近づいてくる者アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 宮下茜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 7.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/16〜05/19

●本文

 最初、ソレは視界の端に映る小さな黒い点でしかなかった。
 目に何か入ったのかと思い擦っても、点は消えなかった。
 視界の隅でチラツク、目障りな黒い点。
 その程度の認識しかなかった。
 2日、3日と日が経つにつれ、それは大きくなって来た。
 小さな点から小さな丸に、丸が少し伸び、米粒のような形になった。
 そこまで来て始めて、それが人の形をしているものであると言う事が分かった。
 2本の足、2本の腕、頭がチョコンと乗っている。
 右手が異様に長い人。そう思った。
 けれどそれは、右手に鉈を持っているからだと気づいた。
 ソレはだんだん大きくなって来ているのではなく、だんだん近づいてきているのだと分かった。
 視界の端に常に映る、黒い人の姿。
 全身真っ黒で、男なのか女なのか、どんな顔をしているのかは分からない。
 1歩、また1歩、近づいてくるその人に、私は恐怖した。


「で、助けてくれってか?」
「そう。もうね、彼女すーーーっごく困ってるみたいなの。だから、助けてあげてよ敬!」
「バカ言うな。俺にそんな力はない」
「嘘ばっかり!お母様は有名な霊能者さんだったじゃない!」
「あんなぁ、母親がそう言う力があったからって、息子にあるとは限らないだろ?」
「でも、もしかしたら敬も気づいてない素質があるかも知れないじゃない!いーから、ちょっとその子に会ってよ!」
 従兄妹の椛に押し切られる形で、敬はためしにと椛の友人の華と会うこととなった。
 場所はお洒落な喫茶店。小さくかかるクラシックが心地良かった。
 華が店へ現れた時、敬は彼女が誰か一緒に連れて来たのだと思った。
 彼女の右斜め後ろに立ったその人が『人』でない存在である事を知ったのは、彼女が目の前の席に座ってからだった。
 真っ黒な人。左手の薬指にはキラリと光る銀の指輪。
 右手には巨大な鉈‥‥
「‥‥敬?敬、どうしたの?さっきからジーっと何もない空間見て固まって!」
「あ‥‥あぁ、悪い‥‥」
「‥‥見えますか?」
 穏やかな笑みを浮かべる華に、敬はコクリと頷いた。
「見えるの!?嘘、じゃぁやっぱり敬にはお母様の‥‥」
「いや。悪いけれど、俺じゃ力になれない。俺はただ‥‥見えるだけだから」
「えー!もう、つっかえないなぁ〜!!」
「‥‥ただ、それが何なのか分かれば、あるいは‥‥」
 言った直後に、しまったと思った。しかし時は既に遅く、隣に座った椛が勢い良く立ち上がっていた。
「何なのか分かれば、どうにか出来るかもしれないのね!?」
「‥‥あ、あぁ‥‥」
 椛の勢いに押され、敬は首を上下に振っていた。


≪映画『近づいてくる者』募集キャスト≫

*敬(たかし)
 外見年齢18歳以上
 霊能者の母親をもち、人にあらざる者を見る力がある
 →母は数年前に他界

*黒い人
 彼、あるいは彼女の本来の姿

・華(はな)
 外見年齢18歳以上
 黒い人に憑かれている

・椛(もみじ)
 外見年齢18歳以上(敬と同じ歳程度)
 明るく元気な行動派。霊感はまったくなし

・黒い人に縁の人
・敬や椛の友人(霊能力多少有)
・敬や椛の友人(霊能力まったく無)

●今回の参加者

 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa4942 ラマンドラ・アッシュ(45歳・♂・獅子)
 fa5176 中善寺 浄太郎(18歳・♂・蛇)
 fa5494 乃路 芹(24歳・♂・亀)
 fa5563 花香こずえ(27歳・♀・兎)

●リプレイ本文

 本当に何か思い当たる事はないのかと敬(中善寺 浄太郎(fa5176))に問われ、頷く華(花香こずえ(fa5563))
「何か1つでもあれば、原因を探る手がかりになると思うんだが」
 自分が気づいていないだけで何かをしている可能性があるが、どんなに記憶のページを捲って見てもそれらしいものには行き当たらない。落ち込む華の姿に、長いポニーテールの髪を揺らしながら何と励まそうと必死に語りかける椛(桐沢カナ(fa1077))
「敬のお母様は凄く力のある霊能者だったの。だから大丈夫!きっと敬が何とかしてくれるよ!」
「あのなぁ、勝手に安受けあいするなよ」
「だって‥‥」
「とりあえず、そう言うのを専門に視てくれる人を知っていますので‥‥一緒に来てくれますか?」
「お願いします」
 華はペコリと頭を下げると、敬に促されるまま喫茶店を後にした。


 敬の母方の伯父・三郎(ラマンドラ・アッシュ(fa4942))の神社で巫女をしている莉(葉月 珪(fa4909))は華から事情を聞くと直ぐに状況を理解し、快く協力を約束してくれた。
「何等かの怨念により憑き物となる事はよくある事ですから」
「視てもらって良いですか?」
「えぇ。それでは華さん、こちらへどうぞ」
 敬の言葉に笑みを浮かべ、華を座布団へと座らせる。
「あの、お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「いいえ。敬さんが私に頼み事をしてくるなんて珍しいんで、少し楽しんでます」
 不謹慎ですみませんと言いつつ、莉が霊視を行うために神経を集中させる。華の隣に視えていた黒い人(タブラ・ラサ(fa3802))がブツブツと低く呟く声が聞こえてくる。
『こいつのせいで母さんは死んだんだ。許さない‥‥』
 ふっと集中を解き、視線を膝の上に落とす莉。
「私達を拒んでいるので詳しくは分かりませんが、どうやら華さんが母親が亡くなる原因となったらしいですね。貴方のせいで母さんは死んだんだ、許さないと呟いていました」
「母親は事故か何かで?」
「いいえ。これはあくまで私の想像ですけれど‥‥恐らく死因は自害かと」
「‥‥そう言う事に心当たりはありますか?」
「いいえ‥‥」
 華が頭を振り、目を伏せる。それだけでは動きようがないと椛が小さく溜息をつき‥‥敬が携帯電話を取り出すと楊(乃路 芹(fa5494))の番号を短縮から呼び出した。
『はい?』
「楊さん、すみませんが調べて欲しい事があるんです」
『僕に出来る事でしたら喜んでお手伝いしますよ』
「ここ数年の間に自殺した女性の記事を見つけてきて欲しいんです」
『自殺した女性、ですか?』
「それも、妊娠している方で」
「敬!?」
 椛を押し止め、出きれば関係者の現住所も調べて欲しいと言葉を添える。
『分かりました。やってみます』
「連絡待ってます」
「どうして妊娠した女性なの?」
「母親が自殺した時に子供も亡くなっている。考えられる事は2つ。母親が自分の自殺時に子供を殺害したか、もしくは‥‥」
「その子がお腹の中にいたってわけね」
「俺はこっちの方だと思う。華さんに憑いているのは、全身真っ黒な人だから‥‥」
「でも敬、関係者の現住所も調べて欲しいって言ってたけれど、そんなの分かるの?」
「‥‥きっと調べてくれるよ。あぁ見えて楊さん、凄いんだぜ?」
 敬はそう言うと、携帯電話をポケットにねじ込んだ。


 楊が調べてきたのは、亡くなった閏の親友の瑶(ブリッツ・アスカ(fa2321))の住所だった。椛がドアをノックし、不思議そうな顔で敬と椛を見つめる瑶に頭を下げる。
「あのっ、知っている事があったら何でも教えてください!」
「この人について何か知りませんか?」
 テンパっている椛を押しのけ、華の写った写真を見せる。見る見る顔色を曇らせ、睨みつけるような鋭い視線になる瑶。
「何だ、アンタらこの泥棒猫の知り合いなのか?それが俺に何の用だ!?」
「泥棒猫?あの、この人は華さんと言うんです。よく見て下さい。人違いじゃないですか?」
 胡散臭げに眉を顰めながら写真に顔を近づける瑶。暫しジっと見つめ、ふっと溜息をつくと悲しげに微笑む。
「悪い、よく見ると確かに別人だな。つい熱くなっちまった」
「閏さんの事でお話を聞きたいんです。お時間大丈夫ですか?」
 突然激昂してしまった後ろめたさと華に対する興味から、瑶は2人を部屋の中へと通した。


「アイツとは幼馴染でさ、小さい頃からずっと一緒だった。素直で優しいヤツでさ『指輪貰った』って嬉しそうに言われた時、つい『自慢かよ』なんて言って笑いあったんだよな。妊娠したって言った時だって、本当に嬉しそうでさ。なのに、あの男‥‥閏を捨てて別の女の所に行ったんだ。今年中には結婚するんだって、本当に幸せそうだったのに‥‥」
 落ち込む彼女を励まし続けた瑶だったが、結局閏は死を選んだ。お腹の子と一緒に、寂しい山中で‥‥
「アイツ、貰った指輪をずっと宝物にしてたんだ。それなのに‥‥!アイツ、死んだ時‥‥指輪抜いてたんだ。山の中にさ、捨ててあって‥‥あんなに、大切にしてたのに‥‥」
 唇を噛み俯いた瑶に、何故自分達がこの場に来ているのかを説明する敬。親友の子供が成仏できずに関係ない人を苦しめている状況は見過ごせないと、瑶は箪笥の上に飾ってあったオルゴールを取ると敬に手渡した。
「これ、アイツが好きだったオルゴール。お腹の子も、きっと聴いてたんじゃないかな‥‥。どうか、閏の子を成仏させてやってください」
「お任せ下さい」
 深々と頭を下げる瑶にそう告げると、敬はオルゴールを大切そうに胸に抱いた。


 莉と三郎が作り出した結界を前に少年が逆上し、鉈を振り上げる。敬がオルゴールのふたを開け‥‥か細いメロディが紡がれる。少年がピタリと動きを止め、莉が優しい声色で話しかける。
「落ち着いて聞いて下さいね。貴方が今憑いている人は、全く無関係な人です。謂われない人をこれ以上苦しめてはいけません」
 顔を上げ、ジっと華を見つめる少年。驚いたように目を見開き、鉈を足元へと下げる。
『違う‥‥この人じゃない』
「そう、違う人です。それに、貴方の母親が死を選ぶに至る原因となった男性は既に亡くなっています、不慮の事故だったそうです。‥‥これで貴方には、この世への未練はない筈です。もし、貴方がすぐにでも成仏すると言うのであればお手伝いしましょう」
 少年が戸惑ったように莉と三郎の顔を交互に見つめ、敬の手元のオルゴールに視線を落とす。暫し考え込み‥‥コクリと頷く。
「それならば、私達が貴方を導きます。何にも捕らわれる事なく、高く高く登って下さいね」
 シンとした境内に、祝詞を紡ぐ声が凛と響く。少年の体を覆っていた黒い靄が浄化され、薄くなって行き‥‥光の中へと姿を消す。
「‥‥向こうで、ママに会えると良いですね」
 華が手を合わせ、敬がオルゴールのふたを閉じる。椛が敬に近づき、オルゴールのふたをそっと撫ぜると目を伏せた。


 花を活け、お線香を点すとお墓の前で手を合わせる。晴れた日の夕方、椛と敬、楊は閏のお墓まで来ていた。
「生まれる前に死んでしまった子供の霊、かぁ」
「あの指輪は母親が父親から贈られた物だったんだな」
「今度は、迷わず生まれ変わってね‥‥きっと‥‥」
 空を仰ぎ見て、祈る椛。敬が線香の煙に目を細め‥‥最後にもう1度だけ手を合わせ、歩き始める3人。服に移ってしまった線香の匂いに切ない気持ちを抱きながらバス停まで歩き、ハタと椛が楊を見上げる。
「そう言えば、そんなに華さんって閏さんの恋敵に似てたのかな?」
「えぇ。驚くほど似てましたよ。彼女、今は違う男性と平凡に‥‥」
「ちょ、ちょっと待って楊さん!何でそんな事まで知ってるの!?あぁっ!!そもそも、瑶さんの住所とかどこから探してきたんですか!?」
「えーっと、企業秘密?」
「えぇっ!?教えてくださいよーっ!!敬は知ってるわけ?」
「いや、俺もちょっと‥‥楊さんは凄いんだってくらいしか‥‥」
「また何かあったら、頼ってくださいね」
 ふにゃんとした笑顔を浮かべる楊。楊の情報源がどこなのか気になった椛が楊に食い下がり‥‥身の危険を感じ、走り出す楊。椛がそれを追いかけ‥‥敬は苦笑すると、2人の後を追って走り出した。


○おまけ『憑きまっせ!』
 出演者の人達が幽霊になった場合どんな霊になるんでしょう?と言う、お遊び企画です

『カナの場合』
→ひっそり系控えめ幽霊
・気が付けば隣で微笑んでいる。特に何もしないが、無言の微笑がある意味怖い

『アスカの場合』
→体育会系しっかり幽霊
・何かと世話を焼いてくれるが、朝練のあるなしに関わらず必ず早朝に起こされる

『ラサの場合』
→大人し系しっかり幽霊
・知識が豊富なので、喋りかければ色々な情報を教えてくれる

『珪の場合』
→癒し系お姉さん幽霊
・穏やかで優しい良い霊だが、恋話を振ってしまうと大変な事になる

『ラマンドラの場合』
→がっしり系ボディーガード幽霊
・その身長と体躯で霊の類から守ってくれるが、霊感のある子には必ずビビられる

『浄太郎の場合』
→友達系お兄さん幽霊
・話しやすく、馴染み易い幽霊。幽霊だという事を忘れられる事もしばしば

『芹の場合』
→癒し系おっとり幽霊
・まったりとした和み系幽霊だが、あまりのテンポの遅さに周囲の心配を買う

『こずえの場合』
→ラブリー系天然幽霊
・可愛らしい外見をしており何かと手を焼いてくれるが、天然なのが玉に瑕