闇夜を彷徨う犬の影アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/13〜05/16

●本文

 深夜の繁華街で、カサカサとゴミを漁る音がする。
 人通りのない細い路地裏から途切れる事無く続く音に、通行人は足を止めるとそちらを見た。
 茶色の尻尾が揺れる。必死にゴミに顔を突っ込んでいる、1匹の犬。
『そんなもの食べたらお腹を壊すよ』
 優しい通行人は苦笑しながらそう声を掛け、犬の方へ一歩踏み出した。
 ピタリと犬が動きを止め、ゆっくりとこちらを振り返る。
『ほっといてくれよ』
 犬の体に人の顔をしたその異形の存在はそう言うと、四本足で夜の繁華街へと走り去って行った。


 どこの学校でも、噂話の1つや2つはある。
 トイレでの怪、音楽室での怪、理科室での怪‥‥
 小学校から高校までを同じ敷地内に有するココ、海瑚学園にも幾つかそう言う話がある。
 その中の1つに、この学園は墓地だった場所に建てられていると言うものがある。
 学園側の見解としては『そんなのはただの噂だ。ここは昔は海だった。だから海瑚とつけたのだ』と言う。
 生徒達だって、本当にこの学園の敷地がかつては墓地だったとは思っていない。
 面白おかしく噂はするが、それが真実だと言われれば恐怖と嫌悪感を感じるだろう。
 ‥‥そう、ソレはただの噂であるべきだった。事実無根の、生徒達が自由気ままに作り出す嘘であるはずだった。
 しかし、この学園の土地は以前‥‥墓地だったのだ‥‥
 この学園の名前は海瑚ではない。本来は、怪呼と書くべきであったのだ‥‥
 その事実を知っているのは、学園内でもごく一部の者のみだ。
 3階の北側、一番端の小さな部室に集まる者‥‥怪呼学園秘密結社倶楽部のメンバーのみが知る事であった。


「聞いて聞いて!私昨日ね、人面犬に会ったの!」
 授業が終わり、夕日色に染まった部室の中、突然1人の少女が勢い良く入ってきた。
 可愛らしい外見をした彼女は、怪呼学園秘密結社倶楽部の部長の萌だ。
「人面犬?なにそれ。眉毛が書かれた犬?」
「違うの!人面犬よ、人面犬!本物なの!」
 キャッキャとはしゃぐ萌。彼女と幼馴染だからと言う理由だけで無理やりメンバーにされてしまった英が面倒臭そうに頭をかきながら話の先を促す。
「昨日、何か面白い事ないかなーって思ってこの学園の近くを犬の散歩がてらに歩いてたの。時間は夜中の2時」
「そんな時間に犬の散歩に行く奴があるかぁぁぁぁっ!!!」
「五月蝿いよ英!話はこっからなんだから!でね、学園の裏門の方に回った時、突然前の方からガサガサって音がしたの。何しろそんな時間でしょ?何が出てくるのか私、期待しちゃって!」
「怖がれよバカ!」
「足を止めてジっと耳を済ませてたらね、突然ガサって目の前に大きな犬が現れたの!三角の耳に、尻尾、二足歩行で‥‥」
「二足歩行!?」
「私の顔見て立ち止まるとね、カーって顔赤くして、必死に耳と尻尾を隠そうとするの!」
「え!?人面犬が!?何そのシャイボーイ!」
「オロオロしてるからね、私『こんな時間にこんな所で、そんな格好して何してるんですか?』って聞いたの」
「おい、ちょっと待て。それって人面犬じゃなく‥‥」
「そしたら『ほっといてくれよ!』って、今にも泣き出しそうな顔して」
「放っておいてやれよ!お前、空気読めよ空気!!」
「一目散に走ってっちゃったんだよねぇ」
「そりゃ逃げるだろっ!!」
「‥‥あの人、うちの学園の中から出て来たのよ」
「不法侵入‥‥?」
「あの人、スコップを持ってたの。校庭を掘り返してたのね。危険だわ」
「誰のかも分からないような白骨を掘り出そうとしてたのか?」
「いいえ、そうじゃないと思う」
 腰まである緩いウェーブがかった髪を背に払うと、萌はニィっと口の端をあげた。
「英は、犬化の呪いって知ってる?」
「知らねぇ。そんな呪いがあるのか?」
「その呪いを解くにはね、術者がどこかに埋めた『フリスビー』を探し出す必要があるの」
「おい、何だよその馬鹿らしい呪い」
「馬鹿馬鹿しい呪いだとは思うけど、実際に呪われちゃった人はそうも言ってられないわ。呪いから1週間経ったら、本物の犬になっちゃうのよ」
「‥‥もしかして人面犬って‥‥!!」
「呪われ始めて6日目には、顔意外は全て犬になる。きっとあの人は、うちの学園の敷地内に埋められてるって言う情報を掴んだのね」
「その情報に信用性は?」
「分からない。でも、術者はうちの学園の誰かよ。だって、この呪いの方法は今のところうちの学園内にしか広まってないんですもの」
「‥‥今夜の2時に学園前に集合、それで良いんだな?」
「えぇ。部員に連絡よろしくね」


≪映画『闇夜を彷徨う犬の影』募集キャスト≫

*萌(もえ)
 外見年齢14〜18程度
 怪呼学園秘密結社倶楽部の部長
 海瑚学園理事長の孫だが、周囲には特に言っていないため、英すらも知らない
 →秘密にしているわけではないので、問われれば答える
 小学校は普通の公立だった
 腰まである緩いウェーブの髪をしている
 『私』『呼び捨て』

*英(はなぶさ)
 外見年齢14〜19程度
 怪呼学園秘密結社倶楽部のメンバー
 萌の幼馴染で、ツッコミ気質
 『俺』『呼び捨て』

*人面犬
 外見年齢15〜20代程度の男性

・怪呼学園秘密結社倶楽部の部員
→外見年齢6〜20程度まで
・人面犬の知り合い

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2648 ゼフィリア(13歳・♀・猿)
 fa3411 渡会 飛鳥(17歳・♀・兎)
 fa3765 神塚獅狼(18歳・♂・狼)
 fa5735 橙瓜(19歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 深夜にもかかわらず、校庭には英(神塚獅狼(fa3765))から電話を受けて数人のメンバーが集まっていた。萌(風間由姫(fa2057))が腰に手を当て、事件の詳細を伝える。
「2本足で歩いてたって事は、まだ人面犬さんではないんですよね?」
 長い前髪で視線を隠し、お下げを肩に垂らした瞳(渡会 飛鳥(fa3411))が首を傾げる。病弱でこの春まで入院していた瞳は1年留年してしまい、友達が出来ずに悩んでいたところを萌にスカウトされた。明るく元気な萌に惹かれて部に入ったのだが、活動内容を聞かないまま入部してしまった彼女。実はかなりの怖がりで今日も既に顔色が悪い。
「うん。コスプレみたいだったよ?」
「それなら、完全にワンちゃんになる前に助けてあげましょう。きっと、怖くて怯えているのかも‥‥」
 両手のこぶしを握って勇気を奮い起こす瞳。怖くて怯えていたと言うよりは恥ずかしくて泣きそうだったと言った方が近い。萌がそう告げようとして口を開き、何を言うのか察した英によって口を塞がれた。
「てっきり俺の深遠なる神秘学知識と灰色の脳細胞をアテにされて声をかけられたのかと思えば、スコップかよ!」
 館山(森里時雨(fa2002))が今しがた萌から渡されたスコップに視線を落とす。
「大丈夫!館山の死色の脳細胞はアテにしてないから!」
「死色ってなんだよ!勝手に作るなよ!」
 萌の言葉に盛大な溜息をつき、今回も肉体労働担当かと遠い目をする。チャラけた格好のわりに割りと知識が広く霊感モドキもあるらしい館山だが、部での扱いは肉体労働専門班だ。
「フリスビー捜索班と人面犬捜索班に分かれようと思うの。私と英と瞳は人面犬、館山はフリスビーね。他の子はどうする?」
「うち人面犬見たい!」
 空(橙瓜(fa5735))がはしゃぎながら挙手し、雫(ゼフィリア(fa2648))がフリスビー捜索に名乗りを上げる。
「それじゃぁ、頑張って探そう〜!」
 萌の元気の良い掛け声に、おーっ!と元気良く返したのは空だけだった。


 瞳が棒倒しで探す方向を決め、小声で「犬耳人のお兄さん、どこにいますか?いたら返事をしてください‥‥」と囁く。返事も何も、そんな小さな声では相手には届いていないだろう。空のキャッキャと言うはしゃぎ声や、何かにぶつかって倒す音のほうが遥かに大きい。
「お腹がすいているのなら、美味しいご飯も用意していますよ‥‥」
 背負った小さめのリュックの中に入っているのは、ドッグフードをご飯に混ぜて作ったおにぎりだ。犬としてなら食べたいと思う取り合わせだが、人としてなら食べたいとは到底思えない取り合わせだ。
 はしゃぐ空と暗闇に声をかける瞳の隣では、萌と英が微妙に良い感じになっていた。暗闇には慣れているとは言え、人気のない校舎は不気味だ。突然の物音に英に抱きつき、護身用の竹刀を持った英が萌を守るように先に立って歩く。‥‥お前ら積極的に人面犬を捜そうとしろよ‥‥
 そうこうしているうちに、突然廊下の向こうから何者かが姿を現した。英が竹刀をかざし「貴様、何者だ!」と声をかける。萌は守る体勢だが、空と瞳は完全に無視だ。男としてと言うより、武装した1人間として非武装の者を未知なる存在から守るのは当然の役目だと思うのだが。
 目の前に現れた人物が恥ずかしそうに耳や尻尾を隠し、潤んだ瞳で一行を見つめる。呪いによって人面犬になりつつある誠(日下部・彩(fa0117))の姿に、危険人物ではないと判断した英が竹刀を下ろす。
「どうしてそんな事になっているのか経緯を聞かせてくれない?」
 萌が唐突に言い、朝起きたら耳と尻尾が生えていたと言う事を落ち込みながら話し出す誠。学校に妙な伝説が流れている事に思い当たり、夜な夜な学校へ繰り出していたのだそうだ。
「誰が呪いをかけたのかとかは?」
「分からないんです」
「落ち込まないで下さい。呪いはきっと解けます。私達もお手伝いしますから、一緒に来てください‥‥」
 瞳の言葉に、嬉しそうに尻尾をぱたぱたさせる。萌が「宜しくね」と言って差し出した手をとり‥‥尻尾の動きに気づいてしゅんと耳を横にさせる。
「また犬に近づいてきてる‥‥」
「そう言えば、なんだか顔が赤いみたいだけど熱でもあるの?」
「え、いや、これは‥‥」
 何かを隠しているように口篭る誠。その姿にピンと感じるものがあった英が冷たい視線を彼に注いだ。
「てか、顔が人で一部が犬!もう少ししたらほんまの人面犬になるんやね!」
 空がキャッキャと無責任な発言をし‥‥そうなる前に呪いを解きたいですと、誠が消え入りそうな声で呟いた。


「フーチによる霊捜査と、理詰めの推理の合わせ技で急ぐしかないな。敷地内の土地露出部を中心に、数日内に地面を掘り起こした形跡をピックアップ、そして常日頃の鍛錬を活かし、精神統一で心頭滅却してサーチ‥‥」
「ふっふっふ、こんな事もあろうかと、犬耳レーダーをつい最近発明したんです!」
 雫が館山の言葉を遮るように不敵に微笑みながらそう言って、バッグの中から装置を取り出す。
「普通、こんな事なんて滅多にねぇよ。想定外のことだろ」
「科学者は常に色々な状況を考えてないとダメですよ」
「そもそも、何でソレをさっきの奴らに渡しておかなかったんだ?」
「少し動かしてみたら、大変なミスを犯している事に気づいたんです」
 雫が装置を動かせば、レーダーに数十個の黒い点が浮かんだ。犬耳レーダーとはその名の通り犬耳の存在を探知してレーダーに映すという代物なのだが、普通の犬も映ってしまうのだ。更には縮尺が大きく、町全体を映しているのでほぼ使い物にならない。
「使えねぇ発明すんな!ったく」
 溜息をつきながらグラウンドを掘り返す館山。出てくるのはいつの時代の夢が詰まっているのか知れないタイムカプセルや、夢も未来もない赤点のテストばかり。
「何だかお困りのようですね!ここはやはり私の発明の出番です!じゃーん!携帯用電動採掘ドリル!」
 小型の電気ドリルを取り出す雫。これがあれば楽に穴が掘れると言うのだが‥‥動かす為の充電は自転車型の自家発電機を漕がなくてはならない。ドリルは携帯式で持ち運びやすいが、充電器は持ち運びにくいので返って不便だ。
「だぁっ!ちょっと黙っとけ!‥‥そもそも、不審な跡がないとか目立たねぇってんなら、そこは通常でも土が軟らかくても不自然じゃない所‥‥花壇か?そう言や、一箇所色が違う所があった気が‥‥」
 館山が花壇の前に行き、雫がその後を付いてくる。気が引けるが、掘り返すしかないと判断した館山がスコップを花壇の中に入れる。少し掘り進めば鮮やかな色のフリスビーが土の中から顔を覗かせ‥‥雫が萌達に連絡を入れる。
「どうして‥‥」
 ざっと背後で砂を蹴る音がし、館山はフリスビーを片手に立ち上がると愛(角倉・雨神名(fa2640))の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「貴女がこの呪詛の術者なんだな?」
 コクリと頷く愛。館山がシリアスな表情で脇にどけておいた花を指差す。
「パンジーの花言葉は『私を思ってください』か。どうして貴女は呪いなんてかけたんだ?」
「‥‥もうすぐお兄ちゃんは従順なワンちゃんになって愛のものになるんだったのに‥‥どうして邪魔するの!?酷いよっ!」
「は?待て待て。お兄ちゃんって言ったか?」
「そうよ!最近お兄ちゃん全然愛のこと構ってくれなくて‥‥お兄ちゃんをペットにして飼えば、ずーっとお兄ちゃんは愛のものだもん!」
「はぁ!?何その素敵呪詛理由!折角のカッコつけ台無しじゃん!」
「大丈夫、元からカッコなんてついてませんでしたから」
 雫が厳しい一言を放ち、館山がしゅんと肩を落とす。
「愛は悪くないもん!最近愛を構ってくれないお兄ちゃんが悪いんだもん!」
 愛がそう叫んだ時、誠が走りこんで来た。愛の体を確りと抱きしめ「今まで放っておいてごめんよ!」と呟く。
「お兄ちゃん‥‥ぐすっ、だって、こうでもしないとお兄ちゃんが遠くへ行っちゃいそうな気がして‥‥」
「どこにも行かないよ」
 優しい誠の言葉に、にっこりと微笑む愛。
「よく考えれば、お兄ちゃんが犬になったらお話が出来なくて寂しいところだったよね」
 何となく良いムード漂う兄妹に、萌が「お兄ちゃんは妹さんと一緒に遊んであげるように!」と指差しながら命令を出す。誠がその言葉にぱぁっと顔を輝かせ‥‥
「もしよければ、萌さんも一緒に‥‥あの、僕、実は前から萌さんの事‥‥」
 実は萌に片思い中だった誠。萌が困ったように苦笑し、チラリと英に視線を向けた後で「好きな人がいるから」とサラリとお断りを入れる。フラれてしまった誠に愛が大喜びをし、ギュっと抱きつくと無邪気な満面の笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん、愛をないがしろにしたら、また呪いかけちゃうんだからねっ♪」
 ウインクをしながらの可愛い我が侭に誠の表情が緩み‥‥犬耳と犬尻尾が消えた誠の様子に瞳が安堵の溜息をつきながら胸の前で手を組んで「良かったです‥‥」と囁く。可憐な瞳の仕草に思わずクラリと来る誠。何て綺麗な人なんだろうと思わず目を輝かせながら瞳を見つめ‥‥
「ヤバイな。またフリスビー探しに走る事になるぞ」
「館山は、猫化の呪いって知ってる?」
「いや‥‥でも、説明は今は聞きたくない」
 萌の一言に館山はうんざりとした口調でそう返すと、荒らしてしまった花壇を元に戻すべく再びスコップを手に取った。