お返しはオーパーツ!?アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
緑野まりも
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
3Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
3.2万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
03/14〜03/20
|
●本文
それは、この一言から始まった‥‥。いや、もっと前からすでに決まっていたことなのかもしれないが、俺にとってはこれが始まりだった‥‥。
「そろそろホワイトデーね」
そら来たぞ、バレンタインにチョコを貰った、いやあれは貰ったと言っていいのかわからないが、とりあえずチョコを貰ったからには奴はかならずその見返りを求めてくることはわかっていた。むしろ、見返りがあるからこそ贈るのだろうが。
「そうだな」
俺はわざとそっけなく答える。ここですぐにお返しをするなどと言えば、奴は付け上がるに決まっている。いちおうホワイトデーのお返しの準備はしてあるが、それを簡単に渡すようでは芸が無い。バレンタインで俺が要するはめになった労力も、きっちり三倍返ししてやらなければならないからだ。
「なによ、本当にわかってるの? ホワイトデーよ、ホ・ワ・イ・ト・デー」
「そんな、連呼しなくてもわかっている。白い日、ホワイトデー、どこの誰が考えたか知らないが、聖人の誕生日でもなんでもない日だな」
「そんなことはどうだっていいのよ。ホワイトデーは、バレンタインデーにチョコを貰ったお返しをする日でしょう」
「‥‥‥」
実にストレートな奴だ。少し良識のある女なら、もっとさりげなく伝えるものだろうに。だいたい、お返しというものは受けた方に感謝の気持ちがあり、自主的に返すものだろう。
しかも、等価交換どころか三倍返しなどとはいったいどういうことか。
「何を言いたいのかわかるが、俺はお前からチョコレートを貰った覚えはないんだがな」
さっきも言ったが、俺はちゃんとチョコを貰ったわけではない。探し出しただけだ、しかも強制的に。
「あげたでしょ、私はアンタの口に、私のチョコレートが入ったところをちゃんと見てるんだからね」
「‥‥たしかにチョコは食べた。だがそれは、貰ったものではなく、隠されたものを探し出したものと記憶してるがな」
「そうよ? それでアンタは見つけ出して、それを口にした。ほらチョコを貰ってるじゃない」
奴は何を馬鹿なことをという顔で俺を見つめる。何故見返りはストレートに望むくせに、渡すときはこうもひねくれているのだ。しかもそれを当然とばかりに認識してやがる。
「それで、ホワイトデーのお返しなんだけど‥‥」
「わかった、用意しよう。だが、お前にも俺と同じ目にあってもら‥‥」
「大丈夫、もう用意してあるから」
「はっ?」
こいつは何を言っているんだ? ホワイトデーのお返しなのに、何故チョコをあげた本人が用意する。俺は、あまりに意表をついたその言葉に、言葉が出ない。
「はいこれ」
「‥‥なんだこれは?」
奴が手渡してきたのは地図? のようなもの。どこかの土地を描いた地図の中に、一つ『×』のマークが描かれている。この手の地図には嫌な予感しかしないのだが‥‥。
「遺跡の地図よ。たぶんオーパーツとか眠ってると思うから、それを取ってきて」
「なっ!? まて、なんで俺がそんなことをしなくてはならない」
「だから、ホワイトデーのお返しでしょ。オーパーツ、よろしくね」
ちょっとまて! なんだその展開は! ホワイトデーのお返しにオーパーツだと!? 冗談にもほどがある!
「おい、自分で言ってることわかってるか? オーパーツだぞ、オーパーツ! どこの世界に、チョコのお返しに未知の遺物を要求するやつがいる!」
「地図は用意してあげたんだから、あとは取ってくるだけじゃない」
「だったらお前がいけ!」
「私だって行きたかったわよ! だけど、ホワイトデードラマの仕事が入っちゃったんだからしかたないでしょ!」
「なら何で俺にいかせる! 俺もその仕事をやらなければならないじゃないか!」
「別に、ADがいなくてもこっちはなんとかなるし」
こいつ言い切りやがった。ADの俺が、どれだけこいつの仕事をサポートしてやっているのか本当にわかっていないのか?
「大丈夫、有給の方はちゃんと取っておいてあげたから」
完了形ですか!
「でも、一週間で帰ってきなさいよ。ドラマ撮り終わった後の編集作業とか残ってるから」
しかも、結局仕事はやらせるのかよ!
「お前な‥‥こんな無茶な話を聞けると思うか?」
「私はチーフディレクター、アンタはAD。ADはチーフディレクターに絶対服従。わかった? わかったら、さっさと遺跡へ行く準備をする!」
ビシッと人差し指を俺に突き付け、ドラマディレクターの春日鈴美は、俺にそう命令した。‥‥仕事以外ではチーフもADも関係ないだろう?
・遺跡情報
地図によると中国の山奥にあると思われる遺跡。事前調査では、人里離れた場所にあり、詳しいことはわからないが、山間に洞窟のようにぽっかりと作られた狭い石造りの入り口があるらしい。以前に調査されたという記録はなく、遺物が残されている可能性は高いようだ。しかし、付近には凶暴な野生動物が多数生息しており、また遺跡内にもどのような危険があるかわからない。
●リプレイ本文
「しかしあれだね。バレンタインのお返しにオーパーツプレゼントだなんて、我々はオーパーツ業界の陰謀にまんまと乗せられてるとは思わんかね?」
「オーパーツ業界ってなんだよ‥‥」
佐渡川ススム(fa3134)の軽口に、俺は大きなため息をついた。日本を発って数日、俺達は中国の奥地へと向かっていた。車で行けるところまで行き、いまは山林の道なき道を地図を頼りに進んでいる。佐渡川はこの道中の間、ずっと喋りっぱなし、元気な奴だ。まぁ、『異種獣話』のおかげで危険な野生動物を回避できたのは確かだが。
「義理チョコへのお返しに3倍返しを要求するのは当然‥‥そういう時代が僕にもあったなぁ。今は違うけどね‥‥等価交換は貰うけど」
「で、でも、なんでもない関係なら危険を冒してまでホワイトデーのプレゼントを取りにきませんよね。それで、彼女さ‥‥あ、あの、チーフディレクターの鈴美さんが希望しているオーパーツってどんなものですか?」
MAKOTO(fa0295)の話に少し苦笑しつつ泉 彩佳(fa1890)が俺に聞いてくる。彩佳ちゃん、勘違いしているようだけど、俺と鈴美はただの腐れ縁で、いっさい君が想像しているような関係ではございません。それと、あいつはオーパーツが欲しいだけで、それがどんなオーパーツだろうと気にしないだろうな。
「あいかわらず大変ねぇ。前あったときより痩せたんじゃない?」
「そ、そうですか‥‥?」
日々、心労が溜まってますから、とは口に出せず。竜華(fa1294)の言葉に曖昧に笑う。
「竜華さんは‥‥その‥‥お変わりないようで」
「あらぁ? 何が変わりないのかな?」
む、胸があたってますよ、竜華さん‥‥。あんまりからかわないでください‥‥。
「でもさすがにバレンタインのお返しにオーパーツなんて、むちゃくちゃだとは思いますが‥‥がんばってください」
「がっはっはっはっ! 男はそれぐらいの甲斐性がなくてはな!」
辰巳 空(fa3090)の同情の言葉に、俺はもう一度大きなため息をついた。そんな俺を、ドワーフ太田(fa4878)が大きく笑いながら何度も背中を叩く。痛い、痛いから!
「見つけましたよ〜」
「あれじゃないですか?」
古河 甚五郎(fa3135)と青雷(fa1889)が声をあげた。指差す先には、崖にぽっかりと空いた石造りの穴。どうやら本当にあったらしい。これで、地図が間違いでしたなんてことになれば、などと一瞬思ったのだが残念だ。
「じゃあ、ここからは二手に分かれましょう」
入り口から中をしばらく探索すると、道が二つに分かれていた。俺達は、事前に相談しておいた通りに二組に分かれて探索を行うことにする。
「じゃあ、何かで連絡が取れなくなっても、この時間にここに戻るということで」
俺は、マコトさん、彩佳ちゃん、古河さん、辰巳くんと一緒に、道の片方へと入っていく。明かりがなければ真っ暗闇の道、ジメッとした空気、反響し奇怪に聞こえる足音‥‥なんとも嫌な感じがする。もちろん、すでに全員獣人化しているが、そんなことでこの薄気味悪い恐怖を払拭することはできない。
「いや、素晴らしいセットですねぇ、実に雰囲気満点。これで妖怪でも出てくれば最高なんですが」
古河さん楽しんでないか? いやセットじゃないし! 本物だし! まてまて、妖怪なんてわけのわからないもの出られても困るぞ!
「風水上の見地から考えると、この方角は『金』‥‥槍?」
「そうですねぇ、自分ならこのあたりにトラップを‥‥」
マコトさんと古河さんがなにやら不穏なことを‥‥。
「ADさん、止まって!」
「え?」
彩佳ちゃんに突然襟首を凄い力で引っ張られた。と、思ったとき目の前を何かが‥‥。
「槍ですね、ほらここに射出口があります」
辰巳くんが冷静に、足元から飛び出してきた槍を観察する。マジか! もう少しで、これに串刺しにされるところだったぞ!
「でも、罠があるということは、やはりなにか大事な物が隠されているという可能性が高そうですね」
冷静にそう判断する辰巳くん。少しは俺の心配してくれてもいいんじゃないか?
「もちろん心配していますよ。危険なときにはお守りします」
いまのは危険なときではなかったと‥‥。
「ふふ〜ん、この石を踏むと槍が出るようになってますねぇ。惜しい、実に惜しい、あとこことここにトラップを仕掛ければ、コンボが成立するのですが」
コンボ? ‥‥とにかく、その後もいくつかの罠が仕掛けられていたが、古河さんの指示に従いながら、罠を回避して俺達は先へと進む。
「扉? 部屋でしょうか」
「ふむ、どうやらこのドアにトラップは仕掛けられていないようですね」
しばらく進むと、突き当たりに扉を発見した。中はたぶん部屋か何かだろう。正直、今の俺はもう帰りたいと思ってるのだが、目的を達成しなければ帰るに帰れない。
「開けるよ」
マコトさんが扉に手をかけて開ける。俺は少し緊張しつつ、中を覗き込んだ。
「服?」
部屋に明かりを当ててみると、壁に掛けられていた一着のチャイナドレスが目に付いた。しかし、こんな場所に遥か昔から放置されていたにもかかわらず、原形を止めている服がただの服なはずはないだろう。あとで調べたところ、それは『紫綬仙衣』というれっきとしたオーパーツだそうだ。
「なんだ、服か。武器だったらよかったのに」
「女物ですしね、私にも向きませんね」
「ガムテープはないんでしょうかねぇ」
それぞれが少し残念そうに呟く。いや、ガムテープは間違っても無いだろ。
「あ、あの、じゃあ、彩佳が貰ってもいいでしょうか? それとも鈴美さんのプレゼントに?」
「いや、彩佳ちゃんでかまわないよ」
これだけ広い遺跡だ、他にも宝があるだろう。それに彩佳ちゃんには、命も助けられたからな。他の皆も異論はないらしく、この服は彩佳ちゃんの物ということになった。
「おかしいですねぇ、この手の部屋にはトラップが仕掛けられていて当然なのですが‥‥」
「罠がないなら、この部屋にはもうなにもな‥‥」
古河さんが、少し不満そうに呟く。そして、俺がもう出ようと言おうとしたとき、偶然触れた石が奥に沈みこみ‥‥それは現れた。
「ああ、なるほど、何もなければ油断して探しませんよねぇ」
突然壁が崩れて現れたのは、四つの星が入った水晶の玉だった。
一方その頃。
「ええい! さすがに硬いのぅ!!」
ガキンと、警棒を弾く音。太田は苦笑を浮かべながら、俊敏脚足で素早く飛びのく。そして、先ほどまで立っていた場所に、極太の爪が突き刺さる。太田達は、突如現れたNWと戦っていた。その姿は、硬い甲羅を持ち、八本の脚、そしてその二つには大きなハサミ状の爪が‥‥。
「まったくやっかいな蟹じゃ!」
「あんまり美味しそうじゃないわね」
そう蟹だった。巨大な蟹が、襲い掛かってきたのだ。しかも、彼らのいる部屋の足元は、いまや水で覆われ。徐々に、その水かさは増えていく。周囲の壁から大量の水が流れ出ているのだ。
「しゃっ!」
普段のおちゃらけた様子から無口無表情に一変した佐渡川が、地壁走動で壁面に立ち、細振切爪で高周波振動する爪で甲羅を切り裂く。しかし、5本の鋭利な切り跡がつくが、致命傷にはならないようだ。
「ぐっ!!」
蟹の爪に殴られる、苦悶の声と共に壁に叩きつけられる佐渡川。その拍子に、持っていた懐中電灯が破壊される。
「竜華さん、俺が注意を引きますからその隙に!」
「あら、可愛いことするわね♪」
青雷が、竜華の前に立ち、メテオブレードを構える。竜華はクスリと笑みを零して、金剛力増で筋力を強化する。
「しまった! ぐぁ!」
青雷の剣が爪に弾かれて、手から離れる。その隙に、強烈な一撃を貰い壁に吹き飛ばされる青雷。叩きつけられた衝撃で、壁が崩れる。
「こ、これは!?」
崩れた壁の奥、青雷はあるものを見つける。
「こういうのって、間接が弱いんだよ‥‥ね!」
隙をついて竜華が蟹の間接に爪を突き入れると、そのまま怪力で引き千切る。バキバキという音を立てて、蟹の爪が胴体と離れた。
「いまだ!」
再び青雷が飛び出す。その手には、いま見つけた両刃の剣『流星剣』が握られていた。足場の悪さを物ともしない達人の動きを見せ、一気に間合いを詰めると蟹の腹にあるコアを切り裂く。
「わしの一撃も、くらえぃ!」
素早く飛びのいた青雷に続き、太田が警棒をコアに突き入れた。そのまま捻じ込むとヒビの入ったコアがビキリと音を立てて割れる。コアを破壊された蟹は一瞬痙攣したかと思うと、動きを止めるのだった。
「さてと、この水を止めないと、俺達お魚さんになっちゃいますねぇ」
佐渡川は怪我をヒーリングポーションで治し、陽気さを取り戻す。そしてダウジングマシーンを取り出すと意識を集中させた。
「ええっと、ここなんか怪しいかな」
壁の一角に埋め込まれた宝石、それを発見すると取り外してみる。すると、壁から出ていた水が止まり、地面の水も引いていった。安堵する一同。後でわかったが、この宝石もオーパーツだったようだ。
今回はこれで戻ることになったが、たぶんまだ隠し部屋なんかがあるだろう。あいつのことだ、今度こそ自分で探したいとか言い出すに違いない。俺はそのときのことを想像し小さくため息をつきながら、土産としてのこの水晶をどうやって渡してやろうか考えた。ここまで苦労したのだ、ただで渡すのは面白くないと思わないかい?