Poison Rouletteアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 7.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/10〜05/13

●本文

 大きな丸テーブルが1つだけある部屋に通され、名前の書かれたプレートの置かれた席に座る。
 参加者は全部で9人。
 部屋の隅には2人の女性が控えている。
「それでは、ルールの説明に移ります」
 肩まで伸びた髪を緩く1つに結んでいた女性・柳がそう言って、壁のボタンを押す。
 向かって左手の壁に巨大なスクリーンが下りてきて、高価なスーツに身を包んだ男性が1人、不敵な笑みを浮かべているのが映し出される。
『今から、皆様の前に何も入っていないカップが置かれます』
 壁際にいた、ショートカットの女性・菘が繊細な模様の描かれたカップを1つずつ置いていく。
『そのカップのどれか1つに、毒が塗ってあります』
 衝撃的な台詞だが、場にざわめきは起きなかった。
 全ては最初から知っていた事。命を失うかも知れない、それを分かっていてこの場に集まった面々。
 もっとも、数人は頭数を合わせるだけに呼ばれたのだが。
『今から、カップ・チェンジの時間をとります。ネームプレートの横に1番と書かれている人から順に、カップをチェンジするのかステイするのかを決めてください』
 菘が1番の隣へと行き、軽く頷くとカップを7番の番号をつけた人の物とチェンジする。
 2番目の人がステイを選び、3番目の人が9番とカップとチェンジする。
 4番の人が8番の人とカップをチェンジし、5番の人が1番の人のカップとチェンジする。
 6番の人がステイを選び、7番の人が9番のカップとチェンジする。
 8番の人が5番のカップとチェンジし、9番がステイを選ぶ。
 結果、1番は5番、2番は2番、3番は9番、4番は8番、5番は4番、6番は6番、7番は3番、8番は7番、9番は1番のカップに代わった事になる。
『さぁ、紅茶を注いでください。皆さんに熱々の美味しい紅茶を召し上がっていただきたいのは山々ですが、一気に飲んでいただかなくてはなりませんゆえ、氷をいくつか入れさせていただきます』
 菘が順に紅茶を注いで行き、柳が紅茶の中に氷を2つ3つ落とす。
『皆さんに紅茶が行き渡りましたね。今からコレを飲み、1人が毒に倒れます』
 緊張が走る。誰もがチラリと周囲の人の顔を見つめ、視線を自分のカップの上に落とす。
『この中に、運命を支配する者がいます。命を落とさなくても良い者に毒の入ったカップが回らぬように、調節をする者がいます』
 9人が顔を合わせ、探るような瞳を突き合わせる。
『不運にもこのゲームに巻き込まれてしまった人の命を奪うことを、私は望みません。あの忌まわしき事件に関係のない人は、必ず生きてこの部屋を出て行ける、そうなっています』
 隣に座った友人の顔色が悪くなる。
『私の愛しい娘の命を奪った者達だけ、この場で命を落とします』
 他にも数人、顔を青くして俯いている者がいる。
『娘は心優しい少女でした。どんな悪人にも救いの手を伸ばさねばならぬ、どんな悪でも、救える術がある、そう考える子でした』
 ふわりと柔らかく、人間味のある笑みを覗かせた男性だったが、すぐにその笑みは消え去った。
『貴方達にも、救いの手を伸べます。先ほど私が言った、運命を支配する者が誰なのか当てられれば、私の懐に入っているあの事件の決定的証拠を消す事をお約束しましょう』
 取り出したのは、1枚の写真だった。どんな場面が写っているのかは分からないが、かなり力を持つものらしい。
 蒼白の顔をした人々が男の進めにしたがってカップを手に取る。
『支配者が誰なのか、ただ闇雲に名前を挙げるだけではいけません。どうしてその人が支配者だと思うのか、理由も一緒にお答えください』
 ここに来て、始めてどうして自分がこの場に呼ばれたのか、分かった気がした。
「見ただけなんだ。何もしてない。ただ、見てしまっただけなんだ。でも、知らないふりは同罪だって」
 蚊の鳴くような声で友人が弁解し、その言葉を信じて良いのかどうか、躊躇する。
 カップを持つ手が震え、今にも泣き出しそうな瞳を向けられる。
 チリンと鈴の音が響き、いっせいに紅茶を飲み干す。
 隣に座った友人の顔を覗き込んだ次の瞬間、別の席で1人、床に倒れた。
 残りは8人。
『今持っているカップの席へ移動してください。新しいカップを、配ります』


≪映画『Poison Roulette』≫

*ゲームに参加する事になった8人
・探偵役(外見年齢18以上の男女どちらでも)
・探偵の友人役(外見年齢18以上の男女どちらでも)
・残りの6人(性別、年齢共に縛りなし)
→残りの6人のうちの半分以上(最低3人)は男性の復讐対象者

・菘、柳、男性はキャスティングの必要なし

*ゲームの進行
・1番の人から最後の人までチェンジ・ステイを繰り返す
・紅茶を入れ、氷を入れ、合図で飲み干す
・1人脱落の後、自分が持っているカップの番号へと席を移動する
・再び1番の人から最後の人までチェンジ・ステイを繰り返す

*支配者探し
・『この中に、運命を支配する者がいます』とだけ男性は言っており、人数は特定していません
・ゲーム参加者は、誰ならばカップを上手く操る事が出来るのか、何人支配者がいるのかを必死に考えてください

*支配者
・何回かゲームが進めば、支配者が同じテーブルにいる者ではないと言う事に気づくと思います
・それでも毒は狙った人の元にしか行きません。すなわち、カップに毒は塗ってありません
・毒が入っているのは、氷の中です
→支配者は、氷を入れる者、柳となります

●今回の参加者

 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa3578 星辰(11歳・♀・リス)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4563 椎名 硝子(26歳・♀・豹)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa5575 丙 菜憑(22歳・♀・猫)
 fa5732 浦上藤乃(34歳・♀・竜)

●リプレイ本文

 終電間近のプラットホーム。閑散とした構内に、数人の人々が静かに電車の到着を待っていた。疲れた顔でベンチに座るOL、携帯電話を弄っている女子高生、文庫本を読み耽っている女子大生。1人の少女が階上から下りて来てホームに立った時、静けさを打ち破るような声が上から響いてきた。泥酔しているらしい男2人の声は、言葉が聞き取れないほどに乱れていた。不安顔で階段を見つめていると、案の定足取りの覚束ない男性達が下りて来て、ホームに立っていた少女と目が合い、絡み始める。面白半分でのからかいに、優しく諭す少女。足元が危ないからと言ってベンチへと連れて行こうとし‥‥年下の少女に世話を焼かれていると言う状態に、1人男が腹を立てた。
「お前、随分生意気だな」
 ドンと突き飛ばし、線路へと落下する少女。背後から悲鳴が上がるが、男は「生意気な事を言うからだ」と笑っていた。どうせまだ電車は来ないのだろう。反対のホームまで走れば十分に間に合う‥‥そう思っていた。少女が線路の上に落ち、その横顔をライトが照らし出す。電車はもう、すぐそこまで来ていた。あっと思った瞬間には、電車のブレーキ音が響き、少女の体の上に電車が滑り込んできた。騒然とする構内、男も流石に焦っていたが、すぐに冷静さを取り戻すとホームにいた人々に素早く視線を向けた。
「お前等、何も見てなかったよな?見ていたら‥‥どうなるか分かってるんだろうな!」
 ビクリと震える女性達。結局男は警察の事情聴取に「線路に落ちた少女を助けようとしたが間に合わなかった」と嘘の証言をし、女性達もその証言を裏付けてくれた。監視カメラのない構内、全ての目撃者は黙らせた‥‥男はそう確信していた。
 けれどこの時、1人の目撃者がひっそりと反対側のホームに立っていた。カメラを片手にホームに入ってきた電車を撮ろうとしていた女子高生が、その決定的瞬間‥‥厳密に言えば、線路に落ちた少女とそれを見て笑う男、ホームに立っていた目撃者達、彼らの顔を染め上げる眩いライトと共に入ってくる電車、それらを写真の中に収めていた。
 彼女は反対側のホームで起きた事件を、最初から目撃していたわけではなかった。視線は電光掲示板へと注がれ、耳は大音量のロックに塞がれていた。
「‥‥どうしよう」
 彼女はそう呟くと、カメラをギュっと胸に抱いた。


 恭(Rickey(fa3846))は室内に入った時『まさかお前があの事を言ったんじゃないだろうな』と一同に無言の圧力をかけながら睨みつけた。
「けっ、馬鹿くせぇ。その写真だって何が写ってるか怪しいじゃねぇか。何なら見せて見ろよ」
 外見からして派手で不良っぽい恭は、男性を挑発しながらふてぶてしい態度で椅子にひっくり返っていた。こんなゲームはくだらない、写真だってはったりだとしきりに呟き、カップも平気で呷っていた彼だったが、友人が倒れたのを見て流石に青ざめた。
「席をチェンジしてください」
 柳の声が凛と響き、ノロノロと移動をし始めると所定の席に座った。1番は保険のセールスレディーをしている椿(浦上藤乃(fa5732))2番は大学生の恭、3番は高校生の紬(各務聖(fa4614))4番は大学生で椿の友人の蘭(葉月 珪(fa4909))5番はOLの麗(椎名 硝子(fa4563))6番は篠の妹の静(星辰(fa3578))7番は豊の友人であり静の姉の篠、8番は同じく豊の友人の椎菜(夏姫・シュトラウス(fa0761))と言う席順だった。既に豊は部屋の外へと運び出され、室内には重苦しい雰囲気が充満していた。カップチェンジでは恭と静以外が全員ステイを選び、2人はそれぞれ椿と篠とチェンジした。
 すなわち椿が恭の、恭が椿のカップを持ち、静が篠の、篠が静のカップを持っている。他は全員自分のカップだ。紅茶が注がれ、氷が落とされる。
「いや、こんなの偶然に決まってる。あの時写真を撮ってた奴なんかいなかった筈だ」
 恭が他人に聞こえるか聞こえないかの小声で呟き、チリンと鈴の音でカップを呷る。数秒の沈黙の後、ふっと恭が倒れこんだ。


 1番が椿、2番が紬、3番が蘭、4番が麗、5番が篠、6番が静、7番が椎菜。席の移動が終わり、皆一様に暗い顔をして俯いていた。
「どうしてあの時あの子を助けてあげなかったのかしら。助けてあげられなかったとしても、本当の事を言っていればこんな事にはならなかったのに‥‥」
 自責の念に駆られ、涙を零す麗。既に用無しになった2つの空いた椅子を見つめた後でキツク目を閉じ、両手で耳を塞いで「ごめんなさい、ごめんなさい‥‥」と繰り返し続ける。男性に絡まれる少女には気づいてはいたが、助けてあげたくとも怖くて足が動かなかった。少女が落ちた時だって、突然の事で呆然としてしまった。証言だって‥‥本当は、誰にも言えずに悶々とした日々を送っていた。あの少女にずっと、謝罪の言葉を述べる日々が続いていた。
「私は、通報しようとしたわよ。でも、でも、脅されて口止めされただけよ。私は何もしてない!」
 紬がブツブツと呟き、ふっと口元に笑みを浮かべてチェンジと告げる。
「脅されて、落とされて、あの子と一緒になったら‥‥ねぇ、そっちに行ったら一緒に遊んでくれるのかな?」
「あの、落ち着いてください。ここは協力し合って、少しでも早く支配者を見つける方がいいと思うんです」
 壊れ行く紬と麗に声をかける蘭だったが、その言葉は2人には届いていないようだった。蘭がステイを選び、椿がチラリと視線を向ける。
「私だって、毒は怖いです。でも、自分がチェンジした事によって誰かが亡くなるのは後味が悪くて嫌じゃないですか」
「まぁ、確かにね」
 椿が呟き、蘭の手元に置かれた紙を覗き込む。支配者探しの手がかりになるかも知れないと思って書き付けたカップの流れのメモに視線を落とし、ふっと遠い目をすると鈴の音で席に座る。麗が涙目になりながらカップを掴み、紬が不意に激しく笑い始めた。
「ふふ、どうせ皆飲むのよ!あはははっ!!皆死んで、あの子と一緒に遊ぶんだよっ!」
 ぐいっと呷り、数秒の沈黙の後で背後へと倒れこむ。
「次は私なの!?」
 麗が絶叫し、静と篠が顔を見合わせる。
「あの時ホームに居たのは何人だったかしら。それ以外の人が支配者なの!?」
「わ、私‥‥何もしてないのに。ただ、見てしまっただけなのに‥‥まだ、死にたくありません‥‥」
 すぐに運び出されていく紬の姿に蘭が泣き出し、椿が何かを気づいた様子ですぅっと目を細める。その視線を椎菜へと注ぎ‥‥ビクリと肩を上下させる椎菜。
「ち、違います。私はただ‥‥」
「とんだ茶番もあったものね。こんなの、冷静になってみればすぐに誰が支配者なのか分かるじゃない」
 椿が椅子を蹴って立ち上がり、柳に指先を向ける。
「貴方が、支配者ね?」
『どうしてそう思うのです?』
「どうしてですって?説明するのも馬鹿らしいわ。良い?他人の意思を完全に推測できない以上、万が一カップに毒が塗ってあった場合、自分に廻って来る可能性がある。さらに貴方は最初に『事件に関係のない人は必ず生きてこの部屋を出て行ける』と言ったわ。カップチェンジなんてややこしい事をせずとも、狙った相手に確実に毒を入れる方法があるじゃない。紅茶は同じところから注がれているから無理。それなら、氷しかない。おそらく、氷の中に毒を入れてあるんでしょうね」
 軽い拍手が画面の向こうから響き、椿が苦虫を噛み潰したような顔をしてそっぽを向く。それまでジっと黙っていた椎菜が突然立ち上がり、頭を下げた。
「わ、私があの人に写真を渡してしまったんです!」
 反対側のホームで偶然撮ってしまった写真、事故として処理されていた事件の決定的な証拠‥‥椎菜1人には重過ぎるモノだった。
「まさか、3人も‥‥亡くなるなんて、思ってなくて‥‥」
「‥‥本当に、亡くなったのかしら?」
 突然椿が妙な事を口走り、男性が口元に柔らかい笑みを浮かべる。その場にいた者達が2人の真意を図りかねて視線を合わせ、椿の次の言葉を待つ。
「毒を飲んだにもかかわらず、彼らは突然後ろに倒れて動かなくなった。普通、苦しんだりするものじゃないのかしら?しかも、倒れた途端に人が入ってきて連れ出していった。まるで、あんまりマジマジと倒れた人を見て欲しくなかったみたいね」
 男性は何も言わず、微笑んでいるだけだった。
「貴方は頭の良い人だわ。もし本当に彼らを亡き者にしたいのだったら、他殺と断定されるような方法ではしないと思うの。それこそ、娘さんを失った時と同じように、偶然が引き起こした凄惨な事故に見せかけて‥‥」
 男性の表情に、かすかな戸惑いの色が浮かぶ。椿はニィっと口の端をあげると、蘭の腕を掴んで射抜くような視線を男性に向けた。
「復讐は、いずれ貴方に返って来る。それを、忘れない事ね」