鷹チェンジ!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
宮下茜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
5.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/11〜05/13
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●本文
ここは東京下町。
閑静な住宅が建ち並ぶ中、何故か周囲の慎ましい家々の雰囲気をぶち壊すような巨大な洋館が我が物顔で建っている
そこは、何も隠していないが、何を隠そう(決まり文句)マッドサイエンティストの堤野さんの御宅なのだ。
「私ぃ、前々から思ってたんだけど〜、ツンデレって良いわよねぇ〜♪」
ねっとりとした喋り方をしているが、彼は正真正銘男性だ。
本名は堤野 厳と言う、彼にしてみれば立派過ぎるくらいの名前だ。
両親だって、名前の通りの人物になって欲しかったろうに、残念ながら当の本人はこんな感じだ。
さらには、折角両親が願いを込めてつけた名前がお気に召さないらしく、周囲には『ゴンちゃん♪』と呼ぶように強要している。
語尾の『♪』は必須であり、本名で呼んだり語尾に♪をつけ忘れよう物ならば‥‥
『そう言えば最近、あいつ見てないなー、お前何か知ってるか?』
『(視線をそらしつつ)あの子、馬鹿よ。ゴンちゃん♪の♪付け忘れるなんて‥‥』
と言う会話をどこかでされてしまうような事態に陥ってしまう。
「うっふーん、早速標的発見☆」
何も知らずに歩道を歩いている1人の少女に狙いを定める厳。
「クスリを弾に詰めてぇ、照準を合わせて‥‥えいっ♪」
弾はいたいけな少女に当たる前に弾け、中から群青色の煙が噴出する。
「きゃぁぁぁっ!!何よこれぇっ!!」
むせまくる少女の前に立つ厳。煙を手で払いながら少女の腕を掴み‥‥
「あらぁん、あなた結構可愛い顔してるのねぇん、私好みだわぁ☆」
ちなみに厳は、可愛いものならば何でも好きだ。
男の子だろうが女の子だろうが、ワンコだろうがニャンコだろうが、可愛ければ「私好み」であり「超可愛い♪」である。
「これはいったい何なんですか!?」
「ちょっとした実験よぉん。何か変わってこない?こう、モヤモヤ〜っとしてこない?」
「モヤモヤ‥‥‥‥。‥‥ちょ、ちょっと何腕なんか触ってんのよ!離しなさいよ!」
少女がそう言って厳の手を振り解く。
彼女にしてみれば、少し振り払った程度なのだろうが、厳は豪快に吹っ飛んだ。
「まったく、いきなり腕掴むなんて!残念だけど貴方、私のタイプじゃな・い・の!私が好きなのはねぇ、同じクラスの‥‥」
「あれ?沖さん?」
ふにゃんとした笑顔の少年が通りから現れ、首を傾げる。
「偶然だねぇ、どうしたのぉ?あ、今帰りなのかなぁ?あれぇ、あの人誰かな。‥‥あっ、ゴンちゃん♪さんだぁ。何でクタってしてるのかなぁ。えぇっとぉ、大丈夫ですかぁ〜?」
トロトロとした喋り方、やけにスローな行動。
沖・楓は顔を真っ赤にしながらも、プイとそっぽを向いた。
「ふん、あんたっていつ見てもトロ臭いのねぇ。もっとシャキっとしなさいよ!はぁ〜、ヤダヤダ。今日は変な男に絡まれるし、トロ男と会っちゃうし。駅前に行って遊んでから帰ろっかなぁ」
髪を背に払い、背筋を伸ばして去っていく楓。
「何か、沖さん変わったなぁ。あれ?最初からああだっけぇ?」
楓の背中を見つめながら、目を丸くして首を傾げる少年。そんな彼の腕を厳がガシリと掴み‥‥
「あ、貴方‥‥野木・黎君ね?」
「はい。ゴンちゃん♪さんは、ゴンちゃん♪さんですよねぇ?」
「た、頼みがあるわ‥‥あの子の後を追いかけて、何とかデレを引き出すのよ!」
「デレって何ですかぁ?」
「ツンデレのデレよっ!!気高く美しく、プライドが高くてツンツンしてる鷹だけれど、デレの部分も絶対に引き出せるの!」
「ツンデレって何ですかぁ?沖さんは鷹じゃないですよぉ?」
「気をつけてね、あの子のツンは強暴だわ!ちょっと肩を叩かれた程度で脱臼する恐れがあるわ!特に黎君なんか細っこいんだから!」
「脱臼‥‥」
「とにかく、彼女は強すぎだわ!なんとしても止めないと!そのためには、ツンとデレが必要なのよっ!!」
「‥‥ゴンちゃん♪さん、頭打ったんですねぇ。今、救急車を‥‥」
「救急車は良いから、この作戦に手を貸してくれそうな人を呼ぶのよ!今、すぐにっ!!」
≪映画『鷹チェンジ!』募集キャスト≫
*沖・楓(おき・かえで)
外見年齢15〜18程度
いたって普通の明るい性格が、厳のせいでツンデレに
自分で思っている以上に馬鹿力になっている
黎にひそかに想いを寄せている
『私』『貴方』高飛車な口調
*野木・黎(のぎ・れい)
外見年齢15〜18程度
ふにゃんとした脱力系の雰囲気をした少年
天然系で何をするにもトロトロとしている
『僕』『〜さん』トロリとした喋り方
*譲(ゆずる)
外見年齢16〜19程度
黎に呼び出された友人のうちの1人で、ツッコミ属性
ボケっとした黎にツッコミを入れ、一癖も二癖もある友人&家族達にツッコミを入れる
一人称は『俺』ハキハキとした喋り方
・堤野・厳(つつみの・いわお)
ロクでもない研究&実験に勤しんでいる男性
実年齢は不明だが、外見年齢は20代後半
可愛い物が大好きで性格はいたって乙女チック
・その他
・楓の家族
→突然の豹変にも驚かないと言う脅威の寛大さ
・黎や楓の友人
→家族同様、突然の豹変に驚かない脅威の寛大さ
*外見年齢20以上の方は役が限られてしまいます
●リプレイ本文
「ツンとデレって何なんだろう?」
「デレって『電子レンジ』の略かなぁ?僕、略語ってよく分からなくてぇ」
黎(千架(fa4263))と鳴海(大海 結(fa0074))の果てしないボケ論議に譲(九条・運(fa0378))は頭を抱えたくなった。どうしてボケが2人も集まると、こうも収拾が付かなくなってしまうのだろうか。クエスチョンマーク対クエスチョンマークの会話が成立してしまうところが恐ろしい。
「新しい食べ物とかかな?でも、引き出すって事はどこかに預けてあるって事?」
「うーん、あ、そうだ。沖さん、駅前でって言ってたから、そっちに行った方が良いのかな?でもさぁ、ゴンちゃん♪さんの話ではぁ、沖さんが鷹だからデレを引き出さなきゃダメって言ってたんだぁ」
「でも、沖さんは鷹じゃないよね?」
「えっとぉ、あれぇ?ツンも必要だって言ってたかなぁ?」
「ツンもデレも、不思議な言葉だよねぇ〜」
「うーん、もしかしたらツンって、ツンドラ気候の事かなぁ?」
「待て、話を脱線させてどこまで持っていく気だ。そもそも、ツンドラって飛躍しすぎだろ」
譲の的確なツッコミに、明後日の方向へと突っ走ろうとしていた会話が戻ってくる。
「あ、そうそう。えーっと、何の話だっけ?」
「沖さんのデレを引き出すんだよぉ」
「しかし、沖が鷹だからデレを引き出してツンさせるっていう‥‥訳の分からない話だ」
「‥‥あれぇ、それにしても、僕達どこに行こうとしてたんだっけぇ?」
鳴海が首を傾げ、黎も首を傾げる。駅前に行こうとしてたんだろ!と怒鳴ろうとした譲だったが、黎が突然あっと声を上げたので言葉を飲み込んだ。
「あれ、ゴンちゃん♪さんだぁ〜。凄いねぇ、もう元気なんだぁ」
電柱の影に隠れながらも忍者のように素早い動きで通りの先へと消えて行く厳(雫紅石(fa5625))だったが、体から滲み出す異様な雰囲気は忍者には向いていないようだった。
「それにしてもぉ、何だか座り込んでる人多いねぇ〜?‥‥ゴンちゃん♪さんとお揃い?」
「そうだね、今日は具合の悪そうな人が多いね。大丈夫かな?」
通りにしゃがみ込む男性達を見ながら、黎と鳴海がパチリと大きな目を瞬かせた。
楓(白井 木槿(fa1689))に呼び出された昴(ベルシード(fa0190))と葵(雨月 彩(fa4992))は彼女の変化に対して多少の違和感を感じつつも「何か今日は元気だな」程度の認識しか持たなかった。お買い物やお茶へと繰り出し、葵が突然「楓さんは好きな方とかいないんですか?」と不意打ちのように聞き、女3人恋話大会が開催される。お洒落な喫茶店は小さくクラシックがかかっており、3人は暫し買い物で疲れた足を癒すと外へと出た。次は新作のリップをチェックしたいと言う楓に、ここからならば駅の先にある薬局が一番良いと昴が言い‥‥チャライ格好の男が3人、楓達の前に立ちはだかった。「ねーねー暇?」「今からお茶しない?」と、お決まりの台詞を吐く3人。そもそも、喫茶店から出てきたばかりなのに『お茶しない?』と誘うのはナンセンスだ。
「私達、急いでるんで」
ツンとそっぽを向いて歩き出そうとする楓の肩を掴む茶髪の男。楓がキっと目を吊り上げ、彼の手を振り払う。
「あんたなんてタイプじゃないの!気安く声かけないで!」
軽く振り払ったつもりが、男は軽く吹っ飛んだ。
「楓さんって強いんですね〜」
葵が微妙な感心の仕方をし、怒ったようにドスドスと歩いて行く楓の背中を小走りに追う。
「これを貼っておけば治るでぇ」
痛がってジタバタしている足元の男に絆創膏を渡す優しい昴。だが、脱臼しかけている肩に小さな絆創膏1枚がどれほどの事をしてくれるのかは疑問だ。
「あぁぁっ!!もう、あんた達、自分家に鏡ないの!?」
楓の声が響き、何かが吹っ飛ぶ音がする。葵が「すごいですねー!」と心底感心しているらしい声を上げ‥‥昴は眉根を寄せると、ポツリと呟いた。
「うーん、なんやまるで猛禽類の鷹みたいな感じやなぁ」
屈強な男達を軽く叩いただけで地にねじ伏せる楓。譲が何かおかしいと眉を顰め、楓の変化にすら気づかないボケな鳴海が彼女の前に立ちふさがると思い切り直球を投げる。
「沖さんがデレを持ってるなら黎のために引き出して欲しいの!」
彼は、デレを物だと思っているのだ。右手を差し出し、お願いしますと言って頭を下げるが、そのボケた頭をどうにか普通の人並みにしてくださいとお願いしたいのはこっちの方だ。
「今度はトロ男だけじゃなくてボケ男まで一緒なの?本当に今日はついてないわ」
黎に会えた嬉しさを押し隠すように、低い声で呟く楓。付き合ってられないと、ヒラリと手を振って去って行こうとする彼女の肩に手をかける譲。
「ちょっと待て、今日の沖は明らかにおかしいぞ」
ガシリと掴まれた肩に眉を顰めると、その手を払う。
「言いがかりは止めてくれない?」
バチリと凄まじい音が響き、綺麗な弧を描いて吹っ飛んでいく譲。
「あぁ〜そう言えばぁ、ゴンちゃん♪さんが『強すぎ』って言ってたかもぉ?」
黎が今更な忠告を口に出し、譲がベシャリと地面に叩きつけられる。
「そ‥‥それを‥‥早く‥‥い‥‥え‥‥」
「わぁ〜譲さんって体重軽かったんですね」
「違うだろ!?どう考えても沖が馬鹿力なんだろ!?尋常じゃないだろアレは!?」
葵の発言に強烈なツッコミを繰り出す譲。楓が何か反論をしようと口を開きかけた時、背後から声がかかった。
「こんなに強くなっちゃったんじゃ、イタズラもしかけられないじゃん」
蒼白の顔をしている彼は楓の弟の柾(マリアーノ・ファリアス(fa2539))だ。イタズラ好きのやんちゃ坊主は暫く何かを考え込むように目を伏せた後で、はっと顔を上げた。
「実は昨日姉ちゃんのプリンをこっそり食べちゃったんだけど‥‥これって命の危険?」
言わなきゃ気づいてなかったろうに‥‥。楓が鋭い睨みをきかせ、慌てて財布を覗き込むが足りない。
「百円貸して?」
「返すアテなんてないでしょ?」
楓の低い声に、黎背後に隠れてどうしてこんな馬鹿力になっているのかの説明を求める。
「で、そのツンデレって何?ってか、何語だよ?何となくフランス人とかにいそうだけど」
分からないと首を振る黎と鳴海。何にせよ自分が一番可愛い柾が、黎を楓の方に突き飛ばす。
「黎さん、何でもいいからさっさとやっちゃってくれよ。俺がぶっ飛ばされる前に」
「やっちまえって、何を?」
「とにかく、姉ちゃんの強さをどうにか‥‥」
「失礼ね。強くなってなんかいないわよ。あんたが弱いだけでしょ?」
「嘘だ!普通の女の人なら、男の人を脱臼になんてさせ‥‥」
「ま・さ・き?そんなにお姉ちゃんに殴って欲しいのかな?」
にっこりしながら指を鳴らす楓。迫力満点だ。
「えーっと‥‥」
ご機嫌斜めの楓にかける言葉を必死に探す黎だったが、そんなすぐに良い言葉なんて浮かんでこない。それならばいっそ、思ったままを言えば良いのではないか。そう、それこそ世間話感覚で‥‥
「沖さんっていつも明るくて元気だよねぇ。今日の沖さんも、ちょっとだけ雰囲気違うけどぉ、僕は好きだなぁ」
甘い笑顔で首を傾げる黎。楓が顔を真っ赤にし、口元を手で押さえながら落ち着きなく視線を左右に振る。
「‥‥な、何言ってるのよ!」
「おお、顔が真っ赤っかや」
昴が素直な指摘をし、楓に睨まれる。暫くどうしようかと考え込んでいた楓が髪を背に払い、視線を足元に落としながらしどろもどろに言葉を紡ぐ。
「私、いつも意地悪ばっかり言ってるけど、別に貴方の事嫌いなわけじゃないし‥‥と、言うか‥‥本当はもっと‥‥黎君と沢山お話できたら嬉しいなって‥‥いつも思ってて‥‥」
見事にデレ部分を引き出せた黎。柱の影から一部始終を見守っていた厳が登場する。楓に吹っ飛ばされて脱臼しかけた肩は、家に帰ってから飲んだ薬と湿布の効果で今はさほど痛くはない。
「やっぱり、ツンデレはツンとデレがあってこそのものよね!」
「ゴンちゃん♪さん!」
「黎君も良く頑張ったわ!」
「‥‥何故に『ちゃん♪』!?」
「ゴンちゃん♪さんは、堤野ゴンちゃん♪さんですよー」
「え、堤野ってあのマッドサイエンティストの堤野いわ‥‥」
ご近所さんならば誰でも知っている彼の名前は、タブーだ。昴が慌てて譲の口を塞ぎ、葵がなんでもないと言うように愛想笑いを浮かべて手を振る。鳴海が小声で必死に説明を入れ‥‥なかなか良いチームワークだ。
「ダメだ、俺の手に負える相手じゃねえ」
譲が最後まで説明を聞いた後で頭を振り‥‥正気に戻った楓が頬を赤くする。声高にツンデレの良さについて訴えている厳の肩を思い切り殴り‥‥
「ち、違うのーーー!!!」
そう叫んで走って行く楓。何が違うんだろうと顔を見合わせる黎と鳴海に、楓の後を追いかけて行く葵と昴。脱臼しかけていた部分を思い切り叩かれてしまい、厳が涙目になりながらその場に跪く。その様子を見ていた柾が、楓の怪力は治っていないのだと勘違いして一目散にコンビニへと走って行く。プリンがなければ、柾の命の保障はない。
「それにしても、ツンデレって結局何だったんだろうねー?」
「さぁ〜?」
厳に手を貸しながら、首を傾げ合う黎と鳴海。厳が痛む肩を抑えながら、2人の顔を見比べると脱力した。
「2人とも、私の話し聴いてなかったの‥‥?」