Last Angelアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
15.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/06〜05/09
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●本文
白い羽、長い金色の髪
透けるような白い肌、どこまでも深い青の瞳
「何のために、貴方は戦っているの?」
目の前に降り立った少女はそう言うと、首を傾げた
鈴を転がしたような綺麗な声は、甘い響きを帯びていた
「戦わなきゃ、やってけねーだろ」
「人は、何かのために戦う。大切な人を守るため、自分を守るため、強くなるため」
「強くなるために、戦うんだ」
「貴方は十分強い」
「それじゃぁ、自分を守るためだ」
「貴方は自分を守ろうと思っていない。貴方はもう、世界の終わりを受け入れてる」
俺はゆっくりと立ち上がると、傍らに転がった剣を持ち上げた
「お前は俺を迎えに来たのか?」
「いいえ」
「人間界が荒れてるのを、面白がってるのか?」
「いいえ。荒れてるのは、人間界だけじゃない。世界の終わりは、どこでも平等に訪れる」
「世界の終わり、ね」
「私が、最後の天使」
ふわり、天使は柔らかく微笑むと白い羽を広げた
「天界は、滅びたのか」
「魔界も同様に。今、かろうじて生き残っているのは人間界だけ。それも、いつまで持つか分からない。人と人は、互いに滅ぼしあっている」
「お前、これからどうするつもりだよ」
「ここから北に行ったところに、最後の人間達がいる。私と貴方がそこに行けば、全ての魂が集まる」
「集めて、どうするんだよ」
天使は何も言わずに、相変わらず慈悲深い笑みを浮かべていた
風が金色の髪を優しく撫ぜ、白い羽が揺れる
「集めて、どうするんだ?」
「最後の1人を決める。戦いの果てに残った1人の魂を抱き、私は新しい世界を作る」
「お前は、神か?」
「いいえ。今はまだ、ただの天使」
≪映画『Last Angel』≫
*募集キャスト
・北の町に集められた人間達
年齢、性別は不問
最後の1人を決めるために戦い合う
・天使役は必要なし
*最後の天使
北の町に集められた人々は、天使の言葉に従って最後の1人を決めるために武器を取る
強くなるために戦ってきた者、生き残るために戦ってきた者、戦わずにただひたすら祈り続けてきた者
世界の最後に悲嘆する者、新しい世界を夢見て奮闘する者、戦いの中で自我を見失う者
最後に生き残り、天使が手を差し伸べる相手は誰なのか‥‥
*お話の展開
天使と男性が北の町に着き、天使から「最後の魂」を選ぶことを宣言される
動揺しながらも、武器を取り立ち上がる人々
・メインは戦闘シーンと人々の心の動き
*テンプレート
名前:(フルネームではなく、苗字だけ、名前だけでOK)
武器:(戦わない場合は必要なし)
相手:(誰と戦い、どちらが勝つのか)
台詞:(最期の言葉など)
●リプレイ本文
天使は残った者達に、武器を取るようにと促した。購う事の出来ない強い力を前に、武器を持ち、逃げるように街中に消えていく人々。天使はふわりと上空に浮き上がると、優しい笑顔で地上を見守っていた。
セト(丙 十哉(fa5574))は長い戦いに心身ともに疲れ果てていた。全身から血の臭いが漂っている様で、死者の嘆きが耳の奥にへばりついている様で、空腹で倒れこんだ時も、このまま深い眠りに落ちても良いとさえ思っていた。そんな彼を救ったのはシア(パトリシア(fa3800))と言う少女だった。セトは、天に祈り続ける彼女を護る事によって、人を殺め続けた自分が少しでも赦されているような気がしていた。
「可笑しいですよね、今まで祈れば救われると無責任に言ってきたのに、とっくに主はいなかったんですよ」
シアは呻くように呟くと唇を噛んだ。セトが剣を片手に空を仰ぐ。どこまでも青く続く空に、天使が座っている。
「シスター、俺は天国へは行けないんだろうな」
「天界は滅びました。それに、私は神の使者ではなく、許しや救いを求められても応えられない‥‥ただの娘なんです」
彼女を理由に人を殺め続けた男。ただ祈る事しか出来なかった少女。その2人の足元に、銀色のナイフが突き刺さった。セトが剣を片手に飛び出し、暁(神保原・輝璃(fa5387))と恵良(奏上 静(fa5576))の姿を見つけると目を細める。元傭兵のセトは、俊敏で獰猛、高い運動能力を備えていた。恵良が放ったナイフを避け、暁の懐にもぐりこむ。暁が体を捻ってセトの剣を避け、左手に持った銃をシアへと向ける。咄嗟にシアの元へと戻り、反射的に腰の銃を抜くと恵良に向けて放つセト。シアの鋭い悲鳴と、乾いた破裂音。セトの放った銃弾は、恵良の服を掠めるようにして逸れると民家の壁を砕いた。
「セトさん!!」
暁の銃弾に倒れるセト。シアが血溜りの中に倒れるセトを抱き起こし、手を握る。
「最期に護りたいものも護れず、何のために傷ついて傷付けて‥‥」
神様は、もういない。空にいるのは、優しく微笑む天使だけ。‥‥セトはこの時になって初めて、救いを求めていたのは神ではなくシアであった事を知った。1人で魂が逝く事のないようにと、強く手を握るシア。
「せめて私が、傍で‥‥」
「ごめんな‥‥お前は、許してくれるか‥‥?」
セトの問いかけにシアが何かを言おうとした瞬間、2人の上に刃が振り下ろされた。
世界の終末は、暁から生きる意味も戦う意義も奪って行った。それでも武器を持ち、利害関係の一致で恵良と組んでいるのは、この先に待っている結末を知りたいからだ。先が無いのなら、せめて結末を知ってから散って行きたい。元軍人であり、数多くの屍を見続けて北の町まで流れ着いてきた彼は、終わりの無い戦いに虚しさを抱いていた。
(終わるのならば、終われば良い。誰が神になろうと、知った事ではない)
上空の天使と目が合う。無邪気な笑顔は、2人の人間が散ったのを見ていても変わる事は無かった。
「残酷だよな。シスターまで殺されるなんてさ」
寂しそうに呟いた恵良だったが、その瞳の奥には無抵抗のまま散ったシアを嘲るような色が光っていた。
迷彩服に身を包んだ自衛官の生き残りである安則(緑川安則(fa1206))は、残弾を確かめた後で懐かしそうにライフルを撫ぜた。
「残り5発か。結構使ったな、この銃も」
腰に下げたコンバットナイフを確認し、他の参加者がいる所まで移動しようと腰を上げる。青い空に広がる、天使の白い翼。その色に心を奪われた時、突然低い唸り声が聞こえた。見れば野犬と化した犬が牙を剥いて威嚇しており、今にも飛び掛ってきそうな様子に慌ててライフルを構える。単純な直線を描いて走りこんで来た犬が銃弾に倒れたのを確認した後、安則はそっと草陰に体を隠した。銃声を聞きつけてやってきた暁と恵良の姿を見つけ、息を潜める。
(何で国民を殺さねばならないのか。まあ、次の世界を創れるならば今の弱腰政府ではなく、軍は国民を護るために存在する、それを証明できるような世界を創ろう)
銃を構え、狙いを定める。ゆっくりと引き金を引き‥‥銃弾は2人に掠る事もないまま、見当違いの方向へと飛んで行った。
「ちっ!スコープの調整が狂ってやがる!」
先ほど発射した際に狂ってしまったのだろう。暁が安則の焦りを敏感に察知し、走り出す。1発目が右に逸れ、2発目が暁の足を捉える。そして、最後の1発が暁の左胸へと打ち込まれた。心臓の脇を通り抜けて行った鉛弾に、暁の体が力なく地に倒れこむ。鮮血が土を染め、暁は力を振り絞って空を見上げた。澄んだ空に浮かぶ天使。その顔が、シアとダブル。
「‥‥俺はもう、無理に生きる必要は、無いん‥‥だよな?」
彼女が微笑んでくれた気がした。この世界からやっと解放される‥‥暁は口元に微笑を浮かべると、目を閉じた。
「あーあ、彼も所詮はそんなもんだったかぁ」
暁の死に簡単な感想を漏らすと立ち上がり‥‥突然背後に人の気配を感じ振り向けば、由依(那由他(fa4832))の持った日本刀の刃が恵良の腹部に深く刺さっていた。刃が引き抜かれ、膝を折る恵良。由依が走り去り、残された恵良は自嘲気味に微笑むと口を開いた。
「‥‥これで、ホントの‥‥GAME・OVER、ってか‥‥」
天使が変わらない笑顔で恵良を見つめている。薄れ行く意識の中、自分はこの結末を知りたがっていたと言う事を悟った。
(結局俺も、天使の掌で踊らされた道化でしかなかったってわけか‥‥)
最後の魂、新しい世界。その2つの言葉が浮かんだ瞬間、恵良の意識は闇に呑まれた。
安則のライフルはもう弾が無い。それを知っていた由依は、ほんの少しでも彼の気をそらせれば自分に勝機がある事を分かっていた。足元に転がっていた小石を道に放り投げ、安則がピクリとそれに反応した瞬間、背後から近づくと斜めに斬りつけた。ドサリと足元に倒れこんだ安則を暫し見た後で、彼の死を感じ取った由依はその場を後にした。
「‥‥くそ、靖国の綺麗な桜が見えてきた‥‥できれば、神様とやらに‥‥」
唇は言葉を紡ぐが、息が洩れる音がするだけで声にはならなかった。茶色い土を見つめ、ふわりと何かが目の前に降り立つ。白い足に視線を這わせ‥‥天使の、優しい笑顔を網膜に焼き付けると安則は目を閉じた。
由依は、新しい世界を創れると聞き、失った夫や子供、友人達を取り戻そうと考えた。自分の都合のいい世界、悲しい事なんて何も無い世界‥‥。何十年と積み重ね、育んで来た幸せを理不尽に奪われたのだ。それを再び取り戻せるのならば、何でもする‥‥。それはある意味では、自分が散らせた者達への言い訳のようにも聞こえた。
純(ブリッツ・アスカ(fa2321))は隣を歩く弟の圭介(百鬼 レイ(fa4361))をチラリと見ると、人差し指を立てて唇に当てた。圭介の力量も考え、なるべく戦わずにここまで生き残ってきたのだが、どうやら残りは自分達の他に後1人になったらしい。時折聞こえてきた銃声や、人が倒れる鈍い音はもう聞こえて来ない。
(こいつだけは、絶対俺が守らないと)
少々ヘタレの気があり頼りない圭介と、気の強い純。小太刀を両手に構え、息を潜める。日本刀を構えた由依が姿を現し、一気に地を蹴って走りこんでくる。刃を合わせただけで分かる力量の差に、純は賭けに出た。右の小太刀を投げ、由依がそれを振り落とす。その一瞬の隙を突いて懐に飛び込もうとし‥‥由依が無防備な圭介に刃を向けようとしているのを悟り、体の動きが鈍くなる。その隙を逃さず、由依が純に刃を振り下ろす。
(‥‥最初から、読まれていたのか‥‥)
熱い痛みに気が遠くなりながらも、純はそう悟った。
「姉ちゃん!」
圭介が絶叫し、純は視線を上げると今にも泣き出しそうな弟の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「お前は、絶対生きろ‥‥」
圭介の右肩の上に、天使の笑顔が見える。最後の一騎打ちを間近で見ようと天使が降下して来て‥‥2人の姿が重なり、まるで圭介の背中から白い羽が生えているように見えた。純は愛しい天使に微笑を向けると、すっと目を閉じた。
安らかな純の顔に、圭介は拳銃を握ると唇を噛んだ。
(絶対生きてやる‥‥姉ちゃんの分も、皆の分も‥‥)
由依が動く気配を感じ、引き金を引く。右に逸れ、左に逸れ、由依の日本刀の刃が圭介に届く‥‥そのギリギリの距離になって、放った銃弾が由依の左胸を捉えた。驚きに目を見開き、その場に倒れこむ由依。
「あ、あたしはまだ死ぬわけには‥‥」
揺れる視界の中、天使と目が合う。幸せを返して‥‥必死に伸ばした右腕は、虚しく宙を切った。
「貴方は最後の1人。おめでとう。貴方は、私の元で一緒に世界を創るの」
天使の笑顔から目をそらすと、圭介は今にも消えてしまいそうな声で言った。
「‥‥新しい世界は、大切な人と離れてしまわないように、争いの無い世界に‥‥」
「無理よ」
キッパリと言い放った天使の手の中に、小さな球体が現れる。水色の美しいそれは、地球だった。
「言ったでしょう?『最後の1人を決める』って」
天使の手の中で、凄まじいスピードで変わっていく地球。生命が誕生し、成長し、滅びて行く。ビルが建ち並び、緑が失われ、世界の終わりが訪れる。
「誰が『最後まで残る』のかしら‥‥」
再び北の町に集められたのは、圭介を除いたあの時の7人だった。