妖人夜行譚アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
宮下茜
|
芸能 |
3Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
05/09〜05/12
|
●本文
綺麗な畳が敷かれた和室で、麹塵 藍は琴の澄んだ音色を響かせていた。
腰まで伸びた長い黒髪がはらりと背を滑り、畳の上に線を引く。
部屋の隅では、正座をしながら目を閉じ藍の紡ぐ旋律に聞き惚れる佑の姿があり、優雅な朝の一時がそこにはあった。
いつ聞いても心洗われるような琴の音色に佑が全神経を聴覚に注ごうとした時、ドタドタと騒々しい足音が聞こえて来た。
「これは、魁の足音ですね」
藍の指が止まり、穏やかな朝の時間をぶち壊した張本人が和室へとなだれ込んで来る。
「藍師、やっぱり出向く必要があるみたいだぜ!」
「そうですか。やはり‥‥」
「あぁ、深雪は今朝山ん中の小屋で見つかった。もっとも、既に事切れちまった後だったけどな」
魁のざっくばらんな言葉に、藍が寂しそうに目を伏せる。
「魁、もっと言葉を選べないのか!?」
「良いのですよ佑。これを生業としているのならば慣れねばならぬ事。それをいつまでも慣れぬ、私が未熟なのです」
「藍様‥‥」
「深雪様は、確かまだ9つか8つだったはずですが」
「あぁ、間山 深雪は8歳だったな」
「まだそんなにも幼いのに散らねばならなかったのですか」
「深雪の無念のためにも、真相を解明しなくちゃならねぇ。きっと藍師なら開かずの間の謎も解けるはずだぜ?」
「‥‥魁、僕はその間山深雪殿も開かずの間というのも初めて聞くのだが」
「家に昨日、間山深雪の父親の間山臣時ってヤツが来てな、開かずの間の祟りって言うのを言い出したんだ。何でも、そこを開けた者は神隠しに遭い、次の日に山ん中の小屋で見つかるんだと」
「どうやら深雪様がその間に入ってしまったらしく、今朝から姿が見えないと相談があったのです」
「藍師も行くって言ってたんだけど、藍師は昨日あんまり具合が良くなかったみてーだから、俺が1人で行って来たんだ」
「で、深雪殿を救えなかったと?」
「ンな冷たい目すんなよ佑」
「臣時様がここを訪れた時にはすでに、手遅れな状態だったのです。そうですよね、魁」
「藍師にはみーんなお見通しってわけか。そう、深雪は既に昨日の朝の時点で事切れてたんだ」
「それで魁、貴方は小屋を一晩中見張っていたのでしょう?」
「あぁ。ただ、間山のばーさんに中に入る事は禁じられてたから、外からずっと見張ってたぜ。昼頃に臣時が入ったけど、何もなかったって言ってたな」
「そして、翌日の朝に扉を開けば中に深雪様の亡骸が横たえられていたと言うことですね」
「もっとも、小屋の中に入れるのは間山の連中だけらしいから、俺は戸口のところからチラっと見ただけだけどな」
「何か祀っている小屋なのか?」
「そうらしいぜ?」
「外で見張っている時、妖しの気配などは感じられましたか?」
「いや、わかんねー。俺はもっぱら西洋専門だから、東洋の妖怪とかは気配が読み難くて」
「そうですか‥‥。妖しの仕業か、人の仕業か。‥‥佑、魁、至急準備を。深雪様が少しでも浮かばれるよう、その死の理由を探る必要があります」
≪映画『妖人夜行譚』募集キャスト≫
*麹塵 藍(きくじん・あい)
色白で華奢、しっとりとした雰囲気の美女。外見年齢20〜28程度
私服は着物で、腰まで伸びた長い髪を低い位置で1つに結んでいる
妖怪を滅する力を持ち、結界の能力もある。頭の回転も速い
妖しや人の起こす不思議な事件を解決する探偵社の所長
『私』『〜様』(魁と佑は呼び捨て)・しっとりとした丁寧な女性口調
*佑(たすく)
大きな瞳の可愛らしい少年。外見年齢8〜12歳程度
私服は着物か魁の買ってくる露出の多い洋服が多い。実年齢は100を軽く超えている
正体は座敷童子。過去の事件で藍の世話になって以来、藍を慕っている
東洋の妖怪の知識が多く、気配だけで妖怪の名前を言い当てられる
人に幸せを与えたり、逆に幸せを奪ったりする力がある
魁に冷たく、万年貧血気味の可哀想な彼を裏で『貧血鬼』と呼んでいる
『僕』『〜殿』(魁は呼び捨て、藍は様付け)・古風な男性口調
*魁(かい)
見る者の目を惹きつける、繊細な美青年。外見年齢18〜25程度
露出の多いゴシック調の服を好んで着る。髪は短く、気分によって色を染める
正体は吸血鬼。過去の事件で藍の世話になって以来、藍に好意を寄せている
西洋の妖怪の知識が多く、気配だけで相手が誰なのか分かる
人を魅了したり、血を吸って相手の命を奪うことも出来る
万年貧血気味だが、人を襲うことはしない。たまに藍から血の提供を受けている
『俺』『(基本的に呼び捨て)』(藍は藍師)・今風の若者口調
・間山 臣時(まやま・おみとき)
外見年齢20代後半〜30代程度
・その他
*深雪(みゆき)の命を奪った相手(人ならば人、妖怪ならば妖怪が必要となる)
*間山家の人々(最低1人は必要)
・佑や魁の妖怪仲間
●リプレイ本文
青メッシュの入った黒髪に腹だし黒ゴシック風衣装の魁(星野・巽(fa1359))は見慣れていたものの、深雪とそう変わらない歳の佑(タブラ・ラサ(fa3802))が調査に来ましたと言って頭を下げた時、臣時(巻 長治(fa2021))は驚きを隠せなかった。
「ご協力、宜しくお願いいたします」
愛しい娘の笑顔を佑の姿に重ねる。事件の解決を強く願う彼は、予め家人に藍(千音鈴(fa3887))達に協力するようにと言い含めてあった。
「‥‥藍様」
佑が目を細め、「やはり何者かの存在があるようですね」と呟く藍。臣時に先導され開かずの間の前に立つと、佑が目を閉じた。魁と同類と思われたくないと言う理由で和服を着てきた佑は、藍の弟のように見えた。
「この気配は‥‥雪女です」
戸の隙間から洩れてくる妖気だけで相手の存在を捉えた佑。
「藍師、いったんここで2手に別れねぇ?俺は柚に話しを聞きに行くから、佑と藍師は雪乃を頼めるか?」
「分かりました」
藍が頷き、ここで一度2手に別れる事となった。
間山家家政婦の藤沢柚(天羽遥(fa5486))は遠い目をしながら喋り始めた。
「あの日、深雪お嬢様は普段と変わらぬ様子で元気にしていらっしゃいました。この辺りの者は皆、間山家以外の方は山小屋には近づきません。昔からの言い伝えで、開かずの間に入って出てきた人間はいないんです」
お祖母ちゃんっ子で祟りや迷信を頑なに信じている柚は、魁の目を真正面から捉えると「魁様方も開けよう等と思わない方が良いですよ」と釘を刺した。
「開かずの間の辺りで深雪お嬢様が消えたように見え、夢かと思っていたのですが祟りだったんですね」
青ざめながら涙ぐむ柚。何か慰めの言葉はと思いつつ手を伸ばし‥‥突然背後で鴉が激しく鳴くと何処かへ飛んで行った。
娘の亡骸の前から動こうとしない雪乃(桜 美琴(fa3369))は、もっと早く気づいて探していればと言う思いとそれを凌駕する深い悲しみによって、呆然としていた。
「お辛いでしょうがお話頂けましょうか?」
藍の言葉にも反応しない雪乃。臣時が、行方不明の深雪を開かずの間に捜しに行こうとしたのを姑と柚に止められ、深雪の遺体が見つかるまでの間、ずっと部屋に閉じ込められていたのだと説明を入れる。藍が辛抱強く雪乃の言葉を待ち、佑が所在無さ気に俯く。ここは大人達だけの方が話しやすいかも知れないと思い、立ち上がり‥‥突然雪乃が泣き出し、硬直する。
「ついこの間まで、深雪も元気に動き回っていたのに‥‥」
佑が大人しく腰を下ろし、藍が優しい笑みを浮かべながら雪乃の肩を撫ぜる。
「つい先日も、一緒に御山に御神酒を持って‥‥お祀りに行ったのに、何故‥‥」
「お神酒を持って、山小屋に行ったんですね?その時、深雪様はどこにいらしたのです?」
「深雪も、一緒にいたわ。一緒に、手を繋いで‥‥」
再び涙を流し始めた雪乃にお礼を言った後で、佑は複雑な顔をして立ち上がった。
山小屋からも同じ妖気を感知したものの、臣時の祖母・菊乃の承諾が取れず、中へと入る事は断られた。
「如何いたしましょう」
まさか強引に入るわけにも行かない。佑が何か策は無いかと考え込もうとした時、突然上空から1人の男性が降りてきた。
「うーっす、もしかして苦戦中?」
「まぁ、本日もお元気ですのね、京様」
ピアスや指輪、チェーンなどのシルバーアクセをジャラジャラとつけた黒革パンク系衣装の京(希蝶(fa5316))だったが、これでも一応、風と雷を操り鴉を従える天狗だった。
「手伝うから、今度デートしよ、藍ちゃん♪」
「やはりお前も来たか」
「あー、やっぱ佑には気づかれてたかー」
「お前、木の上でハンバーガーを食べるのはよせ」
「はいっはーい」
また五月蝿い輩が増えたとげんなり顔の佑。彼にとっては京も魁も同類だ。
「おー、何しに来たー!お前は藍師にベタ付くから嫌なんだよ!!」
「イダダ、イダダダダっ!!」
笑顔でピアスを引っ張る魁。
「お前なんか必要ねーんだよ!」
「万年貧血よりマシな働きすると思うけど〜?」
「‥‥魅了するぞ、この野郎」
「へそに雷落とすぞ、あ〜ん?」
「けっ!お前のコントロールの悪さは知ってんだよ!また大天狗様にお叱りでも受けろよ!何だっけ?お尻百叩きだったっけー?確かお前、涙目になってたよな〜?」
「ンなガキの頃の話持ち出してんじゃねぇよ」
不穏な空気の仲良し(多分)京&魁コンビに「仲が良いのね」と微笑む藍と、呆れて物も言えない様子の佑。2人の間に割って入ったのは臣時だった。‥‥依頼人に程度の低い喧嘩の仲裁をさせるなど、なんとも不甲斐ない。
「俺の能力使えば入らずとも内部見えるぜ?」
臣時が山小屋へと入る時に鴉を滑り込ませれば良いと言う京。彼は鴉が見聞きした事を自分の感覚として捉え、接触した相手に伝える事が出来る。半信半疑ながらも協力を承諾した臣時が小屋の中へと入り、京が鴉を呼ぶと滑り込ませる。暫くしてから戻ってきた鴉の背を撫ぜ、空へと放つ。
「ささ、藍ちゃん手を」
両手をしっかり握り、映像を伝えた後で魁と佑に人差し指を突きつける。
「野郎と手ぇ握るのはイヤ」
「この野郎‥‥」
「止さないか魁。この程度の事でいちいち腹を立てていては時間の無駄だ」
大人な佑の意見に渋々従う魁。藍が眉を顰めながら「この祭壇は‥‥」と小さく呟くのが聞こえた。
開かずの間の調査が必要だと臣時を説き伏せた藍達だったが、戻ってきて見れば廊下の先には柚がしゃがみ込んでいた。祟りを信じている彼女を説得する事は出来ないだろうと足を止める。どうやら花瓶を倒してしまったらしく、散乱したガラス片を必死に集める紺絣の着物の後姿が少し切ない。
「柚さん」
待ちきれなくなった臣時が飛び出し何とか説得しようとするが、入ったら祟りがあるの一点張りだ。さらには菊乃様の一言に閉口する臣時。魁がコレだけはあんまりやりたくなかったけれどと口の中で呟き、柚の前に飛び出すとそっと肩に手を乗せる。
「頼む!どうしても入らなきゃならないんだ!」
至近距離で美形に見つめられ、顔を赤らめる柚。魅了の瞳はほんの少ししか能力を込めていないが、それだけで十分な効き目だったようだ。
「魁様‥‥どうぞ、お通りください‥‥」
「流石ホスト吸血鬼」
「ルッセーぞ京!」
京を睨みつけながらも開かずの間に手をかけ、中へと入り込む。
「藍師、見つけたぜ!」
魁が部屋の奥に空間の歪みを発見し、藍が素早く視線を動かす。
「ここで間違いないようです。魁、佑、京様、お願いいたします。臣時様は部屋の外へ」
京の召雷が空間に直撃し、魁と佑が開いた穴を押し広げるべく呪文を紡ぐ。
「こっからは藍ちゃん達の仕事、だろ?分かってるって♪外は俺に任せときな」
「お願いいたします、京様」
京をその場に残したまま、3人は空間の中へと入って行った。
雪山で遭難した姉妹は姉だけが助けられた。その姉は行方不明の妹を探しに雪山へと戻り、命を落とした。妹の『雪』を見つけたい‥‥その一心から妖しとなった霞(角倉・雨神名(fa2640))は、どうしても妹を取り戻したかった。
「けれど、深雪様は雪様ではありません」
藍が厳しい声で語りかけるが、霞は視線を足元に落としたまま微動だにしない。開かずの間は霞が遭難し助けられた場所、小屋の方は雪が倒れていた場所だった。強烈な冷気に「何かヤな場所だな」と呟きつつ、爪を伸ばす魁。
「藍師には指一本触れさせないぜ?」
霞が視線を上げ、冷たい瞳で藍を見つめる。
「貴方は、妹様を亡くされ、悲しんでおられるのですね?‥‥私が、貴方様をお救いいたします。どうぞ此の地より解放なされませ!」
藍の祈りが空間に広がり、冷たい風を温かく変える。「流石藍師」と口笛を吹き得意げな魁の隣で、佑がすっと空間の隅を指差す。小さな2つの影‥‥
「深雪様に‥‥雪様、ですか?」
藍が首を傾げた瞬間、空間が浄化され、歪みが元に戻った。
外に出た途端に現れたニヤニヤ顔の京。藍の両手を握り‥‥魁に耳を引っ張られる。
「いってぇぇ!ピアス引っ張るなって言ってるだろ!?それが手伝ったモンに対する態度か!?」
「うるせー大体お前‥‥」
叫んだ途端に貧血になり、膝をつく魁。「藍師、出来れば‥‥血‥‥」と情けなく呟く。空に飛び立ちながらボソリと「へっ、倒れてろ貧血鬼」と呟く京。魁が最後の気力を絞って走り出し‥‥そんな馬鹿コンビはさておき、佑は間山家の面々にお別れの挨拶をしに来ていた。霞の浄化によってどこか雰囲気の明るくなった間山家のお屋敷前で、柚と臣時が深々と頭を下げる。
「有難う、元気でね」
臣時に寄り添い、悲しげながらも微かな笑みを浮かべた雪乃が佑の頭を撫ぜる。
「可愛い盛りの娘を失った傷が消える事はないだろうが、少しでも慰めになれば」
佑がそう言って、間山家に幸せを与え‥‥背後から聞こえた魁の声に走り出す。
「きっと、再び笑顔溢れる場所となりましょうぞ」
「僕もそう祈っています」
佑がポツリと呟き‥‥魁の視線に怪訝な顔をする。
「ジっと見つめて気持ち悪いな、何か用があるのか?」
「なーなー佑、俺の買った服気に入らないのか?」
着物で来た佑にご不満の魁。そもそも、魁の買ってくる物と言えばやたら露出度の高いもので‥‥
「阿呆が移りそうだからな」
サラリと言い放たれた一言に、魁がさめざめと泣き始めた。