Happy Makerアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 1.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/12〜05/14

●本文

 貴方の幸せを作るのに必要な材料はたった1つ
 辛い気持ち、寂しい気持ち、悲しい気持ち
 そう言う負の気持ち1つあれば、貴方に幸せをプレゼント☆
 目を瞑って3秒数を数えて
 目を開ければほら、貴方の心には幸せが宿ってるでしょう?


 ピンク色の紙の上で踊る、カラフルな文字に靭は深い溜息をつくと目頭を押さえた。
「何だよコレ」
「月が作った張り紙だよぉ♪」
「だよぉ♪じゃ、ねぇよ。何だよこの電波系謎チラシ」
「うえぇぇ〜でもでもぉ、間違ったことはなに1つ書いてないよぉ〜?」
「書いてなくても、普通の人から見れば変なチラシなの!」
「だって、靭ちゃんの作ったチラシはぜーんぜん可愛くなかったんだもぉん」
「あのなぁ、チラシに可愛さなんて求められてねぇんだよ。無難な事書いてりゃいーの!」
 クシャリと紙を手の中で丸め、靭はそれをポイとゴミ箱に投げた。
「靭、月ちゃん、朝ご飯が出来たから座って座って。月ちゃんはアップルジュース、靭はコーヒーで良いかな?」
「類ちゃん有難うなのっ!」「よろしく」
 僕は2人の声に軽く頷くと、キッチンへと走っていった。


 僕の名前は類。ここ、ハッピーメイカーで働いている社員なんだ。
 社員って言っても、ハッピーメイカーに現在勤めているのは僕を含めてたったの3人。
 窓際の席でダルそうにボケっとしているのが、社長の靭。顔は綺麗なのに、目つきは悪いし愛想はないし、もったいないよね。
 靭の隣でピンクのふわロリの衣装を着て、長い髪を頭の高い位置で結んでいる、彼女が月ちゃん。
 手には衣装と同じピンクのロッドが握られていて、先端にはハートのクリスタルがついている。可愛いデザインだよね。
 月ちゃんの職業は、魔女っ子だ。
 ‥‥え?魔女じゃないのかって?違う違う、魔女っ子だよ。
 魔女っ子って具体的に何するのかって?魔法を使うんだよ。
 それなら魔女で良いじゃないか?そ、そんな事僕に言われてもしょうがないよ!だって、魔女っ子なんだもん!
 月ちゃんは、ハッピーキングダムって所から来た、正真正銘の魔女っ子なんだよ。
 僕もたまーに何で魔女っ子なんだろうって思う時があるけど、上から魔女っ子って言われてるんだからそれに従うしかないよね。
 それにまぁ、月ちゃんだって魔女って言うより魔女っ子って外見だし。
 月ちゃんは寂しいとか悲しいとか、そう言う負の感情を『幸せ』に変える魔法が使えるんだ。
 何か悩みがあって落ち込んでいる人に月ちゃんの魔法をかければ、一時的に悩みが消えて幸せな気分になれるんだ。
 大半の魔女っ子はここでお役御免になるんだけど、ハッピーメイカーはその根本すらも幸せに変える事を仕事にしてるんだ。
 幸せな気持ちにして放り投げちゃうなんて、かわいそうだもんね。
 この根本を変えるお仕事は、靭と月ちゃんが頑張ってるんだけど‥‥え?それで、お前は何してるのかって?
 僕はお料理とお掃除とお洗濯と‥‥え?それが仕事なの、って?そうだよ、僕は会社にいて留守番をしてるのが仕事なんだ。
 君も2人と一緒に居れば分かると思うけど、2人とも生活能力皆無だからね。お世話役は必要なんだよ。
 ‥‥と、長々話しているうちに誰か来たみたいだね。
「はーいっ!!今行きますっ!!」


『依頼書』
依頼者
・柚
依頼内容
・新しいクラスの学級委員長を任されたのだが、まとまりが無くて困っている
・自分に学級委員長が務まるのかどうか悩んでいる
作戦内容
・柚の学校に潜入後、周囲の様子を確認
・負の感情が多いようならば魔法発動
・負の感情が原因で無い場合は、原因を追究して取り除く事
備考
・アンハッピーキングダムの魔女っ子の仕業の可能性も有り



≪映画『Happy Maker』募集キャスト≫

*月(ユエ)
 外見年齢20未満の女性
 ハッピーキングダムの魔女っ子
 『月』『〜ちゃん』可愛らしい口調

・靭(じん)
 外見年齢15〜19程度の男性
 ハッピーメイカーの社長
 『俺』『(呼び捨て)』そっけない口調

*柚(ゆず)
 外見年齢20未満の女性
 →月と同じ歳程度
 眼鏡っ子の委員長。しっかりしている
 『私』『〜さん』ハキハキした口調

*柚のクラスメイト
 外見年齢20未満の男女どちらでも

・アンハッピーキングダムの魔女っ子
 外見年齢20未満の男女どちらでも

・柚の先輩や後輩

『アンハッピーキングダムの魔女っ子』
・楽しいや嬉しいといった感情を負の感情に変える魔法が使える
・衣装は黒を基調としたもの

●今回の参加者

 fa0013 木之下霧子(16歳・♀・猫)
 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa4823 榛原絢香(16歳・♀・猫)
 fa5189 鈴木悠司(18歳・♂・犬)
 fa5412 姫川ミュウ(16歳・♀・猫)
 fa5480 ヒノエ カンナ(22歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 指定の制服に大きなリボン、突然入ってきた転校生月(榛原絢香(fa4823))は無邪気な笑顔で自己紹介をすると席に着いた。甘えたような口調と浮世離れしている雰囲気に、クラスメイト達は顔を見合わせて首を傾げた。
「学級委員長の柚よ、宜しくね。何か分からない事があったら何でも聞いて」
「うん、ありがとぉ〜♪」
 柚(姫乃 舞(fa0634))が月に声をかけ、教卓の前に立つとプリントを配布する。
「注意事項が書かれていますから、よく読んでくださいね」
 白い紙の上に踊る文字を眺め、月は視線を上げた。柚の話を遮っているかのように騒がしいクラス内は、独特の黒い空気が沈殿していた。
(靭ちゃんに要報告、かなぁ?)
 アンハッピーキングダムの魔女っ子の存在を感じつつ、それが誰なのかまでは分からない。靭(鈴木悠司(fa5189))ならば分かる可能性があるが‥‥
「はーい、そこの転校生!ちょっといいかな?」
 明るい声に振り向けば、何故か机の上で仁王立ちをしてポーズを決めている麻耶(阿野次 のもじ(fa3092))の姿があった。
「まだ学校の中身とかよく分かんないでしょ?案内するわ♪えぇーっと、これってなんて読むの?つき?ライ‥‥いや、ムーン?じゃぁ、むーちゃん!よろしく、むーちゃん」
(ムーンじゃないんだけどなぁ〜)
 月は苦笑しつつも、宜しくと言って右手を差し出した。
「麻耶さん、案内なら私が‥‥」
「いいんちょーは黙っといて。私が連れてくから。むーちゃんとはもう竹馬の友!親友よ!」
 マシンガントークで柚に言葉を差し込む暇を与えずに月の手を引っ張って廊下へと出る。
「自己紹介が遅れたけれど‥‥私の名前は麻耶。分からない事は何でも聞いてね。ちなみに好きな言葉は下克上!」


「最近何だか元気ないじゃん、どうしたの〜?」
 先輩の鈴(ヒノエ カンナ(fa5480))に声をかけられ、柚は少し迷った後でクラスの不和を話し始めた。後輩の夏(姫川ミュウ(fa5412))も話に加わり、熱心に耳を傾ける。
「そっか〜、柚も大変だねー」
「どうしたら皆が話を聞いてくれるんでしょう。本当に私に委員長なんか務まるんでしょうか‥‥」
「大丈夫、人生は山あり谷ありだよ!‥‥うーん、何か違う?えーっと、あ、そうだ!楽あれば苦あり、苦あれば楽ありだよ!」
 なんら慰めにも励ましにもなっていない言葉に、柚が曖昧な笑みを浮かべる。
「まぁ、ホラ!だから、きっとその内いい方向になるって!だからさ、元気出して‥‥ね!」
「そうですよ〜。ボク達のクラスは最近ようやく纏まって来たんですよ〜」
 軽く言って無邪気に笑う夏だったが、微妙にズレた発言だった。


「はーん、別にいいんちょーと仲が悪いってわけじゃないよ」
 月に笑みを向けながら、麻耶が机の上に腰をかける。
「私はね、閉塞した窮屈な学泉生活を容認したくないって主義なの。そこら辺意見合わないのよね」
 窓の外に視線を向ける。砂埃の舞い上がる校庭に、クラスメイトの佐藤(木之下霧子(fa0013))の姿が見える。きっちり着込んだ制服、三つ編に眼鏡の彼女はいかにも真面目そうな風貌をしていた。休み時間でも参考書を手放さず、授業が終わればすぐに塾へと向かってしまう佐藤。レベルの高い大学を目指しているそうだが、勉強に打ち込む反面その他の事はほぼ無関心だった。
「教科書に視線を落とすだけでは机上の空論!!本を閉じ、ルールとか校則に拘束される現状を打破せよ!思想と心は常にフリーダム!あはは、感じわかる?」
 佐藤の背中から視線を上げる月。言っている事は分からないが、校則と拘束と言う言葉遊びは分かった。
「でも、別にいいんちょーって個性ないわけじゃないし芯強いし趣味良いし‥‥あれ?何で上手く行ってないんだろう?何でかなー、何か変ねー。うーん、とにかく気分悪いわけ、うん」
「それは‥‥」
 アンハッピーキングダムの魔女っ子の仕業だよ。そう言いかけて、月は言葉を飲み込んだ。校庭の隅に、制服姿の靭を見つけたのだ。麻耶を適当にごまかし、靭の元へと急ぐ。
「靭ちゃん!」
「どうだ、様子は?」
「やっぱりアンハッピーキングダム‥‥みたい。靭ちゃん、誰が魔女っ子だか分かる?」
「調査すれば分かるだろう。まぁ、一応の目星はついてるけど‥‥まだもう少し、クラスの中で調査を続けてくれ‥‥あぁ、そうそう。あんまり派手に動かないようにな!電波が過ぎる発言はするな!それと、授業中は寝るな!」
「‥‥なんで靭ちゃん、そんな事まで‥‥」
「と、とにかく、確りやれよ!」
 ゴホンと咳払いをしてから走り去る靭。どうやらどこかで見張られているらしいと気づいた月は、可愛らしく小首を傾げた。


 月はクラスの皆に声をかけ、昼休みになると一緒に遊ぼうと手を差し出した。最初はギクシャクしていた関係が、月と言う円滑油によってスムーズになっていく。転入してから1週間後、月はクラスの人気者になっていた。
 最初こそは、月のはしゃいだ声にイラついていた佐藤も、月の言葉によっていつの間にか遊び仲間の一員へと加わっていた。月はその間、コレと言った大規模な魔法は使っていなかった。触れた相手の心をほんの少し軽くする程度の魔法に抑え、クラスの中にいるはずのアンハッピーキングダムの魔女っ子を探していた。
「ねぇ、最近変じゃない?」
 操(あずさ&お兄さん(fa2132))がそう呟き、周りにいた子が首を傾げる。
「いつの間にかクラスが仲良くなってる‥‥」
「良い事じゃない?」
「そ、それは‥‥そう、だけど‥‥」
 口篭る操。途中までは上手く行っていたのにどうしてなのだろうと、考え込む。チラリと視線を上げ、楽しそうにお喋りをしている少女に魔法をかける。楽しいの感情を、悲しいの感情へ‥‥
「まぁ、やり直せば良いだけよね」


 アンハッピーキングダムの魔女っ子が誰なのか分かったと言う靭の言葉に、月は操の元へと急行した。校舎は夕日に照らされ、オレンジ色に輝いている。
「貴方がアンハッピーキングダムの魔女っ子だったのね」
 魔女っ子衣装に着替えた操が不敵に微笑み、月がピンクのロッドを構える。
「貴方、ハッピーキングダムの魔女っ子ね。折角良い調子で行ってたのに‥‥あんたも不幸にしてやるわ〜!」
「人の幸せを奪う権利は、貴方にはないの!それが分からないなら‥‥怒っちゃうんだからぁ」
 操がロッドを振る前に、月が幸せの魔法をかける。キラキラとした金銀の粉が教室内に広がり、操の体に絡みつく。
「悲しいも辛いも寂しいも、月が幸せの気持ちに変えてあげる☆目を瞑って3秒数えて!目を開ければほら、幸せが心を温かくしてくれてるでしょう?」
 歌うように言葉を紡ぐ月。操がゆるゆると目を開け‥‥にっこりと、微笑む。アンハッピーキングダムの魔女っ子特有の色をした衣装が、いつの間にか月と同じピンク色の衣装へと変わっていた‥‥


 月と操が対決していた部屋のすぐ下では、柚が皆に配る学校行事の資料を一人で纏めていた。
「期日までに間に合うのかな。‥‥今日は帰れないかも」
 時計を見上げ、溜息をつく。既に窓の外はオレンジから紫へと変化してきており、手元に積み重なっている資料はまだまだ終わりそうにない。思わず目が潤み‥‥ガラリと扉が開く音に顔を上げる。
「‥‥まだ残ってたの?大変そうね。私も何か手伝おうか?」
「佐藤さん、塾は‥‥」
「少しくらい遅れたって、問題ないわ」
 照れくさそうに呟くと、柚の前に椅子を持ってくる佐藤。柚が何かを言おうと口を開き‥‥
「あれ?こんな時間に何してんのー?」
 麻耶が走ってきて、2人の手元を覗き込む。大量の資料に目を見張り「私も手伝おっか?」と声をかける。
「手伝って貰ってもいいの?」
「だってこれ、クラスに配布するやつでしょ?こんなのいいんちょー1人じゃ無理だよ。ね、さっちゃん?」
「さっちゃんって呼ばないでって前から言ってるのに‥‥」
「まぁまぁ、固い事は言いっこなしー!」
「‥‥2人とも、有難う」
 柚が微笑みながらお礼を言った時、廊下から鈴と夏が顔を覗かせた。
「夏が、柚先輩が1人で資料作成してて大変そうですよ〜って言ってたから心配で見に来たんだけど‥‥」
「何か、大丈夫そうですねー」
「えぇ〜!手伝ってくださいよー!」
 麻耶が2人の手を引っ張って教室内に引きずり込み、5人で一気に仕事を片付ける。驚くほど早く終わった仕事に、自分1人で出来る事には限界があると言う事を悟る柚。
「私、委員長らしくする事ばかり気にして、皆の気持ちを考えていなかったのかも。‥‥私1人で出来ない事は、皆に頼ってもいいのかな。クラスを良くする為に、協力してくれる?」
「勿論!皆で楽しいが、1番だよ」
 麻耶が華の様に笑いながらそう言って、佐藤が控えめに微笑むとコクリと頷いた。


「思い切ってハッピーメイカーさんに相談して良かった‥‥有難う御座いました」
「まぁ、あんまり1人で頑張りすぎるなって事だな」
 靭が柚の頭をポンと撫ぜ、月が満面の笑みで柚に抱きつく。
「皆幸せで、笑顔で、良かったねぇ〜☆」
「どうしても困った時は、またウチに来ればいいさ」
「はい」
「それじゃぁ月、帰ってまたチラシ作るぞ」
 柚に手を振り、背を向ける2人。月が靭の言葉に小首を傾げ‥‥
「でも、月が作ったチラシがまだ‥‥」
「今度キャンプファイヤーでもする時に使うか」
 靭の言葉に、月はぷぅっと頬を膨らませると背中を叩いた。