ウサチェンジ!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや易
報酬 5.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/28〜04/30

●本文

 ここは東京下町。
 閑静な住宅が建ち並ぶ中、何故か周囲の慎ましい家々の雰囲気をぶち壊すような巨大な洋館が我が物顔で建っている
 そこは、何も隠していないが、何を隠そう(決まり文句)マッドサイエンティストの堤野さんの御宅なのだ。
「うっふ〜ん♪やぁっぱり私ってば天才!自分の才能に恐怖しちゃうわぁ〜」
 ねっとりとした喋り方をしているが、彼は正真正銘男性だ。
 本名は堤野 厳と言う、立派過ぎるくらいの名前だ。
 折角両親が立派になって欲しいとの願いを込めてつけた名前を彼はお気に召さないらしく、周囲には『ゴンちゃん♪』と呼ぶように強要している。
 語尾の『♪』は必須であり、本名で呼んだり語尾に♪をつけ忘れようものならばどんな危険な薬の実験材料にされるか分かったものではない。
「私、ウサギってだーーーい好きなのよね♪」
 ウサギだけでなく、厳は可愛いものならば何でも好きだ。
「あ!あそこに私好みの超可愛い男の子発見☆」
 この言葉の通り、可愛ければ男の子だろうが女の子だろうが、ワンコだろうがニャンコだろうが「私好み」であり「超可愛い♪」であり「実験材料発見☆」なのである。
「薬を弾に詰めてぇ、照準を合わせて‥‥えいっ!」
 弾はいたいけな少年に当たる前に弾け、中から黄緑色の煙が噴出する。
「うわ、なんだこれ!」
 むせるまくる少年の前に立つ厳。煙を手で払いながら少年の腕を掴み‥‥
「きゃぁん!大成功☆」
「い‥‥一体何なんですか‥‥」
 目に入った煙が痛いからか、涙を流す少年。
 厳が背後から鏡を取り出し、少年の前に差し出す。
「な‥‥何ですかこれぇぇぇぇっ!!!」
 絶叫する少年。
 それもそうだろう。何故ならば、彼の頭には真っ白な長い耳がピンと立っていたのだから‥‥
「ウサ耳よん☆かーわいい!!これで全世界バニーガールコンテスト優勝できるわね!」
「全世界って‥‥いや、それ以前に僕、ガールじゃないです!」
「細かい事はき・に・し・な・い・のっ!」
「気になりますよっ!!それより、早く治してくださいーーっ!!」
 ウルウルしながら厳を見詰める少年。
 厳が口の端をニィっと上げると、彼の瞳を覗きこむ。
「貴方、お隣の南原さん家の嵐ちゃんね?」
「そうですよ!!ゴンちゃん♪さん、早く治してくださいーーーっ!!」
「‥‥そう言えば嵐ちゃん、昔人参嫌いだったわよね?今はどう?好き嫌いはなくなったのかしら?」
「‥‥いえ、まだ‥‥」
 それがこの事と何の関係があるのかと、抗議の瞳を向ける嵐。
「あらあらぁ〜ん。困ったわぁ〜。実はね、これは心身ともにウサギの気持ちが分かって始めて効果のなくなる薬なの」
「何でそんなもの作ったんですか!!」
「私、ウサギが好きでぇ〜ウサちゃんの気持ちを少しでも知りたいなぁ〜って」
「だったら何で僕がウサギになってるんですか!?」
「実験よぉ〜!もし失敗してたら大変じゃなぁ〜い」
「僕はどうでも良いんですかぁぁぁ!!??」
「うぅーん、良くはないんだけどぉ〜。えっとー、だからつまりぃ、嵐ちゃんがウサちゃんの気持ちを理解できれば勝手に効果はなくなるわけであってぇ〜」
 厳はそこまで言うと、嵐の耳元に顔を近づけた。
「ウサちゃんって確かぁ、人参好きだったわよねぇ〜?」
「そ‥‥そんな事言われたって‥‥!嫌いなものは嫌いなんですっ!!」
「うーん、私としてはそのままの嵐ちゃんが好きだから、問題ないんだけどねぇ〜。別に強要はしないわよぉ〜?嵐ちゃんがウサ耳で生きていくって覚悟を決めたんなら無理しなくても良いんだし」
 嵐はウサ耳に恐る恐る手を触れると、ウルリと瞳を潤ませ‥‥
「ゴンちゃん♪さんなんて嫌いだぁぁぁっ!!」
 そう叫びながら走り去った。
「私は嵐ちゃん好きだけどねぇ。素直で、騙されやすくて」
 今回も謀った厳。あと数時間もすれば効果は切れるだろうが‥‥果たして嵐は人参嫌いを克服する事が出来るのだろうか‥‥?


≪映画『ウサチェンジ!』募集キャスト≫

*南原 嵐(なんばら・らん)
 厳のせいでウサ耳の生えてしまった少年
 小さい時に母親の作った強烈に不味いキャロットケーキを食べさせられて以来人参嫌いに
 →嵐の母親はお料理下手(現在は父親が料理を作っている)
 外見年齢13〜18程度

・堤野・厳(つつみの・いわお)
 ロクでもない研究&実験に勤しんでいる男性
 実年齢は不明だが、外見年齢は20代後半
 可愛い物が大好きで性格はいたって乙女チック

・その他
・嵐の家族
→ウサ耳にも驚かないと言う脅威の寛大さ
・嵐の友人
→家族同様、ウサ耳に驚かない脅威の寛大さ

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3411 渡会 飛鳥(17歳・♀・兎)
 fa3742 倉橋 羊(15歳・♂・ハムスター)
 fa5176 中善寺 浄太郎(18歳・♂・蛇)
 fa5625 雫紅石(21歳・♂・ハムスター)

●リプレイ本文

 きゃーっ!!と言う、甲高い悲鳴に出迎えられた嵐(倉橋 羊(fa3742))は声の主である双子の妹・凪(渡会 飛鳥(fa3411))に視線を向けた。
「嵐ちゃん、それ、その耳‥‥」
「うう、そうだよな、これじゃ変態だよな‥‥でも、これは別に僕の意思じゃなくて‥‥」
 震えながら嵐を指差す凪。耳を両手で隠し、顔を真っ赤にした嵐が唇を噛み‥‥
「可愛いーー!!」
「へ!?」
 抱きつかれ、うろたえる嵐。廊下の奥から姉の颯(ブリッツ・アスカ(fa2321))が顔を出し、嵐のウさ耳を見て凍りつく。
「見て、嵐ちゃんに耳が生えたのよ!」
「おいおい、そんな嘘に騙されるかっての。しっかし、よく出来てんなこれ」
 颯が嵐の耳に触れ、温かい感触に閉口する。
「本物だったのか」
 あっさり風味のリアクションを返し、本物なんだから良く出来て見えるのは当たり前だよなと、妙な納得をする。そんな颯の背後から姿を現した妹の風(角倉・雨神名(fa2640))が無邪気に嵐の腕を取る。
「嵐兄、サーカスに行こうよ!嵐兄が出演者で‥‥出し物とも言うけど」
「お前は鬼か!」
「世のため人のため、萌えのため、金のため‥‥どこかに投稿でもしようかな。ネット配信するのも悪くはないけど」
 カシャリと写真を撮ってそんな恐ろしいことを呟く風。
「1人だけずるいよ嵐ちゃん!こんな可愛いの、羨ましい!」
「羨ましくなんてないっ!凪に生えれば良かったんだ‥‥」
 落ち込む嵐と、頬を膨らます凪。暫く何かを考え込んだ後で自室へと取って返し、ジャーンとウサ耳カチューシャを見せると頭の上に乗せる。
「お揃い〜♪」
「双子兄妹のウサ耳セットで売り飛ば‥‥」
 可愛い片割れの頭を撫ぜていた嵐が、可愛くない妹の発言に手を止める。
「いや、なんでもないよ。それにしても、こんな素晴らしいものを開発するなんて、ゴンちゃん♪は尊敬に値するね!」
「尊敬なんて出来ないよ!もう、何でこんなことに‥‥」
「よく似合っているし可愛いぞ?」
 道中でばったり会い、成り行きで家まで引っ張ってきてしまった嵐のバイト先の先輩である村上蒼太(中善寺 浄太郎(fa5176))が空気を読めていないボケ発言を繰り出す。
「とりあえず、ウサギの気持ちを理解するにはウサギ跳びとかどうだ?」
 颯がそんな事を提案し、人参を食べなくても済みそうな解決方法に嵐が目を輝かせる。
「それなら気持ちが分かるかも!」
「えーっ!治しちゃうの?すごく似合ってるのにぃ」
 残念そうに肩を落とす凪だったが、キッチンへと走って行くと簡単なお弁当を作り、冷たい麦茶を持ってくる。
「その格好で表に出るのはまずいだろうし、とりあえず庭を一周してみるとか!」
 嵐がその提案を受け入れ、庭へと出るとウサギ跳びを開始する。
「ウサギになるのよっ!!(アニメで見た)元悪役覆面レスラーさんの特訓は、もっと厳しかったわ!ウサギ跳びで富士山を上り下りするの!それを考えれば庭一周なんて軽いものよ!嵐ちゃんもやれば出来る、頑張って!」
 妙な声援を飛ばす凪。風が兄の雄姿を写真に撮り、幾らで売ろうかとドス黒い考えをめぐらせる。一周終わり、その場にへたり込む嵐。無論、ウサ耳はついたままである。
「こ、こんなんでウサギの気持ちが分かってたまるかー!あんな愛らしい外見してるのに、毎日こんな過酷な生活をしてるなんて思えないよ!」
「ま、本物のウサギってそんな跳び方しないしなぁ」
「‥‥僕で遊ぶなよ、もう!」
 あっさりと言われ、頬を膨らます嵐。凪が「頑張ったね」と言いながら冷たい麦茶を差し入れ、それを一気に飲み干した時、2人の人物が庭に姿を現した。
「五月蝿いんだけど。何の騒ぎ?」
 弟の天(大海 結(fa0074))が心底迷惑だと言う表情で一同を見渡す。颯が手短に経緯を語り、天がチラリと嵐に視線を向けると。
「別にいつもと変わらないと思うけど」
「変わるだろ!?」「いつもより可愛いよぉ〜!」
 双子のダブルサウンドに耳を塞ぐ天。
「いっそそのままで生きてけば?嵐なら立派なウサギになれるよ」
 冷たい反応に、コイツは小さい時からそうだったよなと溜息をつきかけた時、それまで黙っていた嵐の友人の仁木 港(姫乃 唯(fa1463))が顔を輝かせると嵐の背中を叩いた。
「やっと人参嫌いを克服する気になったのか!そうだよな、子供じゃないんだから人参くらい食べないと!いやぁ、俺は嬉しいよ!」
「そう言えば、人参嫌いって子供の頃からって言ってたよな?味覚は変わるし、もう食べれるようになってるかもな」
 そう呟いた蒼太がふらりとどこかへ姿を消し、港がポンと手を打つ。
「嵐は不味いキャロットケーキを食べたせいで人参嫌いになったんだろ?なら、その理由を取り除いてやれば良い」
 真剣な様子の港が懐から人参と唐辛子を取り出し、何でそんな物を常備してるんだと言うツッコミをさせずに嵐にそれを押し付ける。
「つまり、唐辛子を掛けた辛〜い人参を生のまま食べればいい!これで人参嫌いが克服できるはずだ!俺と嵐の仲だ、遠慮なんかいらないぞ、バクっと食べるといい!」
 このぶっ飛んだ思考はすなわち『キャロットケーキ=調理された甘い人参→生で辛い人参なら大丈夫なんじゃ!?』と言う、ボケな考えから生まれたものだった。
「赤いんだけど、赤すぎなんだけど!!そもそも唐辛子の意味は!?」
「甘くない!」
 そりゃそうだ。何でこんな事になってるんだと途方に暮れる嵐の隣では、我関せずな天が「頑張れ〜」と適当な声援を送っている。凪までもが一生懸命応援しだし、助けを求めて颯へと向けた視線はあっさりとそらされる。風が困っている兄の写真を撮りまくり‥‥
「嵐、急いで人参の料理を作って来たんだけ‥‥ど?」
 蒼太が異様な雰囲気の場に凍りつく。両手には調理師志望の専門学生である蒼太が作った美味しそうな料理の数々が並んでおり、嵐は嬉し涙を流しながら唐辛子人参を足元に落とした。


「どれか1つくらいは口に合うと良いんだけどな」
 煮物を箸で摘み、目をつぶりながら口の中に放り込む嵐。もごもごと咀嚼し‥‥
「‥‥あれ、美味しい‥‥」
 目を丸くして首を傾げる嵐。「え、これ人参?」と言って指をさせば、蒼太が大きく頷く。
「何か、結構大丈夫かも。‥‥そっか、ウサギってこんな味が好きなのかー」
 感心し、目を輝かせる嵐。港が嵐の人参嫌い克服を祝福して肩を叩く。
「よくやった。お前はやれば出来る子なんだからな!」
「嵐ちゃん、頑張ったね、おめでとう!」
 凪が頭を撫ぜ、颯も嬉しそうに微笑む。いつの間にか『嵐君、人参嫌い克服おめでとう会』になだれ込みそうになる雰囲気を止めたのは、天だった。
「嵐、耳‥‥」
「そうだった!僕、耳のために人参嫌い克服したんだった!」
 すっかり場の空気に流されていた嵐が頭の上に手を当て、満面の笑みになる。
「良かった、学校もバイトも行けなくなるところだった!おかえり、僕の輝かしい人生!先輩、ありがとうございました!」
「‥‥でも、ちょっともったいなかったな、可愛かったのに」
 蒼太がまたも微妙な発言をし、凪がウサ耳カチューシャをはずす。
「嵐ちゃんがウサ耳になれば私もウサ耳、嵐ちゃんが戻れば私も戻るの!いつも一緒♪」
「凪‥‥」
 可愛い片割れの言葉にウルリとなったその時、窓から突然1人の男性が入ってきた。
「嵐ちゃん、人参嫌い克服おめでとう〜!」
 厳(雫紅石(fa5625))が白い包みを持って入ってくると、嵐の前に立った。
「ゴンちゃん♪さん!全く、何て事してくれたんですか!消えたから良かったけど、反省してくださいよ!」
「嵐ちゃんの頑張ってる姿はちゃんと見てたわ」
 あの後、急いで自宅に戻ってキャロットケーキを作り、嵐の家まで来て皆の奮闘する姿を窓の外や塀の陰からこっそり見ていたのだという。改めて言う必要もないとは思うが、つくづく怪しい人だ。
「はい、ご褒美♪」
 白い箱を差し出され、嵐は微笑んだ。
「今度こそ美味しく感じられますよね」
 甘い物が大好きな凪が思わず厳の頭を撫ぜ「お土産に貰った紅茶があるの、皆でお茶しましょう♪」と言いながら新品のタキシードウサギさんつきティーポットを取り出し、紅茶の用意を始める。天がキャロットケーキを食す事を拒否してソファーの上に寝転がる。
(普段から怪しい事してる人の作った物がまともだと思えないし)
 正論だ。風と港がお茶の用意を待ちきれずに手を伸ばし‥‥一瞬だけ、風の顔が引きつる。
「うん、旨いぞ!」
「う、うん、美味しい!」
 港の反応にギョッとしつつも、風が精一杯の笑顔で嵐の前にケーキを差し出す。颯もケーキを口に運び、美味しいと呟いて微笑む。嵐がパクリとケーキを口に入れ‥‥
「‥‥‥‥!!ま、まっず、まっずっ!!ちょ、何これ!?魔界?魔界の食べ物!?」
 凪が慌てて差し出したコップの水を一気に飲み干し、渋い顔でうつむく嵐。
「どうした、嵐?」
「人参嫌いはもう治ったくせに、照れ隠しか?しょうがないヤツだなぁ」
「ゴンちゃん♪さん、これ何入れたんですか!?」
「お砂糖と人参と、匂いが控えめな漢方薬を入れたわ!名付けて『ゴンちゃん♪特製滋養強壮活力復帰キャロットケーキ』よ!」
 匂いは控えめでも、味は強烈だ。
「やっぱり人参なんか嫌いだー!!!」
「‥‥本当、母上のキャロットケーキそっくりな味がしたよ」
 風はそう呟くと、それまで保っていたポーカーフェイスを崩した。