのに‥‥。それで、由紀の提案というのは、集団デートをしないか? というものだった。複数の男女で気楽に遊びに行って、そこで親密さをあげて、気になる人がいればバレンタインに告白してみればいいと。いわゆる合コンと一緒なわけね。で、男友達の中でも特に親しい人を誘うってことになったんだけど、裕也くんはともかく、如月先輩が誘いに乗ってくれるとは思わなかったかな。
「それで、隼人はまだ来てないの?」
「悪い、遅れた」
 最後の一人である隼人が、時間ギリギリになってやってきた。まったく、しっかりしなさいよね。
「宮崎先輩、お久しぶりです」
「宮崎さんも誘われてたんですか」
「早島くん、久しぶり。如月先輩、先日はどうも」
「あれ、如月先輩、隼人と知り合いなんですか?」
「ああ、同じ法学部の先輩として、何度かお世話になってるんだ」
「僕も、宮崎さんと白滝さんが知り合いとは知りませんでした」
「幼馴染なんですよ、俺達」
「なるほど」
 全員が揃うと、それぞれ挨拶を交わす。裕也くんが隼人を知ってるのはともかく、如月先輩まで知り合いだったなんてちょっと意外。
「それじゃ、揃ったところで、そろそろ行きましょう」
 こうして由紀の言葉で、私達は今日の目的地である遊園地へと向かうことになった。

 ファンタジーランドと書かれたゲートを抜け、私達は日本最大級のテーマパークへとやってきた。今日もたくさんの人たちで賑わっていて、みんな楽しそうだ。私達も、いくつかのアトラクションに入り遊ぶことになった。
「次は‥‥そう、あれにしましょう! 蘭さん、勝負ですわよ!」
 雪菜が指差したのは、レールウェイ・ウィズ・レールガン。宇宙鉄道を守る警備隊という設定で、乗り物に乗って電子銃で敵を倒すというアトラクションだ。倒した敵に応じて点数が記録されるんだけど、やっぱり雪菜はここでも勝負を持ち出してきた。
「隣り合った者との合計得点で、高い方が勝ちになりますわ。では、如月先輩、ご一緒していただいてよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくおねがいします」
「じゃ、じゃあ、私は早島さんと」
「白那先輩、俺がんばります」
 乗り物は二人乗り、雪菜と由紀はさっさとパートナーを決めてしまい、結局残ったのは。
「結局隼人とか」
「なんか文句でもあるのか?」
 せっかくの機会なのに、幼馴染と組まなくちゃならなくなって、ちょっとため息。その結果‥‥。
「ま、負けましたわ‥‥」
「「いえ〜い、勝利!」」
 接戦をものにして私達の勝利! 私は隼人とハイタッチで喜び合う。幼馴染同士のコンビネーションってやつが、我を張りすぎる雪菜とサポートに徹する如月先輩のコンビに、僅差で勝つことができた。やっぱり勝つっていうのはいいものだよね。
「次はアレにしませんか?」
 そのあとに、如月先輩が薦めたのはパイレーツ・シー。小船型の乗り物に乗って、海賊の宝を探して冒険に出るというもの。比較的昔からあるもので、面白いけれど、お客は少なめという穴場的アトラクション。実に如月先輩らしいチョイスだと思う。
「白滝先輩、隣しつれいします」
「隣は裕也くんか、よろしくね」
 一つの小船に、二人ずつ三列で六人。たまたま私の隣は裕也くんになった。水の上を走る小船は、暗闇の中突然下へと降りていき、私達を驚かせる。そして、小船はいつしか海賊達の根城へと‥‥。
「うわ、すっげー、すっげー!」
 小船から見える、いくつもの人形達の寸劇を、裕也くんは無邪気な声で楽しんでいた。その様子を見てると、私も楽しくなってくる。
「最後の、根城からの脱出シーン、爽快だったなぁ!」
「クス、裕也くんほんとに楽しんでたね」
「そういう白滝先輩だって、楽しんでたじゃないですか、そういうところ可愛いと思いますよ」
「こら、先輩をからかうんじゃない」
 結局、何度か乗ったことあるのに、裕也くんにつられて一緒に楽しんでしまった。
「白滝先輩! 今度はあれ行きましょう!」
 次に、裕也くんが選んだのは、ゴーストマンション。いわゆるお化け屋敷で、マンションの住人となった参加者を、様々な幽霊が脅かすというものなんだけど‥‥。
「う‥‥」
「おい、蘭、大丈夫か? お前、こういうの苦手だろ?」
「だ、大丈夫よ‥‥」
 正直、あまり得意じゃない。けど、私だけ入らないのも面白くないし‥‥。なんとか声を出さないよう我慢して、中に入ってみる。
「ひっ!」
「うっ!」
「きゃー!」
 ‥‥不覚にも鏡から出てきた幽霊に悲鳴をあげてしまった‥‥。
「大丈夫ですか?」
「あ、先輩?」
 そんな私の肩に手を置いて、如月先輩が優しく抱きとめてくれた。うわ! どうしよう! すっごく恥ずかしい! そしてそのあとも、先輩は私を安心させようと手を握っていてくれる。でも私は、恥ずかしさと緊張で、幽霊とかどうでもよくなっていた。
「疲れたでしょう、一度休憩にしませんか?」
 そのあと、如月先輩の提案で私達は休憩をとることにした。なにげに、みんなはしゃいでたので、少し疲れているようだ。さすが如月先輩は気のつく人ね。
「じゃあ俺、飲み物買ってきます!」
「あ、私も付き合うよ!」
「それだったら、僕が」
「如月先輩は一番上なんだから、こういうときは後輩に任せてください」
「そ、そうですか?」
 裕也くんが進んで飲み物を買いにいくのを、私も付き合うことにした。如月先輩が代わりに行こうとするが、使い走りぐらいは任せて欲しい。

「混んでて時間かかっちゃったね」
「そうですね」
 私と裕也くんは、三つずつ飲み物を持って休憩場所へ戻っていた。二人で歩いていると、裕也くんがふと思い出したように話し出した。
「白滝先輩、二月の初めに俺達が会ったとき、なんで先輩の大学を受けたか聞きましたよね」
「うん、色々と検討してっていうことだったよね」
「ええ、でもちょっと違うんです」
「ん?」
 裕也くんは、話をしながらちょっとはにかんだように視線をそらした。
「本当は、白滝先輩が通ってる大学だから受けたんです」
「え?」
 一瞬ドキっとした。その言葉の意味は私にもわかる。「私のために受けた」、でもそんなふうに慕われてたなんて思ってもみなかった‥‥。
「また、先輩の後輩になれて嬉しいですよ!」
 そう言って、いつものように子犬のような笑顔を浮かべると、休憩場所へと走っていってしまう裕也くん。私は驚いて足を止め、彼の背中を見送りながら、顔が熱くなっていくのを感じた。

 私はそのあと、少し顔を冷そうと遠回りして休憩場所に向かうことにした。そんなとき、ふと視線の先に二人の人影が見えた。
「あれは隼人‥‥と、雪菜?」
 二人は、なにやら真剣そうに話をしていた。
「好きなの、嫌いなの、どちらか此処ではっきりとなさい!」
「す、好きに決まってるだろ‥‥」
 雪菜の問いに、恥ずかしそうに答える隼人。それはいわゆる愛の告白で‥‥。
「そんなの関係ないじゃない‥‥」
 隼人が誰と付き合おうと、私が知ったことじゃない。けど、なんだろうこのもやもやした気持ち‥‥。
「白滝さん、どうしました?」
 そのあと休憩場所に戻ると、如月先輩が優しく声をかけてくれた。けれど、このもやもやは晴れない。
「よ、よぉ、飲み物ごくろうさん! 次、どこ行くか?」
 すぐに隼人と雪菜が戻ってきたけれど、なんとなく隼人の態度がよそよそしい。雪菜となにがあったっていうのよ? 聞きたいけれど口に出せない自分がいる。結局そのあとは、もやもやとした気分のせいでいつのまにか時間が過ぎてしまい、解散となった。

●2月13日
 夜、私は自宅でチョコレート作りをしていた。お菓子作りなんて数年ぶりだけれど、いちおう自炊するぐらいは料理の腕はある。ほどなくしてチョコレートは完成した。ハートの形なんて、さすがにミーハーなことはできないから、甘さ控えめのビターチョコを一口大のトリュフにしてココアパウダーをまぶす。それなりに手が込んでないと誠意が伝わらないしね。でも‥‥。
「結局、誰にあげよう‥‥」
 私はまだ、そのチョコを誰にあげるかを決めていなかった。
「如月先輩?」
 優しくて格好よくて、何でもできる先輩。私にとって憧れとも言える素敵な人。
「裕也くん?」
 明るくて元気で、笑顔が可愛い後輩。私のために大学を受けてくれたと言ってくれた子。
「隼人‥‥」
 昔っからの幼馴染で悪友。お互いからかってばかりだけれど、何かあれば必ず助けてくれる親友。でも隼人は‥‥。
 その夜、結局私は眠ることができず、ずっと悩んでいた。

●2月14日
 私は、大学の講義が終わった後、門へと続く並木道で彼を待っていた。バックには、昨日作ったトリュフ、彼は受け取ってくれるだろうか。やがて、彼が校舎側から姿を見せて。
「隼人!」
「あ、あれ? 蘭、いったいどうしたんだ?」
 私が声をかけると、隼人は驚いた様子で私を見る。私は、いつになく緊張しながら、隼人の前に立つ。
「隼人、これ貰って!」
「え、これって‥‥チョコ? でもお前‥‥」
「これは、私のけじめ! いままで近すぎて気づかなかったけど、私、隼人のことが好きみたい‥‥。だから、あんたが本当は雪菜のこと好きでも言っておきたくて‥‥」
 私は、用意しておいたチョコを差し出し、自分の気持ちを正直に隼人に話す。隼人は、最初驚いたような表情だったが、やがて動揺しだして。
「蘭、ほんとに‥‥。は? ちょっとまて!? なんでそこで、雪菜が出てくるんだよ!」
「え、だって、あんた、この間‥‥雪菜と二人きりで真剣そうに、愛の告白してたじゃない」
「いや、あれは‥‥誤解だ! お前が思っているようなことじゃない!」

「いい加減、男なら態度をはっきりなさい! 蘭の事好きなの、嫌いなの、どちらか此処ではっきりとなさい!」
「す、好きに決まってるだろ‥‥。でも、俺から動いて、今の関係を壊すのが嫌なんだ‥‥」

 ということだったらしい。元々、雪菜があんな勝負を吹っかけてきたのも、私と隼人の関係にもどかしくなったかららしい。え、なに、私の勘違い!? 緊張の糸が切れたことと、恥ずかしさで、カーっと顔が熱くなっていく。
「それで、今言っちまったけど、俺もお前のことが好きなんだ」
「っ!! バカ! 混乱してるんだから、今言わないでよ!」
「悪い、で、そのチョコ貰ってもいいか?」
「うん‥‥」
 私の手から、チョコを受け取る隼人。結局、なにがなんだかわからないけれど、お互いに気持ちを伝え合うことができたらしい。
「ん、うまいぞ。蘭もほら食べてみろよ」
 隼人から渡されたチョコを口に入れると、ココアの甘さと、ビターチョコのほろ苦さがゆっくりと口の中で融けていって、あっという間に消えていった。そして‥‥。
「ん‥‥」
 優しく押し付けられる唇。隼人との始めてのキスは、チョコよりも甘くて、私を融かすほど熱かった‥‥。

●キャスト
 白滝 蘭     大林巳奈穂
 宮崎 隼人    日向翔悟(fa4360)
 如月 優     蘇芳蒼緋(fa2044)
 早島 裕也    諫早 清見(fa1478)
 春菊 雪奈    日向葵(fa5475)
 白那 由紀    春野幸香(fa5483)