突撃! 販売キングアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 みそか
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 0.7万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 10/30〜11/03

●本文

<某所>
「社長、新しいウオーキングマシンが完成しました!」
「なるほど。それではまずコンセプトを話してくれたまえ」
 ウオーキングマシンに新しいとか古いとかそういう概念があるのがいまいち分からないが、社長室に入ってきた男は鼻息も荒く『新商品』の完成を報告する。
「はいっ。その名も『ふみふみ君』です。もぅこれでナウなヤングにバカウケです!」
「‥‥耳が遠くなったかな。私はコンセプトを説明してくれと言ったんだが」
 鼻息の荒い社員とは対照的に、広くなった額に青筋を浮かべながら説明を求める社長。この商品は深夜枠でローカルとはいえテレビCMまでして売り出すことが決まっているのだ。いくらなんでもお遊びで済ませるわけにはいかない。
「ですから、このネーミングが最高なんですよっ! ‥‥商品自体は従来のウオーキングマシンに姿勢を保つための取っ手を加えた程度のものですが、販売ターゲットを若者に拡大することが狙いなんです!!」
「‥‥‥‥‥‥」
 叫ぶ社員、頭を抱える社長。‥‥なんてことだ、CMに流す日はすでに目前に迫っているというのに!!

<TV局>
「今回君たちには新感覚ウオーキングマシン『ふみふみ君』を一時間かけて宣伝してもらう。‥‥あ〜〜、予算はないから、体験者の喜びの声とか番組司会なんかは君たちでお願いするよ。こっちですることは、最低限の照明と音響、それにカメラマンひとりだけなんで。 それじゃ、当日はよろしく〜〜。台本とかもないからそっちで考えていいよ〜〜」

 ‥‥直前で提供会社からかなりCM料金を削られたのか、ディレクターはほとんどやる気のない声で今回の内容について説明したのであった。

●今回の参加者

 fa0021 ノクターン(16歳・♂・小鳥)
 fa0155 美角あすか(20歳・♀・牛)
 fa0228 藤守 春(14歳・♂・狐)
 fa0304 稲馬・千尋(22歳・♀・兎)
 fa0368 御鏡 遥(17歳・♀・狼)
 fa0669 志羽・武流(21歳・♂・鷹)
 fa1267 もりゅー・べじたぶる(27歳・♂・パンダ)
 fa1453 御堂 陣(24歳・♂・鷹)
 fa1780 山田夏侯惇(10歳・♀・豚)

●リプレイ本文

<スタジオ>
 貧相なセットの中で、有名とは言い難い芸能人とお世辞にも売れているとはいえない健康器具が並んでいる。予算は少なく、一時間番組であるにも関わらず収録は一発撮り。‥‥華やかに見えるTVの世界から考えれば、ここはまさしく場末であろう。
 だが‥‥‥‥

「笑いたい奴は笑えばいい! どんな所だろうと、誰がなんと言おうとここは俺達のステージだ!!」
 本番開始十五秒前に叫ぶ御堂陣(fa1453)。彼の足が軽快に上下にステップすれば、今回の販売商品である『ふみふみ君』が滑らかな音を立てて動き始める!
「本番開始十秒前! 指示は紙で出します。本番時間は‥‥‥‥!! 一時間?」
「なぬぅ〜〜! 一時間番組だとぉ〜〜!」
 どう考えても一時間は繋げない進行手順を見て目を見開く志羽武流(fa0669)と、笑顔でステップを踏みながら慌てて負荷を軽くしようとする陣。
 だが、もはや台本を書き足す時間も負荷を調節する時間も残ってはいない。ライトは眩いばかりに光り輝き、司会者達は息を吸い込む。志羽から浮き出た脂汗はシャツから滲み出し、陣の笑顔は引きつるがここで必要なものは番組を諦める絶望では決してない!
 それは‥‥‥‥

「皆さん、おはようございます。今日は素敵な新商品を紹介するぞ〜〜〜。その名もイッツミラクル〜〜〜『ふみふみ君』〜!」
 必要なものは思い切りだと言わんばかりに、普段とは違うハイテンションで司会を開始する藤守春(fa0228)。この時間帯ならおはようよりこんばんはの方が無難であるとか、スーツ姿にこのテンションは似合わないとかそんなことは大きな問題ではない!
「これはすごいですね〜。でもこんなすばらしい商品なら‥‥‥‥」
(『もっとノリを大切に!』)
「こんなすばらしい商品、見ているだけで何かステッパーの上で踊りたくなっちゃいますよね!」
 早速志羽から提示された紙を視界に、アシスタントの山田夏侯惇(fa1780)は日本式通販番組から西洋式通販番組へと、頭のギアをシフトチェンジさせる。
 一つの商品を一時間かけて宣伝するのだ。志羽は同じ効能を延々と繰り返すことが可能な西洋式をとり、時間稼ぎを狙ったのである。
「春君? よくある商品みたいだけど、何がここまで山田さんを虜にしているのかしら?」
 方式変更による急激なアドリブにも動揺することなく、淡々とした口調で番組を成立させようとする稲馬千尋(fa0304)。ちなみにバックから流れる音楽も彼女が作曲したものである。
 だが、普通なら従来商品との違いを語り始める契機となるこのフリも、違うものは名前くらいしかない『ふみふみ君』にとっては極めて難しい質問となる!
「それは‥‥‥‥そう、リズムだよ! 従来のステッパーはどうしてもその単調な作業から抜け出すことはできなかった。でもこのふみふみ君なら音楽をかけながら、今バックダンサーがやっているように、笑顔で、リズムを踏みながら踊れるわけさぁ!」
 額から汗を流しながら、何とか番組をつなぐ春。こうなるともはやステージというより、フリとノリとアドリブが行き交う戦場である。
「さあ、それではここで体験者の皆さんの声を聞いていきましょう!」
 額から流れ出た汗を拭うために、体験者の声へと移行させる春。カメラが移動し、別番組で使っていた部屋のセットを映し出す。
「一人目の体験者は茨木県に在住のノクターンさんです。昔から健康器具に興味があって、いろいろと試したという彼。ですが、このふみふみ君に出会うまでは満足いく健康器具には出会えなかったようです」
「‥‥!?」
 居住地を含む急遽付け加えられた設定に目を丸くするノクターン(fa0021)。ナレーションも担当する千尋は彼女にごめんと一礼し、志羽からは『とにかく喋って!』と指示が飛ぶ。
「はいっ。このふみふみ君は可愛くて気に入ってるんですよ〜。普通のステッパーは、どうしても三日坊主になってちゃったんですけど、これは使ってみてビックリ! 驚くほどほんわかした気持ちでウォーキングができちゃうんですよ〜」
 笑顔を崩すことなく、あらかじめ用意していた(ふみふみ君を初めて使う設定での)感想をアドリブで作り変えるノクターン。一仕事終えたと彼は大きく息を吐くが、番組引き伸ばしとも戦っている志羽からは『もう少し喋って!』という非情なる指示が飛ぶ。
「そ‥‥そう。あんまり楽しいですから、ついついステップを踏みながらギターを演奏しちゃうんですよ。ほら、こんなふうに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥次は八王子在住の美角あすかさん、お願いします〜!」
「‥‥!!!?」
 ステッパーを踏みながらギターを演奏するというシュールな展開に耐えられなくなって、体験者役である美角あすか(fa0155)へと何故か体験者としてふってしまうノクターン。カメラが別のセットへと大急ぎで移動し、八王子在住かもしれないあすかが映し出される。
「おっ、‥‥置いておく場所さえ取れれば、後は部屋に流した音楽を聞きながらやったり、テレビを見ながらでもなにげなく歩けちゃうので能率的です。疲れたらその日はおしまいって‥‥‥‥ことにはならないくらい楽しいんですよ〜〜」
 少しでも否定的なイメージを流すことを嫌ったスポンサーが両手を大きく交差させてバツ印をつくれば、あすかも慌ててアドリブで台本を変更する。リズムが楽しめるのが最大の利点である(ことになった)ふみふみ君は、例え疲れたとしても続けたくなるくらい楽しいものであるに違いない!
「それで‥‥ミルクカフェが‥‥‥‥じゃなくて、このふみふみ君がきっかけで毎日のフィットネスが習慣になったんですよ〜〜。ありがとうふみふみ君!! それじゃ、次はそんなフィットネスの専門家でふみふみ君上級者のもりゅーべじたぶるさん、お願いします〜〜!」
「ぬぉ?!」
 途中で吹っ切れたのか、満面の笑顔で宣伝した後に、『上級者』らしいもりゅーべじたぶる(fa1267)へ指を向けるあすか。思わず少し漏れたもりゅーの声は無視しつつ、カメラが彼のもとへと移動する。
「もりゅーさんは都内某所のフィットネスクラブでトレーナーをされており、一日六時間はふみふみ君を使用しているという、かなりの上級者なのです」
 適当極まりない説明を述べる千尋だが、そこは‥‥あるいはここにきてやっと台本通りの展開である。もりゅーはふみふみ君の周囲で軽快に踊り始めると、テレビカメラに向けて指を野性的に突き出してみせる。
「HEYみんな、『ふみふみ君』は、とってもWonderfulな奴だぜ。トレーニングって奴は長続きしないもんだけど、これなら大丈夫! なぜならナウでポップな音楽に乗って歩くだけだからな。coolだぜ! Its a beautiful!!」
 激しく上半身を動かしながら、タップを踏むようにステップを踏み続けるもりゅー。このように踊りながらステップを踏めば、ステッパーであるにも関わらず上半身までも鍛えることができるということを、彼は『ワオ!』という単語で表現してみせる。
「こいつはまさに夢のマシンだぜ! みんなもこいつを使って、日々健康OK!? それじゃースタジオ、後は任せたぜ〜〜!」
 カメラがまたも慌しく移り、再びメインスタジオが映し出される。春と千尋が流していた汗はしっかりと拭い取られていたが、バックで耐えずステッパーを踏みつづけている陣からはボタボタと汗が滴り落ちている。
「はいっ。スタジオにはスペシャルゲストにおこしいただきました〜〜。アイドルの御鏡遥さんで〜す」
 アシスタントの山田が手を引けば、何故かレオタード姿で御鏡遥(fa0368)がカメラに映し出される。今回販売に参加した芸能人の中では若干知名度で秀でる遥は、スポンサーの要求で急遽ゲストとして扱われるようになったのだ。
「やっぱりアイドルって体型を維持するのも大変なんですよね?」
「はい。理想の体型を維持するためには毎日の継続したエクササイズが必要なんです。私の場合毎日ジョギングをしているんですけど、雨の日とかはこの『ふみふみ君』にだいぶ助けられていますよ」
 棒読みではあるが、三人の体験者達が頑張ってくれていた間に志羽が作成した台本を読み上げる遥。体型維持の大変さはグラビアアイドルであるあすかも同じだと思うのだが、そこを取り上げられるのとられないのはやはり知名度の違いか。
「なるほど‥‥‥‥‥‥!」
 頷く春であるが、彼はここにきてとんでもない事態に気が付く。‥‥そう、もう話題がないのだ! 一時間番組はあと十分以上も残っているというのに、遥を含む四人いた体験者の体験談も全て使い果たしてしまった。
 時間を延ばすために遥へ『ふみふみ君を使い始めてからどれくらいですか?』などとも聞いてみるが、それも焼け石に水に過ぎない。志羽や千尋、山田へも視線を移すが、彼らも自分と同じ気持ちらしく、一時間番組が完遂できないかもしれないという事実に笑顔は崩さないもののジワリと汗をにじませている。
 誰でもいい! 誰でもいいから話をふることができる人は‥‥‥‥!!!

「‥‥‥‥ところで陣、現在の心拍数は?」
「147だ!!」
「うわぁ! すばらしい! 一番体脂肪が理想的に燃える心拍数です!!」
(『心拍数はあくまで個人のものです。実際の理想的な心拍数は異なります』)
 春の適当な質問に、陣の適当な回答。そして感嘆の声をあげる遥と、小さな紙をカメラの映る範囲の隅に挟み込む山田の適切なフォロー。
 そうだ、そうなのだ! 危うく忘れかけていたが、我々にはこの番組が始まってからずっとステップを踏みつづけている、ある意味一番このステッパーを体験していた男がいる!
「陣さんはどういったいきさつでこのふみふみ君を始められたのですか?」
「‥‥‥‥」
 千尋からの質問に、陣はステップをやめることなく暫し考え込む。もはやフォローできる人間はいない! この番組の成否は! どれほど予算は少なくとも一時間愛と情熱を捧げ続けた番組の成否は! 陣の双肩にかかっているのである!!
「俺は最初にこいつを見たときに思ったんだ。普通のトレーニングマシンと変わらないじゃないかと。‥‥だが、使ってみてビックリだ! まるでクラブでダンスを踊っているような快感だった! 今では俺もこいつの虜さ!!」
 最高の笑顔、最高のコメント! 番組の残り時間は五分を指し、志羽は拳を突き上げ合図を送る。セットに控えていた体験者達は全員メインスタジオに集まり、互いに肩を組み合う。
 そして彼らは、一時間の間で互いに芽生えた友情を噛み締めながら、全員そろって叫ぶのだ!!

『こんなすばらしいふみふみ君、値段はたったの一万九千八百円!! 限定四十台での御提供になります!!』

 と‥‥‥‥‥‥