折鶴の行方アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
14.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/08〜05/11
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●本文
鶴が1羽、鶴が2羽
綺麗な和紙を折り畳む
鶴が3羽、鶴が4羽
畳の上に並べられた折鶴達
鶴が5羽、鶴が6羽
藍・紅・萌黄・瑠璃・蘇芳
鶴が7羽、鶴が8羽
浅葱・臙脂・菫・桜・辰砂
鶴が9羽、鶴が10羽
綺麗な細い指が止まる
これで全部の鶴は折り終わった
必要な鶴は全部で10羽
不必要な鶴は数え切れないほど、屋敷中にばら撒く
つと立ち上がり、淡い桃色の着物を引きずりながら引き戸を開ける。
そこに見えるは混沌たる世界。本来空があるべき場所は鈍色に、本来地があるべき場所は煤竹色に。
「母上様、父上様、兄上様、姉上様。穂の折った鶴、見つけてくださいましね?」
漆黒の長い髪が畳を優しく撫ぜる。歳の頃は6か5か、長い睫に涙を溜め、輝くばかりに美しい少女は桜色の唇を笑みの形に歪めた。
「穂の事をお忘れではないのならば、見つけてくださいますよね?もし、見つけてくださらないのならば、穂は‥‥」
遠くから、声が聞こえる。
か細い少女の声は、心地良く揺れていた。
『母上様、父上様、兄上様、姉上様。穂の折った鶴、見つけてくださいましね?』
遠く遠く、それこそ、自分が生まれる前、同じ言葉を聞いた気がする。
その時自分はなんと答えた?確か、きっと見つけてみせると答えた。
可愛い彼女のお願いを叶えてあげようと思った。
けれど結局、彼女の折った鶴は見つからなかった。
屋敷内に広げられた、色とりどりの美しい折鶴達は、指先が触れただけで儚く崩れ落ちた。
『穂の事、お忘れではありませんよね?』
不安げに震える声に、力強く頷き返す。
勿論、忘れてなんていない。貴方は可愛い可愛い、妹なのだから。
『今度こそ、穂の折った鶴を見つけてくださいますよね?』
10羽の鶴が頭の中に描かれる。藍・紅・萌黄・瑠璃・蘇芳・浅葱・臙脂・菫・桜・辰砂‥‥
『もし、見つけてくださらないのならば、穂は‥‥穂は‥‥』
ふっと、意識が遠くなる。軽い浮遊感が襲い、世界が回り始める。
『悲しみの末、再びお命を奪いましょうぞ‥‥』
意識が闇に呑まれる。今度こそ、あの子の折った鶴を見つけなくては。
あの子の魂を、あの呪われし屋敷から解放するために‥‥
≪映画『折鶴の行方』≫
『穂と呪われし屋敷』
穂は貴族の末娘で、生まれた時から体が弱く、屋敷の外に出たことがありませんでした。
そんな穂を、両親も兄姉も大変可愛がっていました。
穂との遊びは折り紙やおはじき、お手玉など、家の中で出来るものが中心でした。
特に穂は折り紙を好み、折鶴を屋敷のどこかに隠しては両親や兄姉に探してもらうと言う遊びをよくやっていました。
穂の体調の良い時は両親の友人や兄姉の友人、屋敷に出入りする者も一緒に折鶴探しをしていました。
生まれた時から長くは生きられないと言われていた穂は、6歳の時の寒い冬の晩に突如体調を崩し、床に伏せってしまいました。
数日間苦しんだ後、穂は病床に集まった人々にある1つのお願いをしました。
『穂の折った鶴、見つけてくださいましね。穂を愛してくださっていたのでしたら、すぐに見つけられますよね?』
穂の折った鶴は全部で10羽。その場にいた者は、穂の命の炎が消える前にと、急いで屋敷の中を探し始めました。
しかし、折鶴は1羽も見つけることが出来ません。とうとう穂の目が閉じ、つぅっと一筋の涙が頬を滑りました。
愛されていないと思い込んだ穂の魂は屋敷に囚われ、悲しみのあまり屋敷にいた全ての人々の命を奪ってしまいました。
『穂を助けるために』
あの日屋敷の中にいた人々は、転生するたびに穂の魂に呼ばれ、穂の折った10羽の折鶴を探すために屋敷内を歩き回ります。
屋敷の中には無数の折鶴が落ちていますが、穂の折った鶴以外は触れれば崩れ落ちてしまいます。
自分の前世が誰だったのかと言う記憶もあり、姿形は変われども相手が誰なのかも分かります。
協力し合うも、1人で行動するも自由ですが、穂を解放したいと言う気持ちは全員一致の考えです。
『決められた時間』
制限時間は、穂が病床の折にお願いし、儚く散ったまでの間‥‥半日となります。
その時間内に10羽全て見つけられれば穂は解放され、安らかな魂の終わりを迎えます。
屋敷内にいた人々は現実の世界へと飛ばされ、前世の記憶は失われます。
10羽全て見つけられない場合は、穂の悲しみによって屋敷内にいる全ての人の命が奪われます。
*募集キャスト
*折鶴を見つける人
穂の両親、兄姉、屋敷に出入りしていた者 など
・穂(すい)をキャスティングする必要はありません
●リプレイ本文
直接耳に響いた穂の声に、菫(姫乃 唯(fa1463))は叫んだ。
「待って穂ちゃん!私は貴方の事‥‥」
すっと消えた気配に、愛していると紡ぐ事は出来なかった。目を開ければ見慣れた大広間に、8人の人物が棒立ちになっていた。
「折鶴を、全て見つけるしかないのよね」
「私は帰ってきた‥‥。二度と繰り返させないように」
蓮(角倉・雪恋(fa5003))が低く呟き、視線を上げる。
「そうですね、必ず‥‥見つけ出しましょう」
晴美(春雨サラダ(fa3516))が頷き、「今度こそ全部の鶴を見付けなくちゃ」と葉(倉瀬 凛(fa5331))が唇を噛み締める。
「穂の哀しい顔はもう見たくないから‥‥」
「待っていて、必ず見付けるから」
菫が胸の前で手を組み、視線を素早く合わせると屋敷の中に散って行った。
菫は自室を隅々まで探しながら、焦燥感に首を振った。
「思い出して、確か穂ちゃんは私の部屋にもよく隠してた」
見つからない折鶴に、ここではないのかと言う思いが湧き上るが、穂ならばきっとこの部屋に隠しているはずだ。
「どうして見付けられないの!?貴方の事、忘れてなんかいないのに!」
妹の全てが愛しかった。穂が散って行ったあの寒い冬の日、菫はいつまでも亡骸にすがり付いて涙を流していた。苦しくて、悲しくて、温かかったはずの手が、冷たくて‥‥
「いつも一緒に折り紙折って‥‥折り紙?‥‥そうだ!」
菫は、穂が折ってくれた折り紙を宝物入れに入れて大切にしていた。部屋の隅から箱を引っ張り出し、中を覗き込めば菫色の折鶴が1羽、チョコンと乗っていた。
(穂ちゃん‥‥)
自分の名前と同じ色。菫は目を潤ませながら、鶴を胸に抱いた。現世では高校生の彼女は、前世と同じ菫と言う名前だった。
記憶を手繰り、以前とは違う場所を探すも手当たり次第に掴んだ鶴は崩れ去っていく。前も一生懸命探した、けれど見つからない。それは、探し方が悪いのだろうか。探している時は見つからないのに、止めた途端に見つかる事もある。葉は焦る気持ちを落ち着けるため、手を止めた。
「愛していたならすぐに見つけられる、か。‥‥以前もそんな事言われたような‥‥」
記憶を手繰り寄せれば、いくつもの穂との思い出が蘇る。
「人形遊びだけは女の遊びだからって断ってたっけ」
断るたび、寂しそうに俯く穂の姿があった。
「でも、愛しているならってせがまれて、一度だけ付き合ってあげた事があったよな」
妹の部屋に入る。大事にしていた人形が棚の上にひっそりと座っており、その服の中に萌黄色の鶴が隠れていた。つぅっと涙が零れ『瑶』の中学校の制服に濃く染みを作った。
穂の看護婦をしていた晴美はよく屋敷に出入りしていたとは言え、それほど屋敷内に詳しくは無かった。穂の部屋の布団や机などを探すが、触れた鶴は崩れ落ちていくばかりだった。現世の『晴川』は医師となり、多くの人々の命を救っている。それなのに『晴美』は未だに穂を救えていない。やりきれなさが胸に広がり、焦る心が諦めを呼ぶ。
(もう駄目だ‥‥)
そう思い始めた時、部屋の隅に置かれていた鞄に目が行った。
「そう言えば、黒くて大きな鞄は似合わないと‥‥穂様と一緒に笑いました」
懐かしい思い出に浸りながら鞄を開けると、桜色の鶴がチョコンと座っていた。思わず安堵の表情が浮かび、晴美は鶴を手に乗せた。
「一番私との思い出のある場所に入れてくれたんですね、穂様‥‥」
穂の影響からか『恋』は現在、恵まれない境遇の子供達を取材しているリポーターになっていた。だからこそ、実感するのは命の大切さだ。穂を今度こそ止めてあげないと‥‥そうは思えども、鶴はなかなか見つからない。蓮は小さい時に両親が亡くなり、親戚の穂の家で一緒に暮らしていた。年下ながら、一生懸命蓮を励ましてくれた穂。
『お姉ちゃんの瞳、とても綺麗よ』
瑠璃色に近い瞳を見て、穂は瞳と同じ色の折り紙で鶴を折ってくれた。蓮はうまく作れなかったけれど、穂は本当に上手で‥‥
(よく鏡台の所で私の瞳と折鶴を比べて談笑してたっけ‥‥)
ふと見れば鏡台の下、隠れるように鶴が座っていた。灯台下暗し、蓮は鶴を掌に乗せると鏡台に映る自分の瞳と見比べた。
「以前の私は、穂ちゃんを思う気持ちが足りなかったのかしら‥‥」
現世では春から大学生活に入る『愛莉』(富士川・千春(fa0847))だったが、前世では穂の教師をしていた。家庭教師と言えど、読み書きを教える程度で合間に穂の姉兄を呼んで折り紙やおはじき、お手玉などをして遊んでいた。文華は穂の部屋に入ると隅々を探し始めた。なかなか見つからない‥‥ふと視線を落とせば畳縁から藍の羽の先っぽが見えていた。畳を剥がし、鶴を救出する。どうやら枕元に置いていたのが落ちてしまったらしい。
「私が帰った後も、折っていませんでしたか?次の日に来ると、折り紙を折って見せてくれましたよね」
文華は藍色の鶴に話しかけると、目を閉じた。
厳格な性格の務(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))は穂にはやや甘かった。隠居していた身で在宅していた事も多いため、孫娘の遊び相手になってあげた事もよくあった。無数の鶴に惑わされ、自室をざっと調べた後で椅子に腰を下ろす。懐かしい日本家屋‥‥現在はアメリカ人のライターである『ジム』は、仕事で来日し、ホテルで原稿を書いていると穂に呼ばれた。‥‥体が弱く、外で遊べずに寂しそうに窓の外を見つめていた穂‥‥。
『そこは大事なものをしまっておく所だから、悪戯してはいかんぞ』
突然、そんな台詞が脳裏に蘇った。あれは確か、穂が自室に来た時‥‥部屋の隅にある、臙脂色のビロードの敷かれた棚を指差し、あれは何?と問うたのだ。美術品や貴重な書物が入った棚だからと、笑いながら穂に注意した‥‥。ふと立ち上がり、棚の中のものを無造作に押しのける。中にはビロードと同じ臙脂色の鶴が、棚の片隅にひっそりと置かれていた。
現在は自営業の酒屋をしている弘(木場修(fa0311))は前世も忙しい人だったため、あまり穂とは関わっていなかった。弘嗣は娘がどこで遊んでいたのか分からなかった。そのため、納屋や厩など、穂が行きそうに無い場所ばかりを探しては落ち込んでいた。途方に暮れながらも、納戸の入り口で辰砂色の鶴が座っているのを見つけた。まるでそれは、弘嗣に見つけた貰いたくてそこで待っていたかのようで‥‥
「こんな所で遊んでいたのか」
胸に抱けば儚く散ってしまいそうだった愛しい娘。明るく愛らしい笑顔も、触れてしまえば壊れてしまいそうで‥‥怖かった。弘嗣は鶴を胸に抱くと、流れそうになる涙を懸命に堪えた。
現在は広告代理店の中間管理職をしつつも夫と子を支えているサバサバした知性的な女性『綾』(藤緒(fa5669))であるが、昔は物静かで良妻賢母と言った印象の母親だった。
(穂は、愛しくも哀しい娘)
たった6つで苦しみながら逝ってしまった‥‥最後の約束すら守れずに、逝かせてしまった‥‥。焦る心を抑えつつ、お手玉の籠を覗く。庭を眺める縁側、穂と過ごした思い出の場所を巡る。けれど、鶴は見つからない。隠せる場所は限られていると言う思考が邪魔し、どうしても偽者の鶴に惑わされてしまう。
「愛しくないはずなどないのに‥‥何故見つからないの?」
刻々と過ぎる時に焦りはじめた時、辰砂色の鶴を手にした弘嗣と鉢合わせた。
「あなた、その鶴‥‥」
「納戸でな」
愛しそうに鶴を撫ぜながら、弘嗣は言葉を切った。私も頑張らねば‥‥そう思った時、ふと脳裏にある場所が浮かんだ。
「そう言えば、穂は貴方のお仕事の邪魔をして困らせていましたね」
そっと書斎に入り、引き出しを引く。最近ではパソコンばかり扱っているが‥‥たまに机で文字を認める夫の姿を見ると、懐かしいと思っていた。カサリと音がし、上下の引き出しの間に挟まった蘇芳の鶴を見つけた。
「こんな場所に‥‥色もまぎれて、間に落ちてしまっては見つけられませんでした‥‥」
それでも、見つけてあげられた。巴は安堵の溜息をつくと、鶴を手の中で優しく撫ぜた。
屋内はくまなく探したが、残りの2つが見つからない。
「外にあるなんて事は‥‥でも‥‥」
菫が呟き、晴美がふと看護をしながら外の様子を話して聞かせた事、一緒に空を眺めた事を思い出し、窓の外に視線を向けた。木の間に座る、浅葱色の鶴‥‥
「穂様の代わりに、お外で遊んでいたんですね」
晴美が涙混じりに言い、務が外へと出る。後1羽‥‥もう、全ての場所は探したはずだ。
「後1つなのに見つからないなんて!」
葉が口調を荒げ、巴がふっと遠い目をすると口を開いた。
「穂、全部見つけました」
ふわり‥‥穂が姿を現し、首を傾げる。
「穂ちゃん、紅色の鶴は、貴方が持っていたのね」
菫の言葉に、手を開ける。小さな掌に包み込まれた紅の鶴。『愛しいと思うなら、傍にいて欲しい‥‥』手元に鶴を隠した穂の願いを、巴は見事に言い当てた。
「‥‥あの時、気づいてあげられなくてごめん」
葉が穂に手を伸ばし、そっと頬を撫ぜる。
「今度こそ安らかに‥‥」
巴がその場に崩れ、弘嗣が肩を抱きとめる。
「穂ちゃんの事を忘れても、私は子供達に会い続ける。その誰かが穂ちゃんかも知れない、だから‥‥さよならは、言わないわ。また会いましょう♪」
蓮の言葉に穂は明るく微笑むと『有難う』と呟いて消えて行った‥‥